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ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

3章 群雄割拠編

第五十七話 「なまじ頭がいいのも考えものね」

「ドリュアス君、どういうこと?」

 颯爽と現れたドリュアス君に質問を浴びせる。この一連の騒動、何か知っているのならぜひ聞きたい。

「今回の騒動、魔王軍の仕業です」
「何! 魔王軍だと!」
「うぬぬ、ヒドラーめ、とうとう動き出したか!」

 ティムをはじめとして邪神軍幹部達が騒ぎ出す。皆、驚きを隠せないようだ。
 俺も驚いている。魔王軍って、また懐かしい響きだが、ヒドラーさんがそんな陰険なイタズラをするとは思えないんだけど……

「ドリュアス君、それは本当なの? 誤報って事はない?」
「はっ、間違いはございません。騒ぎの主犯であるコウアンが、昨夜ひそかに陣を抜け出し魔王軍に投降したところを確認しております」
「そうなんだ、でもコウアンって奴はなぜ、こんな事を……」
「それも仔細は入手しております。第二師団食料部隊で働いていたコウアンは食料調達遅延の罪で鞭打ちの刑に処せられたそうです。しかもオルティッシオは満座で奴をさんざん侮辱したらしくそれを恨みに思っての行動でしょう」
「そ、それは、奴が食料調達を遅延したあげく、賊に奪われぬように雨露をしのいでおったためとか言い訳がましい事を抜かしたから」
「ティレア様、オルティッシオはそう言っておりますが、これはあきらかにオルティッシオの管理能力の欠如が原因です。魔王軍、正確に言うと情報部局長のヨーゼはそのコウアンに目をつけ、奴を手駒にし、地下帝国でオルティッシオが謀反をたくらんでいると噂を流させたのです」
「なっ!? 参謀殿は私が原因とおっしゃるのか!」
「そう言っておろうが、貴様の間抜けな行動がコウアンを敵方に走らせたのだ!」

 オルとドリュアス君が激しく口論する。「鞭打ち」とか「百叩き」とか物騒な言葉は飛び交っているが、要するに今回の騒動はオルとコウアンが喧嘩したせいで起きたみたいだ。

 ドリュアス君はさすがと言わんばかりに事情を知っていた。伊達に統合参謀本部を取り仕切っているわけじゃない。

 ん!? ってことは……

「ドリュアス君は、コウアンがこんな騒ぎを起こすって知ってたの?」
「御意、オルティッシオの杜撰な部下管理にコウアン自身の性根が重なれば謀反は時間の問題、コウアンが何かしらの騒動を起こし邪神軍を出奔することは察知しておりました。特に、この時期魔王軍の活動を顧みれば――」
「ち、ちょっとまって、頭を整理させて」

 怒涛のごとく中二言語を連発するドリュアス君の説明に頭がついていかない。

 え~と要するに……

 コウアンっていう奴が魔王軍から寝返った、つまりこっちの邪神軍(サークル)に入ってきた仲間がいた。だけど、オルとそりが合わなかったので、また魔王軍に戻ったっていう話だ。ドリュアス君の話を簡単にまとめるとこんな感じだろう。

 まぁ、ここまではいい。サークルとかでよくある事例だ。嫌いな奴がいてサークルやクラブを辞めることは別に悪いことではない。
 ただし、コウアンって野郎は、辞めるときにオルの悪口を周囲に言いふらして後を去ったのが問題だ。

 立つ鳥後を濁さず……

 どうして気持ちよく去る事が出来なかったのか!

「タチ悪いわね」
「お姉様のおっしゃるとおり、そやつは邪神軍を、お姉様を舐めきっておる!」
「コウアンは許せぬ! それにドリュアス、完全に敵の策略にはめられたぞ!」
「そうだ、ドリュアス、分かっていながら何ゆえ止めなかったのだ!」

 変態(ニール)の追及に他の幹部達も同意する。責める矛先がオルからドリュアス君に向かったね。「策略」とか「陰謀」とか言う事がいちいち中二くさいが、皆の言うとおりだ。どうして知っていながらこの騒動を止めなかったのか、ぜひ説明してもらいたい。

「ドリュアス君、皆の言うとおりよ。これ、あなた達流に言えば、完全に離間の策にはまっているよね? 頭のいいあなたが、こんな策略に引っかかって放置するなんて失望よ。普通はね、知力九十以上の軍師がいる国ではこんなチンケな策にかからないんだから」
「ティレア様、もちろん知っていましたので止める事は十分可能でした。ですが、魔王軍は不気味な存在です。こちらから情報を探ろうとしても知り得る事が出来ない情報は多々あります。そんな折、向こうからアクションをかけてきたのです。これを活かす手はないかと、もともとオルティッシオの管理能力の欠如で発生したこと、敵の計略にはまったふりをして、逆に奴らをはめる算段なのでございます」
「なるほど、さすがは邪神軍の頭脳だ、ドリュアス見事だぞ」
「うむ、敵を騙すにはまず味方から、それが計略というなれば成功する事を祈る」

 ドリュアス君の軍師チックな言葉に皆が納得している。そうね、離間の計を逆手に取るなんてさすがよね――とでも言うと思ったか!

