こんにちは、LIGブログ編集長の朽木です。いま僕の背後では、社長から「デスクが汚い」と怒られたらしい上司が「守破離しなきゃ、守破離…」とブツブツ言いながらゴミを捨てています。
ちなみに、守破離(しゅはり)とは、
まず師匠に言われた型を「守る」ところから修行がはじまり、その型を研究してより自分に合った型をつくることで既存の型を「破り」、最終的には師匠の型、そして自分自身の型からも「離れ」て自在になる。
という意味の、要するに剣道とかのヤツです。多分なんですけど、断捨離(だんしゃり)って言いたかったんだと思います。
さて、かく言う僕も編集・ライティング業務に従事しておりますが、出版社や編集プロダクションの勤務歴はありません。また、今でこそ社内の編集者たちをとりまとめる立場ですが、僕の入社以前は社内に商業経験のある編集者・ライターがほとんどおりませんでした。
何が言いたいかというと、誰にも教わることなく独学でここまで来てしまったため、言葉づかいを誤って恥ずかしい思いをすることがチラホラあるということ。
人のこと笑えない。
そこで今回は、これまで編集者・ライターとして活動する過程で僕が間違って使って、恥ずかしい思いをした日本語を選んで、正しい用法と共にまとめてみました。みなさんにも意外な落とし穴かも知れませんので、ぜひご一読いただければ幸いです。
また、正しさとは主観的であるため、「書きたいように書けばいい」というのは真理です。ご意見・ご指摘はむしろご褒美ですので、お気軽にお寄せくださいませ。
あらかじめ、本文の内容をチェックリストの形式で共有しておきます。
□1. 「または」と「あるいは」は同じ意味か
□2. 「よろしくお願い致します」は正しい用法か
□3. 「イタダく」「クダさい」を閉じるか開くか
□4. 「事と次第によっては」と「うまいことを言う」の違いは
□5. 「時として」と「困ったとき」の違いは
□6. 「学生はすべからく勉学に励むべき」の意味は
□7. 「立ち振る舞い」か「立ち居振る舞い」か
□8. 「友達」か「友だち」か
□9. 「子供」か「子ども」か
□10. 文頭の「なので」は適切か
「全部わかる」という日本語モンスターはぜひ、本文をすっ飛ばしてまとめを読み進めていただけると幸いです。
それでは、はじめます。
接続詞としての「または」は“2つ以上の似た言葉のうち、どれを選んでもいいさま”を指します。
接続詞としての「あるいは」は“2つの似た言葉のうち、どちらか”を指します。
つまり、“AまたはB”だとAでもBでも自由なのですが、“AあるいB”だとAかBかどちらかを選ばなければなりません。
厳密にはそもそも3つ以上のものに「あるいは」が使えないようなので、「または」の方が使える範囲が広い、と認識しておいてよさそうです。
ちなみに、副詞的な“もしかすると”の意味の用法になると「または」「あるいは」はだいたい同じになります。
出典:又は – コトバンク / 或いは – コトバンク
ビジネスメールなどで“よろしくお願い致します”という文言をよく見かけるのですが、「致す」と閉じる(以下、漢字で書くこと)か「いたす」と開くか(以下、仮名で書くこと)で用法が異なります。
「致す」と閉じた場合は動詞の用法になり、“そのことがもとで、よくない結果を引き起こす”という意味が含まれます。
テレビの謝罪会見などで、「私の不徳の致すところです」のように頭を下げる姿を見たことがあるのではないでしょうか。
「いたす」と開いた場合は補助動詞「する」の謙譲語・丁寧語の用法になり、例えば“お願いする”の謙譲語・丁寧語は“よろしくお願いいたします”になります。
つまり、「よろしくお願い致します」よりは「よろしくお願いいたします」の方が正しい用法ということになります。
補助動詞は公用文書の書き方を規定する内閣訓令でも開くで統一されています。
出典:致す – コトバンク / 公用文に関する諸通知 – 文化庁
同じように、動詞と補助動詞で意味が異なる言葉はいくつかあり、代表的なものが「頂く」「いただく」と「下さい」「ください」でしょう。原則は前述したように、“補助動詞は開く”です。
ここで、「頂く」は「貰う」「食う」「飲む」などの意味の動詞の謙譲語として使う場合に、「(モノ・コトを)頂きます」と閉じます。一方、「お休みさせていただきます」のように補助動詞として使う場合は開きます。
ビジネスメールで“お休みさせて頂きます”と閉じてしまうのは、厳密には正しくない、ということになります。
「下さい」も同様に、閉じるのは「お金を下さい」のように実質動詞「くれ」の尊敬語として使う場合で、「お金をお恵みください」のように補助動詞では開きます。
「ご注意下さい」という文言をしばしば見かけるのですが、これは開くべき、ということになります。
出典:頂く – コトバンク / 下さい – コトバンク
またもや漢字の閉じるか開くかで、「コト」についてです。「コト」には“具体的なことがらを表す”実質名詞と、“抽象的なことがらを表す”形式名刺があります。
動詞のときのように、実質名詞は閉じ、形式名詞は開くことを覚えておきましょう。
例えば、「事と次第によっては」は実質名詞なので閉じ、「うまいことを言う」は形式名詞なので開きます。
実質名詞としての“事”は他に「考え事」「事の起こり」「見事」などがあり、形式名詞としての“こと”には「人のこと」「勝手なこと」などがあります。
この区別は正直つけにくいので、慣用表現になっているのはだいたい実質名詞(閉じる)、と思っておくとわかりやすい気がします。
同様に「トキ」にも実質名詞と形式名詞があります。
実質名詞の“時”には「書き入れ時」「梅雨時」「時と場合」などがあり、形式名詞の“とき”には「いざというとき」などがあります。こちらも開く場合の方が多そう。
