フランス:人気作家の新作波紋 テロ標的懸念、警察が警護

毎日新聞 2015年01月13日 10時48分(最終更新 01月13日 13時23分)

「シャルリーエブド」最新号の表紙を撮影する報道陣=7日、ロイター
「シャルリーエブド」最新号の表紙を撮影する報道陣=7日、ロイター

 【パリ篠田航一】仏週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件が起きた7日にフランスで発売された作家ミシェル・ウエルベック氏の新作「服従」が、波紋を広げている。2022年にフランスでイスラム政権が樹立されるという「イスラム化」の脅威を暗示する内容で、シャルリー紙も7日付の1面でウエルベック氏を題材にした風刺画を掲載していた。同氏が新たなテロの標的となることを懸念した仏警察当局は同氏の身辺警護を始め、本の販売イベントも中止された。同氏は既にパリを脱出したと報じられている。

 新作「服従」は、22年の大統領選でイスラム政党代表が極右政党「国民戦線」のルペン党首を破り、大統領に就任する物語。一夫多妻制や女性の就労制限など急速にイスラム化が進むという筋書きだ。ルペン党首のように実在の政治家も多く登場し、発売前から話題となっていた。

 新作を読んだ慶応大の新島進・准教授(パリ第3大学訪問研究員)は「テロ前日、ウエルベック氏はニュース番組に出演し、自作について語っていた。時系列として容疑者がこうした番組や当日発売のシャルリー紙を見ていた可能性もある。だが、イスラム化という設定は作品の一側面に過ぎず、テロや反イスラムの風潮と安易に結び付けるのは危険だ。一方で仏社会に漂う移民への複雑な感情を、作家は嗅ぎ取っている」と指摘する。

 仏メディアでは「作品は社会の恐怖も反映している。イスラム教は仏社会の諸悪の根源としてスケープゴートになっている」などの分析もされている。

 ウエルベック氏は2010年、フランスで最も権威のある文学賞ゴンクール賞を受賞した人気作家で、日本でも翻訳本が多く出版されている。襲撃事件で犠牲になった一人のベルナール・マリス氏は、ウエルベック氏に関する著作を執筆するなど親交のある人物だった。

 ウエルベック氏は01年に「イスラムはくだらない宗教」と発言し、人種的憎悪扇動罪などに問われたが、02年に無罪となっている。

最新写真特集