オリエント急行殺人事件第一夜 2015.01.11


あ〜ありがとうございます。
(女性)これでいい?
(穂積)このたびは本当にありがとうございました。
勝呂先生のおかげで大事にならずに済みました。
(勝呂)とんでもない。
将軍閣下もいたくお喜びでした。
(勝呂)灰色の脳細胞を働かせたのです。
まさか殺人に見せ掛けた自殺だったとは思いませんでした。
いや〜きてれつな事件でしたね。
勝呂に言わせれば単純な事件でしたよ。
自動車は何をやってるんですかねえ。
列車の時間に間に合えばいいのですが。
(穂積)フグの一夜干しはお食べになりましたか?いえ。
こっちのはうまいですよ。
売店に行って買ってきます。
汽車の中でつまんでください。
いや干物はあまり好みでは…。

(馬場)今は駄目。
今は駄目よ。
全て終わってから。
ちゃんと片付いたら。
そしたら。
(馬場)行きましょう。
時間よ。

(轟侯爵夫人)海は嫌いです。
あ〜生臭いったらありゃしない。
(昼出川)海が見たいとおっしゃったのはご自分でしょ?急ぎましょう。
(呉田)嫌だわ私。
どうかされましたか?マダム。
(呉田)あっ切符をどこかにしまったはずなんですけど…。
いつもこうなんですよ。
自分が嫌になる。
どこかに挟んだのではないですか?あのこれは…。
(呉田)ありました。
あなたは神様に守られてるようですよ。
弱ったことになりました。
どうかされましたか?乗車券は買えたのですが寝台車が満席らしくて。
満席!?珍しいみたいですよこの季節で。
一般車両は空いてないのですか?お疲れになりませんか?列車の旅は慣れておりますから。
(アナウンス)2番線の列車は10時40分発東京行き特別急行東洋であります。
お乗り遅れのないようご注意ください。
すみません。
すみません。
これはどうやって食べるんでしょうか?
(益田)私には分かりかねます。
ああ…。
(幕内)フグの一夜干しですか?あぶって食べるとおいしいですよ。
やっぱりそうですか。
(莫)あっ勝呂さんじゃないですか。
莫さん!ご無沙汰してます。
こんな所で何をされてるんですか?いや小倉で1件用事を済ませて東京へ帰るところです。
次の特急東洋ですか?ええ。
私もですよ。
これは旅が楽しくなりそうだ。
ハハハハハ…。
本当は博多でしばらくゆっくりしようと思っていたんですが急に呼び出されましてね。
何やら重大事件が起きたとかで。
いつも仕事仕事仕事ですな。
まあ日本を代表する名探偵だからしょうがない!フフフ…。
やめてください。
多少は成功したかもしれませんが。
(莫)ハハハ…。
(幕内)そろそろ時間です。
そうだ。
鉄道省の重役のあなたにお願いがあるのですが。
私にできることなら何でも。
実は帰りの寝台車の切符が買えなかったんですが。
まさか。
あり得んこの季節に。
莫さんのお力で何とかならないでしょうか?天下の勝呂先生を一般車両に乗せるわけにはいきませんよ。
私にお任せください。
フフフ…。
これフグの一夜干しです。
よかったらどうぞ。
いえとんでもない。
お気持ちだけ頂いておきます。
さっ行きましょう。
ええ…。
(莫)あっ三木!
(三木)あっ莫さま。
(莫)こちらの紳士に部屋を1つ取って差し上げてくれ。
大至急。
(三木)あっ。
私の大切な友人なんだ。
勝呂武尊さんだ。
存じ上げてるだろ?
(三木)あっ勝呂さま?あの探偵の?正確には名探偵です。
(莫)ハハ。
12号を頼む。
何かあったときのために予備の部屋があるんです。
お心遣い感謝します。
(三木)すいません莫さま。
(莫)まさか12号室も?申し訳ございません。
(莫)どうなってんだ。
えっ?どこかで会議でもあるのか?団体客か?いや偶然が重なったようでございまして大勢のお客さまがけさ出発なさることになったようでございます。
ハァ〜弱ったな。
え〜二等はどうなってる?
(三木)二等もあいにくふさがっております。
はっ?あり得ん!
(馬場)すみません。
(三木)はい。
(馬場)馬場と申しますが。
(三木)馬場さまでいらっしゃいますね。
馬場さまはあっ二等の4号室にお入りくださいますように。
あちらの奥の扉からお入りください。
(三木)ということで勝呂さまいくら日本を代表する名探偵といえども今日のところは我慢していただきませんと。
やはり私は普通車で。
いやとんでもない。
そんなことをしたら体を壊してしまう。
大丈夫。
何とかしますから。
え〜お客はみんな乗ったのかい?
(三木)いや…。
(莫)えっ?来てない客は?二等の2号室の宮本さまがまだ…。
よし勝呂さんの荷物を2号室へ運んでくれ。
あっしかし…。
いやその宮本とやらが現れたら「遅過ぎましたね」とか何とか言って追い払えばいい。
よろしいんでしょうか?莫さま。
もう来ないだろこの時間じゃ。
宮本武蔵は刻限に遅れます。
ハハハ。
うまいことおっしゃる。
取りあえず乗ってしまってください。
あとは何とか私が。
助かります。
三木!
(三木)かしこまりました。
ではお荷物をお預かりいたします。
どうぞこちらからご乗車くださいまして。
(三木)こちらでございます。

(保土田)車掌さん。
(三木)はい。
(保土田)かわやは汽車が発車せな使ったらいかんとか?
(三木)いや使っていただいて結構でございます。
勝呂さまこちらでございます。
かたじけない。
(三木)失礼いたします。
こちらですね。
(三木)あっ失礼いたします。
どうぞ。
(幕内)えっ?あっいや…。
あの部屋お間違えではないですか?いや他にあの…空いてる寝台がございませんのでこちらを使っていただくことになりました。
え〜勝呂さまは上段でございます。
無理言って申し訳ございません。
こちら勝呂武尊さまでいらっしゃいます。
えっ?
(三木)よろしくどうぞ。
間もなく出発いたします。
先ほどはどうも。
ああ…。
東京まで一つよろしくお願いします。
ああ…。
どうぞ。
んっ…。
あっ…大丈夫ですか?ヘヘ…はしごに上ったことがないもので。
あっあのあのあの…。
あのよかったら僕が上行きましょうか?そうしていただけると助かります。
フグの一夜干しですがよろしかったら。
あっ結構です。
ヘヘ。
生まれて初めて相部屋を体験しております。
(能登)戦地ではたいてい相部屋です。
私は最も兵隊に向いていない人種です。
(能登)有名な方だそうですね。
乗客が噂していました。
フフ。
あいにく私は2年前まで満州にいたものですから世の中に疎くて。
2年前から私は有名でしたが。
あっこれは失礼。
参謀本部の能登巌です。
勝呂武尊です。

(ドアの開く音)失礼いたします。
(益田)旦那さまがお呼びだ。
(幕内)はい。
幕内です。
(ドアの閉まる音)んっ?
(ウエーター)オマールエビのテルミドールです。
(保土田)おっすごか!うまそう。
(莫)列車に乗るたびに私は思うんですよ。
自分に文才があればと。
ほうどういうわけで?この光景素晴らしいではないですか。
これから一晩知らない者同士が一緒に過ごす。
一つ屋根の下で眠り食事を取る。
そして東京に着いたらそれぞれの目的地に向かいそして二度と会うことはない。
まさに一期一会。
小説の題材として最高でしょう。
ただ列車事故が起これば話は別ですよ。
勝呂さん。
ここにいる全ての人々の人生がある一点で結ばれる。
死という絆によってね。
嫌なことをおっしゃいますねえ。
あっ失礼。
確かにこうして見るとあらゆる階層の人々が集まっている。
さしずめ現代日本の見本市ですな。
(羽佐間)ここよろしいですか?
(保土田)どうぞどうぞ。
(羽佐間)失礼します。
羽佐間と申します。
(保土田)保土田です。
よろしく。
(羽佐間)よろしくお願いします。
(保土田)博多で自動車ば売りよるとたい。
(羽佐間)あっ僕は万年筆の販売を。
私もですか?
(羽佐間)いや旅は道連れって言うじゃないですか。
益田です。
職業もですか?
(羽佐間)結構です。
(轟侯爵夫人)後で私の部屋へ水を持ってきなさい。
あっそれからオレンジジュース。
グラスは大きめ。
夜におなかがすくと…。
(莫)轟侯爵夫人ご存じないですか?いいえ。
亡くなったご主人は確か貴族院議員でした。
若いころ鹿鳴館で伊藤博文公と踊ったとか踊らなかったとか。
(羽鳥夫人)でしょ?汽車の旅で一番気を付けなくちゃならないのは乾燥なの。
美容に良くないですもの。
だから私は旅に出るときはいつも霧吹きを持っていくの。
5分置きにシュシュッシュシュッ。
(呉田)フフフ。
(馬場)ごちそうさまでした。
(羽鳥夫人)あらもう行かれるの?
(馬場)お部屋に戻ってますわ。
どうされます?
(呉田)あっ私も。
(馬場)またあしたお会いしましょう。
(呉田)失礼します。
あっ霧吹きがなかったらぬれたタオルを枕元に。
どうかされましたか?ああいえ別に。
(ウエーター)失礼いたします。
オマールエビのテルミドールでございます。
お〜。
(莫・勝呂)ハハハハハ…。
(昼出川)すみません。
(ウエーター)はい。
こんなに締まらないドレッシングは初めてだわ。
ワインビネガー頂けます?
(ウエーター)申し訳ございません。
すぐにご用意いたします。
あのご夫婦は?
(莫)んっ?ああご主人は確か外交官ですよ。
よく利用していただいてますよ。
いやはや奇麗な奥さまだ。
あんな人と一緒に旅ができたらさぞ楽しいでしょうなあ。
(藤堂)どこにあった?床に落ちてました。
たぶんドアの下の隙間から…。
車掌に言って乗客名簿手に入れろ。
それはどうでしょう。
渡すもん渡しゃあ何とかなる。
行け。
はい。
(莫)客のことを悪く言うのは気が引けるが悪い顔ですな。
まるで野生のヒヒです。
品性のかけらもない。
(莫)身なりは立派だが。
だからより危険なのです。
おりは立派でも鉄格子の間から醜いけだものが牙をむいています。
(三木)失礼いたします。
勝呂さん部屋が空きました。
6号室です。
えっ?私が使っていた個室です。
いやそれはいけません。
いえ自分は一般車両に移りますから。
いや莫さん困ります。
私は大丈夫。
慣れてますんで。
あっではお言葉に甘えて。
アッハハ。
ゆっくり旅を楽しんでください。
感謝します。
ではお先に。
またあした。
私の荷物は?
(三木)移動してございます。
失礼いたします。
(羽鳥夫人)名探偵勝呂武尊。
すぐに分かりましたよ。
新聞で何度もお顔を。
犯人を追ってらっしゃるんですか?いえそういうわけでは。
うちの娘がね探偵小説が大好きでたいていは半分ぐらい読んだら犯人を当てちゃうんですよ。
「将来は探偵か刑事になりたい」って言ってるんですけど私は「やめとけ」って。
だってね小説と実際の事件とは違うでしょ?お勧めしませんね。
ではよい旅を。
(戸の開閉音)
(藤堂)たばこの火を貸していただけませんか?
(藤堂)藤堂と申します。
失礼ですが杉野さんでいらっしゃいますよね?探偵の。
いや正確には勝呂です。
はい?勝呂です。
勝呂。
杉野さん私はすぐ用件に入る男でね。
単刀直入に申し上げる。
仕事を頼みたい。
申し訳ありませんが仕事の依頼は限られた人からしか受けておりません。
幸い食べていくだけの蓄えはありますもので。
まあそう言いなさんな。
俺はね金を持ってる。
ヒ〜。
莫大な金だ。
でもな事業で成功すると必ず敵が現れる。
俺にも敵が1人いるんだよ。
1人だけでしょうか?どういう意味だ?敵を持つ立場におられる方は敵は1人では済まないものです。
まあこの際敵の数はどうでもいいや。
大事なのは俺の命だ。
命を狙われているのですか?まあ俺は自分の身ぐらい自分で守れる男だがな。
念には念を入れときたい。
あんた払った金に見合う仕事をする人だと聞いた。
あいにくですが藤堂さんご期待には沿えません。
言い値でいこうじゃないか。
分かっておられないようだ。
私は興味のある事件しか受けないのです。
2,500円。
3,050円。
これ以上出せない。
何が気にくわん?気を悪くされたら申し訳ありません。
あなたの顔が気に入らないのです。
(戸の開閉音)
(三木)お荷物はもう移動してございますんで。
助かります。
(羽鳥夫人)ちょっと待っててね。
(呉田)でもそんな…。
(羽鳥夫人)いいのいいの。
私たくさん持ってきてるから。
(呉田)ありがとうございます。
でも私…。
(羽鳥夫人)遠慮しないで。
堀辰雄は絶対読んどいた方がいいから。
あら探偵さん。
あっ…。
あっ堀辰雄の本を貸してくださるっておっしゃるんですけど私もう読んじゃったんです。
はっきりおっしゃった方が。
(羽鳥夫人)どうぞ。
(呉田)うれしいわ。
(羽鳥夫人)眠れないときはお薬も色々あるから。
(藤堂)立ち話ならよそでやってくれ。
あっ失礼いたしました藤堂さま。
何だか薄気味悪い男。
あれは絶対犯罪者の顔ね。
探偵さん要注意ですよ。
(呉田)ではお借りします。
(羽鳥夫人)楽しんで。
それでは名探偵さん。
失礼します。
いや申し訳ございませんでした。
こちらでございます。
今夜はぐっすり眠りたいので睡眠薬を。
あっじゃあ後ほどお持ちいたします。
いや私ではなく羽鳥さんに。
あっはい。
フフフ…。
どうぞこちらでございます。
(三木)どうぞ。
ここなら熟睡できそうです。
そう願っております。
何かございましたらご連絡くださいますように。
ありがとう。
おやすみなさいませ勝呂さま。

