2007年、米国シアトルに行った時、コーヒー好きの妻に連れられてスターバックス1号店を探しに行った。名の知れた魚市場「パイクプレース・マーケット」の近所だということで、市場の複雑な通りを抜けてどうやってたどり着くのか心配だった。ところがコーヒーショップの位置を尋ねる必要もなかった。旅行者らしき客がドアの外まで並んでいた上、店内は立すいの余地もないほど込み合っていた。そこは「スタバ文化」の洗礼を受けた人たちにとって、シアトルの聖地、とでもいうべき場所だった。
スターバックス1号店は、1971年のオープン当初、コーヒー豆を売っていた。商号は、小説『白鯨』に出てくる捕鯨船の1等航海士「スターバック」の名にちなんだ。80年代の米国では、余裕があれば豆を買い、家や職場でコーヒーをひいて飲んだという。簡易食堂やレストランが人と会う場所であって、コーヒー専門店でおしゃべりする文化はなかった。ところが87年にハワード・シュルツ会長がスターバックスを買収してからは、全く異なる空間に変わってしまった。コーヒーをすすりながら一休みしたり、友達と会ったりする場所になった。
シュルツ会長は「コーヒーは単なる飲み物ではない。人と人をつなぎ、絆を形成する媒介物」と語った。シュルツ会長は、米国だけでなく世界に自分のコーヒー哲学を説いて回り、およそ60カ国で2万1000を超える店舗を構えた。韓国では99年に梨花女子大前から始まり、今では各地に約720店舗がある。「新世界」の鄭溶鎮(チョン・ヨンジン)副会長が、90年代初めの米国留学時代に「スターバックス文化」にほれ込み、スターバックスと半分ずつ投資すると決めたことで韓国に上陸した。
今月12日、消費者団体「消費者市民の会」が、世界の13主要都市の食品価格を調査した結果を公表した。なんと、ソウルのスターバックスで販売しているカフェ・アメリカーノの価格は4100ウォン(約449円)で、13都市の中で最も高かった。パリ・北京・東京が後に続いて2-4位を占め、ニューヨークはソウルより40%も安い2477ウォン(約271円)で12位にとどまった。豆をはじめとするコーヒー材料の原価は、価格の10分の1程度だ。ということは、ソウルは賃貸料・人件費といった間接費用が高いか、もしくは会社が利潤をかなり留保しているということになる。
ソウルの賃貸料は、ニューヨーク・パリ・東京よりも安く、世界で8-9位圏だ。生活費も東京・北京より安く済み、世界10位圏。なのに、2013年のスターバックス・コリアの営業利益は321億ウォン(現在のレートで約35億円)で、前年比で29%も増えた。こうなると、世界最大のコーヒー専門店スターバックスが、韓国の消費者だけを「カモ」と見なしているのではないかという話も出てくるだろう。いかに魅力的であっても、ぼったくりをされてまで体験すべき理由があるだろうか。