中島 滋隆(心理カウンセラー)- コラム「心の病 がんばらないでください」 - 専門家プロファイル

中島 滋隆
心身両面から医学と心理学の両面の視点に立ち支援します

中島 滋隆

ナカジマ シゲタカ
( 兵庫県 / 心理カウンセラー )
ナカジマメンタルヘルス研究室 代表
Q&A回答への評価:
4.4/20件
サービス:0件
Q&A:74件
コラム:101件
写真:20件
お気軽にお問い合わせください
※ご質問・相談はもちろん、見積もりや具体的な仕事依頼まで、お気軽にお問い合わせください。
印刷画面へ
専門家への個別相談、仕事の依頼、見積の請求などは、こちらからお気軽にお問い合わせください。
問い合わせ
専門家への取材依頼、執筆や講演の依頼などは、こちらからお問い合わせください。
取材の依頼

心の病 がんばらないでください

- good

2014-10-16 14:55

ストレスの時代とも言われる今日、心の病に苦しむ人は増え続けています。誰にとっても他人事ではないのです。


 現在、なんらかの神経疾患、いわゆる「心の病」で治療を受けている日本人は、実に300万人。しかもここ数年、10万人単位で増加を続けています。のみならず「成人の15~20%は、人生のいずれかの時点で何らかの精神疾患を経験する」とも言われており、実際には受診者の何倍もの人が、心の病を抱えながら生活していると考えられます。最も多いとされるうつ病など、「心の風邪」と表現されるくらい、身近な病気となっているのです。
 それでも改めて「心が病む」とはどういうことか、と問われると、意外と言葉に詰まるのではないでしょうか。そこで今回は「心の病」ビギナー編、基本の「き」から見ていきたいと思います。

 「心の病」の定義とは
 
 「心の病」が何たるか、まずは難しい定義から確認しておきましょう......と思いきや、「心の病」はおろか「精神疾患」という言葉についても、医学上のしっかりした定義は見あたりません。というのも、精神や行動に生じた何らかの障害・疾患の〝総称〟でしかないようなのです。
 しかも、これに該当する個々の障害・疾患についても、その定義や診断基準は医学上、厳密には統一されていません。そのため同じ病状でも、精神疾患の分類法によって病名が微妙に違う、なんていう事態もありえるのだそうです。
 ちなみに分類法は、大きく2種類。世界保健機関(WHO)の示す「ICD‐10」という国際的な疾患分類と、アメリカ精神医学会の定めた「精神障害の診断と統計の手引き」(DSM-Ⅳ-TR)です。特にDSMでは 、身体疾患や本人の置かれている環境、社会での活躍度等も考慮しつつ、精神疾患を立体的に捉えるのが特徴です。そのため日本の医療現場でも近年、こちらが使われることの方が多いといわれていますので、参考までに大まかな分類を左に示しておきます。
 いずれにしても、ICD-10もDSMも、どちらも診断基準やガイドラインとして用いられる〝症状の分類〟にすぎません。「心の病」とはつまり何なのか、どうやって生じるのか、それを知るには、そもそも「心とは何か」というところまで立ち返る必要がありそうです。

そもそも「こころ」とは。

  心とは何か、これは難しい質問です。おそらく、詩人・金子みすずが「見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ」と表現したもののひとつではあるのでしょうが、見えないがゆえに説明しづらく、また気にもなるのです。今回はとりあえず、医学的見地から考えていってみましょう。
 まず、心はどこにあるのか。結論から言えば、それは私たち人間の脳にあります。脳の働きのひとつ、と言うとより正しいでしょうか。普段、私たちが「心」とおおまかに呼んでいるものを、さらに分解していくと、意識、記憶、感情、知能、思考、認知・判断、言語、といった要素が出てきます。医学的にはこれらは皆、「精神機能」のひとつに数えられ、脳によって統括されています。通常、意識しているよりずっと多くの精神機能が同時に働き、人間は常に「精神活動」を行っています。
 ということでまず、心とは、さまざまな精神機能による精神活動であるとして間違いはなさそうです。
 しかしそれでも、疑問は残ります。脳はヒト以外の動物にもあって、そうした動物たちも、それなりに知能を発達させ、記憶や判断を行っているように見えます。しかし一般的には、「心」は人間特有のものという感覚があります。どうしてでしょうか?

