中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ食べすぎ なぜいけないのか。
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「暴飲暴食が体によくない」とはよく言われること。必要な栄養素が不足しているならまだしも、摂りすぎはどうしていけないのでしょう。
今回は、誰しも可能性のある「食べすぎ」について考えたいと思います。
私たちの体は普段、飲んだり食べたりする一方、エネルギーを消費・放出したり排泄したりと、物質を絶えず体に出入りさせながら、ほぼ一定の状態を維持しています。これが健康な状態。ところが食べ物を過剰に摂取した結果、このバランスが崩れてしまう事態が往々にして生じます。すなわち病気や疾患になる確率が高まってしまう、というわけです。
では食べすぎると具体的に何が問題となるのか、ざっと挙げていってみましょう。
最初に思いつくのが、いわゆるカロリーオーバーです。食べ物の3大栄養素といえば、ご飯などの主食に含まれる炭水化物、肉や魚のタンパク質、そしてさまざまな脂質(あぶら)ですが、いずれにも体を動かす元となるエネルギーが含まれています。摂取したエネルギー(カロリーはその単位)が余った場合、体はこれを体脂肪に変えて溜めておこうとします。これの繰り返されたのが、皆さんお分かりのように肥満です。ただし、肥満と一口に言っても、タイプが大きく2つに分かれます。簡単に言えば、下半身や二の腕など手でtまめる部分の皮下脂肪と、内臓の周りにつく内臓脂肪型。
内臓脂肪型の方が、より深刻な疾病リスクにつながります。問題となる疾病は主に「メタボリック症候群の各要素である糖尿病(正しくは耐糖能異常または予備群を含む糖尿病)、高血圧、脂質異常症これらが複数重なるほど、動脈硬化のリスクが上昇し、ひいては命にかかわる疾病へつながるのです。ちなみに、尿酸という血中成分が高濃度になって起こる痛風(高尿酸血症)も以前は原因食材を避ける指導が主流でしたが、最近はむしろ「内臓脂肪が発症を誘引している」とも言われます。
さて、食べすぎで問題となるのは、もちろんエネルギーだけではありません。例えば脂肪にも種類があり、摂り方次第ではもっとダイレクトに動脈硬化性の疾患リスクを高めることになります。主に血中の悪玉コレステロール(LDL-C)値を上昇させてしまうためです。また海に囲まれた日本では、食事も是班的に塩分過多になりがち。濃い味付けが特別好きでなくても、食べる量が多ければ、自然に多くの食塩を摂ってしまい、それが疾病リスクを高めます。
あるいは、偏った食品を大量に食べれば、当然、特定成分の摂取過剰が生じえます。不足が心配されるビタミンやミネラルでさえ、過剰であれば弊害が出ることもあります。
その他、食べるという行為そのものから、量が増えればそれだけ消化器官への負担が増して、胃腸障害等を引き起こすこともご想像いただけるでしょう。また、消化・代謝により多くの酸素が使われ、それと同時に体に有害な活性酸素も多く発生することになると考えられています。
内臓脂肪とLDL-Cの悪行
まず、カロリーオーバーからくる内臓脂肪の増加が疾病リスクを増大させることについて、詳しく見ていきたいと思います。
皮下脂肪よりも、いわゆる「隠れ肥満」の正体である内臓脂肪がやっかいなのは前項で説明した通りです。内臓脂肪型肥満の典型は、BMIが25以上(コラム参照)で、お腹が出ている(ウエストが男性85cm以上、女性90cm以上)にも関わらず、皮下脂肪をたっぷりつかめないような人です。
具体的に、糖尿病の有病率に関して、BMIが20以上24未満の人と30以上の人を比較した調査結果があります。30歳代では後者は前者の7.4倍の相対リスク、絶対リスクでも10.3%増という結果でした。さらに70歳代では、絶対リスクが36.7%増 となりました。
また、肥満の人が高血圧症になる確率は、肥満でない人の2~3倍 とされますが、とくに40歳代の男性約600人を対象とした調査では、皮下脂肪よりも内臓脂肪の関与が明らかとなっています 。
のみならず、内臓脂肪が増えると血中の中性脂肪が増え、善玉コレステロール(HDL-C)が減少、脂質異常症を誘発します。なお、この脂質異常症の原因としては、もう一つLDL-C値の上昇から引き起こされるケースもあり、深刻な影響を及ぼします。
