風疹の流行がもたらした現実
1月14日 18時45分
妊娠初期に感染すると、赤ちゃんの目や耳、心臓などに重い障害が出ることがある風疹。
5年から7年おきに流行を繰り返してきました。
最近では、平成24年から25年にかけて成人の間で大流行し、その結果45人の赤ちゃんに障害が出ました。
家族は今、子どもの障害と向き合いながら、風疹で苦しむ親子をなくしたいとワクチンの接種を訴えています。
名古屋放送局の松岡康子記者と首都圏放送センターの三木佳世子ディレクターが取材しました。
希望と不安の中で迎えた娘の1歳の誕生日
去年9月、1人の女の子が1歳の誕生日を迎えました。
長澤柚希ちゃんです。
父親の雄人さんと、母親の由樹さんにとって、初めての子どもです。
生まれた直後、先天性風疹症候群と診断され難聴の可能性があると告げられました。
この1年、由樹さんは毎日のように柚希ちゃんの耳元でカスタネットを叩いてきました。
少しでも聞こえるようにしてあげたいと耳に刺激を与え続けています。
母親の由樹さんは「話せるようになることを願い育てていますが、ママって言ってもらえなかったらどうしようとか、そういう不安はあります」と胸のうちを語ります。
障害を承知で出産を決意
由樹さんの妊娠が分かったのは、平成25年2月。
その直後、雄人さんが風疹を発症、続いて由樹さんも風疹にかかりました。
病院から、障害がある子が生まれる可能性が高いと伝えられました。
医師から産むのを諦めた方が良いと言われたと言います。
それでも2人は、出産を決意しました。
由樹さんは「生まれてきて障害があったら、みんなで全力でサポートするじゃないですか。じゃあなぜ、おなかの中で障害があると分かったからって殺すのかって思ったんです」と出産を決意したときを振り返ります。
突きつけられた現実
1歳の誕生日から3週間後。柚希ちゃんは、大学病院で聴力の検査を行うことになりました。寝ている間に音を聞かせて、脳波の変化をみる精密な検査です。
この1年、カスタネットの音を聞かせてきた由樹さんは少しでも良い結果が出ることを期待していました。
しかし、突きつけられたのは厳しい現実でした。
左耳にわずかに反応が見られたものの、右耳は全く反応はなく、診断は高度難聴。
普通に会話が出来るようになる可能性は低いと言われました。
繰り返す風疹の流行
5年から7年おきに流行を繰り返している風疹。
感染を防ぐ唯一の方法は、ワクチンの接種です。
今の子どもたちは感染を確実に防ぐために、1歳と小学校入学前の「2回」、麻疹と風疹の混合ワクチン(=MRワクチン)を無料で接種することができます。
しかし平成7年3月までは、接種の対象は中学生の女子に限られていて回数も1回だけでした。
女性でも免疫が落ちている人がいるほか、特に男性は風疹のワクチンを一度も接種する機会がなかったり、機会があっても接種していなかったりして、免疫がない人が多いのです。
そんな中で、平成24年から25年にかけての大流行が起き、45人の赤ちゃんに障害が出ました。
流行を繰り返さないために
風疹の流行を繰り返さないよう呼びかけるイベントは、各地で開かれています。
去年11月、横浜市で行われたイベントには、風疹のワクチンの接種を呼びかける、岐阜市の可児佳代さんの姿がありました。
可児さんは、風疹が原因で障害が出た赤ちゃんの母親に、手紙を書いたりして励ます活動を続けています。
母親たちを励まし続ける可児さんには、自らのつらい過去がありました。
33年前、妊娠中に風疹にかかり、娘が先天性風疹症候群で生まれたのです。
娘の妙子さんは目と耳と心臓に重い障害がありました。
活発で笑顔を絶やさなかった妙子さんでしたが、高校卒業を目前に控えた2月、心臓の病気が悪化し、18歳で亡くなりました。
毎年誕生日が来る度に、可児さんは、風疹のワクチンを打たなかった自分を責め続けてきました。
可児さんが育児中に書き記した日記にはその思いがつづられています。
『おかあさんのせいで、あなたにつらく悲しい運命を背負わせてしまった。あなたの目に耳になることはできないでしょうか。お母さんを許して下さい』。
可児さんは「風疹さえ流行しなければ誰もこんな思いをせずにすみます。呼びかける活動を地道に続け、予防接種をしようという気持ちにつながってくれればと思っています」と話していました。
障害の現実と向き合う
重度の難聴と診断された、長澤柚希ちゃんの家族は、今、聞こえる可能性の残る左耳を少しでもいかせるようにと、補聴器を付け生活する訓練をしています。
母親の由樹さんは「ゆずにはごめんねって、1回は思いましたが、ごめんねよりもゆずのできることを増やしてあげようと今は思います。ゆずが大きくなったときに、生まれて良かったと思えるようにしようと思っています。どんなことがあっても」と話していました。
東京オリンピックまでに流行をなくせるか
厚生労働省は、東京オリンピックが開かれる5年後までに風疹の流行をなくすことを目標に対策を進めるとしています。
自治体の多くは今年度、妊娠を希望する女性などを対象に、風疹の免疫を調べる抗体検査やワクチンの接種費用を助成しています。
しかし助成の対象は一部の人に限られているうえ、検査や接種を受けるには、医療機関に出向かなければいけないため、免疫がない成人への対策は思うように進んでいません。
ワクチンで防げる風疹で、これ以上苦しむ親子を増やさないために。
実効性のある対策が国に求められるとともに、私たち大人ひとりひとりの行動が求められています。