「心」がヒトを人間にする

 上の疑問を考えるために、ここで、「心が脳のどこにあるのか」を確認しておきます。図はおおまかな脳の構造ですが、注目すべきは大脳です。
 大脳は大まかに、人類の進化の過程で古くから発達した大脳辺縁系と、新しく発達した大脳新皮質に分けられます。大脳辺縁系は間脳の働きと連動して、食欲や性欲などの欲求や情動を生み出しています。一方、大脳新皮質は大脳の表面近くに、他の生物では類を見ないほど大きく発達しています。この大脳新皮質こそが、〝人間らしさ〟の源なのです。
 というのも、言語、認知・判断、創造・意欲、感情など、他の動物にはほとんど見られない高等な精神機能は、この大脳新皮質で営まれていることがわかっています。大脳辺縁系で生まれた欲求や情動を、大脳新皮質で、知性や理性等さまざまな精神機能を駆使してコントロールしているのです。その作業を経るからこそヒトは「社会的動物」、すなわち「にんげん」たりえます。そうして社会の中で生きていくことができるのです。
 心は脳にある。脳が心を生み出している。それが医学的見解といえるでしょう。しかし、そもそも「心」は、人類が社会を形成し、社会で生きていくために発達させた特有の機能です。言ってみれば、社会が、脳に「心」を発生させたというわけです。
 ですから、「心の病」についても、単に脳の機能異常というだけでなく、その多くは社会との関係を抜きには考えられません。

心の不調は、脳の不調

 さて、ここから本題です。心の病はどのようにして生じるのでしょうか。
 まず、病気や怪我で脳を物理的に損傷した場合に、心の病を発症することがあります。これは、脳が物理的に損傷を受け、精神機能の制御能力に支障が出たものです。もっと言えば、脳を構成し、情報の伝達と処理を担っている「神経細胞」(いわゆる「ニューロン」、聞いたことがあるでしょうか?)や、それらのつながりが破壊されたためです。
 問題は、そうした脳への直接的なダメージを思い当たらない場合。にもかかわらず精神機能の不調が長期にわたって続き、仕事や学業、家庭生活に支障が出ることがあります。昨今、患者数が増えている「心の病」には、このパターンが多いようです。
 これは、神経細胞に何らかの異常が発生した場合のほか、神経伝達物質の量・作用が低下したり、過剰になったりすることが原因と考えられます。
 神経伝達物質とは、神経細胞間でさまざまな情報(体の内外からの刺激が電気信号に置き換えられたもの)をやりとりするために必要な物質です。具体的にご説明すると、心の病に大きく関係する代表例に、以下の3つがあります。
●ドーパミン...集中力、やる気、ストレスの解消や、楽しさ心地よさ等の感情を生み出す
●ノルアドレナリン...神経を興奮させ、覚醒、集中、記憶、積極性を高め、痛みをなくす
●セロトニン...ドーパミン、ノルアドレナリンなどの情報を制御し、精神を安定させる

 例えば、名前をよく耳にする「うつ病」は、セロトニンの不足が関与しています。「統合失調症」では、ドーパミンの作用過剰が認められます。いずれの物質も、少なすぎても多すぎてもいけません。分泌の量とバランスが大事で、それが崩れると心のバランスも失われるというわけです。

