中島 滋隆(心理カウンセラー)- コラム「緩和ケアのこと知ってますか?」 - 専門家プロファイル

中島 滋隆
心身両面から医学と心理学の両面の視点に立ち支援します

中島 滋隆

ナカジマ シゲタカ
( 兵庫県 / 心理カウンセラー )
ナカジマメンタルヘルス研究室 代表
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緩和ケアのこと知ってますか?

- good

2014-10-09 16:25

病気を治し、健康を守るだけが医療でしょうか。その役割を果たせなかったら、医療に意味はないのでしょうか。
今回は、そんなことを考えていただくテーマです。

「キュア」と「ケア」

 「良薬口に苦し」という、ことわざがあります。良い「結果」を出すため、もしくは悪い「結果」を回避するために、少々のイヤな「経過」は我慢しなさい、という意味にも取れます。
 たとえが薬ですから、医療に援用しても問題ないですね。確かに、感染症や軽いケガの場合は、しばらく我慢していれば健康に戻れる可能性が高いです。なので、根治したかったら黙って言うことを聞いて少々の苦痛は我慢しなさい、と言われてもそんなに腹は立たないでしょう。
 でも、生活習慣病など慢性疾患の場合、根治は望めず、医療は病気との共存をサポートすることしかできません。また、疾患があろうがなかろうが、人間は必ず衰え、そして必ず死にます。
 このように「結果」に多くを望めない場合、「経過」を重視しようとするのは自然なことですね。どのような「経過」が望ましいかは、人生をどのように仕上げたいかで変わります。そして、医療の関与次第で、「経過」は大きく変わります。
 言葉を換えれば、根治が望めないからといって、患者の求めに医療が何も応えられないわけではないのです。
 患者の病を治癒させることを「キュア」(cure)、病を抱えた患者の生活をサポートすることを「ケア」(care)、こう呼ぶことがあります。
 医療従事者でいうと、医師の役割はキュアの比重が大きく、看護師の役割はケアに比重が大きいのが一般的です。この両方があってこその医療ですが、病院ではキュアのためにケアが従属的になりがちです。
 患者が治癒(=キュア)だけを望むなら、医療は確かに無力、無意味になる時が来ます。しかし、患者が人生を仕上げるためのQOL(生活の質=ケア)をも望むならば、そこに医療の関与する余地は多く残されています。たとえ治せなくても、苦痛を和らげるキュアがあります。
 ケアのためのキュア、これが緩和ケアの考え方です。たとえ命を引き延ばすことができなくとも、患者が人生を仕上げるにあたって、こうありたいと思ったことに力が発揮できるよう手伝いをすることは大いに意味があるはずです。
 こうありたいと思うことは人それぞれ。やりかけの仕事が残っている人もいるでしょう、精一杯の闘病をしたい人もいるかもしれませんし、ある人にとっては家族との心安らかな時間かもしれません。
 この目的を達成するため、積極的に取り組もうとする医療が緩和ケアなのです。

何をするの? どんな時に出番?

  緩和ケアが、患者や家族のQOLを可能な限り高めることをめざすと書きましたが、具体的には誰に対して一体何をしてくれるのでしょうか。
 まず対象ですが、現在の日本では、「がん」とAIDS(後天性免疫不全症候群)の患者が主となっています。
 次に何をしてくれるのか。ここでは、緩和ケアマニュアルの整備されている「がん」を例に見ていきましょう。
 多くのがん患者が痛みを訴えます。がんそのものによる痛みの他に、手術などの治療による痛みもあるでしょうし、また神経に傷がついている場合もあるでしょう。
軽いけがや腹痛などは、我慢していればそのうち治まりますね。でも、がんの痛みというものは繰り返し襲ってきますし、我慢したから慣れるという筋合いのものでもありません。
 痛ければ、安眠できないでしょうし、冷静な思考能力もが失われるでしょう。体力も消耗します。当然、痛みをコントロールしなくては、患者もそれを見守る家族もQOLが下がります。
 めざすのは、安眠を妨げない、安静時に痛まない、体を動かしても痛まないの三段階の痛みコントロールです。
 その目的を達成するために、一般鎮痛剤を使ってみて、それでもダメならオピオイド(医療用麻薬)を用います。最近では両者を併用することも増えています。痛みを取るような使い方をしている限り麻薬中毒になることはありませんので、ご安心ください。
 増大した腫瘍が何かに触れて痛みが出ている場合や骨転移の場合には、問題となっている部分だけに放射線を当てて焼くこともあります。
 次のコントロールすべきとされるのが、食生活など消化器の不調です。毎日の食事は生きる喜びに直結しており、それが望めないような食欲不振、便秘、吐き気などは直ちに取り除かないと、やはりQOLが下がります。
 原因疾病の対症療法をすると共に、患者の好物を食べさせる、口腔ケアを行うなどといったことになります。
 そして、患者や家族にとって体の苦痛を和らげるのと同じくらい重要なのが、精神的サポートです。患者は不安・抑うつを抱えがちです。大切な人を亡くした方のサポートをすることも役割です。
 要するに、死は避けられないとしても、患者や家族のありとあらゆる苦痛を取り除くため、医療技術をフル活用するのが緩和ケアです。他科の医師が治療の片手間にこなせるようなものではありません。

対象となるのは末期の人だけ?

