中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ認知症を知る17 笑顔で介護を にこにこリハ!
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認知症が進むと、言葉でのコミュニケーションが次第に難しくなって、介護者は疲弊し本人のQOLも下がります。そのように言葉でのコミュニケーションが難しくなった時にも、残された脳の能力を活かして、上手に介護を行おうという考え方のものです。
そして実は、これら非言語シグナルは、動物や赤ちゃんにもあるような根源的な感情的情報をよく伝えます。言葉はなくても気持ちが通じることってありますよね。
つまり認知症の方は、たとえ何も分かっていないように見えたとしても、目の前の人の感情や態度はかなり理解しているのです。
そして、この非言語シグナルの認知能力をリハビリによって高め、コミュニケーションの改善につなげることも可能と分かってきました。
カギとなるのが、笑顔です。
笑顔は眼前の相手を幸せな気持ちにする
私たちの脳には、相手の仕草や表情を自分の心の中にも鏡のように写し取る「ミラーニューロンシステム」という神経の働きがあります。
この働きによって、笑顔の人を見ると自分の脳の中にも笑顔を作る状態ができて幸せな気持ちになり、怒った顔を見れば不愉快になります。
そして、それは眼前の相手にとっても全く同じことです。あなたが笑顔を見せれば、相手は幸せな気持ちになり、不機嫌な顔を見せれば不機嫌になります。
幸せな気分の認知症高齢者と不機嫌な認知症高齢者、どちらのQOLが高いか、どちらが介護しやすいか、言わずもがなですね。
脳が活性化
上記で触れた「非言語シグナルの認知能力を高めコミュニケーションの改善につなげる」ことをめざすのが、「にこにこリハ」です。
訓練に用いる様々な刺激によって脳の広い領域が活性化することが確かめられており、リハビリ後に非言語シグナルの認知機能や他者との交流技能の平均得点が統計学上有意に上がりました(グラフ参照)。リハビリなしの観察だけだと点数は下がります。
日常の介護にも、こんな応用可能
嬉しいことに「にこにこリハ」の知見は日常の介護にも採り入れることが可能で、リハビリと同様の効果を期待することができます。
とにかく笑顔を意識して、以下のようなことをやってみましょう。
①視線を合わせ、握手しながら、にっこり笑顔で挨拶
握手のようなスキンシップは直接肌で触れ合うことにより、ぬくもりを感じる心の交流につながります。また折角の笑顔も相手に見てもらえなければ意味ありませんので、常に視線をしっかり合わせましょう。上から目線にならないように、相手と同じ高さに顔を位置させます。
*インフルエンザの流行っている時などは、十分な手洗いを行ってください。
②身支度の合間に鏡を見せる
認知症が進み、人の顔が分からなくなっても自分の顔だけは認識できていることが多いようです。ただ、身だしなみへの興味は低下しているので、鏡を見てもらって、コミュニケーションの基盤となる「自分と他人」の関係意識が刺激されることを期待します。
③古い写真を見せる
自分や家族の写った古い写真は、過去の記憶と、その時の気持ちを一緒に思い起こさせます。結果、自然な表情が生まれます。介護する側が、その気持ちや表情を受け止め、共有・共感することで、心の通じ合ったコミュニケーションが生まれます。この時も視線を合わせ、ジェスチャーや表情を豊かに受け答えすることが大切です。
声の表情にも注意を
なお、ご存じと思いますが、顔と同様、声にも表情があります。怒鳴ったりすると、顔以上に相手の心に強い影響を与えることがあります。声に優しい感情を込めて、ゆっくり話すよう心がけましょう。