中島 滋隆
ナカジマ シゲタカ認知症を知る3 レビー小体型
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馴染みの薄い病名と思いますが、なんと国内に患者が約60万人いると推定されています。早期に発見して適切に医療介入すれば、進行を遅らせ症状を和らげ、介護する人の負担も軽くすることができるのですが、医師ですら病名を思いつけないことが少なくありません。この機会にぜひ覚えてください。
そもそも何?
そうは言われても、レビー小体って一体何だ? と思った方も多いことでしょう。
まずレビーは、ドイツの医学者の名前です。彼が1912年、パーキンソン病患者の脳幹神経細胞内に発見した異常な封入体*が、レビー小体。なぜ出現するのか原因は分かっていませんが、パーキンソン病患者の脳に必ず見られます。
このレビー小体が大脳皮質に現れ、認知機能障害が出てくるのが、レビー小体型認知症です。この特集の監修者である小阪医師が1976年に認知症患者の脳に無数のレビー小体を見出し、1984年に「びまん性レビー小体病」(次々項コラム参照)という疾患概念を提唱、その後国際的な討議を経て現在の病名になりました。
特徴は、幻視、変動、手足のこわばり
レビー小体型認知症は、40歳前後で発症する例もありますが、多くは65歳以上の高齢者に発症します。
初期には認知機能の低下はそれほどでもなく、ヒトや小動物など具体的で繰り返す幻視、パーキンソン病に相当する運動障害、日や時間帯によって異なる認知の変動といった特徴の方が目立ちます(診断ガイドラインの下表参照)。ちなみにパーキンソン病に相当する運動障害とは、手足の筋肉のこわばり、動きの鈍さ、小股歩行、無表情などです。
認知機能がさほど低下しない初期のうちから、幻視や妄想、抑うつなどの行動・心理症状(BPSD)を示すことが多く、記憶が保たれているためにごまかしが利かなかったり、一時しのぎができなかったりするため、本人はもとより介護者のQOLが大いに損なわれます(コラム参照)。
また、これらの症状が出てくる何年も前から、夜間の睡眠時に悪夢で大声を出したり手足をバタバタさせたりするレム睡眠行動障害が高い頻度でみられます。また、起立性低血圧、めまい、尿失禁、便秘などの自律神経症状もしばしばみられます。
思い当たることがあったら、早く専門医を受診してください。
関係する神経伝達物質、一つではない
医療による早期介入が望ましい病気である一方、初期段階では見極めが難しく、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、うつ病など様々に診断されることがあります。
抗精神病薬に対する反応が大きいという特徴があるため他の病気と診断を間違え、その治療を受けると、薬が効き過ぎて、しばしば厄介なことになります。
レビー小体型認知症の複雑な症状の出方は、脳内の複数の神経伝達物質に同時に不足が起き、問題が組み合わさるためと考えられます。
まず、アルツハイマー型認知症でも減少するアセチルコリンは、より大幅に欠乏します。また、パーキンソン病で低下が問題になるドーパミンも、レビー小体が共通して存在することから分かるように、やはり欠乏します。ノルアドレナリンやセロトニンも不足します。
ただ、現象は分かっても、どうしてそうなるのかの原因がまだ分かっていないため、治療は対症療法が基本になります。
初期の精神症状や幻視には、アルツハイマー型認知症の治療にも用いられるドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬、あるいは抑肝散という漢方薬が効果的です。
認知機能の低下がハッキリしてからは、幻覚などは減る一方自発性が失われ、アルツハイマー型認知症と症状が重なってきます。またパーキンソン病の症状も目立ってきます。そこでアセチルコリン系の治療と、ドーパミン系の治療とを並行して行うことになります。
前者に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬が、しばしば効果を現します。幻覚や妄想など精神症状の改善も見込めます。
後者に対しては、パーキンソン病の治療に用いられるレボドパやドーパミンアゴニストが有効です。
付随して出てくる精神症状に対しては、パーキンソン症状を悪化させにくい非定型抗精神病薬が選ばれ、リスペリドン、フマル酸クエチアピンなどが、いずれも十分な説明と同意のもと副作用の出現に注意しながら少量から投与されます。