(ノック)どうも。
保土田と申します。
名探偵勝呂さんとお見受けしました。
ご用件は?よかったらですねこれから一杯いかがですか?旅は道連れ世は情けと申しましょうが。
事件の話やら何やらかんやら聞かせてもらえたらうれしかです。
今夜は思いの外疲れております。
申し訳ないがまたの機会に。

(うめき声)・
(足音)・
(ノック)・
(三木)どうなさいました?藤堂さま。

(ノック)・
(三木)藤堂さま?・
(藤堂)すまん。
夢ば見とった。
恐ろしか夢やった。

(三木)何かお持ちいたしましょうか?・
(藤堂)いやいい。

(ベルの音)
(三木)おやすみなさいませ藤堂さま。

(ベルの音)
(ノック)
(三木)どうなさいました?侯爵夫人。

(ベルの音)・
(ノック)・
(三木)羽鳥さま?・
(ノック)・
(三木)羽鳥さま!?・
(羽鳥夫人)冗談じゃないわよまったく。

(三木)どうなさいました?
(羽鳥夫人)男がいたのよ!私の部屋に。
(三木)まさか。
目が覚めたら部屋の隅にいたんだから。
間違いないの!はっきり見たんだから!
(三木)いやしかし。
確認して今すぐ!
(三木)入ってもよろしゅうございますか?
(羽鳥夫人)まだいるかもしれないから気を付けなさい。
(三木)はい。
(羽鳥夫人)私はね旦那以外の男に寝顔なんか見られたこと一度もないんですから!・
(物音)
(舌打ち)
(舌打ち)いいかげんにしてくれ!ここはどの辺りでしょうか?
(馬場)関ヶ原じゃないかって誰かが言ってましたわ。
今日中に東京に戻れるんでしょうか?救援隊が来るまでに3日かかったこともあったって車掌さんが。
(羽鳥夫人)娘が戌の日のお祝いで今日は安産祈願の日なんです。
みんな東京で待ってるんです。
(保土田)今日は午後から人と会う約束ばしとると。
(羽佐間)いや〜諦めた方がよさそうですよ。
(呉田)え〜。
連絡はできないんでしょうか?東京で妹が心配しています。

(戸の開く音)
(轟侯爵夫人)車掌ですよ皆さん。
(昼出川)いったいどうなってるんですか!
(保土田)いつまでここで足止めされるとか!
(三木)ただ今あの機関士が外に出まして雪の状況を調べてございます。
もうしばらくお待ちくださいますように。
とにかく情報がないとわれわれは不安のままで待ってるしかないんだ。
(幕内)僕らには知る権利があると思うんですけどね。
(三木)了解いたしました。
そのように努力いたします。
勝呂さまよろしいですか?
(三木)こちらでございます。
(莫)あっえらいことになりました。
どうかされましたか?部屋をお借りしてもよろしいですか?もっもちろん。
うっ…。
雪で汽車が止まってしまいました。
それだけでも一大事だというのにその上…。
その上?ああ参った。
どうされたんです?乗客が1人ベッドの上で死んでるんです。
しかも刺されて。
あらら。
勝呂さんどうか私を助けてください。
列車を動かすことはできませんがもう1つの方は少しはお役に立てるかもしれません。
そうこなくちゃ。
で誰が殺されたんです?隣の車両にいらっしゃった外科医の須田先生です。
(須田)どうも。
死亡時刻は午前0時から2時の間。
おそらく午前1時くらいでしょう。
午前1時…。
(莫)発見したのは藤堂さんの執事です。
そのときの様子を勝呂先生に。
薬をお持ちしたのですがドアをノックしてもお返事がなくドアにはチェーンが掛かっていたものですから何か発作でも起こされたのではと思い車掌を呼んで開けてもらったのでございます。
ドアは内側からチェーンが掛かっていたんですね?さようでございます。
自殺の可能性はありますか?
(須田)自分の体を10カ所以上も刺して自殺する者などおりませんよ。
(三木)うっ…。
(莫)おいここで吐くな。
(三木)申し訳ございません。
部屋に入ったとき窓は?開いておりました。
君はもういい。
ありがとう。
(莫)あっこの件は他の乗客にはまだ言わないように。
(益田)かしこまりました。
秘書の何とか君をここに呼んでもらえますか?了解いたしました。
犯人はここから逃げたんだ。
汽車が止まったのは何時か分かりますか?あっ三木。
(三木)はい。
(莫)汽車が止まった時間は?
(三木)0時30分ごろでございます。
犯人はここから窓の外に逃げたように見せ掛けた。
しかし雪の上に足跡がない。
(須田)雪が消したとは考えられませんか?一晩中窓が開いていたのに室内にはほとんど降り積もっていません。
おそらく窓を開けたとき雪はやんでいたかもしくはその直後にやんだか。
(莫)ということはどういうことです?犯人には大きな誤算がありました。
この雪です。
雪のために列車が止まってしまい次の駅で降りることが不可能になった。
しかも犯行後雪がやんでしまったことで表に逃げることもできなくなった。
(莫)ということは?寝台車から一般車両に抜けることは?できません。
通路には鍵が。
なるほど。
ということは?わっ分からんのですか?
(莫)分からん。
犯人はわれわれのそばにいます。
今もこの列車の中に。
(須田)傷は12カ所です。
2つはかすり傷程度のもの。
致命傷と思われる傷は少なくとも3カ所あります。
いわゆるめった刺しですな。
犯人は女だな。
男はそういうやり方はしない。
藤堂さんは命を狙われていました。
なぜ分かるんです?本人がそう言ってました。
そうか犯人は殺し屋か。
いやそれにしてはずいぶん素人っぽいやり方です。
しかも不思議なことに…。
この2カ所の傷。
こことここ。
どちらも深くて動脈まで達しているのにそれほど血が出ていませんな。
非常に興味深いですね。
どういうことですか?死んだ後も何度も刺しています。
(須田)相当な恨みがあったようですなあ。
はい。
(須田)さらに奇妙なのはえ〜これらの傷は明らかに右利きの人間によってできたものです。
がこちら。
左利きでなければできない傷です。
(莫)何だそりゃ。
しかし一番大きな謎は被害者はなぜ抵抗しなかったのか。
(莫)うわ。
(須田)どうして分かったんです?昨夜本人に見せてもらったんです。
(莫)うっ…。
事実を整理しましょう。
犯人は力の強い男でありか弱い女であり右利きであり左利きの人物です。
何だそりゃ。
列車が止まる前最後に停車した駅は?
(莫)えっ…。
三木!
(三木)はい。
あっまっ米原でございます。
何時何分?
(莫)えっ…。
三木!
(三木)はい。
11時45分ごろだと思います。
ということは犯人は米原から乗ったんだ。
(須田)あなた気が早過ぎる。
(莫)せっかちなもんでね。
いったい何があったんですか?お待ちしてました。
(莫)大丈夫か?
(三木)あっありがとうございます。
乗客名簿と客室の見取り図があったら持ってきてください。
(三木)あっかしこまりました。
どういうことなんですか?藤堂さんが亡くなったよ。
亡くなった?ええ。
で犯人は?殺されたとお思いか?ちょっと待ってください。
その前にあなたは何の権利があって…。
(莫)あっ私が正式に探偵の勝呂武尊さんに事件の捜査をお願いしたんです。
納得していただけましたか?殺されたと思った理由は手紙です。
手紙?
(幕内)いわゆる脅迫状です。
ご覧になりたいですか?持ってきなさい。
何か怪しいなあの青年。
現場検証に戻りましょう。
なるほど。
な〜るほど。
抵抗しなかった理由はこれで説明がつきました。
毒でも入ってたか?睡眠薬ですな。
彼は眠っていたようです。
んっ?何かを燃やした跡があります。
(莫)あっホントだ。
(須田)触らないで。
(莫)あっ…。
女物のハンカチです。
あっ犯人が落としたんだ。
やっぱり犯人は女だ。
都合のいい話ですね。
うれしいことにイニシャル付きです。
(莫)「N」よしすぐに乗客名簿で調べよう。
こんなものもありましたよ。
パイプクリーナー。
これ被害者のものでは?しかし被害者は巻きたばこ党です。
私も見つけましたよ。
(莫)えっ?
(須田)1時15分で止まっています。
殺された時間では?そうかもしれないしそうでないかもしれない。
よし俺も何か見つけよう。
何か気になりますか?いやこの部屋には手掛かりが多過ぎます。

(ノック)
(三木)乗客名簿と見取り図でございます。
助かります。
使い立てばかりして申し訳ないが侯爵夫人のメードに言って帽子箱を持ってきてください。
帽子箱でございますか?大至急お願いします。
あっかしこまりました。
お待たせしました。
10カ所以上刺されている。
死体を見るのは初めてだな。
脅迫状は?
(幕内)あっはい。
失礼。
「組織から逃げられはしない」「裏切者に今こそ神の鐵槌を」そうか組織の犯行だ。
何の組織?
(莫)分からん。
あなた黙ってなさい。
いやしかし裏社会のにおいがぷんぷんしませんか?それは分からないけど藤堂はかなりおびえてました。
これは1人で書いたものではありません。
少なくとも2人以上が関わっている。
組織の犯行だ。
藤堂さんの職業は?あっいわゆる実業家です。
横浜で貿易関係の仕事を。
(莫)危ない橋を渡っていたわけだ。
若いころは何を?それが…ホントに何も知らないんですよ。
あのかなり秘密主義の人だったので。
ただ出身はたぶん東北ですね。
なぜ分かる?なまりが抜けないのを気にしていたので。
君は藤堂さんに好意を持っていなかったようだね。
亡くなった人の前で言うのは気が引けますけど僕はこの人が嫌いでした。
信用もしていませんし残酷っていうか…こう…危険な感じな人でしたから。
下がってよろしい。
(幕内)あっ僕は容疑者ですか?もしも君がことさら藤堂さんの死を悲しんでいたらそうなっていたかもしれないね。
何かありましたらいつでも呼んでください。
感じのいい青年だ。
分かったことは結局藤堂という人物のことは何も分からないということです。

