中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ認知症を知る8 成年後見制度ご存じですか?
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任意後見
2000年の介護保険法施行で、それまで「措置」されていた介護サービスが、本人の自己決定に基づく「契約」で提供される形へと転換しました。この時同時に民法も改正され、判断の能力が十分でなくなった人が財産管理や日々の生活で不利益を被らないよう、サポートする成年後見制度が設けられました。
この成年後見制度には、任意後見と法定後見とがあり、想定されている使い方が異なります。まず、任意後見制度から説明します。
任意後見制度は、今は判断能力のある人が自ら、判断能力の乏しくなる将来に備えるものです。あらかじめ自分の意思で、信頼できる支援者を後見人予定者として決めます。そして財産管理以外にも、どこでどのような介護を受けたいか、その費用はどのように賄うか、他の病気になったらどうするかといったことを、オーダーメイドで後見人予定者に伝えておくことが可能です。
後見人予定者と支援の内容が決まったら、任意後見契約を公正証書で結んでおきます。この段階では、まだ任意後見は始まらず、自分の意思で財産管理などを行うことができます。
判断の能力が十分ではなくなったと周囲の人間が考えた時、後見人予定者などが家庭裁判所に申し立てを行います。裁判所が任意後見監督人の選任を行った段階で、契約の効力が発生し、任意後見が始まります。
任意後見監督人は、任意後見人の支援活動をチェックします。裁判所は、任意後見監督人のチェックをさらに監督します。
任意後見契約は本人が死亡した時に終了しますが、家族や親戚などへの連絡、葬儀・埋葬・供養などに関すること、遺品のうち生活用品の整理・処分に関すること、残されたペットの行き先についてなど、死後の事務まで委託する契約を結ぶこともできます。ただし、遺産の処分を委託することはできません。
任意後見契約が結ばれている場合、次項で説明する法定後見の開始申し立てがあっても原則として任意後見が優先されます。
法定後見制度の3類型
続いて、本人が準備していなくても進む法定後見制度を説明します。
利用するには、本人・配偶者・4親等内の親族・市町村長のいずれかが、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります(コラム参照)。
本人の判断能力の程度に応じて以下3類型があります。
●後見
旧民法では、禁治産に相当します。「自己の財産を管理・処分することができない」人が対象です。もう少し平たく言うと、独りでは日常的に必要な買い物をすることすら難しく、誰かに代わってもらう必要のある人が対象となります。
支援する人のことを「成年後見人」と呼びます。本人に代わって契約などを行う「代理権」、本人の行為をその時点まで遡って無効にする「取消権」(ただし日常生活に関することは除く)と「財産管理権」を持ち、「療養看護義務」を負います。
●保佐
旧民法では、準禁治産に相当します。対象は「自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要である」人です。日常の買い物くらいは独りでできるけれど、重要な財産行為を自分だけでするのは難しいという人が対象となります。
支援する人のことを「保佐人」と呼びます。本人は保佐人の同意がなければ「重要な行為」(表参照)をできなくなり、本人が保佐人の同意なく行った重要な行為について、保佐人は取り消すことができます。家庭裁判所に申し立てて、保佐対象の行為を付け加えることもできます。
●補助
旧民法には存在しませんでした。軽度認知症への対応を視野に入れたものです。支援する人のことを「補助人」と呼びます。家庭裁判所の審判であらかじめ定められた特定の行為について、補助人に同意権・取消権や代理権を与えます。日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、補助人の同意や取消の対象となりません。
「補助」開始には本人の同意が必要ですが、「保佐」と「後見」の開始には本人の同意は要りません。
後見人に誰がなる?
制度の仕組みが分かったら、最後は誰が後見するのか気になると思います。
最高裁判所の集計によれば、2010年に選ばれた後見人の6割近くが「家族・親族」で、他に司法書士が15%強、弁護士が10%強、社会福祉士が10%弱と、これらの人だけで9割以上になります。家族・親族以外の後見人を「第三者後見人」と呼ぶことがあります。
後見人の報酬は、家庭裁判所の審判で特に定められない場合は無償となります。しかし第三者が職業として後見人を引き受ける場合は、月に3〜5万円程度の報酬を本人の財産から支払うよう定められるのが一般的です。
職業後見人に対して報酬が必要なことによって、家族や親族が本人の財産を侵害しているような場合で、しかも本人に一定の資力がない場合、有効な後見人を選べないという問題も起きます。
今後、認知症の高齢者が激増し、後見人のニーズも劇的に高まると考えられていますが、①身寄りがなく家族を後見人とすることができない②家族が後見人にふさわしくない③職業後見人に報酬を払える資力がないという人も多くなると見込まれ、さらに④後見できる専門家が不足しているという根本的問題もあり、必要とする人全員が後見を受けられるか危ぶまれています。
後見人がいないと、認知症で判断能力を失った人に医療や介護を提供することすら、法的には困難となります。
根付くか市民後見人
このため2011年に信託契約を使う新たな仕組み(コラム参照)が導入されたのに続き、2012年には老人福祉法が改正され、市区町村は「市民後見人」を養成して活用・支援するよう努力義務が設けられました。
「市民後見人」とは、国家資格は持たないけれど、成年後見に関する一定の知識や技術・態度を身につけており、社会貢献への意欲と倫理観の高い第三者後見人と、その候補者を指します。
果たしてこれで制度がうまく機能するか、注目されているところです。
加えて、書類作成や手続きの煩雑さなどが障害となって成年後見制度の利用が広がらないという現状もあります。
これに対しては、自治体や社会福祉協議会、弁護士会、家裁などが随時、制度についての無料説明会を開いたりして制度の普及に努めています。
成年後見制度についてもっと知りたいと思ったら、役所などに置かれるチラシや広報誌を参考に、近隣で開催される説明会へぜひ足を運んでみてください。