中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ運動不足 なぜ悪いのか。
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再構築には刺激が必要
WHO(世界保健機関)によれば、世界の成人の6割以上が運動不足に分類されるそうです。先進国である我が国はもっと大変かもしれません。
適度な運動が病気の予防に役立ち、逆に運動不足だと病気を招くというのは、今や常識と言っても過言でないと思います。その効用をくだくだ説明せずとも、運動した時の爽快感や身の周りの元気な人の様子を思い出していただくだけで納得がいく所はあるでしょう。
ただ、「運動」と聞いた時にスポーツを連想していないでしょうか。もちろんスポーツも素晴らしいのですが、対象をスポーツだけに限定してしまうと、心理的な障壁が上がってしまい、やらなきゃと思いつつ三日坊主になりがちです。
また、続けた時にどういうご利益があるのか、明瞭にイメージを描けないと、やる気も失せますよね。
そこで今回は実践につながるよう、あえて根本のところから科学的根拠を再確認することにしました。
まず大前提の1。私たちは外から飲食物を取り込みながら、また逆に老廃物を排出しながら、体の組織の分解と再構築を繰り返しています。再構築後は分解前と全く同じ状態になるのではなく、取りこんだ物質(摂取した栄養)の質・量・バランスや刺激の質・量・バランス、体の状態に応じて、少しずつですが大きくなったり小さくなったり(あるいは強くなったり弱くなったり)することがあります。刺激や栄養、休養などが不足すると、分解前より組織が小さく弱くなります。刺激をもたらす行為の最たるものが運動です。
次に大前提の2。人類は過去からずっと、栄養不足の中で自らの体を使いながら生きてきたという歴史があります。つまり、もっと生存競争の厳しい時、それなりに運動の刺激がある状態で勝ち抜いた人々の子孫です。私たちの体やその機能を司っている遺伝子は、自分の体をそれなりに使う状態に適合していると思われます。
脳は後天的に柔軟に環境順応をするので、現代社会を異常と感じることはないようです。むしろネコ科の動物を見ているとよく分かるように、基本的に動かなくて済むなら動かない「省エネ」に快感を覚えるのが脳の本質なのかもしれません。本能だけに任せていると、健全な組織の再構築に、刺激が足りなくなる可能性は大いにあります。
と、ここまでの大枠をご納得いただけましたら、いよいよ運動不足がなぜ健康に悪いのかという各論に入りましょう。
個別の理屈、色々あります
運動不足が健康に悪い理由の代表例として、以下のようなものが挙げられます。
①筋肉が衰える
刺激や栄養、休養が足りないと再構築の度に筋肉が細っていきます。その重要性を今さら説明する必要はないですよね。心臓だって筋肉でできています。筋肉が衰えるということは、全身の機能が衰えることに近いものがあります(ただし特に心肺の悪い方は、短絡的に運動を始めないでくださいね)。
加えて筋肉は、体の部位の中でも消費エネルギーの大きい部位なので、筋肉が減れば消費エネルギー量(基礎代謝量)も減ってきます。結果として、摂取カロリーが同じでも食べ過ぎたのと同じことになります。
②骨がもろくなる
骨の重要性も言うまでもないでしょう。骨がもろくなると、体を支えられなくなるので、さらに運動不足の悪循環が起きます。転んで大腿骨頸部骨折や腰椎の圧迫骨折でもすれば、寝たきりにつながりかねません。また、常に骨の再構築よりも分解の方が多い状態だと、神経細胞などの活動に決定的に重要な役割を果たすカルシウムの体内貯蓄が足りなくなります。
③動脈硬化が促進される
運動をすることによって、血管の内側を修復するようなホルモンが出てくると分かっています。ホルモンの出が悪いと、血管の内側にカスが溜まって老化が早まります。動脈硬化は、心臓発作や脳卒中などを引き起こす大きな要因です。
④インスリン抵抗性が出る
糖分を血中から細胞内に引っ張り込むホルモンのインスリンは、運動した時の方が効きがよいと知られています。効きが悪くなると、その分たくさんのインスリンを分泌しなければならなくなって、膵臓のベータ細胞がへたってくるので、2型糖尿病に近づいていきます。糖尿病の先には、さらに致死的な疾患がつながっています。