 ……ハァ……

 開いた口がふさがらない。暴動騒ぎにオルの命まで関わってきた問題だ、魔王軍ごっこの勝ち負けでここまでやるか?

 見てよ、オルなんてドリュアス君の勝手な言い草に怒りでワナワナしているよ。

「ドリュアス君」
「はっ」
「こっちへ」

 ドリュアス君に傍に来るように命令する。俺の言葉を受け、ドリュアス君はこちらに近づき片膝をつく。

 俺はおもむろにドリュアス君の耳を引っ張る。

「うぐっ!」

 ドリュアス君が苦悶の声を上げるが、かまわず続ける。形の良いエルフ耳はさらにビミョンと伸びた。

「ドリュアス、あなた何て事してくれたの? こんな事しでかすなんて寝耳に水よ、分かっている?」
「は、はっ、そ、それは……」
「ティレア様、横から口を挟むご無礼お許しください」

 第四師団のベルがおもむろに口を開いてくる。ベルはドリュアス君の部下だ。何か言いたい事があるのね。

「何? あなたも私に黙ってこんな無茶な計画を実行した共犯よね?」
「い、いえ、ティレア様、ドリュアス様は決してティレア様を蔑ろにしているわけではありません。今回の作戦も提案書を事前に配布しておいたはずですが……」

 提案書? そういえば、数日前「作戦主要書です」と言ってベルが何か分厚い書類を持ってきてくれたっけ……

 後で見ようと思ってついつい忘れてた。

「……見てない」
「そうですか、それに全容を記載しております。決してティレア様を差し置いて事を図ろうとは思っておりませんでした」
「じゃなに、見なかった私が悪いって言いたいわけ? ベル、いい根性しているじゃない」
「ひっ、い、いえ、決してそのような……」

 ベルが青ざめて言い訳するが、お前ら、事前に言っておけば済むって問題じゃないぞ。参謀本部でこいつらは、こんなくだらない事を考えてやがったのか。

「ふぅ、確かに作戦書を読まなかった私にも非があるけど、こんなね、暴動が起きるような真似を私が許すとでも思ったの?」
「はっ、ある程度はこちらも騙されたふりをしておかないと相手側に察せられます。暴動とオルティッシオの処刑により真実味が増――ぐはっ!」

 俺はドリュアスの後頭部をはたく。

 まったく、暴動まで起こすなんてやりすぎだ。ゲームの枠を超えている。使うかどうかはわからなかったがドリュアスは毒薬まで作ったんだよな。作戦書にはどう書いていたんだ? 本当に飲ませる気だったのか? しゃれにならんぞ。

「ドリュアス、あなた案外なたわけだったわね、やっていい事と悪い事の区別も分かんないの?」
「ティレア様、それは、今回の計略に問題でも……」
「ありまくりよ、いい、あなたのせいで暴動が起きて下手したらこの地下帝国が火事になるところだった。オルなんて絶望に染まって今にも死にそうだったのよ」
「ティレア様、ご安心ください。仮に暴動が起きてこの地下帝国が焼失したとしても、あらたな拠点をご用意致します。こんなオルティッシオが用意したあばら屋よりも数段優れたお屋敷にございます。また、オルティッシオ程度の将、掃いて捨てるほどおりますればティレア様が不安に思われる事はありません」
「ドリュアス君、突っ込みたいところは山ほどあるが一つ。勝手にこの地下帝国を燃やす権利はあなたには無い。あ、あなたねぇ、そのまま暴動を放置して火事になってたら大問題になってたよ」

 まったく、まったく、この地下帝国はオル父の所有物だぞ。勝手に貴族の別荘を燃やしていたら俺達は全員処刑されてたよ。

「お、おっしゃるとおりでございます。この地下帝国を自由に出来る権利は私にはありません」
「そう、それが分かっていてあなたはこんな事をしたっていうの!」
「た、大変申し訳ございません。ティレア様のご裁可を頂くべきでした」
「い、いや、私の許可って……」

 俺だって権限なんてないんだぞ。というか火事なんて起こしたら持ち主だろうと罰を受ける。それとも何か? 俺が許可したら燃やすのか? 

