仏連続テロ:シェリフ・クアシ容疑者…日常は好青年の評判
毎日新聞 2015年01月13日 07時30分
【ジュヌビリエ(仏北部)篠田航一】「パンを買えない少女のためにパン代を支払う優しい青年」「礼儀正しい若者」。仏週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件で、兄のサイド・クアシ容疑者(34)と共に記者ら12人を殺害したシェリフ・クアシ容疑者(32)が住んでいたパリ郊外のジュヌビリエの自宅周辺を歩くと、テロリストの実像とはかけ離れた「好青年」の素顔が浮かび上がる。だが「親しい友人はおらず、イスラム教について語ることもなかった」との住民証言からは、目立たず、静かにテロ計画を進めていた容疑者の心の闇も透けて見える。
パリ中心部から約7キロ北西にある容疑者の家は、8階建てのレンガ造りの集合住宅の5階。住民によると、住宅は低所得者向けに造られ、北アフリカ出身者のイスラム教徒が多いという。シェリフ容疑者は2006年から妻と住んでいた。近くのケバブ店で働くハミドさん(43)は、容疑者の優しい一面を覚えている。
「お金が足りず、店でパンを買えなかった(移民ではないとみられる)フランス人の少女に、たまたま店にいた彼が代わりに代金を払ってあげたんだ。イスラム過激派なら、フランス人にあんな心遣いをするだろうか。物静かで優しい彼が、こんな事件を起こすとは今も信じられない」
近くのパン屋の男性も、はにかんだ笑顔で店に入ってくる容疑者の姿を覚えている。
「最後に会ったのは、事件発生の2、3日前。その時も、好物の95セント(約140円)のチョコレートパンをうれしそうに買った。タルトも好きで、とにかくスイーツに目がない。きちんと人の目を見てあいさつする礼儀正しい人だった」
容疑者が通ったモスクは、自宅から約1キロ東にある。天井から光が差し込む明るい礼拝所は、子供向けのアラビア語教室も併設され、無邪気な笑い声も響く。
「彼は毎週金曜、ここで祈りをささげていた。目立たない普通の青年だった」。モスクのアリ・エライズ事務局長はそう振り返り、「イスラム教徒にとって預言者の姿が風刺されるのはいい気持ちはしないが、表現の自由は絶対に守られるべきだ」と付け加えた。
シェリフ容疑者は05年、アルカイダ系組織メンバーのイラク渡航を手助けしたとして逮捕されたが、近隣住民にはこうした「過激派」の顔をほとんど見せなかった。ある住民は「彼は近所に親しい友人を作らなかった。イスラム教についても周囲と語り合うことを避けていた」と話す。