「存立事態」とは、いったいどんな事態を指すのか。

 集団的自衛権の行使を容認した昨夏の閣議決定に基づき、政府が「存立事態」(仮称)という概念を武力攻撃事態法に盛り込む検討に入った。

 国会を通れば、日本への直接攻撃がなくても自衛隊の武力行使ができるようになる。

 集団的自衛権を行使する要件について昨年、政府は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」と閣議決定した。

 存立にかかわる明白な危険とは何か、具体的な状況は不明だ。そこに一定の基準がなければ、時の首相に判断を丸投げすることにもなりかねない。

 たとえば、中東ホルムズ海峡での自衛隊による停戦前の機雷除去は? 「明白な危険」にあたるかどうか、自公両党の間で見解は分かれたままだ。

 新要件に当てはまれば武力行使が認められ、そうでなければ認められない――。これでは、歯止めはないも同然だ。閣議決定の文言を法律に移し替えてすむ問題ではない。

 影響は国民の権利・義務に及ぶかもしれない。武力攻撃事態法では、日本が直接攻撃を受けた場合に国民の権利を一部制限できる。今回は米国などへの攻撃であっても、国民に同様の協力を求めるのではないか。生煮えの議論では到底、理解は得られまい。

 過去には、「周辺事態」の議論で国会が紛糾した。現行の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)をめぐり、政府側は「武力行使はしない」という一線を引いていた。それでも「地理的概念ではないが、中東、インド洋、地球の裏側は考えられない」といったあやふやな答弁が激しい批判を浴びた。

 まして今回は、武力行使に踏み込むかどうかの境目だ。「一線」について、より明確な議論が求められるのは当然だろう。

 一方で政府は、米軍など他国軍への後方支援をいつでも可能にする新法(恒久法)を提出する検討も進めている。自衛隊を海外派遣するたびに特別措置法を作ってきたのを改め、素早く派遣に踏み切る狙いがある。

 自衛隊の活動地域を限定してきた「非戦闘地域」でなくても良いという内容だ。自衛隊の海外活動が拡大し、危険な任務が増す可能性がある。

 いずれも安保政策の根幹にかかわる問題である。政府は早急に、法整備の全体像を示す必要がある。論議の先延ばしは、あまりにも不誠実だ。