(ノック)これでよろしいでしょうか?壊れた懐中時計イニシャル入りのハンカチパイプクリーナー。
本物なのか偽物なのかまだ分かりません。
しかしこの証拠だけは本物であると私は断言します。
それと帽子箱がどう関係するんですか?ひげの手入れに使うのです。
おそらく犯人が燃やしたものです。
ここには犯人と被害者との関係を示す何かが書かれていた。
だから処分したのです。
一瞬ですのでお見逃しなく。
「汝剛力聖子」なるほど。
そうでしたか。
剛力聖子…どこかで聞いたことがある。
全てがつながりました。
この男の正体も彼が殺されなければならなかった理由も。
(莫)え〜剛力剛力…。
くっそ…何だっけな?いや何となくはね覚えてるんですがあの…。
(須田)剛力大佐のことですか?5年ほど前のことです。
大佐のお嬢さんが誘拐され身代金を支払ったにもかかわらず遺体で発見された。
衝撃的な事件でしたな。
剛力聖子とはわずか7歳で命を落とした被害者の名前です。
はいはい…。
大佐の奥さんはそのときのショックで流産しご自分も亡くなっています。
そして大佐自身も悲しみに耐えかねて拳銃自殺。
記憶が正確ならばもう1人剛力家の小間使いも亡くなっています。
犯人の疑いを掛けられ警察に対する抗議の自殺だったはずです。
思い出しただけで気がめいるな。
しかしそれと今回の件がどうつながるんです?事件からしばらくして誘拐犯の一味は逮捕されました。
首謀者は笠原健三。
通称笠健。
裏の世界では有名な男です。
彼は証拠不十分で無罪になりました。
裁判官を買収したという噂も流れた。
しかし世間は知っていました。
彼は間違いなく真犯人でした。
あっそいつが藤堂だとおっしゃるんですか?彼は名前を変え剛力大佐から奪った金で事業を起こしました。
しかし昨日ついに復讐された。
ということはこの乗客の中に剛力家と関係する人物がいるということですか?おそらくその人物が犯人です。
(莫)いえいえ…えっ?組織の犯行ではないとおっしゃる?ではなぜ犯人は剛力家の名前が書かれた手紙だけ燃やしたのです?どうしてって言われても。
剛力家とのつながりを知られたくなかったからですよ。
そうか。
犯人は剛力家とつながりのある人物だ。
でどうやって捜査を進めるんです?われわれにできるのは話を聞くことだけです。
(三木)あっ。
準備万端ですね。
どうぞ。
それでは最初の方を呼んでまいります。
まずは君からだ。
私でございますか?じゃあ身分証を。
(三木)ああはい。
お話しすることなど何もございませんが。
この仕事を始めてどれくらいになる?かれこれ30年になりますが。
住所は下関?はい。
んっ?写真が挟んであるが。
娘でございます。
5年前しょうこう熱で世を去りました。
あっ…すいません。
失礼しました。
このようなことを聞かれると思わなかったもので。
藤堂が部屋に入ったのは何時ごろかね?夕食を済ませた後でございましたから9時半ごろでしょうか。
それ以降彼の部屋に入った人は?え〜執事の益田さま秘書の幕内さまでございますが。
では藤堂の姿を見たのは9時半が最後だね?いや声は聞いております。
0時40分ごろでしたでしょうか。
藤堂さまの部屋からうめき声が聞こえまして私がドアをノックいたしますと中から「夢ば見とった」と。
それは私も聞いている。
そのときどこかの部屋でベルが鳴ったね?あっ侯爵夫人でございます。
事件が起きたと推察される1時15分君はどこにいた?私は基本車掌席におりましたが。
ずっとかね?え〜一度隣の車両に参りました。
理由は?隣の担当の車掌と業務連絡を。
それだけでございます。
あっ1時15分といえば羽鳥夫人がベルを鳴らされました。
《冗談じゃないわよまったく》その騒ぎは覚えている。
結局夫人の勘違いでございました。
深夜誰か通路で見掛けなかったかね?ご婦人を1人お見掛けしておりますが。
車両の向こう側の洗面所に行かれたようでございます。
誰だった?いや〜後ろ姿でございましたので誰かはちょっと分かりかねますが。
背中に竜の刺しゅうを施した真っ赤なお着物をお召しでございました。
時間は?え〜1時半ごろだったと思います。
他には?え〜あっ幕内さまの部屋から能登大佐が出てこられまして深夜まで何か話し込んでおられたようでございます。
能登大佐は部屋に戻られました。
それが2時を過ぎていたかと思います。
それ以降はどなたもお部屋を出ておられません。
ありがとう。
お役に立ちましたでしょうか?非常に。
幕内さまを呼んでまいります。
乗客にはどのように説明したらよろしゅうございましょうか?あっ私が行こう。
(三木)あっはい。
実直そうな人物だ。
彼が犯人とはとうてい思えませんな。
実直な人間でも犯罪を犯すことはありますよ。
しかし実に理路整然とした証言でしたよ。
し過ぎていたと言うべきでしょう。
問題ですか?人は思い出話をするとき得てして順序どおりには話さないものです。
普通はあっちこっちに話が飛ぶ。
三木さんは極めて順番どおりに起こったことを話しました。
何度もご足労かけて申し訳ない。
君の雇い主の正体が分かったよ。
えっ?剛力大佐令嬢誘拐事件は?覚えてます。
あれの容疑者だ。
笠原健三。
通称笠健。
まさか。
(莫)知らなかったのか?
(幕内)知っていたら僕はそんなやつの秘書にはならなかった。
どうして分かったんです?藤堂の部屋にあった脅迫状で。
だってあれは確か…。
だけど信じられないな。
そんなことが…。
動揺しているようだが。
そりゃもちろんしますよ。
だって僕は剛力大佐の奥さんのことよく知っていたんですから。
剛力家と関係があんのか?
(幕内)いや別に関係なんてそんな大したものじゃないですけど以前に慈善団体で働いていたときに何度かお会いしたんですよ。
奥さまは理事長だったから。
すてきな方でした。
(幕内)ここに写ってるのが奥さま。
隣が僕。
お美しいお方だ。
笠健は真犯人だ。
殺されて当然の男です。
できれば自分の手で殺してやりたかった?もちろん。
でも僕は犯人じゃない。
昨日の夜のことを聞かせてもらおうか。
最後に被害者に会ったのは?11時すぎだったかな。
東京に着いてからの予定の確認を。
その後は?その後は…。
能登大佐とお話してました。
彼とは知り合いなのかね?あっいや別に。
昨日会ったばかりですけど。
あの方は博識でなかなか立派な方です。
国際情勢について教えていただきました。
夜のうちに列車の外に出たりは?ええ出ましたね。
あれは大津駅だったかな?気分転換で能登大佐と。
しかし外は寒くて寒くて。
慌てて列車に戻りました。
ホームに出るときドアに鍵は?掛かってましたね。
あの金具に棒を差し込むような。
(幕内)《うわすっごいなこれ》
(幕内)鍵っていうのはそういうことじゃ…。
列車に戻るときその棒を元通りに差しましたか?元通りに…どうだった?いやしてないですね。
僕の方が後に乗ったんですけどそんな差し込んだ記憶…。
ちょっと待ってください。
てことは犯人はそこから侵入した?その後通路で誰かに会いましたか?女性が1人通り過ぎていきました。
顔は見ましたか?顔は分かりません。
最後にあなたはパイプを吸いますか?僕は吸いません。
大佐は吸っていました。
以上だ。
執事へここへ来るように言いなさい。
はい。
だけど驚いたな。
藤堂が笠健だったなんて。
世の中狭いっていうか驚きです。
(戸の開く音)早速剛力家の知り合いが見つかりましたな。
しかし彼が犯人とは思えんな。
(須田)なぜ?いや腕とかこんな細かったですぞ。
(須田)どう思われます?しゃべり過ぎです。
真犯人はたいていの場合よくしゃべります。
身を守るために。
どうぞこちらへ。
失礼いたします。
藤堂さんの所で働くようになってどれくらいだね?
(益田)1年になります。
雇い主の正体について幕内さんから聞いたかね?今聞きました。
感想を。
雇い主の過去は私どもには何の関係もございません。
藤堂さんの姿を最後に見たのは?けさほどベッドの上で亡くなっている姿を見たのが最後でございます。
言葉が足りなかった。
生きている姿を最後に見たのは?昨日の11時くらいでございます。
そのときの様子を。
いつもと変わらない様子でございました。
もう少し具体的に。
いつものようにお休みになる準備をいたしました。
もっと具体的にですか?うんうん…。
お洋服を畳みお薬と寝酒を用意いたしました。
いつもと変わったところは?ありませんでした。
う〜ん…。
ぴりぴりしていたり声を荒げたりといったようなことは?ぴりぴりされていましたし声も荒げていらっしゃいました。
しかしそれはいつものことですので。
薬というのは何ですか?
(益田)睡眠薬でございます。
ゆうべの君の行動を聞かせてもらおう。
ずっと部屋におりました。
1号室でございます。
相部屋の人は?名前は確か保土田さまと伺いました。
九州の方です。
部屋では何を?本を読んでおりました。
どんな?谷崎潤一郎でございます。
寝たのは何時だね?寝てはおりません。
なぜ?
(益田)保土田さまの歯ぎしりがうるさかったからでございます。
朝まで一睡もしておりません。
彼はその間部屋から出たかね?一度だけ。
確かあなたさまをお誘いに。
そうだった。
それ以外は一度も部屋を出ておりません。
では最後に。
パイプは吸うかね?いいえ。
行ってよろしい。
差し出がましいようですが。
何か?羽鳥さまがいささか興奮しておられるようです。
「自分には犯人が分かっている」と。
「責任者に会わせろ」と。
呼んできなさい。
かしこまりました。
何かうさんくさいな。
犯人じゃないか?彼はどうです?私には本当のことを言っているように思えました。
余計なことは一切しゃべらない。
それにしてもしゃべらな過ぎます。
それも駄目ですか。
私には何かを隠してるように見えました。
しかしこれで組織の犯行の線が強まったんじゃないですか?藤堂は組織を裏切り殺し屋に狙われていた。
だからぴりぴりしてたんだ。
(須田)剛力家のことは無視するんですか?うん。
関係ない気がしてきた。

