川合研発ZnO論文に関する重大な疑問・誤り。      文責:北浜克熙

 この発表内容は明らかに変だ! (このような研究発表を安易に行って良いものだろうか?)
   ○ 単結晶シリコンより高いホール移動度のp型ZnOを合成した。! 
   ○ このp型ZnOのセーベック係数は通常のZnOの1/1000以下である!
   ○ 水の電気分解が0.55V程度
で起こる!
  川合知二教授および田畑仁教授(ともに阪大産研所属)らは、Physica B, 302-303, 140-148 (2001) (PDF)(論文1)やJpn. J. Appl. Phys. 38, L1205-L1207 (1999) (PDF)(論文2)において、p型ZnOを作成することに成功したと報告している。p型ZnOの証拠として、1)ホール測定の結果、2)ゼーベック係数の測定結果、3)電気化学特性の測定結果を挙げている。しかし、これらの結果はすべて以下に示すようにp型ZnOの証拠となっていない。
ホール測定の結果
論文2には、ホール測定の結果p型ZnOの一つの試料について1,900cm2/V・sのホール移動度が報告されている。この移動度は、単結晶シリコンのホール移動度450 cm2/V・sや単結晶ZnOのホール移動度180 cm2/V・sをはるかに越えるものであり、ありえないものである。これは、まともな測定がなされていなかったことを示すものであり、このように全く信頼ができないデータが記載されていることは、他のすべてのホール移動度のデータの信頼性をも失うことになる。

ゼーベック係数について

半導体は一般的に数百μV/Kの大きなゼーベック係数を持つ。ZnOについても、数百μV/Kの大きなゼーベック係数の測定値が色々な論文で報告されている。一方、川合教授らの論文1中Table2とTable3において、
p型ZnOについて0.19μV/K, 0.18μV/K, 0.14μV/K及びそれ以下のゼーベック係数が、n型ZnOについても0.06μV/K及びそれ以下のゼーベック係数が報告されている。これらのゼーベック係数は、ZnOのゼーベック係数として予想される値の1/1,000以下であり、全く信頼性がない。
ホール密度や電子密度がオーダー的に変化しても、ゼーベック係数の値が1/1,000以下になることはない。更に、p型及びn型両方のZnOのゼーベック係数が1/1,000以下になることは、ホール密度(アクセプター密度)や電子密度(ドナー密度)の変化では全く説明できない。つまり、測定されたゼーベック係数は、p型ZnOの証拠には全くなっていない。



 

電気化学測定について
論文1では、ZnOを0.1MのNa2SO4に浸して、対極に白金電極を、参照電極にAg/AgCl電極を用いて電流−電圧特性を測定している(Fig.1)。
p型ZnOについては、0.1V近傍から、p型ZnOについては-0.45V近傍から電流が流れている。この測定は、通常のショットキーダイオードを用いた測定ではなく、ZnOを水溶液に浸した測定 であり、電流が流れるためには水が電気分解して水素及び酸素発生が起こる必要がある。しかし、水の電気分解には1.23V以上の電圧が必要であることは、熱力学第1法則が教えるところである。これ以下で電流が流れればこの法則に反することになる。しかし、Fig.1に示されているZnOの電気化学測定ではp型ZnOを用いた酸素発生が0.1V近傍から、n型ZnOを用いた水素発生が-0.45V近傍から起こっており、これら2つのデータから水の電気分解が0.55V程度で起こることを示すデータとなっている。したがって、Fig.1のデータは全く信頼性がない。
(図をクリックすると拡大します。)

同じ図は川合研ホームページ(頁の末尾)にも示されている。
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