そして何より問題なのは、こうした糖尿病、高血圧、そして脂質異常症といった要素が重なれば重なるほど、動脈硬化のリスクが高まること。血管の膜がしだいに厚く硬く、もろくなり、血液が流れにくくなったり血栓ができて血管をふさいだり、というトラブルの頻度が上昇。脳の血管に起これば脳梗塞、心臓の血管に起これば心筋梗塞、どちらも高い割合で死に直結します。
実は統計上では、単なる「肥満」と脳梗塞・心筋梗塞など動脈硬化に起因する疾病の直接的関係は、はっきり数字に現れてきません。ところが、正常体重であっても、内臓脂肪値やLDL-C値が高い場合には、脳梗塞および心筋梗塞のリスクを高めることが明らかになっています。逆に例えば、高LDL-Cの脂質異常症患者に対して投薬により数値を18%低下させたところ、心疾患が33%減少した 、という報告もあります。
特に近年、総摂取カロリーに占める脂質摂取量の割合が、国民平均で約25%になっています。若年層ほど割合は大きく10代前後では30%に迫る勢いです。なかでも肉や乳製品等の動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸は、LDL-Cを増加させる物質として知られます。ですから、たとえカロリーオーバーでなくても、また同じ油脂類を摂るにしても、動物性脂肪の摂りすぎには注意が必要でしょう。
問題はアブラだけじゃないんです。
最初にも申し上げたように、太らなければ、そして胃腸が強ければ、何をどれだけ食べてもいいというものではありません。気をつけるべきは内臓脂肪やLDL-C値だけでないのも、もちろんのことです。
そうしたものの代表例が塩分(食塩)です。日本では昔から料理や食品加工に塩が多く使われ、味噌や醤油が味付けの基本となっています。そのため食塩摂取過多による高血圧は国民病ともいえ、脳卒中(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞等)の発症率が高い要因となってきたとされます。
海外の調査ですが、食塩の摂取量に応じて臓器障害の程度を調べたところ、食塩をたくさん摂っているグループは、血圧には関係なしに、心肥大や慢性腎臓病(CKD)を起こしやすいことが分かってきました。日本でも1330万人、8人に1人はCKD患者であると言われます。
のみならず、食塩摂取量が多いほど胃がんの発生率が多いことも、世界的調査から分かってきました。高血圧症の患者であれば、死亡リスクや、心臓発作その他の心疾患・末梢血管系疾患のリスクも高まります。またつい先日は厚労省研究班から「食塩の摂取量が、男性で1日5.7g、女性で同4.5g増えるごとに、介助が必要となる危険性が25%ずつ増す」との調査結果も報道されました。
脳卒中でいえば、近年、その内訳に大きな動きが出ています。動脈硬化からくる脳梗塞の割合が増えているのに対し、純粋な高血圧による脳出血は減ったのです。あわせて、日本人の食塩摂取量は50年前から半減しています。昭和30年代の東北地方では1日約20gという記録が残っていますが、ここ10年の全国平均は11g程度。1日10g減らせば平均血圧が10 mmHg下がることも分かっており、脳卒中の種類の変化には、食塩摂取量の減少による部分も少なくないと見てよいのではないでしょうか。
なお、中国で行われた調査では、メタボリック症候群の要素を4~5種類併せ持つ人は、塩気の強い食事によって高い血圧を示すリスクが、通常より3.1倍高かったといいます。日本人はもともと、遺伝的に、食塩摂取から血圧の上がりやすい体質の人が多いそうですから、なおのこと要注意といえそうです。
ところで番外編としては、何か特定の品目ばかり食べ続けることは、過剰に摂取しないほうがよい成分・物質を摂りすぎる可能性が高いだけでなく、本当なら他の食材でとるべき栄養が不足する事態に陥りやすいことも、念頭においておくべきでしょう。例えば、菜食主義者はどうしても特定のビタミンが不足し、そのままでは心疾患や脳梗塞のリスクが通常の4倍に上がるという話もあります。
というわけで、大事なのは、総摂取カロリーに気をつけつつ、様々な品目をバランスよく食べること。特に要注意なのが外食やインスタント食品で、たいてい塩分、脂質、ものにより食品添加物も多く含まれています。飽食の時代と言われ、栄養状態の改善が国民の健康向上につながってきた側面は否定できません。それでもやはり「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」。食べたいものばかり好きなだけ食べていては、かえって健康を害してしまうんですね。