(戸の開く音)
(羽鳥夫人)責任者は誰なのよ。
私とっても重要なことを知ってるんですけど。
責任者に一刻も早くそのことをお話ししたいんですけど。
責任者は私です。
(羽鳥夫人)驚かないで聞いてね。
ゆうべこの列車で殺人事件が起きました。
そしてその犯人を私見たのよ。
えっ?
(羽鳥夫人)ゆうべベッドで寝てたらね急に目が覚めたの。
辺りは真っ暗よ。
そしたらね部屋の隅に男がいたんです。
もう怖くって怖くって私ずっと目をつぶってた。
悲鳴も上げられなくって。
「どうしよう。
殺される」って震えてたの。
でもね宝石は取られなくて済むと思ったの。
だってね靴下に入れて枕の下に隠しておいたから。
娘から教わったんですよ。
でどこまで話したっけ?部屋に男がいるのに気付いたところまでです。
私怖くって怖くって。
でもね頑張って車掌を呼んだんです。
ベルを鳴らして。
何回も何回も押したんだけど来てくれないの。
もう車掌も殺されたのかと思ったわよ。
でやっと車掌が現れて電気をつけて「どうしました?」って。
で部屋に誰かいたんですね?それがいなかったのよ。
椅子の下も見てくれたんだけど。
きっと逃げちゃったんだわ。
どんな感じの男でしたか?誰?車掌?いやいやあなたの部屋にいた男ですよ。
(羽鳥夫人)そんなの分からないわよ。
言ったでしょ?怖くってじっと目をつぶってたんですから。
侵入者は見てないんですね?見てないわよ。
見てないんですか?
(羽鳥夫人)ほとんど見てるのと同じですけどね。
私最初隣の男だと思ったのよ。
殺されたほら何とかっていう。
だってねドアの鍵が開いていたから。
男を見たと思ったのは何時ごろですか?さあ。
そこが大事なんですが。
だって時計なんか見る余裕なかったんです。
夜よ。
大ざっぱに言って夜。
大ざっぱ過ぎるんですがね。
(羽鳥夫人)とにかく犯人は私の部屋にいたのは間違いないの!証拠もあるんだから。
(莫)しょっ証拠?朝起きたときに見つけたの。
部屋の隅に落ちてたわ。
これは…。
見覚えがありますか?車掌の上着のボタンだ。
後で三木に確認してみよう。
(羽鳥夫人)それがいいわね。
マダムまだ何も伺っていませんが。
あらやだ。
幾つか質問をします。
隣の部屋に通じるドアのことなんですがなぜ鍵を掛けておかなかったんですか?誰がそんなこと言ったの?
(莫)今あなたが。
鍵は掛けてましたよ。
どっちなんですか?だから最初は掛かってなかったの。
ほら何さんでしたっけ?おとなしそうな感じの教会の仕事をされてる。
(莫)呉田さん。
(羽鳥夫人)そう。
呉田さんに確認してもらったら鍵は掛かってなかったの。
どうしてあなたの部屋に呉田さんが?そこから説明するの?お願いします。
睡眠薬を持ってないかって私の部屋に来たから差し上げたんですよ。
「私のかばんに入ってるわ」って言ったら自分で開けて持ってったの。
そのときついでに鍵が掛かってるかどうか見てもらったの。
どうしてご自分で見なかったのですか?だって私もうベッドの中でしょ?そういえばお気の毒だったのよ呉田さん。
間違えて最初隣の部屋に入っちゃったんですって。
(莫)藤堂さんのですか?
(羽鳥夫人)すっごく落ち込んでたわ。
何だかずいぶん下品なこと言われたみたい。
何て言われたかは私の口から言えないわ。
本人に聞いて。
そうします。
「たまってんのか?」「俺だったらいつでも相手してやるぜ」ですって。
ひどい言い方。
剛力大佐のお嬢さんが誘拐された事件を覚えておいでですか?覚えていますよ。
それが何か?容疑者については?何だか知らないうちに無罪になっちゃったやつでしょ?誰でしたっけ?笠健。
そう笠健。
驚いたわ。
あれは絶対やってるわ。
いつか罰が当たるわ。
昨日罰が当たったんです。
どういうこと?やだ。
まさかあの男が?はい。
そういうことがあるのね。
私最初から思ってたんですよ。
あれは悪人の顔だって。
剛力家のどなたかとお付き合いがありましたか?あるわけないでしょ。
あちらはすっごいお金持ちでしょ。
上流階級。
住む世界が違いますわ。
参考になりました。
ありがとうございました。
もうよろしいの?結構です。
まだ話し足りないんですけど。
あっ結構です。
ところでマダム真っ赤な絹のガウンをお持ちですか?面白い質問ね。
持ってないわ。
ガウンなら2枚持ってますけど1枚はピンクで1枚は白。
娘のプレゼントなんですよ。
でもどうして?赤いガウンを着た女性が昨日の深夜通路をうろうろしていたようなんです。
私じゃないわね。
あっマダムハンカチをお忘れですよ。
私のじゃないわ。
イニシャルが「N」ですが。
私は典子で「N」だけどこんな気取ったハンカチ使いません。
だってこんなハンカチでどうして鼻をかめばいいの?でしょ?フッ。
(莫)ハァ〜何だか疲れましたな。
部屋に誰かがいたというのは本当ですかね?いささか思い込みの激しいご婦人のようですので何とも言えませんね。
確かに疲れました。
しかしこれで外部犯行説が復活しましたな。
犯人は笠健を殺した後羽鳥夫人の部屋を通って外へ逃げたんだ。
あり得ない。
何なんだあんた!私の言うことに反対ばかりして!だってあり得ませんよね?勝呂さん。
どうなんですか勝呂さん!これは私のボタンではございません。
私のは全て付いてございます。
まあ大した問題じゃないでしょう。
あのばあさんの妄想ですよ。
ボタンは?
(莫)よくあるボタンだ。
どこかよそで拾ったんだよ。
いいよ三木。
もう行って。
(三木)はい。
はい。
それでは失礼いたします。
ごめんください。
となるとどういうことになるんだ?呉田さんどうぞこちらへ。
(莫)さあお座りください。
質問してもよろしいでしょうか?あっちょっと待ってください。
心の準備を。
後に回しましょうか?いえ他の方のご迷惑になるので。
(せきばらい)どうぞ。
お名前は?呉田その子です。
ご職業は?教会の仕事を手伝っています。
下関で。
旅の目的は?観光です。
東京に妹が。
ゆうべ何が起きたかもうご存じですね?私は犯人ではありません。
乗客の皆さんに順番に質問してるんです。
どうやらですね藤堂さんの生きている姿を最後に見たのはあなたなんです。
えっ?藤堂さんの部屋に間違って入ってしまったそうですね?入ってはいません。
ノックをしたんです。
私羽鳥さんの部屋と間違えて。
そしたらあの方が出てこられて。
あの方の姿を実際にご覧になったんですね?はい。
その後はどうされましたか?羽鳥さんの部屋に行ってお薬を頂いて部屋に戻りました。
羽鳥さんに言われてドアの鍵をチェックしましたか?ええ。
どんなふうに?どんなふう?開いている鍵を締めましたか?はい。
こうなってるのをこう。
もう一度お願いします。
こうなってるのをこう…。
んっ?あっこうだったかしら?いや違うわ。
こうですこう。
横になってるのを縦にしたんですね?はい。
何か?そして部屋に戻られた。
何時だったか覚えてますか?11時25分です。
なぜはっきり分かるのですか?時計を見るのが習慣なので。
その後は?朝まで寝ていました。
あなたの部屋を指してもらえますか?こっここです。
相部屋の方はどなたですか?馬場さんというとても優しくて奇麗なお方です。
その馬場さんは深夜部屋を抜け出すことはありませんでしたか?一度もありませんわ。
眠っていたのにどうして分かるんですか?眠りが浅いんです。
真っ赤な絹のガウンをお持ちですか?いいえ。
剛力大佐の事件を覚えてますか?
(呉田)すみません。
もう少しゆっくり質問して…。
剛力大佐の事件をご存じですか?ありがとうございます。
んっ…もう戻ってよろしいんですか?ご協力感謝いたします。
どうぞ。
彼女が人を殺せるとは思えない。
(戸の閉まる音)虫も殺さないような顔をして自分の夫を殺害した女もいる。
さて重大な事実が判明しました。
鍵の件ですね?私は自分の部屋の鍵をちゃんと覚えています。
鍵を掛けるときはつまみを横にします。
縦に締まると開いてしまう。
呉田さんは締まっていた鍵を開けてしまったんです。
何ちゅう人だ。
こうなると羽鳥夫人の部屋に潜んでいた男の話もあながち嘘でなくなってきます。
ほら。
勝呂さんこれまでの証言を基に時系列に並べてみたんですが聞いていただけますか?なるほど。
それは助かります。
几帳面な性格なもんで申し訳ない。
(須田のせきばらい)
(須田)え〜読み上げます。
11時ごろ執事の益田が睡眠薬を置いて藤堂の部屋を出る。
11時すぎ幕内が藤堂の部屋を訪れる。
11時25分ごろ呉田さんが藤堂の姿を見る。
11時45分列車が米原に停車。
0時30分列車が雪崩で止まる。
0時37分藤堂がうなされて車掌を呼ぶ。
1時15分藤堂の時計が止まる。
殺害時刻の可能性。
1時17分羽鳥夫人が部屋で男を見たと車掌を呼ぶ。
なかなか素晴らしい。
実に明快です。
あっありがとうございます。
(莫)これではっきりしたじゃないですか。
やはり犯人は外部の人間だ。
犯行時刻は1時15分。
犯人は羽鳥夫人の部屋を通り抜け表に逃げていったんだ。
藤堂は裏社会の人間に殺されたんだよ。
しかしそうなると犯人はどこへ消えてしまったのか。
やはり乗客の中にいるような気がしますな。
だったらあの自動車の販売人だ。
九州人は血の気が多い。
あっやつは組の人間なんだ。
間違いない。
やつが犯人だ!しかし執事は彼が一度も部屋から出なかったと証言してますよ。
(莫)じゃあグルだあいつも。
(須田)あり得ない。
どう思われます?勝呂さん。
この事件思ったほど単純なものではなさそうです。
どうぞ。
(莫)どうぞ。
あのできれば個別にお話を伺いたいんですが。
後でお呼びします。
すみませんねえ。
(莫のせきばらい)え〜列車が止まってしまった上にこのようなことにご足労いただいて恐縮しております。
殺人事件があったことは聞いています。
乗客全員から話を聞くのは当然です。
失礼な質問もあるかと思いますがご容赦ください。
お住まいは東京でいらっしゃいますか?そうです。
メードを連れて全国を回りながら余生を過ごしています。
ゆうべお食事の後何をなさったか伺ってもよろしいですか?あっ食事の後すぐベッドに入りました。
11時まで読書をしてそれから明かりを消しました。
なかなか寝付けずベルを鳴らしてメードを呼びました。
《メードを呼んでください》
(三木)《あっかしこまりました》
(轟侯爵夫人)0時45分だと記憶しております。
マッサージをしてもらい眠くなるまで本を朗読してもらいました。
メードがいつ出ていったのか覚えておりませんね。
そのとき列車は止まっていましたか?止まってました。
ところでこのハンカチはマダムのものですか?違います。
イニシャルが「N」となっております。
確かお名前はナツさま。
私のものではありません。
剛力大佐の事件について伺ってもよろしいでしょうか?羽鳥夫人から聞いたのですが殺された男はあの事件の真犯人だったそうですね。
そのようです。
私は剛力大佐の一家を大変よく知っております。
(莫)ご存じなんですか?私大佐の妻曽根子の名付け親です。
ほ〜。
曽根子の母親は女優をしておりまして淡島八千代というのですが私は彼女が若いころから親しくしておりました。
淡島八千代…おっ覚えています。
淡島八千代は最高の女優でした。
マクベス夫人をやらせたら日本人で右に出る者はおりませんでした。
亡くなられたんですか?今は体を壊してほとんど寝たきりの状態だと聞いています。
私のあやふやな記憶では剛力大佐の奥さま曽根子さんには他にも兄弟姉妹がいたような気がするのですがいかがでしょう?それが今回の一件と何か関係があるのですか?藤堂を殺した犯人は剛力家の関係者である可能性があるのです。
まあ。
いかがでしょう?淡島八千代には曽根子さん以外にもお子さんがいらっしゃいましたか?あっ確か妹が。
妹がいらっしゃった。
あまり覚えておりません。
お名前は分かりますか?忘れました。
あっそろそろおしまいにしましょう。
疲れてきました。
お名前は?勝呂武尊と申します。
お見知り置きください。
あっ思い出しました。
高名な探偵さんね。
こうなる運命でしたのね。
では失礼します。
(莫)お部屋までお送りします。
(轟侯爵夫人)1人で歩けます。
あなた方はご自分の仕事をなさい!
(莫)失礼いたしました。
(須田)あ〜恐ろしいまでの威圧感だ。
しかしいくら剛力家と関係があったとしてもあの方が犯人ってのはあり得ないでしょう。
同感。
しかし最後の言葉が気になります。
「こうなる運命」とはどういう意味だったのでしょう。
伯爵時間をおつくりいただき感謝します。
(莫)え〜昨夜の事件はご存じですか?
(安藤伯爵)もちろんです。
(莫)それについて乗客の方全てに質問させていただいております。
(安藤伯爵)お立場はよく分かります。
しかしながら妻も私も大してお役に立てるとは思えません。
2人とも熟睡していて何も耳にしていないのです。
被害者について何かご存じですか?剛力大佐の事件の容疑者だったそうですね。
大佐の一家にお知り合いはありませんでしたか?会ったこともない。
伯爵のお部屋を指さしていただけますか?こことここです。
続き部屋になっています。
ゆうべ何時ごろ部屋にお戻りになられましたか?時間は覚えていない。
食事を終えて部屋でしばらく妻とカードゲームをしてそれから休みました。
それだけです。
今回の旅行の目的をお聞かせください。
私は外交官です。
旅のほとんどが仕事絡みです。
仕事の場合でも奥さまをご同伴なされるんですか?いつもではないが。
身分証を提出いただいたんですがこれは旅券ですね。
国内のときも持ち歩いていらっしゃるんですか?そういう場合もある。
奥さまにもお尋ねしたいんですが。
その必要はない。
どうせ私と同程度のことしかお話しできない。
ごもっともですが奥さまご自身から伺うことができれば。
その必要はないと言っている。
形式的なことですので。
どうかご理解ください。
いやあの人も違う!ああいう人物が殺人など犯すはずがない!こんな所に染みが。
奥さまの旅券です。
名前の所。
「安藤良子」あっ本当ですな。
それが何か?いや小さなことが気になる性格でしてね。
伯爵はあの装いからみて非常に身だしなみに気を使われるお方です。
だから余計この小さな染みが気になるのです。
奥さんはずぼらなんじゃないですか?ああいったお方です。
だらしない奥さまでは務まりませんよ。
じゃあどこかの不注意な役人が付けたんですよ。
ハッ。
どうでもいいことにこだわりますな。
これはわざわざ申し訳ありません。
(安藤伯爵夫人)私にお会いになりたいとか?
(莫)すぐに終わります。
どうぞお座りください。
失礼します。
1つだけお尋ねします。
