前職の国政への転身に伴う佐賀県知事選で、与党推薦の候補が敗れた。滋賀、沖縄両県知事選に続く敗北だ。安倍政権は強引な政治手法への批判と受け止め、地域の声にもっと耳を傾けるべきだ。
安倍晋三首相(自民党総裁)は佐賀県知事選の敗北について「残念だった。敗因分析をしっかりやり、(四月の)統一地方選に生かしたい」と述べた。昨年十二月の衆院選で、与党が三分の二以上の議席を維持したことに慢心してはいなかったか。
十一日投開票の佐賀県知事選は「保守分裂選挙」となった。
首相官邸主導で擁立したのが、図書館の民間委託や市民病院の民営化を進めるなど、トップダウン型の「改革派」として知られる樋渡啓祐(ひわたしけいすけ)前武雄市長(45)。
「改革派」知事誕生を政権を挙げて後押しすることで、安倍内閣が「第三の矢」と位置付ける全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限縮小など、「岩盤規制」改革を加速したかったのだろう。
しかし、地元農協関係の政治団体や一部の自民党県議らが反発。元総務官僚の山口祥義(よしのり)氏(49)を担ぎ出し、激しい選挙戦となった。
樋渡氏の応援には、菅義偉官房長官や谷垣禎一自民党幹事長ら政権幹部が駆け付けたが、県民多数の支持を得るには至らなかった。
民間の活力をそぐ規制は撤廃するのが筋ではある。しかし、異なる意見に耳を傾けない姿勢は反発を招き、かえって実現を遠ざけてしまうのではないか。農協改革は必要だとしても、熟議と説得のプロセスが決定的に欠けていた。
安倍政権が異なる意見に耳を傾けようとしないのは、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への「県内移設」反対を掲げて当選した翁長(おなが)雄志沖縄県知事に対しても同様だ。
昨年末、就任あいさつで上京した翁長氏と面会した政権幹部は山口俊一沖縄北方担当相だけ。安倍首相も沖縄基地負担軽減担当の菅長官も会おうとしなかった。
安倍政権は、新年度予算案でも沖縄振興予算を減額して揺さぶりをかけている。政府が進める県内移設受け入れに転じた仲井真弘多(ひろかず)前知事時代とは対照的な、露骨な冷遇ぶりだ。
昨年来、対決型の知事選で与党敗北が続くのも、地域の声と向き合おうとしない安倍政権への反発ではないのか。政権の主張を押し通す政治手法の限界でもある。
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