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「官邸対農協」に地元困惑 「改革」より「人」が争点 佐賀知事選 (2015/1/13)

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 与党推薦の改革派候補が敗れた、11日投開票の佐賀県知事選。自民党県議や県内首長らが別の候補を擁立して勝利した保守分裂の選挙だったが、佐賀県農政協議会もこの候補を推薦したことで、農協改革と絡めて「首相官邸対農協」と書き立てられた。だが地元では農協改革は大きな争点となっておらず、JA関係者は「“人”で選んだ選挙だ」と困惑している。

 「農協対自民といったつもりで戦ってきたわけじゃない。とにかく人で選ぶ選挙だった」。県農政協などが推薦した元総務官僚・山口祥義氏が当選を決めた11日夜、金原壽秀・県農政協副会長(JAさが組合長)は開口一番、記者団にこう語った。県内JA関係者は「官邸対農協の構図は全国紙による虚構。最大の争点は、相手候補の政治手法や資質だった」と付け加える。

 知事選で自民、公明両党が推薦した前・同県武雄市長の樋渡啓祐氏は、市図書館を民間企業に運営させるなど改革派市長として知られた。一方でこの民間委託も市議会の承認なしで決めたり、インターネット上で一般市民を批判したりと、強引な政治手法や発言が問題視されてきた。JAグループの要請なども受け付けてこなかったという。

 このため樋渡氏が出馬の意向を表明した11月以降、過半数の自民党県議や県市長会、町村会などが「県政の混乱を招く」(関係者)として「反・樋渡」で別の保守系候補を模索。山口氏の擁立に至った。この動きに、農業団体も協力を求められた、というのが実情だ。

 実際、県農政協は直近の衆院選で佐賀1区、2区ともに自民党候補を推薦しており、反自民ではない。それでも全国紙などが「官邸対農協」としたのは、樋渡氏が安倍晋三首相から推薦証を受け取った際に「農協全体を見直す必要がある。農政そのものに岩盤規制がある」と語ったからとみられる。農協改革に力を入れる菅義偉官房長官や稲田朋美党政調会長らが応援に入ったことも拍車を掛けた。

 だが他の業界団体や民主党、連合なども山口氏を支援し、各種報道機関の出口調査では無党派層も山口氏への投票が多い傾向が出た。自民党関係者は「JAだけの問題でなかったのは明らか。党本部や官邸がトップダウンで決めた反動だ」と指摘。地元マスコミ記者は「県民の関心は玄海原発の再稼働や佐賀空港へのオスプレイ配備といった問題にあった」とする。

 ただ4月の統一地方選や、地方の1人区が鍵を握る来年夏の参院選を前に、今回の知事選のいきさつには与党内から懸念の声が上がりそうだ。一方、「JAは選挙で圧力をかける岩盤規制だという誤った印象を植え付けられてしまった」(自民党農林幹部)面もある。別の同党農林幹部は「JAに面目をつぶされたとして、官邸側がさらに急進的な農協改革を進めかねない」と警戒する。

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