心の病は、からだにも

 脳、すなわち神経細胞や神経伝達物質の分泌に異変が起きると、意識、感情、意欲や行動、思考、記憶、知覚、性格、自我等にさまざまな障害が現れてきます。これが「心の病」。具体的には、下表のような症状です。
 さらに、心の病を発症すると、体の各部へも正しい指令が届かなくなります。その結果、体の各部組織や臓器も変調をきたすようになります。最初の頃の自覚症状として多いのは、疲れやすくなり、風邪をひきやすくなったりするほか、頭痛や動悸、肩こり、めまいなど。また、食欲がなくなったり、便秘や下痢、胸焼けなど消化器官に症状が出ることもあります。通常の体の病気であれば、ある程度の短い期間で治癒するはずですが、原因もわからないまま症状が長期にわたって続き、日常生活にも支障が出るようなときは、心の病気を疑ってみてもよいでしょう。

ストレスは大きな要因です。

 現時点で、なぜ心の病が起こるのか、完全に解明されているわけではありません。とはいえ、さまざまな要因を挙げることはできます。先にご紹介したような脳自体の病気・怪我のほか、生活習慣、生育環境、本人の気質・性格、精神的・肉体的なストレス、遺伝的素因、酒・タバコ・薬物などの化学物質、身体の病気、そして老化などです。これらは一つだけで心の病を誘引するわけではなく、通常、いくつかが複雑に絡みあって病に至るようです。
 なかでも多いのが、対人関係や仕事上でのストレスが引き金になっているケース。入学・卒業や就職・転職・退職・昇進、結婚・離婚、引越し、近親者の死など、人生の転機といわれる環境変化が原因となることもあります。原因ストレスを軽減させることで症状は軽減するとも言われますが、ストレスを完全に取り除いても症状が改善しないこともめずらしくありません。
 また、素因の多くがあっても、家族や周囲の支援があると、心の病を発症しないで済むことも少なくないようです。

「これは心の病」と思ったら

 心の病のサイン・症状は人によりますが、不調が長期にわたり、仕事や学業、家庭生活に支障があるなら、医療機関での適切な治療が必要です。
 その際、どこの診療科を受診すべきかですが、心の病は、「精神科」が専門としています。なんとなく似た響きの診療科に「心療内科」がありますが、こちらは心身症(発症や経過に心理的・社会的な要因が関与したうえで、胃、心臓、皮膚等に現れる体の疾患)を治療するところ。体に症状が出ていても心の病によるものなら、精神科を受診します。ちなみにもうひとつ、「神経内科」は、脳神経や脳血管の障害を扱っています。
 さて、心の病の治療法としては、「薬物療法」を中心に「精神療法」を併用していくのが主流です。薬物療法は、「向精神薬」という薬を用いて脳の中枢神経に直接働きかけ、精神症状を改善しようとするものです。精神療法では、医師や臨床心理士などが、患者との会話を通じ、心理テストなども必要に応じて併用しながら、発症した真の原因、背景等を突き止めることで、解決法を見出していきます。
 治療にあたって重要なのは、医師と患者・家族との信頼関係です。すぐに改善がみられないからと薬の服用を勝手に中止したり、医師が信頼できないと思い込んで次々と他を受診する「ドクターショッピング」をしていては、治療も進みません。心の病は、よくなったり悪くなったりを繰り返しながら、たいていは極めてゆっくり回復します。医師の指示に従って根気よく、が大切です。
 最後に、心の病の治療には、家族の役割が大きいのも事実です。病気の自覚がなかったり、認めたくもない本人の抵抗感をなくすため、最初は内科等を受診し、適切な病院を紹介してもらうのもよいでしょう。日頃できることとしては、本人の話を聞き、知識をつけて偏見をなくし、生活習慣の見直しに協力することです。焦りは禁物。諦めず、見捨てず、辛抱強く支えることが必要です。共倒れにならぬよう、家族がストレスを溜めすぎないことも大切です。それには、患者に気を遣いすぎず普通に接し、つかず離れず、助けが必要なときにそっと手を差し伸べる、というのがよいでしょう。じっくり回復を待ってあげてください。

プロフィール評価・口コミ対応業務経歴・実績連絡先・アクセスQ&Aコラム写真