ゆうべの事件について何か見たり聞いたりなさいませんでしたか?何も見ませんでしたし聞きませんでした。
私は睡眠薬を飲んで眠っておりました。
ありがとうございます。
お引き取りになられて結構です。
(安藤伯爵夫人)これだけ?
(安藤伯爵)早く終わるって言っただろ。
あっいまひとつお待ちください。
伯爵はパイプをお吸いになりますか?私は葉巻です。
どうしてそんなことをお尋ねになりますの?事件を調査するときにはあらゆることを質問するのです。
例えば奥さまは何色のガウンを着ていらっしゃいますか?失礼だろ!淡いピンクですわ。
面白いのね。
そんなことが重要なんですか?極めて重要です奥さま。
いやこれ以上お引き留めはいたしません。
お部屋にお戻りください。
(安藤伯爵)さあ。
(莫)ハァ〜実に美しい。
しかし何の進展もありませんでしたな。
さよう。
何も見ず何も聞かなかった人間が2人。
(莫)さあ。
え〜次は?能登大佐です。
参謀本部に勤務されていると言っていました。
手ごわそうですな。
私はあの九州人が怪しいと思うんだよな。
彼の番はまだですか?焦りは禁物です。
お待ちしていました。
どうぞこちらへ。
下関へはご旅行ですか?
(能登)小倉に用があった。
小倉陸軍造兵廠ですか?ああ。
私もあそこに昨日までいたんです。
中でちょっとした事件がありましてね。
用件を伺おうか。
ああ…。
乗客の中に馬場さんという女性がおられるのですがご存じないですか?なぜ?実は今回の事件ですが十中八九女性が犯人だと思っています。
被害者は12カ所も刺されています。
男性ではなかなかこういう殺し方はしません。
感情的でありながらなおかつ計画的。
意志の強さも感じる。
乗客の中で最も私の描く犯人像に近いのが馬場さんなのです。
大佐から見て彼女はいかがですか?なぜ私に聞く?いやあなたが参謀本部に勤めてらっしゃると伺ったからです。
人間観察はお手の物でしょう?彼女は事件に関係している可能性はないとお考えですか?くだらん。
事件が起きた深夜の1時15分その前後何をされておりましたか?その時間は殺された男の秘書と話をしていた。
幕内君といったな。
お話の最中ドアは開いていましたか?開いていた。
私はパイプを吸うものでね。
人によっては煙のにおいが駄目だという者もいるのでなるべく開けるようにしている。
その間誰か通路を通りませんでしたか?女性が1人通ったのを覚えている。
赤いガウンのようなものを羽織っていた。
一瞬だったので顔は見ていない。
帰っていいか?剛力大佐の事件を覚えておいでですか?痛ましい事件だった。
剛力大佐と面識は?むろん名前くらいは知っていた。
立派な人物だったようだ。
誰からも好かれていた。
軍人としても立派だったんでしょうなあ。
功二級金鵄勲章を授与されている。
ゆうべ殺された男は例の事件の首謀者だったんです。
らしいな。
まあ私から言わせれば極悪人が当然の報いを受けたまでのことだ。
私もそう思います。
もっとも本来ならば裁判にかけられて死刑になるべきだ。
なるほど。
陪審による裁判こそが最も健全な制度だと私は思っているのでね。
私からの質問は以上です。
では私から1ついいかね?ほうどうぞ。
幕内君の所から自分の部屋に戻ったとき…それいいかね?あっ。
私の部屋はここだがこの部屋から男がのぞいていた。
12号室だ。
(能登)私と目が合うとすぐにドアを閉めた。
妙に気になってね。
貴重なご意見ありがとうございました。
(戸の開閉音)能登大佐はパイプを吸っている。
自分で認めたのは彼だけです。
怪しいぞ。
剛力大佐とも関係がありそうですよ。
怪しい!
(須田)いやしかしあんまり知らないようなことを言ってましたよ。
そのわりにはもらった勲章のことまでよく知っていた。
こりゃ犯人だな。
あの馬場舞子さんとの一件はどういうことです?あれはちょっと鎌をかけてみたのです。
私は2人が知り合いとみています。
十中八九大佐が犯人だ!しかしあんな冷静な紳士が死体をめった刺しにするだろうか。
問題はそこなのです。
えっ?次はそろそろ九州人にいってみますか?いや楽しみは取っておきましょう。
その前に問題の12号室の男性を片付けましょう。
深夜彼が何を見ていたのかぜひとも聞いてみたい。
(羽佐間)どうもよろしくお願いします。
羽佐間と申します。
殺人事件のことはもう耳に入っていると思うが。
(羽佐間)もちろんですよ。
それで乗客全員に質問しているわけですよね?いつ僕が呼ばれるかと思ってもうドキドキしてました。
確か万年筆の販売員だったね?違います。
違う?洗いざらいお話しした方がよさそうですね。
僕はこういう者です。
(莫)たっ探偵さんですか。
(羽佐間)同業者ですよ勝呂さん。
身辺警護をするように頼まれたんです。
藤堂さんに。
(莫)藤堂に?
(羽佐間)ええ。
彼は命を狙われていました。
身辺警護を頼まれたのになぜ彼の隣の部屋を取らなかったんです?いや取れなかったんですよすでに予約が入っていて。
12号室しか空いていなかった。
普段は車掌が使う部屋らしいです。
藤堂は自分を狙ってる人物について何か言ってませんでしたか?
(羽佐間)はい。
小柄で浅黒くて声が女のように甲高いと言っていました。
(莫)小柄で浅黒く声が高い。
(羽佐間)ええ。
藤堂の正体は聞いているね?びっくりしました。
やはり剛力家の関係者に殺された可能性が高いんですか?昨日の夜はずっと起きていたということかね?ええ。
一睡もしなかった?まあ職業柄慣れてるもんで。
部屋から通路の様子を見張っていました。
それを能登大佐が目撃したんだ。
これで話がつながったぞ。
他に怪しい人物は?見なかったですね。
あとは車掌くらいですか。
少なくとも前の車両からは誰もやって来なかったし米原でも後部ドアからは誰も乗ってこなかった。
それは保証します。
以上だ。
ちなみにパイプは?パイプは吸いません。
探偵はたばこの方が絵になりますからね。
フフフフ。
(羽佐間)何かあったら何でも言ってください。
協力します。
失礼します。
違うな。
彼は犯人じゃない。
根拠は?
(莫)感じが良かった。
(須田)あっ…。
本物の探偵でしょうか?それは間違いなさそうです。
しかしながら本当に藤堂が彼を雇っていたかどうかはいささか疑問です。
と申しますと?藤堂は私に身辺警護を依頼してきました。
そのとき彼の話は一切出ませんでした。
では一晩中見張っていたというのは嘘だとおっしゃるんですか?分かりません。
もっと分からないのは彼が嘘をついていたとしたら能登大佐も嘘をついていたということになるのです。
さていよいよ莫さんのご要望にお応えするときが来ました。
九州人の登場です。
どうも。
保土田民雄です。
保土田さんご職業は?博多で自動車の販売ばしとります。
東京へは何の目的で?新車が入るたびに東京ば行って試乗ばさしてもらうとです。
自分に合うた自動車を見つける一番の近道はとにかく乗ってみるこつ。
これしかなかです。
女と自動車は乗ってみらな分からん。
ハハハハハ…。
今回の事件のことは?あ〜何か…殺された男は何かえらい悪い男やったそうやね。
俺も初めっから怪しいと思うとった。
一発で見抜いたばい。
剛力大佐の事件のことについては?知らん!ばってん五・一五事件のことなら多少は知っとる。
ほらたまたまそんとき東京におってくさ…。
(莫)え〜五・一五事件の話は今は結構。
剛力大佐のお嬢さんが誘拐されて…。
あ〜何とな〜く覚えとう。
その犯人が藤堂だったんだ。
なら殺されて当然の男っちゅうわけやね。
それを知っとったら俺が刺し殺しとったかもしれん。
剛力家の人々に会ったことは?なかです。
大佐にも奥さんにも奥さんの妹さんにも一遍も会うたことはなか。
もちろん亡くなったお嬢さんにも。
よく大佐の家族構成まで知ってるね。
何がですか?誘拐事件のことはほとんど覚えてないと君は言った。
「奥さん」って言うたのがいかんかったとですか?娘がおったとやから奥さんおっても不思議やなかろうもん。
奥さんの妹さんというのは?ほら何ていうかまあ…あれたいほら。
何ていうかな?ほら。
言葉のあやたい。
九州の人間はみんなこげな話し方するとたい。
俺らの言うとること話半分で聞いてもらわないかん。
昨日の夜のことを話してもらおうか?ずっと部屋におりました。
あんたの部屋に行った他は。
藤堂の執事と同じ部屋でしたね?それが変わった男やった。
もうず〜っと本ば読んどった。
部屋を出た様子は?あっなかです。
寝たのは何時ごろかね?それが…寝られんかったとたい。
寝られなかった?もうあん男のせいでもう一晩中…もう一睡もできんかったと。
どういうことかね?歯ぎしりたい。
一晩中もうガリガリガリガリいうて…。
待ちなさい。
執事が歯ぎしりを?そうよ。
これは奇妙だ。
執事と同じことを言っているが。
えっ?一晩中君の歯ぎしりに悩まされたと。
あいつが何でそげなことを言うたか分からんばってん俺が寝られんかったとは事実よ。
紛れもない事実たい!帰ってよかね!?よかです。
列車はいつになったら動くとか?おかげで予定はめちゃくちゃたい!ハハハハハ…。
(戸の開く音)しどろもどろもいいとこだ。
やっぱりそうだよ。
あれが犯人だ。
普通はあんなもんです。
今までの人々が理路整然とし過ぎていた。
気になるのは益田さんとの証言の食い違いです。
どっちが嘘をついているんでしょうな?いや保土田に決まってる。
それにしてもこの列車にはいったい何人の嘘つきが乗っているんでしょう。
東京にお住まいですね?はい。
何かお仕事を?家庭教師をしております。
下関へは何の目的で?観光です。
昨夜乗客の1人が殺されました。
そのようですね。
この件について何かご存じのことがあれば…。
あいにくですがお話しできるようなことは何もございません。
私昨夜はベッドに入って早々に寝てしまいましたもので。
こんな事件が起きてひどくお困りではないですか?おっしゃってる意味がよく分かりませんが。
極めて単純な質問だと思いますよ。
そんなふうに考えたことはありませんでしたわ。
困っているなんてとんでもない。
殺人事件ですよ?もちろん不愉快ではありますわ。
あなたは感情を表に出さない性格のようだ。
自分の繊細さをアピールするために声を荒らげヒステリーを起こすような恥ずかしいまねは私はいたしません。
被害者と面識はありましたか?食事のときに見掛けた程度です。
どのような印象を受けましたか?別に。
すみません。
こういう質問は時間の無駄のように思えるのですが。
私が彼にどんな印象を持ったかが事件の解決に役に立つとは正直思えないのです。
それはあなたが決めることではない。
亡くなった藤堂さんの正体はもうご存じですか?羽鳥夫人が皆さんに吹聴してますわ。
剛力大佐の事件に関しては?ぞっとする事件です。
事件の関係者の中でお知り合いは?いません。
ご結婚の予定は?何か関係がありますの?お答えできません。
同室の女性をどう思われますか?飾り気のない感じのいい方です。
あの方のガウンの色は?茶色でした。
あなたのガウンは真っ赤ではありませんか?いいえ。
それは私のではありません。
では誰のです?どういう意味ですの?「私のではありません」ということはつまり本当の持ち主を知っているということです。
夜中に一度目を覚まして列車がずいぶん長く止まっていたものですから不思議に思って通路をのぞいたんです。
そのとき真っ赤なガウンを着ている女性が歩いているのを見掛けました。
顔は見えなかったのですか?後ろ姿だけです。
これ以上お引き留めする必要はなさそうです。
では。
実に落ち着いた女性だ。
彼女は犯人ではありませんな。
感情的になって人を刺し殺すような女性ではない。
初めて意見が合いましたな。
(須田)おっ。
しかし彼女は下関で能登大佐と親しげに会話をしています。
2人は共犯だとおっしゃるんですか?知り合いなのは間違いないのに列車の中では明らかに他人を装っていました。
(莫)しかしだからといって…ねえ?そうなんです。
共犯であるなら互いのアリバイを証明し合ってもいいはずなのに実際はどうでしょう。
能登大佐のアリバイは赤の他人の幕内君が証明し馬場さんのアリバイはこれまた赤の他人の呉田さんが証明している。
彼女は関係ないと思いたい。
では最後の乗客に取り掛かることにいたしましょう。
先ほどは失礼しました。
お座りください。
私はここで結構です。
昼出川さん昨日の夜一度侯爵夫人の部屋に行きましたね?マッサージをして本を読んで差し上げました。
そのとき通路で誰かに会いませんでしたか?いいえ。
例えば赤いガウンを着た女性を見たりとか。
誰にも会っておりません。
ただ一度部屋に本を取りに帰ったとき車掌と擦れ違いました。
車掌に会ったんですか。
(昼出川)どこかの部屋からいきなり出てきたので私ぶつかりそうになりました。
どこの部屋かこの見取り図を指してもらえますか?ここです。
8号室。
羽鳥夫人の部屋だ。
三木さんをお願いします。
はい。
何か問題がありまして?あなた非常に重要な証言をなさったんですよ。
(莫)連れてまいりました。
(三木)失礼いたします。
三木さん。
(三木)はい。
こちらの女性を知ってますね?昼出川さまでいらっしゃいますが。
昼出川さんは昨日の深夜羽鳥さんの部屋から出てくる車掌の姿を見たと言っているのだが。
えっ?いや…いやそんなはずはございません。
よろしいですか?何か?私が見たのはこの人ではございません。
この車両に車掌は何人いる?私一人でございますが。
私が見たのは小柄で色の浅黒い人でした。
細い口ひげを生やしていました。
私にぶつかったとき「すみません」と謝ったときの声はか細くてまるで女性のようでした。
この人とはまったく違います。
小柄で浅黒くて女のような声の男。
そいつはどこへ行ってしまったんだ。
雪の上に足跡がない以上外へ逃げることは不可能です。
列車の中の誰も想像のつかないような場所に隠れているのか。
そんな場所はない。
もしくは最初からいなかったのか。
乗客が変装していたんだ!ゆうべこの列車には正体不明の人物が2人います。
偽の車掌と赤いガウンの女です。
乗客の誰かが変装したのなら車掌の制服と赤いガウンはまだこの車両の中にあるはずです。
それは確かな証拠になりますな。
乗客全員の荷物調べを。
了解。
1つ予言をしておきましょう。
かなりの確率で赤いガウンは男性客の荷物の中に車掌の制服は昼出川さんの荷物の中にあるでしょう。
彼女が犯人だと?いやそうだとは言っていません。
もし昼出川さんが犯人なら彼女の荷物の中から制服が出てくるかもしれません。
もし犯人でなかったら必ずそこに制服があるはずです。
あの分かるように言ってください。
とにかく荷物検査を。
(莫)もう三木はどこへ行ったんだ。

