APIOは、熱海の後楽園ホテル併設の、小さな遊園地である。遊園地といっても、ジェットコースターがあるわけでもない、観覧車があるわけでもない。10人乗りのバイキングに、6台程のコーヒーカップに、小さな空中型のメリーゴーランド。バッテリーカーに、古びたコイン式の乗り物。
半径5メートル程度の電車の遊具は、もう随分前から「事情により稼動停止」という状態だった。敷地の奥には、アスレチックと呼ぶほどのものでもない、すべり台と小さなトンネルがくっついた、そこらの公園のような遊具が申し訳程度に設置されていた。30分もあれば全ての乗り物を制覇できてしまうような、小さな遊園地だった。
奥様実家は、もう奥様が子どもの頃から、毎年一回、夏休みに後楽園ホテルに泊まりに行っていたそうだ。ここ数年は、長男、後から長女次女を加えて、しんざき家もご一緒させていただいていた。プールで泳いだ後は大体APIOに行くのがお決まりのコースだった。長男(7歳)にとっては、文字通り物心つく前から通っていた遊園地、ということになる。
数にしてみれば数回だが、私もなんだかんだで、APIOには毎年通っていた。長男を肩車して一緒にスカイメリーをヘビーローテーションして、時にはヒーローショーに参加して、クイズに答えてきゃっきゃと喜ぶ長男を眺めて過ごした。小さな子どもにとっては、乗れない遊具が多い大型遊園地より、すべり台が併設されてあるような、公園の延長の遊園地の方が馴染んだ、ということもあるのだろう。昨年一昨年は、長女次女もきゃーきゃー言いながら随分遊んでいた。
併設のゲームセンターで怒首領蜂大往生をプレイさせろと要求する次女の勇姿(当時二歳)。
そんなAPIOは、2015年1月12日をもって営業終了した。
APIOが閉まる、という話を聞いた長男は、「さいごにいっかいいきたい!」と言い出して、つい一昨日、しんざき一家は季節はずれの熱海旅行にいってきた。会社の新年会旅行シーズンまっさかりだったようで、夏休みに行った時とは随分雰囲気が違ったが、APIOは最終日に無料開放をやっていたようで、今まで見たことがないほどの人入りがあった。バイキングで並んだことなど初めてだった。
11月頃、「さいごにAPIOにいきたい」という話が出てきた時は、正直なところ、同じ旅行に行くんならもっと冬が楽しめるところの方がいいのに、と私は思っていた。熱海は夏だろー、と思っていた。
だが、行ってみると、違った。私はちょっと、遊園地に降り積もった50年という時間を、甘く見積もっていたらしい。地味に見えた大型遊具が、どうした気分の具合か、えらく面白そうに見えて、乗っている人たちの表情も妙に生気に満ちていた。私も、長男、次女と一緒にバイキングに乗った。物怖じしない次女は、「たのしいねーー!」と叫びながらぶいんぶいん振り回される感触に髪の毛を揺らしていた。長女はアンパンマンの電動遊具に張り付いていた。長男は、「スカイサイクル100回乗ってくる!」と張り切ってヘビーローテしていた。
多分、あれが、積もった時間を味わう、ということなのだろう。
感傷的な話である。客観的に見れば、老朽化した遊具を抱えた小さな遊び場が、少子化の煽りもあって営業を停止したに過ぎない。遊具は解体されて、敷地は来年にでも、何か別の用途の空間になるのだろう。
ただ、ひとつの思い出の場所が終わるというその日に立ち会えて、案外良かったなあ、と私は思ったのだ。