地方選には地域固有の事情が反映する。それを安易に国政に結びつけるべきではないにしても、安倍政権にとっては痛い結果だったに違いない。

 前知事の衆院選立候補に伴う11日の佐賀県知事選で、元総務官僚で新顔の山口祥義(よしのり)氏が当選した。衆院選で大勝した自民、公明両党推薦の樋渡(ひわたし)啓祐・前佐賀県武雄市長らを破っての「番狂わせ」である。

 知事選では、県内にある九州電力玄海原発の再稼働や、自衛隊のオスプレイ佐賀空港配備といった問題よりも、政権が進める農協改革をめぐる「政権対農協」の争いがクローズアップされた。政権が支援する樋渡氏に対し、改革に否定的な地元農協などが反旗を翻す形で山口氏を推したからだ。

 2006年から武雄市長を務めた樋渡氏は、レンタル大手ツタヤの運営会社と組んで市立図書館を刷新、全国的な注目を集めた。また、地元医師会の反発を押し切っての市民病院の民間移譲なども進めた。市長としての行動力に高い評価を得ると同時に、強引な手法への批判もまた根強かった。

 農協改革など規制改革に力を入れる政権が樋渡氏を全面的に支援したのは、「改革派」の側面を買ったからだ。農業県の知事選を制すれば、抵抗が大きい農協改革にも弾みがつくとの狙いだ。しかし、地元の側には、農協改革だけでなく、中央主導のトップダウンで知事選を仕切ろうとした政権のやり方への反発も強かったようだ。

 日本の農業が行き詰まりつつあるのは明らかだ。農政とともに農協の改革は避けられないという政権の意図はわかる。

 一方で、改革を進めようとすれば摩擦が生じる。突破するには強いリーダーシップが必要だとしても、同時に指導者の考え方を丁寧に説明し、議論を通じて異論をすくいとっていくプロセスもまた欠かせない。

 原発再稼働が問われた滋賀県、米軍普天間飛行場の県内移設が争点になった沖縄県。昨年来、自民党が支援する候補が敗れた知事選を振り返ると、いずれも地元の意思よりも「国策」を優先しようとする政権の姿勢が拒否されたという構図が浮かび上がる。

 4月の統一地方選を控え、安倍首相はきのうの党役員会で「敗因分析をしっかりしたい」と述べた。

 今回の結果を、農協改革の是非という狭い枠組みだけでとらえるべきではなかろう。問われたのは、民意に対する安倍政権の姿勢そのものだ。