(羽鳥夫人)キャ〜!誰か!
(莫)どっどいてください!どうされましたか?
(羽鳥夫人)こっちよ!早く!
(莫)うわ!どこにあったんです?化粧ポーチの中よ。
私こう見えてもとってもデリケートなの。
子供のときから血を見るだけでもう気を失うくらいでいつかも家の前で野ネズミが…。
先生いかがですか?あっちょっと失敬。
どうやら人間の血ですな。
お手数ですが遺体の傷と照らし合わせてもらえますか?分かりました。
(莫)おっ…。
あっ皆さんはどうぞ部屋に戻ってください。
(須田)すいません。
ちょっと…。
(莫)奥さまさぞショックだったことでしょう。
お茶とクッキーを届けさせましょう。
ハァ〜三木はどこ行ったんだ。
お茶なんか飲む気にならないわよ!マダムこんなときに申し訳ありませんがお荷物を調べさせてはいただけないでしょうか?待って。
どうして私の?
(莫)あっいやこれからあの全員の荷物調べを。
全員ならいいわ。
じゃ始めましょう。
チッ。
三木はどこ行ったんだ!
(三木)あっどうかなさいました?
(莫)これからね全客室の荷物検査だ。
(三木)あっかしこまりました。
失礼いたします。
表に出てます。
(莫)はい。
今回のこと娘が知ったら驚くでしょうね。
殺人事件に巻き込まれるなんて一生に一度あるかないかですからね。
これ見てくださいな。
うちの娘。
こっちはうちの孫たち。
ねっ?カワイイでしょ?すてきな家族ですねえ。
勝呂さん世の中には許される殺人もあると私は思うんです。
いかなる場合でも殺人は悪です。
そうかしら。
はい。
あっ終わりました。
車掌の制服も赤いガウンも出てこなかった。
ありがとうございました。
(羽佐間)いや〜荷物検査とはいよいよ本格的ですね。
(轟侯爵夫人)あの男は曽根子と曽根子の家族をめちゃくちゃにしてしまった。
私は心底憎みました。
自分の手でとどめを刺してやりたかった。
心中お察しします。
ですがこの腕には驚くほど何の力もないのです。
喜んでいいのか悲しんでいいのか。
あ〜。
(莫)大丈夫?はい。
お手数ですが羽鳥さまの様子を見てきてはいただけないでしょうか?凶器を見つけてかなりショックを受けている様子でした。
分かりました。
あっ私のかばんは鍵が壊れているのでどうぞご自由に開けてください。
(三木)あっはい。
どうしてあの方を追い払ったのですか?何のことでしょう。
私を1人にしたかったのでしょ?通路へ出ましょう。
勝呂さん本音を言ってくださらないといたずらに時間が過ぎていくだけですわ。
下関の港で私はあなたが能登大佐と話すのを聞いてしまったんです。
《今は駄目よ》《全て終わってから。
ちゃんと片付いたら》あれはどういう意味だったんでしょう。
私たちが殺人計画について話していたとお思いになるの?質問しているのはこちらです。
お答えできませんわ。
説明を拒否なさるわけですね?そういう言い方をなさるのなら「拒否します」とお答えします。
能登大佐はどういう方です?よく知りませんわ。
犯行現場にパイプクリーナーが落ちていました。
乗客の中でパイプを吸うのは大佐だけです。
バカバカしい。
あの方が犯罪に関係しているなんてあり得ない。
そんな方ではありません。
たった今大佐のことはよく知らないと言ったばかりではないですか。
何も出なかった。
これで何か出てきたら僕の有罪は確定ですね。
(保土田)さっきこの人と確認し合っとったとやけど歯ぎしりしたんは俺の方やった。
あなたが?さっきこの人が歯ぎしりしたっていうのは俺の勘違いやった。
俺は寝とったもん。
もう聞こえるはずがなかよ。
ハハハハ…。
ということでございます。
あなたは実に献身的に侯爵夫人にお仕えしている。
感心しますよ。
ありがとうございます。
料理もさぞかし上手なんだろうねえ。
今までお仕えした奥さま方は皆さまそうおっしゃってくださいます。
何もございません。
(莫)うん。
じゃあこっちも。
(三木)はい。
(三木)失礼いたします。
(三木)あっ。
(莫)わが社の制服だ。
(三木)あっボタンが1つ取れております。
私は知りません!ここに入れたのは私ではありません!いや〜。
あっどうしてここにあると?これを着た男は羽鳥夫人の部屋から出てきたところで昼出川さんとぶつかった。
ドアの開いた部屋の前を通り掛かるとそこには誰もいない。
たった今ぶつかった女の部屋に違いない。
そっと忍び込み脱いだ制服をかばんに隠した。
さすがですな。
あとは赤いガウンですね。
(莫)あなた男性客の手荷物の中にあるはずだとおっしゃったが。
思い付きです。
私が犯人ならそうするだろうと。
しかし外れました。
(莫)消えてしまいましたな。
取りあえず食堂車へ戻りましょう。
ここは寒い。
(莫)あっ三木。
(三木)はい。
(莫)先生に温かいものを。
(三木)あっかしこまりました。
失礼いたします。
ごめんください。
ああ先に戻っていてください。
たばこを取ってきます。
(莫)食堂車にいます。
ご安心ください。
事件は大詰めを迎えております。
あっ…。
ハハハハハ…。
ハハハハハ…。
ハハハハハ…!これは犯人からの挑戦状であります。
犯人も大胆なことをしたもんですな。
あっこれは凶器に間違いないですね。
うん。
率直に申し上げて勝呂さん次に何をなさるおつもりですか?私には見当もつかない。
先ほども言ったはずではないですか。
われわれにできるのは証言を検証することだけです。
あの犯人はいったい…。
まずは死亡時刻。
被害者の時計が指していたのは何時でしたか?1時15分です。
われわれはそれが死亡推定時刻だと考えたのです。
しかし本当にそうでしょうか。
(莫)どっどういうことです?幕内さんの証言を思い出してください。
《出身はたぶん東北ですね》《なまりが抜けないのを気にしていたので》0時37分に藤堂がうなされて車掌を呼んだとき彼はこう言いました。
「すまん。
夢ば見とった」と。
そうか!
(莫)えっ分からん。
お気付きのようにこれは博多弁です。
このことは何を意味しているのでしょうか。
それは犯人の声だ。
0時37分の段階ですでに藤堂は死んでいたんだ!そうか!博多弁の男が犯人だ!壊れた時計はたいていの場合偽の証拠です。
ということはわれわれは1時15分にアリバイのあった人物をむしろ疑うべきだと考えました。
いったい誰なんです?それが全員なのです。
全員!?そう全員です。
全ての乗客のアリバイが他の乗客の証言によって証明されているのです。
じゃあ誰なんですか?犯人は。
次に現場に残された証拠。
ハンカチにパイプクリーナー。
こちらは能登大佐がご自分のものとほぼお認めになった。
こちらはどうでしょう。
「N」をイニシャルに持つご婦人は2人です。
羽鳥典子。
轟ナツ侯爵夫人。
でも2人とも自分のものではないと。
うん…。
こちらは偽の証拠なのですぐに持ち主が現れた。
こちらは本物の証拠なので持ち主が現れない。
大事なのはこちらです。
なるほど。
ではイニシャルをいったん忘れてお二人の他に高級なハンカチを一番持っていそうな人物は誰でしょうか?安藤伯爵夫人です。
しかし夫人の名前は良子さんだ。
旅券のサインはそうなっていた。
そう安藤良子さんです。
しかしそれが「良子」ではなく本当は「浪子」だとしたら?あっ。
よく見てください。
浪子の「浪」はさんずいに「良」です。
さんずいを油の染みでごまかして「浪子」を「良子」に書き換えるのはたやすいこと。
なるほど。
それでにじんでいたのか。
いや考えられない。
あの奥さんが犯人だっていうんですか?轟侯爵夫人の言葉を思い出してください。
侯爵夫人は剛力大佐の奥さま曽根子さんの名付け親です。
曽根子さんの母親とも親しくしていた。
ところが曽根子さんの妹となるとまるで覚えていない。
そんなことがありますか?侯爵夫人はこの列車の中で曽根子の妹を見掛けたんだ。
私は安藤伯爵の奥さまは剛力曽根子の妹浪子さんだと踏んでおります。
ご指摘のとおりです。
私は淡島八千代の娘。
剛力曽根子の妹です。
(安藤伯爵夫人)笠健は私の幼いめいを殺し姉を殺し姉の夫を死に追いやった男です。
列車の乗客の中であの男を殺す一番強い動機を持っているのはたぶん私です。
しかし殺してはいないとおっしゃるんですか?誓います。
殺したくてたまらなかったけれど指一本触れていません。
私も誓う。
妻はこの殺人事件に一切関わっていない。
私の名誉に懸けて。
ではなぜ旅券に細工をなさったんです?勝呂さん私の立場を考えていただきたい。
妻が下劣な警察沙汰に巻き込まれることに耐えられなかったのです。
では奥さまのハンカチが現場に落ちていた事実をどうご説明なさるんです?そのハンカチは私のものではありません。
勝呂に信じてもらいたいですか?ええ。
ならばこういたしましょう。
捜査に協力してください。
協力?この事件の動機は過去にあります。
あなたの家庭を壊しまだ若かったあなたの人生を悲しみで包んだ5年前の悲劇にあるのです。
何を話せばよろしいの?剛力家に出入りしていた人々をできる限り思い出すのです。
みんな死んでしまいました。
大佐姉そしてめいの聖子。
いっつもはしゃいでいて髪がくるんってカールしていて。
みんなあの子が大好きでした。
他にも確か亡くなった方がいらっしゃいましたね?小間使いの小百合です。
警察が尋問したんです。
彼女が事件に関係していると思い込んで。
それで彼女は傷ついて警察で首をつって…。
小百合さんの名字は?思い出せません。
亡くなったお嬢さんには乳母は付いていませんでしたか?いました。
看護婦の資格を持った方でした。
名前は…ごめんなさい。
昔の話なので。
もうこの辺りで。
それではマダムこれからお尋ねすることによく考えてからお答えください。
はい。
この列車の中で轟侯爵夫人の他に誰か見覚えのある人はいませんか?よく思い出してください。
料理人やお抱え運転手は?いませんわ一人も。
例えばあなたには家庭教師は付いていなかったんですか?家庭教師はいました。
女性の方ですか?白髪で小柄な方でした。
名前は?高田…そう高田先生。
厳しい先生でした。
年齢は?とてもお年のように見えました。
その方は乗客の中にいませんか?いいえ。
列車の中に見覚えのある方は一人もいません。
私のハンカチを返してください。
これのことでしょうか?マダム。
やっとお認めになられましたねえ。
老人は思い出すのに時間がかかるのです。
お座りください。
(轟侯爵夫人)結構。
次にお尋ねになりたいのはなぜ犯行現場にこのハンカチが落ちていたのかですね?そのとおりです。
私の知るところではありません。
誠に失礼ながら侯爵夫人あなたのお答えをどこまで信用すればよいのでしょうか。
私の言葉を信じないんですか?あなたは安藤伯爵夫人が剛力曽根子の妹だということを黙っておられた。
あの子の母親は私の友人です。
友人の家族を守るのは当然のことでしょう。
正義を行うために協力しようとは思われないんですか?私は本当の正義が行われたと思ってます。
弱りましたな。
このハンカチは私のです。
用件はそれだけ。
失礼。
断言してもいい。
あの人に藤堂は殺せない。
年齢的にも無理だ。
浅い方の傷なら?・
(戸の開く音)・
(三木)あっ能登大佐ちょっとお待ちください。
大佐。
勝呂馬場舞子は関係ないと言ったはずだ。
馬場さんとお話しになったようですね。
(能登)これ以上彼女を巻き込むな。
では大佐にお聞きいたしましょう。
下関の港で私が聞いた言葉の意味を。
それについては答えるわけにはいかない。
今や馬場舞子さんは第一容疑者なんですよ?彼女を疑う理由などない。
剛力家の幼いお嬢さんが誘拐されたとき馬場さんが剛力家の家庭教師だったとしてもですか?何だって?どこまで知ってる?少なくともあなたが思っておられる以上のことを私は知っております。
三木さん。
(三木)はい。
馬場舞子さんを連れてきてください。
かしこまりました。
おっしゃるとおり私は剛力家の家庭教師をしておりました。
先生。
仕方ないわ。
バレてしまったんですもの。
素直でよろしい。
しかしだからといって事件に関係しているとは限らない。
あなたには聞いておりません大佐。
(馬場)大丈夫ですから。
では馬場さん安藤伯爵夫人が剛力曽根子さんの妹さんであるということもあなたは当然ご存じでしたね?伯爵夫人が?まさか。
フフフフフ。
気付かないはずがない。
伯爵夫人を見てどこかで会ったような気がしたことは事実です。
あっでもまさか…。
それに私は他のことで頭がいっぱいだったので。
他のこととは?ご想像のとおり私と能登大佐はお付き合いしています。
下関でもずっと一緒でしたわ。
もういい。
私には妻がいる。
現在離婚協議中だ。
そちらが片付いたら馬場さんに求婚するつもりでいる。
分かっていただけました?なぜそう言わなかったんです?微妙な時期なのでね。
分かっていただきたい。
参りましょう大佐。
能登大佐あなたも剛力大佐のことはよくご存じでしたね?もちろんだ。
戦友だよ。
彼に命を助けられた。
(戸の開く音)馬場舞子がこの事件に関係しているとすれば剛力家の家庭教師に違いないと早いうちから思っていました。
しかし伯爵夫人の話ではまったく違うタイプだった。
白髪で小柄。
だからかえってぴんときたのです。
しかも伯爵夫人はとっさに名前を考えなくてはならなくなり無意識に「高田先生」と言った。
それで確信を持ったのです。
高田先生?彼女は「馬場」という名前が頭にあったのでまず浮かんだのが「高田」だったのです。
高田馬場だ。
(3人の笑い声)しかしこれで剛力家の関係者が4人になった。
侯爵夫人伯爵夫人馬場舞子に能登大佐。
安藤伯爵も入れたら5人だ!幕内君を忘れてはなりませんよ。
剛力夫人にお世話になったと。
6人。
こうなったらもう乗客全員が剛力家の関係者でも私は驚きませんよ!ハハ…。
冗談ですよ冗談。
俺もう話すことやらなかよ。
いやまだあるはずだ。
何をね?真実だよ。
真実?悪いことは言わん。
洗いざらい話しなさい。
まるで警察みたいな言い方やね。
やつらはいつも言うっちゃん。
「吐かんか」って。
警察で尋問を受けたことがあるようだね。
いやそういうわけや…。
君は剛力家のお抱え運転手だった。
違うかね?何だって?知っとるなら聞くことなかろうもん。
そうなのか?カワイイお嬢さんだったようだねえ。
俺に懐いてくれてよう運転席座ってハンドルば握るまねしとった。
いっつも笑いよった。
それをあん野郎が…。
ばってん俺は殺しとらん!部屋に戻りなさい。
俺を犯人にしようっちゃ…そげはいかんけんな!
(戸の開閉音)これで7人。
こんなことがあっていいのか?これで驚いていてはいけません。
三木さん。
はい。
4号室の呉田さんをこちらに。
かしこまりました。
まさか。
あり得ない!あり得ないようでもこれが事実です。
教会のお仕事をされていると伺いました。
はっはい。
私はいかなる場合でも殺人は罪だと思っています。
殺された男はひどい男です。
もちろんです。
彼は憎むべき凶悪犯でした。
しかしだからといって寝台車の硬いベッドの上で刺し殺されることが正しいことだとあなたはお思いですか?ですがあの男は!神はお許しになるとお思いですか?伯爵夫人も馬場さんもお認めになりましたよ。
あなたも全て話して楽になりなさい。
あなたは亡くなったお嬢さんの乳母をされてましたね?まさか。
あの子は天使でした。
えっ?小さなカワイイ天使。
そして奥さま…。
生まれるはずだった赤ちゃん…。
これ以上質問することはありません。
呉田さま参りましょう。
(三木)さあ。
よく分かりましたな。
勝呂は何でも知っています。
信じられん。
お邪魔でなければよろしいのですが。
すぐにお目にかかって真実を申し上げるのが一番だと思いまして。
素晴らしい心掛けだ。
私嘘をついておりました。
剛力家とは深いつながりがございます。
何だと?
(益田)戦場では剛力大佐の隊で当番兵を務めておりました。
その後横浜で剛力家の執事としてお仕えしてまいりました。
打ち明けてくれて感謝します。
どうか保土田のことは分かってやってください。
ハエ一匹殺せない男です。
柄は悪く見えますがとても優しい男でございます。
失礼いたしました。
ハァ〜参った。
驚天動地の展開だ。
12人の乗客のうち9人がハァ〜剛力家の関係者だ。
次は誰です?もう驚かんぞ。
答えは向こうからやって来たようですよ。
一体全体この列車で何が起きてるんです?大騒ぎじゃないですか。
ご用件は?事件はどこまで解明されてるんですか?それを聞いてくるように誰かに言われたのかね?いえ僕個人の職業的な興味です。
推理だよ。
推理をしただけだ。
だけどまさか全員が剛力家の関係者だとは思ってないですよね?可能性は高い。
いや…それはあり得ない。
いくら何でもそれは。
そんな偶然あるわけない。
ハハハハハ。
(羽佐間)えっ?あなたはこの事件の一番大事なところが分かっていないようだ。
じゃ僕も剛力家と関係があるとおっしゃるんですか?三木さん。
(三木)はい。
例の写真を。
もう私は真相にたどりついたのです。
羽佐間君申し訳ない。
あなたは…神か?いいえ。
名探偵です。
いったい何がどうなってんだ。
急いで皆さんを集めてください。
事件を解明するときが来たようです。
けさ藤堂修またの名を笠原健三が死体で発見されました。
須田先生によれば死亡時刻は午前0時から2時の間。
ご承知のとおり列車は午前0時半に雪崩で停止しました。
それ以降誰であろうと列車を離れることができない。
よってこう結論するしかありませんでした。
犯人はわれわれ乗客の中にいると。
しかし一方で別の見方もあります。
別の見方?極めて単純な話です。
藤堂は命を狙われていました。
彼を付け狙っていた小柄で浅黒く女のような声の人物は能登大佐と幕内さんが開けっ放しにしていたドアから米原駅において車内に忍び込み彼は用意した車掌の制服を着込み合鍵を使って藤堂の部屋に入り藤堂を刺し殺しました。
《うっ…》その人物は羽鳥夫人の部屋に通じるドアから隣の部屋に移動し凶器のナイフを夫人の化粧ポーチに隠しました。
そのとき犯人はボタンを1つ落としています。
それから部屋を抜け出して制服を脱いで昼出川さんの部屋に隠しそしていずこへと消えてしまった。
これが結論です。
納得いたしました。
さすが名探偵だ。
いや…あり得ない!勝呂さんそれは違う。
まったく筋が通らない。
事件の真相はそんなもんじゃない!あなたも分かってるはずだ。
おっしゃるとおりです。
(莫)何なんだ。
ではこれより第2の解決法を申し上げるしかないようです。
昨日の夜この特急東洋の中で本当に起きた出来事を。
まず皆さんに申し上げたいのは犯行時刻のことです。
時計の針は1時15分で止まっていました。
しかしこれは偽の手掛かりです。
勝呂はだまされません。
では本当の犯行時刻はいつだったのか。
0時37分に被害者の部屋から聞こえた声は被害者のものではなかった。
勝呂は気が付きました。
これは私の目を欺こうという犯人のトリックだと。
勝呂は自分が頭がいいとうぬぼれている。
藤堂は博多弁がしゃべれないから0時37分に聞こえた声は別人のものだ。
そのとき彼はすでに死んでいたに違いない。
私がそう考えると犯人は踏んだのです。
しかし勝呂はだまされません。
そして逆に真相にたどりついたのです。
犯行時刻は0時37分ではない。
1時15分でもない。
実はもっと後だったのです。
おそらくは2時近く。
アリバイがある人間が誰もいない時刻。
さて次に皆さんの証言を検討していくことにしましょう。
ここで幾つか面白い事実があります。
例えば幕内さん。
僕ですか?燃やされた脅迫状について私が語ったとき君はこう言った。
《どうして分かったんです?》《藤堂の部屋にあった脅迫状で》《だってあれは確か…》彼は本当は何を言おうとしたんでしょう。
例えば「でもあれは確か燃やしたはずだった」だったとしたら?ちょっと待ってくださいよ。
その場合彼は明らかに犯人かもしくは共犯者ということになります。
僕は殺してない…。
次に執事です。
彼はこう証言しました。
《お薬と寝酒を用意いたしました》《薬というのは何ですか?》《睡眠薬でございます》しかしながら藤堂は枕の下に拳銃を隠していました。
自ら睡眠薬を飲むはずがない。
彼は知らない間に飲まされたのです。
つまり執事は嘘をついている。
どうかね?ご想像にお任せいたします。
不思議だったのは乗客の誰についても思いがけない人がアリバイを証言していることでした。
能登大佐と幕内さんがお互いのアリバイを証言しています。
この2人が昔からの知り合いとはとても思えない。
藤堂の執事と九州で自動車を売っている男。
東京の家庭教師と下関の教会で働く女性。
どの場合も同じことが言えます。
これはどういうことだろう?私は自分に向かって問いました。
ひょっとすると全員が事件に関係しているのだろうか。
いやそんなバカなことはあり得ない。
あり得るはずがない。
しかし実際はどうでしょう。
実際は全員が関係していたのです。
そう。
勝呂はようやく真相にたどりつきました。
能登大佐の「陪審による裁判こそが健全な制度だ」という言葉が頭をよぎりました。
陪審員は12人で構成されます。
寝台車の乗客の数は12人です。
そして藤堂が刺されていたのは12カ所。
脅迫状の文字も12個。
これでやっとゆうべから私を悩ませてきた謎が解けました。
すなわち季節外れのこの時季になぜ寝台車が満室だったのか!列車は様々な階級の人々が一堂に会します。
ここにおられる莫さんは列車の旅の素晴らしさをこう表現されました。
《まさに一期一会》《小説の題材として最高でしょう》しかし私はこのような場所が他にもあることを知っています。
上流階級のお屋敷です。
例えば横浜の高台にそびえる豪邸。
そこで暮らす旦那さま一家と使用人たち。
お抱え運転手に家庭教師に召し使いに乳母に料理人。
これで私の推理の輪郭ができました。
あとは簡単です。
プロデューサーが芝居のキャスティングをするように剛力大佐の事件の配役を一人一人に割り振っていったのです。
侯爵夫人に従う昼出川さん。
彼女にはちょっとしたわなを仕掛けてみました。
《料理もさぞかし上手なんだろうねえ》《今までお仕えした奥さま方は皆さまそうおっしゃってくださいます》しかし女主人の身の回りの世話をするメードに料理の腕を披露するチャンスはないはずです。
あなたは剛力家の料理係でしたね?私は腕のいい料理人は見ただけで分かるんだ。
ありがとうございます。
さて今回の事件はある人物の協力なくしては成り立ちません。
車掌です。
しかし彼は鉄道に人生を捧げてきた人物です。
金で動くような男ではない!では彼もまた剛力家の関係者に違いない。
例えば自殺した小間使いが彼の娘だったとしたらどうでしょう。
年齢も合っている。
そして彼は亡くなったお嬢さんの写真を大切に持っている。
娘は事件には無関係でございました。
娘は死をもって無実を証明したんでございます。
自称探偵の羽佐間君。
彼の役割は何でしょうか。
使用人のイメージはありません。
そこで亡くなった小間使いの恋人という役を振ってみました。
三木さんのお嬢さんの写真を見せると案の定羽佐間さんはとても動揺されました。
《あなたは…神か?》最後に残ったのはあなたです。
羽鳥さん。
私は誰です?あなたは最も重要な役割を担っていました。
部屋は藤堂の続き部屋で真っ先に疑いを掛けられてもおかしくはない。
犯人を見たと証言しなくてはならない。
完全なアリバイをつくることすらできない。
これを一夜の舞台とするなら最も難しい役です。
優れた演技力と度胸が必要となってきます。
並の人間にできることではない。
ところが剛力家の関係者の中にうってつけの人物がいました。
剛力曽根子の母親である淡島八千代は天才とうたわれた幻の名女優です。
昔から喜劇をやってみたいと思ってましたの。
一度だけ舞台を拝見しております。
(八千代)何もかもお見通しでいらっしゃるのね。
勝呂さん。
はい。
(莫)ん〜まだ分からん。
つまりどういうことですか?つまり私とあなたと須田先生を除くここにいる全員が共謀して藤堂修を殺害したのです。
まさか。
(須田)驚くべきチームプレーだ。
藤堂は裁判で無罪になりました。
しかし有罪であったことに疑問の余地はない。
私は思い浮かべました。
12人の人々が自ら陪審員となって藤堂に死刑の判決を下し自らの手で刑を執行した様子を!一人一人が与えられた役を演じる。
誰か一人に疑いが掛かっても他の人間の証言によって疑いが晴れるようにさらに事件が混乱するように仕組まれていたのです。
列車が雪で立ち往生したために計画の一部が崩れてしまい犯人たちがどうしたのか正確なことは私には分かりません。
おそらく慌てて皆で相談し計画どおり進めることに決めたのではないでしょうか。
それからもう1つ大事なことがあります。
車掌が加わったことで犯人の数は12ではなく13人になりました。
しかし刺し傷は12。
ということはこの中に実は1人だけ犯行に関わっていない人物がいる。
それは誰か。
そして私は奇妙な結論に達しました。
犯行に参加しなかったのは一番怪しいと思われる人物。
つまり安藤伯爵夫人です。
「妻はこの殺人事件には一切関わっていない」と名誉に懸けて言われた伯爵の言葉が強く印象に残っています。
そのとおりです。
妻の代わりに私があの男を刺した。
罪を逃れた憎むべき殺人犯は昨夜2時近く12人の陪審員の手によって刑を執行されました!計画の首謀者はあなたですか?全ては私から始まったことです。
計画を立てたのは?私です。
(馬場)奥さまそれはいけません。
1人で罪をかぶるべきではないわ。
計画は私が練りました。
私も力を貸した。
皆さん勝呂さんに全てをお話しします。
よろしいですね?
(安藤伯爵夫人)いいわよお母さま。
全ては5年前のあの日から始まりました。
あの日を境に私たちは悲しみの谷に突き落とされそしてそれ故に団結したのです。
本気でおっしゃってるんですか?
(浪子)もちろんよ。
これは正義の殺人なんですよ。
僕は自分の手でやつを裁こうと心に決めたんです。
(能登)われらは法に代わって藤堂に鉄ついを下すんです。
神に選ばれた12人なのです。
自分を欺いた人間を俺は絶対に許さねえ。
名探偵です。
勝呂武尊が乗ってるの。
嫌な予感がする。
まさか計画は中止?帰ります。
(三木)はっ?何かおかしい。
(馬場)えっ?
(馬場)脅迫状は?
(幕内)燃やしました。
燃やした?あ〜何で燃やすかなあ。
燃やしたくなっちゃったんですよ。
お前何やってるんだ。
(幕内)「汝剛力聖子を忘るるなかれ」
(八千代)私の愛する家族。
それがあの日を境に一変したのです。
私は許さない。
(呉田)この世に正しい殺人なんてないんですよ。
もし失敗すれば今後ますますやりにくくなる。
(馬場)私たちがやろうとしていることは正しいことなんでしょうか?泣いても笑っても今夜でけりがつく。
これは殺人事件です。
どうなさるおつもりですか?
第一夜はフジテレビオンデマンドで配信中。
詳しくはこちら
2015/01/11(日) 21:04〜23:54
関西テレビ1
オリエント急行殺人事件第一夜[字][多][デ]

