中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ認知症を知る4 脳血管性
-
脳の血管が詰まったり破れたりすると、その先の組織に血流が不足し、神経細胞が壊れて、場合によっては認知機能が低下します。このようにして起きる認知症を脳血管性認知症と言います。
長くご愛読の方には改めて言うまでもないことですが、脳の血管が詰まるのは脳梗塞、破れるのは脳出血ですね。それによって意識を失ったり、体に麻痺を生じたりするのが、「脳卒中」です
ということで、脳卒中の後に発症するのが最も典型例ですが、身体面の症状は出ない程度でも脳神経細胞の欠落が限界を超えれば、認知機能低下は起きてきます。
認知機能の低下が まだら、階段状
この認知症で起きる認知機能障害や行動・心理症状(BPSD)は、アルツハイマー型認知症の場合とよく似ており、見分けるためにはCTやMRIといった画像検査を行って、脳血管障害の程度を見る必要があります。ただし、脳血管障害があったからといって、絶対にアルツハイマー型認知症でないとは限りません。
実際、二つの認知症は危険因子が類似していて、併発することもあります。
強いてアルツハイマー型と異なる特徴を上げると、脳神経細胞の欠落が起きた場所によって、ある能力は低下しているけれども別の能力は比較的大丈夫というように、まだら状に認知機能の低下が起きることと、人格や判断力は比較的保たれることです。また、その症状は、日や時間帯によって大きく変動します。さらに多くの場合は徐々に進行するのではなく、ガクッガクッと階段状に進行します。
早期のうち、新しいことを覚えたり以前の記憶を思い出したりすることができなくなるという記憶障害はあまり目立たず、むしろしばしば、歩行障害や手足の麻痺、ろれつが回りにくい、転びやすい、尿失禁、抑うつ、感情失禁(感情をコントロールできず、ちょっとしたことで泣いたり、怒ったりする)といった症状が出てきます。
さらに進行してからは、「せん妄」を起こす頻度が高くなることも知られています。せん妄とは、意識混濁に加えて、幻覚や興奮状態といった精神症状の出るものです。発症は急激ですが、時間が経つと元の平穏な状態に戻ります。日中はウトウトしているのに、夜になると厳しい顔つきに変わり、興奮して声を荒げたり、徘徊したり、噛みついたり、杖を振り回したりという「夜間せん妄」が代表的です。
特に梗塞に注意
原因の大部分は、細い血管が詰まる小さな脳梗塞の多発です。障害を受ける脳神経の範囲や程度によって、認知症の程度も変わります。海馬、視床、尾状核など重要な部位の場合はちょっとした梗塞でも、認知症の程度がひどくなることがあります。
階段状に症状が進行するのは、それまで梗塞のなかった部位で血管が詰まり、今まで障害のなかった機能を司る神経細胞に欠落が起きるからと考えられます。
一度欠落してしまった脳神経細胞は元に戻らないので、症状を進行させないためには、脳血管障害を繰り返さないことが必須です。
ということで、まずしなければならないのは、生活習慣の中から脳血管障害の危険因子を探して、取り除いていくこと。ずばり、脳卒中後の心がけと全く同じです。
そのような生活改善とリハビリを行えば、認知症の症状をある一定のところで抑えることも可能です。
治療・予防は、まず生活改善
この病気の危険因子は、まず年齢が高くなることです。また「高血圧」は極めて悪く、腎臓の機能を落としたり動脈硬化を連鎖的に進めることは、過去に生活習慣病を取り扱った特集で何度も説明してきました。硬くなった動脈は裂けやすく、血栓が詰まりやすくなります。
一部の降圧薬には、アルツハイマー型認知症の予防効果を期待できるのでないかとの説すらあります。積極的に降圧薬を使いましょう。
耐糖能異常(糖尿病)や脂質異常症も、あれば発症のリスクが上がります。よって、そのコントロールを行う必要があります。
もし既に生活習慣病の域に入ってしまっている場合は、積極的に薬を使ってコントロールしましょう。
この他、喫煙は百害あって一利なしです。飲酒は適量なら良いという説もありますけれど、過度に飲めば間違いなく発症リスクを上げます。
それから案外見過ごしがちなことですが、脱水状態は血が濃くなって血栓を作りやすくします。年をとると喉の渇きを感じにくくなります。喉が渇いたなと思った時には、既に脱水になっていることが多いので、毎日、定期的な水分補給をお忘れなく。
そして本丸
以上の生活改善、生活習慣病コントロールと並行して、脳血流改善薬や脳血管拡張薬、脳代謝賦活薬などを1種類ずつ、その効果を評価しながら使うと、認知機能が改善することもあります。
非薬物療法(リハビリテーションなど)は症状改善だけでなく、生活の質の改善に役立つこともありますが、行動・心理症状について、非薬物療法ではどうにもならない場合には、やはり薬を使います。
よく使われるベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は、「逆説性興奮」の誘因となることもあるので注意が必要です。
夜間せん妄になった時には、四環系抗うつ剤が用いられます。ミアンセリン(商品名:テトラミド)、マプロチリン(商品名:ルジオミール)、セチプチリン(商品名:テシプール)などがあります。
それで効果を得られなければ、リスペリドンやクエチアピンといった非定型抗精神病薬、あるいは抑肝散などの漢方薬を短期間・少量試みます。
意欲・自発性の低下が見られる場合には、塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)やニセルゴリン(商品名:サアミオン)などが用いられます。
抑うつ症状に対しては、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)が比較的よく用いられます。