閉じるか開くかばかりになってしまったので、趣向を変えて、言葉の誤用についてまとめてみます。
学生はすべからく勉学に励むべき
とはよく言ったものですが、この意味が、
のどちらであるかはご存知でしょうか。
正解は2.の「学生は勉強を頑張るのが当然だ」です。平成22年度に文化庁が実施した「国語に関する世論調査」によれば、約4割が「すべからく」を「すべて」の意味に誤用していたとのこと。
本来は漢文の授業で習った「すべからく〜べし」に由来し、「当然そうした方がよい,是非ともそうすべき」という意味になります。
はじめに断ってしまうと、この2つは現在、同じ意味の言葉として使われています。しかし、そうなった経緯がとても興味深いです。
「立振舞(たちふるまい)」とは本来、“旅に出るにあたって、人を招いて別れの飲食をすること”の意味です。
「立居振舞(たちいふるまい)」は立居(立ったり座ったりすること)と振舞(動作・行動)が合わさってできた“身のこなし、日常の動作”の意味で、「立振舞」とはまったく別の言葉でした。
よく似たこの2つが混同して使われた結果、「立振舞」にもやがて“身のこなし、日常の動作”という、「立ち居振る舞い」と同じ意味が付け加わったそうです。
読者の方からのご指摘で、はじめて僕はこの経緯を知りました。
間違って覚えていたのですが、“子供と表記すると大人の「お供」のような否定的な意味になる”ことはありません。これまでずっと“子ども”という表記にこだわっていたものの、それは“否定的な意味になる”と思い込んでいたからであって、時代は大きく動いていたようです。
「子供」の表記は1973年の内閣訓令で、漢字表記とされた。ただ「漢字より柔らかい印象がある」として、各省庁とも漢字と平仮名の交ぜ書きの「子ども」を使う例が増えていた。
文科省は、子供と表記しても大人の「お供」のような否定的な意味はないと判断し、公用文書は漢字表記との原則を再確認。7月刊行の文部科学白書では語句を「子供」に統一した。
出典:文科省、「こども」表記を漢字に統一 公用文書で – 日本経済新聞
こちらは2013年のニュースなので、現在は官公庁も「子供」表記に統一されたと考えてよいでしょう。
「トモダチ」は「友」に複数の人間を表す接尾語「たち」が結びついた言葉ですが、現在では「トモダチたち」という用法もあるほど、単数・複数に関係なく用いられます。ここで気をつけておきたいのは、実は複数を表す「たち」に「達」という漢字を当てるのは推奨されていない、ということです。
常用漢字表で「達」を「たち」と読むのは「友達」のときだけで、「私達」「君達」は常用漢字表に照らせば誤りとなります。(もちろん常用漢字表自体があくまで目安と前書きで断られていますが)
「たち」は「友達」のみ閉じ、それ以外の言葉については「私たち」「君たち」のように開く方がよさそうです。
出典:常用漢字表 – 文化庁 / 「友達」か「友だち」か?
「今日は飲み会だ。なので、帰るのが遅くなる」
「来週の予定が決まらない。なので、まだ約束ができない」
“文頭の「なので」”とはこのようなことですが、「なので」はそもそも接続詞ではなく、「〜だから」「〜であるから」という意味の連語です。接続詞ではないので、日本語のルール上、「なので」を文頭に持って来るのは誤りになります。
「今日は飲み会なので、帰るのが遅くなる」
「来週の予定が決まらない。だから、まだ約束ができない」
のように言い換えられるので、時と場合によっては意識するのがいいでしょう。(リテラシーの高い人ほど違和感があるようです)
出典:第41回 最近よく耳にする「なので~」の使い方 – Web日本語 小学館
いかがでしたでしょうか。いや、いかがでしたでしょうか、も言葉づかいとしては正しいと言い切れないんだけどこれは語感がいいからいいんだ。
ということで、繰り返しにはなりますが、書きたいように書けばいいじゃんというのは真理でしょう。
でも、正しい用法を知っていてあえて崩すのと、そうでないのではやっぱり言葉への姿勢が違うと思うし、編集者・ライターならこだわるべきはその精神性なのではないか、と思ったり思わなかったりします。
冒頭で出版社、編プロの勤務経験がないと言いましたが、最近ちらほら逆輸入的に紙のお仕事を頂くようになって感じるのは、書籍とか雑誌とかの担当さんも、今はWebとか紙とかは関係なくフラットに、案件ベースで編集者やライターを探しているということです。
メディアが限られた一部の立場の人のモノだった時代は終わり、だからこそ僕もまたこうやって好きなことをして生きていられるし、同じようにメディアが好きな仲間とこれからも新しい価値を生み出していきたいと思います。
すこし話が逸れましたが、最後にLIGの編集・ライター募集のお知らせです。
これまであまり説明をしたことはありませんでしたが、LIGではLIGブログ以外にも、いくつかのオウンドメディアの運営を代行しています。こちらはしぶがリーダー、左遷前の堀田がいたLIGMOというチームが担当です。
また、もうすぐ正式な発表があるかと思いますが、新規事業でもコンテンツの配信がはじまります。LIGブログと新規事業は、僕が編集長です。
いずれもやりたいのは、メディア運営の参入障壁が低くなったこの時代に、最高のコンテンツで「わくわくをつくり、みんなを笑顔にする」こと。まだまだ新しく、つたなく、発展途上ではありますが、その熱意だけはどんなメディアにも負けません。
僕たちが向く未来を一緒に見て、走りながら考える人材を心よりお待ちしています。
その際、職務経歴書、履歴書、制作実績をオンラインストレージなどにアップし、URLをご記載くださいますと幸いです。
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