三谷幸喜とアガサ・クリスティー、そして超豪華キャストの集結で今年一番の話題のドラマ、いよいよスタート。この豪華キャストの中に必ず犯人がいる!

詳細情報
番組内容
 「三谷幸喜×アガサ・クリスティー」夢のコラボレーション、さらには豪華キャストの競演で注目を集めているフジテレビ開局55周年企画の大きな目玉、三谷幸喜版『オリエント急行殺人事件』。大ヒット推理ドラマ『古畑任三郎』を創り出した三谷が、ミステリーの女王アガサ・クリスティーの世界的名作に挑む。物語の設定を昭和初期の日本に移し、昭和モダンが花開いた時代、最新鋭の技術と贅の限りを尽くした超豪華寝台列車
番組内容2
「特急東洋」を舞台に創作。
 第一夜は可能な限り原作を忠実に映像化する。民放ドラマ初主演の野村萬斎が、日本版名探偵ポアロ・勝呂武尊(すぐろたける)を演じる。
 昭和8年、最新鋭の技術と贅の限りを尽くした超豪華列車・特急東洋。夜が明けた頃、成金実業家が無残な他殺体となって発見される。雪に閉ざされた列車の中、勝呂は真犯人を暴き出すべく動き出す。階級も職業もまるで異なる容疑者12人。
番組内容3
日本映画・ドラマ史上かつてない豪華な容疑者12人と勝呂の対峙(たいじ)が始まる。
出演者
野村萬斎 :名探偵・勝呂武尊(すぐろたける) 

