昨年末の紅白歌合戦でサプライズで登場し、『ピースとハイライト』を披露したサザンオールスターズ。その歌詞について、「横行するヘイトスピーチを批判している」、チョビ髭をつけて登場した桑田佳祐氏の姿も合わさり、「安倍政権を批判したものだ」として、ネットを中心に話題にのぼっている。
いわゆる「ネトウヨ」界隈からは、「反日」「売国奴」など、口汚い批判もあがっている。
2015年1月11日、昨年末、横浜アリーナで開催されたサザンオールスターズの年越しライブで、桑田氏が受勲した紫綬褒章をオークションにかけるパフォーマンスをしたことなどが「不敬にあたる」として、約20人ほどが13時より、所属事務所「アミューズ」の入る渋谷区のビルの前で、抗議行動を行った。抗議行動は「在特会」のカレンダーで告知され、抗議にも「在特会」の排外デモに参加しているメンバーの姿があった。
IWJは抗議の現場に急行し、その模様を中継した。現場へ向かったのは女性記者1人。その記者を三人で囲み、撮るなと凄んだ。しかし、天下の公道で、大段幕まで張って世間にアピールしているのは、彼ら自身である。見てくれ、撮るな、とは、都合よすぎる話ではないか。
参加者は日章旗や「ライブでの不敬な言動! サザン桑田は猛省せよ!」と書かれた横断幕を掲げながら、50分弱にわたってシュプレヒコールをあげた。この抗議行動に対するカウンター抗議はなく、「在特会」の排外デモに見られるような衝突はなかった。
今回の抗議行動では、「在特会」関連の排外デモの時のような、口汚いヘイトスピーチは見られなかったが、その行為自体が、アーティストの「風刺」や「表現の自由」を脅かすことにつながるという懸念は拭えない。
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- 記事目次
- サザン桑田氏は「不敬」で「国体破壊」? ~日本の「品格」を貶める在特会が「品格」を語る矛盾
- 「表現の自由」?「抗議の自由」?
■サザン桑田氏は「不敬」で「国体破壊」? ~日本の「品格」を貶める在特会が「品格」を語る矛盾
在特会のカレンダーに掲載された、今回の抗議行動の呼びかけ文には「紫綬褒章の取扱い」を「不敬」と非難。「『表現の自由』の則を著しく逸脱した行為」、「国体破壊である」などと批判したうえで、「つまり、桑田氏が行ったパフォーマンスは『表現の自由』ではありません」などと書かれている。そして、「紫綬褒章を受勲した品格さえ蔑ろにする礼節無き言動」とする文言も掲載されている。
しかし、こうした彼らの主張には首を傾げざるをえない。「死ね」「殺せ」などのヘイトスピーチで、日本という国の評判を傷つけ、国連が問題提起するなど国際社会における日本の評判を貶めてきた彼らが、「品格」などと言えた義理なのだろうか。
また、在特会のカレンダーには、「日の丸の×印や『中国領土魚釣島』などと記載された動画の放映」を「反日的活動」と糾弾している。
だが、現在ネット上で確認できるサザンのライブ動画を観ると、「日の丸の×印や『中国領土魚釣島』と書かれたプラカード」が、「何気なく観たニュースで韓国、中国の人が怒っていた。これまでどんなに対話を重ねても、それぞれの主張は変わらない」という趣旨の歌詞にあわせて、スライドで流れている。つまり、韓国や中国の反日デモの様子を紹介し、その内容を肯定しているわけではない。さらに歌詞全体をみれば、そうした「それぞれの主張・事情」を乗り越えて、平和を育もう、というメッセージであることがわかる。
この呼びかけ文は、あたかもサザン・桑田氏自身が、「日の丸の×印」や「中国領土魚釣島」を肯定し、訴えているかのような悪質なミスリードとなっている。
こうしたミスリードは、単なる「誤解」「誤読」として、見過ごしてはいけない。のちのち、大きな禍根を呼ぶことになる。
たとえば、元朝日新聞記者の植村氏は、従軍慰安婦報道で「捏造」報道をしたなどと、散々バッシングされてきたが、いわゆる「吉田証言」をもとにした記事は一本も書いていない。それどころか逆に、朝日社内で「吉田証言」記事の検証作業が行われた際、韓国に検証に行き、「吉田証言」の事実は確認できなかった、と報告した人物なのである。
それなのに、デマを書かれ、いったんレッテルを貼られてしまうと、そのレッテルがひとり歩きを始める。あとから袋叩きに加わった連中は基本的な事実を確認もせず、デマの大合唱に加わり、公然のリンチに血道を上げる。しまいには植村氏の家族を「自殺に追い込む」などと脅迫する者まであらわれる。これは犯罪そのものである。
アミューズの事務所前で、声を上げていた者たちが、たった20人程度だったことに、なんだ、たいしたことない、などと侮ってはいけない。彼らが、文脈から切り離してきた「×のついた日の丸」や「中国領土とされた尖閣」という映像について、サザンの「反日の証拠」として広めれば、その「誤解」がひとり歩きしていく可能性は大いにある。ヘイトスピーチの根底には、常にそうしたデマがつきまとっている。
■「表現の自由」?「抗議の自由」?
今年1月7日には、フランス・パリで、イスラム教やキリスト教原理主義のほか国内の政治家や愛国主義者までも過激な風刺画で批判していた、週刊誌「シャルリ・エブド」に対する銃撃テロが発生。アーティストの風刺や政治批評に対する卑劣な暴力だとして、フランス国内外で、「表現の自由を守れ!」という声が高まっている。
ただその一方で、日本のネット言論においては、「風刺画はいくら何でもやりすぎだ」「誰かを怒らせるのも無理はない」などという声もあがっており、「表現の自由」をめぐって、議論が揺れている。
・【岩上安身のニュースのトリセツ】パリ風刺雑誌銃撃テロ事件で揺らぐ「表現の自由」~「文明の衝突」は不可避なのか?
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(注:犯人について報道では「イスラム過激派の可能性」とする文言が散見されるが、過激派組織からの犯行声明はまだ出ておらず、犯人とされる人物3名が射殺されたため、犯人像はまだ明らかになっていない)
ネット上では、「シャルリ・エブド」の過激な風刺画が守られる「表現の自由」なのであれば、排外デモも「表現の自由」ではないか、などという声も飛び交っている。しかし、少なくとも「シャルリ・エブド」の風刺画では、「殺せ」「死ね」などの殺人教唆とも言えるマイノリティへの脅迫は書かれていない。
(取材・文:芹沢あんず・佐々木隼也・岩上安身、文責:岩上安身)
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