  6月に成立した「がん対策基本法」では、がんの早期段階から緩和ケアを行うことが盛り込まれました。緩和ケアの本質から言えば当然の話なのですが、法に明記しなければならないほど、これまでは末期の人だけが対象と誤解されがちでした。
 現在、主に緩和ケアが提供されているのは、ホスピスです。病院に併設されている緩和ケア病棟も、名前は違いますが中身は同じものです。
 保険適用の関係で、これらに入れるのは、積極的ながん治療を終え、最後の仕上げの時期を過ごす方々です。裏返すと、積極的治療をしている方には緩和ケアが提供されないことになります。結果として、緩和ケア病棟(ホスピス)へ行くことは、積極的治療の打ち切りを意味します。
 このため、患者に良かれと思って医師が緩和ケアを勧めても、患者は医師から見放されたと受け止めがちです。患者の精神安静を保つために、ムダと知りつつ治療を続ける場合も少なくありません。
 ただし本来は、治療に多くのエネルギーを必要とする病を抱えた時点で、患者は緩和ケアを必要としているのです。積極的な治療が行われている時でも緩和ケアが提供されてしかるべきです。そうでないと、ある日突然、ベッドも主治医も看護師もすべてが交代すると言われるのですから、患者が受け止めるのは容易でありません。
 こうした反省に基づき、最近は、がんが見つかった時から関わってくれる緩和ケアチームも増えています。患者が病棟や施設を移るのでなく、ケアチームが患者のベッドまで来てくれます。最終的に緩和ケアのベッドに移る場合、元の病棟のベッドで過ごす場合、どちらもあります。
 緩和ケア病棟やチームは、求められていることが前項のように多岐にわたりますので、痛みを取る医師、心のケアをする医師、専門の看護師がセットになっていなければ、診療報酬加算がありません。ソーシャルワーカーも必要ですね。
 積極的治療を打ち切ることに納得した場合、ホスピスへ行かず、在宅での看取りをめざすという手もあります。ただし信頼できる主治医、看護チームが近所にいない場合には、まだまだハードルが高いかもしれません。
 最近は緩和ケア科外来というものもあります。ただし、名前が同じでも、病棟に入るための外来と初期の方のサポートをする外来と二通りありますから、かかる前に確認をしてください。

どこへ行けば受けられるの?

  ここまで読んで来て、もし自分ががんになったとしたら、緩和ケアを初期から受けたいと思ったのではないでしょうか。
 がん治療初期から上手に緩和ケアを使いたいと思ったら、当然そういう緩和ケアをできるスタッフのいる病院へ行かねばなりません。
 緩和ケア病棟のある施設は日本ホスピス緩和ケア協会のサイトで調べられます。
 また、前項でも説明したように最近では、外来で緩和ケアを受けられる施設や、一般病床に入院している患者さんを対象に専門スタッフたちが主治医をサポートする「緩和ケアチーム」が増えつつあります。希望すれば、早期からチームのサポートを受けることが可能です。
 緩和ケアのない施設に既に入院しているなら、主治医に緩和ケアを受けたいと要望して、移動先を探してもらいましょう。医療連携室に相談する手もあります。緩和ケアを希望する患者さんや家族が多ければ、自然と緩和ケアの提供量も増えます。提供量が増えれば、初期からの緩和ケアも夢物語ではなくなります。
 現状では需給にミスマッチがありますので、ベッドの空き待ちになることもあるでしょう。しかし緩和ケア施設でないからといって我慢することはありません。先ほども説明したように、がんによる痛みなどの苦痛は我慢しても報われません。どんどん主治医に遠慮なく苦痛を伝え、処置してもらうようにしましょう。
 わがままを言えばよいという意味ではありませんが、痛みなどは検査数値化できませんので、あなたが苦痛を訴えなければ、主治医も気づいてくれません。それで損をするのはあなた自身です。
 少し先を急ぎすぎました。医療施設を選ぶ前、医療施設での心構えを考える前にも、できることがあります。
 人は必ず死にます。現代の医療では治せない疾患が確実にあります。これを前提として、元気な時から、自分がどういう人生の終え方をしたいのか、家族と話し合ってはいかがでしょう。
 あなたの人生はあなたが主人公であり、その幕の引き方はあなたが決めるべきです。病状が重くなると意思表示がしづらくなることもありますので、元気なうちにしておいた方が無難です。
 実際に発病してしまったら、恐れや怒りも含めた自分の気持ちを素直に家族に伝えましょう。痛み・苦しみを伝えましょう。我慢することが家族のためではありません。あなたが苦しめば家族も苦しみます。
 逆に、あなたが患者家族の立場であったなら、患者の意思を尊重すべきということが分かりますね。患者が適切な意思決定をできるよう、伝えるべき情報はきちんと伝えましょう。
 実際には、がんが再発して病状が厳しいということを、患者本人に伝えたがらない家族が多いのです。患者の気持ちを考えてとは思うのですが、結果として治療の選択を誤ってしまうことがあまりに多いのです。
 選択を誤るとは、無効な化学療法を希望して副作用で苦しめると共に在宅移行のタイミングを逃す、あるいは緩和ケア病棟に移行するタイミングが遅すぎるなどです。積極的治療に限界が来たならば、もはやキュアは主役たりえません。一刻も早くケアに重点を移すべきです。
 繰り返します。
 病を得たあなたが、人生をよりよく仕上げたいと願う時、そこに緩和ケアがあります。覚えておいてください。

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