松嶋菜々子 :乗客、家庭教師・馬場舞子(ばばまいこ) 

二宮和也 :乗客、藤堂の秘書・幕内平太(まくうちへいた) 

杏 :乗客、外交官夫人・安藤伯爵夫人 

玉木宏 :乗客、外交官・安藤伯爵 

沢村一樹 :乗客、陸軍大佐・能登巌(のといわお)大佐

  ・  

池松壮亮 :乗客、万年筆の販売員・羽佐間才助(はざまさいすけ)
出演者2
八木亜希子 :乗客、教会で働く女性・呉田(くれた)その子 

青木さやか :乗客、轟侯爵夫人のメイド・昼出川澄子(ひるでがわすみこ) 

藤本隆宏 :乗客、輸入車のセールスマン・保土田民雄(ほとだたみお)

  ・  

富司純子 :乗客、おしゃべりなマダム・羽鳥夫人 

高橋克実 :鉄道省の重役・莫(ばく) 

笹野高史 :外科医・須田 

小林隆 :乗客、藤堂の執事・益田悦男(ますだえつお)
出演者3
草笛光子 :乗客、轟侯爵夫人 

西田敏行 :特急東洋の車掌・三木武一(みきぶいち)

  ・  

佐藤浩市 :乗客、実業家・藤堂修(とうどうおさむ) 


スタッフ
【原作】
アガサ・クリスティー(英1890〜1976)「オリエント急行の殺人」 

【脚本】
三谷幸喜 

【制作】
大多亮 
石原隆 

【プロデューサー】
重岡由美子 
橋本芙美 
元村次宏 

【音楽】
住友紀人 

【制作協力】
共同テレビ 

【制作著作】
フジテレビ

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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