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【戦後の地層】

戦争体験へのまなざし 複雑さにこそ想像力を

「銃口」の執筆時、書斎で原稿を口述する三浦綾子さん(右)と、夫の光世さん=三浦綾子記念文学館提供

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 戦線で、銃後で、人々は辛酸をなめた。その体験の中には、証言として明らかにされたものもあれば、封印されたものもある。戦後70年を迎え、体験者の生の声が社会から消えていく中、語られなかった部分への想像力がますます必要となる。 (福田真悟、早川由紀美)

 1面で紹介した「生活図画」とともに、子どもたちに生活のありのままを作文として書くよう指導する「生活つづり方」も戦前、弾圧の対象となった。

 全国で約300人の教員が逮捕された事件を、三浦綾子さん(故人)は最後となった長編小説「銃口」で描く。1990年の連載開始に先立ち、三浦さんは事件に巻き込まれた元教員らの取材をする。その一人、小川文武さん(故人)の妹はその時初めて事件の話を兄から聞いた。「今度、三浦さんの小説に出るんだよって。80歳になっていた。人生の最後に、話さなくてはならないと思ったのかな」

 戦前、北海道で教員をしていた三浦さん自身、事件のことは全く知らなかった。三浦さんの元教え子の古本屋店主が、店を訪れた小川さんから逮捕された話を偶然聞いたことで、細い糸がつながった。

 小説には「前後左右を見ながら、何を言いたくても、何も言わずに生きていく」など登場人物の発言を通じて、窮屈な世の中で人々が何を感じていたかが描かれる。三浦綾子記念文学館の松本道男専務理事は「作品に出てくることは、三浦が取材をした事実に基づいている」と話す。

 後書きで三浦さんはこう書いている。「昭和時代が終わっても、なお終わらぬものに目を外(そ)らすことなく、生き続けるものでありたい」

 戦争体験にはいずれも「語りにくさ」が付きまとう。

 「『戦争体験』の戦後史」(中公新書)などの著書がある福間良明立命館大学教授(歴史社会学)は「罪責感や恥辱の混じった体験を言語化するのは難しい」と話す。

 極限状態での戦闘行為には被害と加害が絡み合っている。60年代までは、その複雑さに対する共通理解があったが、時とともに薄れていく。

 とくに80年代以降、近隣諸国への加害責任などをめぐり、意見の対立が先鋭化。双方の立場の人が戦争体験の「聞きたい部分だけを聞く」状態に陥りがちなことが、福間教授は気掛かりだ。

 「どちらの立場の人にも自分だったらどう行動したのか、とわが身に置き換える想像力が欠けているように思う。70年の間に、もんもんとした複雑な戦争体験の何がかき消されてしまったのか、目をこらして見ていくべきだ」

 シリーズ「戦後の地層」にご意見、ご提案をお寄せください。手紙は、〒100 8505(住所不要) ファクスは03(3595)6919 電子メールはshakai@tokyo-np.co.jp 東京新聞社会部「戦後の地層」取材班へ。

 

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