毎日歩く、それでよいらしい
前述で理屈を色々と並べましたが、人間の体は非常に複雑で、本当のところはよく分からないことの方が多いのです。この前提に立ち、現代医学では理屈があろうがなかろうが、大勢の人間を対象に検討した疫学的データが出てきて初めて真実らしいと認められる。
それでは、運動不足が健康に悪いという疫学データはあるのでしょうか。
この観点で探してみると、定期的に運動をするとリスクが下がるという逆の言い方(ポジティブ・シンキングですね)の研究データは、90年代以降、性別に関係なく次から次へと発表されています。
一番直接的なご利益では、定期的な運動で死亡率が下がるという疫学データがいくつかあります。研究ごとに幅はありますが、下がる率は30~40%といったところで、バカになりません。
その亡率に影響を与えているであろうものとして、いくつかの疾患の発症リスクが下がるという研究も多くあります。
[がん]
意外かもしれませんが、リスク軽減率の高いものとして、まず最初に腸や子宮、肺、乳、前立腺などのがん発症が挙げられます。効果の少ないもので10%、多いものではなんと70%下がるというデータが出ています。
[心血管疾患]
続いて、前項の理屈からすぐに連想される心血管疾患の発症リスクも下がります。念のために補足しておきますと、心血管疾患とは動脈に何か異常があって起きる心臓発作や脳卒中の総称です。10~30%程度下がるようです。
[糖尿病]
もう少し上流にさかのぼると、2型糖尿病の発症リスクも20~30%程度下がります。
[その他]
他に、骨粗しょう症や転倒外傷、精神疾患の発症リスクが下がるのでないかという研究もあります。
「運動」の定義がまだでした。
ここまで皆さんの一番知りたいであろうことを説明せずに来ました。様々なリスクを下げる「運動」とは、いったいどの程度のものなのでしょう。それが分からないことには、実践しようもありませんよね。
でも、実は研究によって、どの程度の運動で線を引くかの基準がバラバラ(お国柄などもあります)。運動強度と効果の関係についても諸説あって、なかなか明確に示すのが難しいのです。
何事も過ぎたるはなお及ばざるが如し。既に疾患を抱えている方は、必ず医師と相談してから始めてくださいね。
それでは、運動不足が健康に悪いという疫学データはあるのでしょうか。
この観点で探してみると、定期的に運動をするとリスクが下がるという逆の言い方(ポジティブ・シンキングですね)の研究データは、90年代以降、性別に関係なく次から次へと発表されています。
一番直接的なご利益では、定期的な運動で死亡率が下がるという疫学データがいくつかあります。研究ごとに幅はありますが、下がる率は30~40%といったところで、バカになりません。
その亡率に影響を与えているであろうものとして、いくつかの疾患の発症リスクが下がるという研究も多くあります。
[がん]
意外かもしれませんが、リスク軽減率の高いものとして、まず最初に腸や子宮、肺、乳、前立腺などのがん発症が挙げられます。効果の少ないもので10%、多いものではなんと70%下がるというデータが出ています。
[心血管疾患]
続いて、前項の理屈からすぐに連想される心血管疾患の発症リスクも下がります。念のために補足しておきますと、心血管疾患とは動脈に何か異常があって起きる心臓発作や脳卒中の総称です。10~30%程度下がるようです。
[糖尿病]
もう少し上流にさかのぼると、2型糖尿病の発症リスクも20~30%程度下がります。
[その他]
他に、骨粗しょう症や転倒外傷、精神疾患の発症リスクが下がるのでないかという研究もあります。
「運動」の定義がまだでした。
ここまで皆さんの一番知りたいであろうことを説明せずに来ました。様々なリスクを下げる「運動」とは、いったいどの程度のものなのでしょう。それが分からないことには、実践しようもありませんよね。
でも、実は研究によって、どの程度の運動で線を引くかの基準がバラバラ(お国柄などもあります)。運動強度と効果の関係についても諸説あって、なかなか明確に示すのが難しいのです。
何事も過ぎたるはなお及ばざるが如し。既に疾患を抱えている方は、必ず医師と相談してから始めてくださいね。