政治・行政

【照明灯】期待される人間像

 「正しい愛国心」や「象徴への敬愛」を盛り込み、大きな反響を呼んだ「期待される人間像」。中央教育審議会が中間草案を公表してから、きょうでちょうど50年となる。社会的な議論を巻き起こし、当時の流行語にもなった▼国家主義的な色合いが濃いという批判を受け、「人間像」は最終答申では別記扱いとなる。だが、一方で「愛国心」や「天皇への敬愛」はその後の学習指導要領改訂で社会科などに盛り込まれた▼「人間像」からの流れは今なお、途切れることなく続く。2006年、第1次安倍政権は戦後初めて教育基本法を改正し、「愛国心」条項を盛り込んだ。そして第2次安倍政権下で、中教審は道徳の正式教科化を答申した▼国定教科書を使った戦前の修身をどうしても想起する。低学年から「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ」と教育勅語を暗唱させられ、「忠君愛国」が徹底して植え付けられた。国が個人の内面に入り込み、がんじがらめにすることの恐ろしさを決して、忘れてはならない▼教育勅語や修身は主権在君の明治憲法を支え、軍国主義を押し付けた。道徳教科化と改憲の動きが重なる今、過ちを思い起こしたい。そもそも、あるべき人間像を上から目線で国から示されるなんて、余計なお世話なのである。

【神奈川新聞】