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 『伊勢物語』9段の暗号

古代には、広範囲にわたる測量の技術はなかった、というのが常識である。
現代の九州全図に引いた直線をもとに、地名に関する暗号が仕組んであるというのは、
全くナンセンスなことのように思える。

ところが、驚いたことに、「いろは」の暗号が、測量技術の存在を裏付けているのである。
図3の上段の角を占める2字「いせ」が、そのヒントである。

地図1の、韓国岳と笠沙岬を結ぶ直線が指し示す五十鈴川という川の名は、〈伊勢〉神宮を
想起させる。ところが、『日本書紀』によると、天武13年10月3日に、「〈伊勢〉王らを
遣わして、諸国の境界を定めさせた」とある。境界を定めるためには測量が必要なことを思う
と、〈伊勢〉が測量に関する暗号の標識になっているのではないかと考えられる。

折句の見本にした、『古今集』の在原業平の歌は、『〈伊勢〉物語』9段にも載っている。
その段の、富士山の高さを誇張して表現したといわれる、次の個所に、測量に関する驚くべき
暗号が仕組まれていたのである。

その山は都にたとえていうと、比叡山を20ばかり積み重ねたくらいの高さで、形は塩尻
(塩田で砂を塚のように積んだもの)のようであった。

『王朝物語集I』(日本の古典5)「伊勢物語」中村真一郎訳 河出書房新社)

この表現がどんなにおかしいものであるかを、実際の比叡山の高さ(848m)と富
士山の高さ(3776m)を比べて確かめてみよう。

まず、3776mを20で割ると、189mになる。これが京都から見える比
叡山の高さというのでは、余りにも低く見ていることになる。

そうかといって、848mを20倍すると、約17000mになる。これで
は、富士山を余りにも高く見すぎている。文学的誇張とでも説明しなければ、『伊勢物語』の
作者の感覚が異常だということになる。

ところが、戯訓(または戯書)と呼ばれる、謎々のような読み方をする万葉仮名の中に、
「十六」を「し し(四四)」、「八十一」を「く く(九九)」と読ませるものがある。そのいわ
んとするところを電卓で示せば、

「16√」 ⇒ 4   「81√」 ⇒ 9  ということである。

つまり、この万葉仮名は単なる掛け算の九九ではなく、平方根16=4、平方根81=9 
という、平方根を求めるための九九を使った戯訓なのである。

一方、源為憲の著書『口遊』には、今日とは逆に9×9=81から始まる、わが国最古の
「掛け算の九九」が載っている。

このように、平方根を求める九九にこだわるのは、それが、測量の技術が存在していた証拠
の暗号につながるからである。比叡山の高さを平方根20倍すると、実に奇妙なことが起るの
である。8桁の電卓を使えぱ、その計算は次のようになる。

「20√×848=」 ⇒ 3792.3712

すなわち、比叡山の高さを平方根20倍したものは、富士山の高さとわずかに16m
しか違わない。これまで誇張と見られていた表規が、なんと誤差200分の1以下という、
科学者の報告のように精度の高い表現になってくるのである。

もし、これが偶然のいたずらでなけれぱ、『伊勢物語』の9段が成立したころ、すでに海抜
という考え方で、しかも、かなり高い精度で、標高が測量されていたことになる。

そのことは、謎の言葉「塩尻」によって裏付けられる。だが、その説明は他の機会にゆずり、
ここでは、万葉仮名「十六」と「八十一」に関連する、20倍の意味についてのみ説明して
おこう。

比叡山を20個積み重ねた高さといえぱ、我々は比叡山の高さの20倍を意味するものと受
け取る。しかし、受け取り方は、それ以外にないであろうか。たとえぱ、米俵を10俵積み重
ねた高さといえば、どんな状態を思い浮かべるだろうか。

おそらく、図6bよりも、図6aの方を
思い浮かべる人の方が多いのではなかろうか。

それに、問題の個所の原文は、「二十ばかり重ねあげたらむほど
して」となっており、高さという言葉は使っていない。

にもかかわらず、これまで誰一人として図6aの状態を考えてみ
なかったのは、普通の山ではそのような捕え方ができないから
である。

しかし、我々が実際に視覚で捕える山の姿は、
写真と同じように平面的なものだから、
富士山のように円錐形をしている山ならば、その大きさを面積で比較してもよいはずである。

暗号の作者がそのつもりであることは、謎の言葉「塩尻」が、
円錐形の山のサンブルになっていることから分かる。

そこで、図7の「うろこ」と呼ぱれる文様をヒントに、
比叡山のシルエットを単純化して
富士山と同様に直角二等辺三角形で表し、
その大きさを比較してみよう。

図8a のように、単純化した比叡山を4個積み重ねると、1個の場合に比べて、その高さは
平方根4倍、すなわち2倍になる(電卓では、「4√」 ⇒ 2)。
このように、面積の倍率の平方根を求めると、それが高さの倍率になる。

したがって、図8b のように面積が20倍になっている場合は、その高さは平方根20倍、
つまり、約4.5倍になる(8桁の電卓では、「20√」 ⇒ 4.4721359)。

このように、面積を比較したものが20倍だと解釈すれば、二つの山の高さの比は、誤差
200分の1以下という、高い精度になる。また、図8bのように単純化したシルエットであっ
ても、比叡山に比ベ、富士山がいかに圧倒的な量感を備えた山であるかを、実感することがで
きる。

信じがたいことだが、「いろは」の暗号は、『伊勢物語』9段の暗号を実に細かく裏付けて
いる。比較的納得しやすいと思われることを一つだけいえば、絵文字『上』の4字「のおく山」
が、比叡山の高さを4.5倍すると富士山の高さになることを示唆している。

なぜなら、「山(やま)」は、仮名2字を漢字1字に置き換えたものだから、2と1の平均値1.5に
相当すると見てよい。したがって、「のおく山」は、4.5個の文字を積み上げていることに
なるからである。


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〔参照〕北海道測量を証言する多胡碑