中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ認知症を知る16 義歯を使わないと発症リスク上がる
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自分の歯が少ないのに義歯を使っていない人は、認知症を発症するリスクが高くなるようです。
この研究報告は、山本龍生・神奈川歯科大准教授らのグループが2012年3月、『アメリカ心身医学会雑誌』に発表したものです。 内容を簡単に説明すると、「愛知老年学的評価研究(AGES)」(次項コラム参照)という疫学研究で、65歳以上の健常者4425人に歯や口の中の状態を選択肢から自分で選んでもらい、その後4年間、認知症を伴う要介護認定を受けたかどうか追跡しました。
その結果、年齢、治療疾患の有無や生活習慣などに関わらず、歯がほとんどなくて義歯を使用していない人は、20本以上歯が残っている人より、有意に認知症による要介護認定を受けた頻度が高く、そのリスクは1.85倍(95%信頼区間は1.04倍から3.31倍の間)にも上ることが分かりました。
昔から認知症の人に歯が少ないことは知られていましたが、認知症の結果歯の手入れができなくなって歯が失われるのか、歯がないから認知症になりやすいのかは分かっていませんでした。それを今回調査したところ、義歯がカギを握っているという結果になったわけです。
さて、なぜ歯が少なくて義歯を使っていないと発症リスクは高くなるのでしょう。
山本准教授は、以下3つの仮説を挙げています。
①歯周病の慢性炎症の影響
永久歯を失う最大の原因である歯周病は、歯茎で慢性的に炎症が起きている状態です。その炎症で作られるサイトカイン(細胞間の情報伝達を司る物質)は、脳神経細胞に悪影響を与えると考えられています。
②噛めないことの影響
ものを噛むと、脳の血流が増え、記憶を司る海馬も活性化することが分かっています。この噛む刺激が足りなくなっている可能性があります。
③食生活の影響
満足に噛めない人は、当然のことながら何でもバランスよく食べるというわけにはいかなくなります。野菜や豆など認知症のリスクを下げる食べ物(7月号参照)が特に苦手になりがちです。ビタミンなどの摂取不足で、認知症になりやすくなっている可能性はあります。特に白飯だけ食べているような場合、7月号に出てきた最悪のパターンにはまってしまいます。
さらに山本准教授は、義歯を使っていないことで社交性が失われ、引きこもりがちになることも影響しているのでないかと考え、今後検証するとのことです。
かかりつけ歯科医院の有無も関連あり
さて実は、研究報告に続きがあります。
かかりつけの歯科医院があるかどうかを尋ね、ないと答えた人は、あると答えた人より1.44倍(95%信頼区間は1.04倍から2.01倍の間)発症リスクが高いという結果も得られたのです。
そんなものが関係するのか、と驚きますよね。認知症を遠ざけたいなら、歯の健康を気にした方がよいことになりますね。
しかも、影響は認知症だけに留まりません。山本准教授らは昨年8月、やはり愛知老年学的評価研究から、歯が19本以下で義歯を使ってない人は、20本以上ある人の2.5倍(95%信頼区間は1.21倍から5.17倍の間)、転倒のリスクが高いということも論文報告しています。
転倒が、脚の骨折から寝た切りにつながりかねない大きな要因であることは、皆さんもご存じでしょう。
2本の論文のラスト・オーサー(責任筆者)である平田幸夫・神奈川歯科大教授は「フッ素入りの歯磨き剤によって状況が劇的に改善したむし歯と違い、歯周病のケアは本人だけではなかなか難しいものがあります。歯を失わないよう、かかりつけの歯科医を持って定期的にメンテナンスを受けること、もし失ってしまったとしても、放置せず義歯を作って入れていただくことを、訴えたいと思います」と話しています。