<< 前の記事 | アーカイブス トップへ |
くらし☆解説 「どう変わる? 子育て支援・年金・介護」2015年01月13日 (火)
藤野 優子 解説委員
くらし☆解説。きょうのテーマは「どう変わる?子育て支援・年金・介護」です。明日、政府の新年度予算案が閣議決定されます。子育て支援の充実など社会保障はどうなるのか、藤野解説委員に聞きます。
Q1 消費増税の延期で社会保障にも影響が出ることが心配されていましたが、結局どうなりそうですか?
A 子育て支援は当初の予定の財源を確保するようですが、年金・介護は先送りや縮小といった影響が出ています。
具体的にどうなるのか、まずは子育て支援からみていきます。
ここは、4月から始まる新しい子育て支援制度のための財源が確保されることになっています。
Q2 新制度についてこの番組でも何度か取り上げていますが、改めて子育て家庭から見てどんな点が変わるのですか。
A 色々ありますが、きょうは3つとりあげたいと思います。
「保育施設の数が増える」
「施設の種類も増える」
「子育て家庭の相談にのって、必要な支援を紹介する専門の職員が地域に配置される」ということ。
Q3 まず施設の数はどのくらい増えるのですか。
A 政府は、来年度8万人分、3年後までに20万人分の受け皿を増やす計画です。
Q4 どうやって増やすのですか?
A いろんな種類の施設をつくることにしています。
どんな施設かというと、たくさんの子どもを受け入れられる認可保育所も増やしていくのですが、都市部ではなかなか場所が少ないですよね。
それで、待機児童の大半は2歳以下の子どもたちなので、2歳以下の子どもを預かる小規模保育や家庭的保育を増やしていくことにしています。
また、地方では、子どもが減ってきているわけですが、今ある施設をこのような小規模のものに変えていくことで対応していこうとしている。
それから、働く女性を増やそうということですので、企業にも協力してもらおうと、会社の中の保育所も増やすことになっています。
Q5 いろんな施設ができますが、これで今度こそ待機児童解消につながるのでしょうか。
A なかなか難しいと思うんですよね。なぜかというと、全国の自治体がまとめた今後の保育の利用希望者数の推計をみますと、今後3年間は毎年0歳から2歳で5万人を超える受け皿不足となる可能性があるんです。
Q6 どうしてなんですか?
A ひとつは、将来的に子どもの数が減ることを考えて、施設を増やすことを躊躇する都市部の自治体が多いんです。国は保育ニーズのピークは2017年度とみていますので、自治体もそれを過ぎれば待機児童も減ってくるのではと思っているんです。
Q7 つくりすぎると余るということですか。
A そういうことです。
それともう一つ、保育士不足がなかなか解消されないということもあります。
Q8 なぜ保育士が不足したままなんでしょう?
A 仕事が長時間で体力的にきつい、しかも、国の定めた基準ですと、例えば一人の保育士で1歳の子どもを同時に6人も世話をすることになっていて、子育て経験のある人は判ると思いますが、過酷なんですね。それなのに賃金は他の業種より低い。それで、資格をもっていても保育士として働かない潜在保育士が60万人以上いるといわれているんです。
Q9 政府は何か対策をとっていないのですか。
A 新年度の予算案でも、保育士の働く環境を改善するための予算は準備されるのですが、何しろ長年この分野にかける予算が少なすぎたんですね。
ここは、もっと思い切って財源をあてて、保育士の働く環境を根本的に改善する必要あると思います。
もう一つ、新制度で変わる点が、子育て家庭を支援する専門職員の配置です。
Q10 どんなことをするのですか?
A この人たちは、地域の子ども家庭支援センターや身近な子育てひろばなどで、子育て家庭の悩みを聞いて必要な支援を紹介するという役割を担うことになります。
例えば、「子育てがつらい」という人には相談にのってくれる保健師を紹介したり、「自分が病気なので病院に行きたいけれども、子どもの預け先がない」といった人には、一時預かり保育などを紹介したりするんです。
Q11 どうして、こうした職員が配置されるのですか。
A それは、これまでも支援を受けたいけれど、自分の住んでいる地域にどんなサービスがあるのか判らないといった声が多かったんですね。それで、一人で悩みを抱え込んだり、中には虐待をしてしまったりと追い込まれるケースが相次いでいたんです。それで、支援を必要としている家庭に、確実にサポートの手を届けることが課題になっていたのです。こうした専門の職員が、子どもやその親が集まる場に出向いていって、子育て家庭の悩みを一つ一つ拾い上げていくことが今後さらに大切になってくると思います。
Q12 ここまで子育て支援の話でしたが、年金や介護にはどんな影響がでそうですか?
A 年金の充実策は、政府が先送りを決めました。
一つは、年金が少ない低所得の高齢者への給付金。
もう一つは、年金が受け取れる最低加入期間を今の25年から10年に短縮するもの。この二つが先送りされる方針です。
それから介護。低所得の高齢者の介護保険料を減らす対策が縮小される方針です。当初は1千万人を対象としていましたが、600万人に対象を絞るとしています。
それから、もう一つ心配なのが介護報酬の引き下げ。
介護報酬とは、サービスを提供する事業者が受け取る報酬を国が定めたもので、私たちの納める保険料や税金などから支払われています。
政府は、介護現場の深刻な人手不足を解消するために、介護士などの賃金を上げる事業者への報酬を加算する仕組みを使って、介護職員のひと月の賃金を平均で1万2千円程度上げたいとしています。
しかし、その一方で、事業者が受け取る報酬全体は2.27%下げるとしているんです。
Q13 事業者の受け取る報酬が減って、働く人たちの賃金が上がるのですか?
A 疑問を感じますよね。事業者の収益が減れば人手の確保やサービスの内容にも影響が出るのでは、と懸念の声も上がっています。介護報酬を下げると、サービスを利用する人が負担する費用などが減るという利点もあるのですが、人手が集まらずサービスが十分に受けられないことになっては本末転倒だと思うんですよね。
Q14 どうしてこう必要なところに財源がつかないのでしょうか。
A 私は、政策の優先順位の付け方に問題があると思うんですよね。「消費税率が上がらなかったから社会保障の充実策は諦めるしかない」と政府は説明しているのですが、何も財源は消費増税の分だけではないですよね。保育や介護の分野は地域の雇用を生みだしますし、社会保障の充実が遅れれば、それだけ将来の生活不安が膨らんで消費の回復も見込めないわけですよね。やはりもう一度、政策の優先順位と予算の配分の仕方を見直す必要があると私は思います。