 どうなんだ? てめーら?

 俺はドリュアス君だけでなく邪神軍の奴らの顔を見渡す。

 うん、そんな顔をしているな。俺が命令したら厳重な警備を誇る王宮にでも突っ込んでいきそうだ。忠誠度で言えば九十五以上ある、そんな忠臣面で俺を見つめてくる。どうやら、俺は君達を甘くみていたみたいだね。

 これだから中二病者共は……

 まぁ、この中二病気質を逆手にとる。俺は一応、君主だし、君主の命令なら言うことを聞いてくれるだろう。

「とにかく、私の言う事は絶対なのよね?」
「もちろんでございます。ティレア様のお言葉より優先される事はありません」
「そう、それじゃあ、もうこんな暴動騒ぎは絶対に止めなさい」
「はっ、肝に銘じます」

 よし、これでもうこんな暴動騒ぎは起きないだろう。あとは、オルの問題ね。

「それとドリュアス君、オルが死にそうになってたのよ。その辺についてはどう思っているの?」
「はっ、邪神軍の礎に死ぬ事も出来ない臆病者でございます。ティレア様、作戦は別としてオルティッシオの処刑は実行しても宜しいのでは?」
「お、おのれ、クソ参謀め……」

 そうだね、あなたの怒りは正当なものよ。まさかドリュアス君がいじめの一旦を担い、そして未だに謝ろうともしないとは……

 ここは、俺が大岡裁きをするしかないね。

「オル、ドリュアス君が憎い?」
「はっ、このような恥辱、生まれて初めてでございます。ティレア様の御前でなければ奴を八つ裂きにしているところでございます」
「よし、オル、一発だけ許す、ドリュアス君をガチコンしてこい」
「よろしいのですか?」
「うん、このままじゃあなたも納得いかないでしょ。でも、一発だけよ。それで遺恨は終わらせるの」
「ははっ、ティレア様ありがとうございます!」
「ドリュアス君もいいわね?」
「御意、ティレア様のご命令は絶対でございまする」

 そう言って神妙な顔をするドリュアス君、そうそうちゃんと反省しなさい。

 代わりにオルがギラギラと獲物を狙う目つきに変貌していく。

「死ねぇ!」

 オルが物凄い形相でドリュアス君に襲いかかる。よっぽど腹にすえかねていたんだろう。オルは、ドリュアス君の顔面を殴りまくるって――おい、やりすぎだ。

「オル、一発の約束でしょ! あなた何してんの!」
「うぉおおお、死ねぇ!」

 オルは俺の言葉に耳を貸さず、暴走している。まずい、判断を誤ったか、

 そうだよ、死ぬ思いまでした虐められっ子が虐めっ子相手に一発で終わるわけがない。虐げられた者にしか分からないこの怒り、俺は分かっていたはずなのに……

 くっ、完全に俺の判断ミスだ。

「オル止めな――」
「オルティッシオ、ティレア様のお言葉は一発だ。貴様はティレア様のお言葉を蔑ろにした。貴様が殴り続けた二十三発、二十二発は貴様の私怨によるもの、返させてもらうぞ」

 そう言ってドリュアス君はオルをタコ殴りにしていく。突然のドリュアス君の反撃にオルがやられていく。うん、さすがに弱い。ドリュアス君はエルフでも虚弱なほうなのにオルをボコボコにしていく。

 って、二人を止めないと!

 それからなんとか二人を引き離し、争いを止める。オルはドリュアス君に殴られてぼこぼこ、ドリュアス君は短刀を腹に添えて切腹しようとしている。

 まったく、まったく、こいつらはどれだけ俺を悩ませれば気が済むのだ。

「ドリュアス君、聞くまでもないけど、何をしようとしているの?」
「はっ、ティレア様の不興を買ったのです。この命で償わせて頂きます」
「ドリュアス君、いい機会だから言っておくね。自殺を仄めかすような事は止めなさい、死んで文句を言うなんて最低よ。」
「お許し下さい、このような無能な軍師がいてはティレア様の足を引っ張るばかり、こんな無能な私など邪神軍にいてはいけないのです!」

 ドリュアス君の目に悲哀の色が深く漂っている。雨に濡れた子犬みたいに悲しみに打ちひしがれている。

 そうだった、ドリュアス君もエルフ村から追い出された可哀想な人なのだ。傷つきやすいのだ。今回は中二病が暴走しちゃってこんな事になったけど、基本は頭の良い優等生である。責めてばかりではだめ、フォローもしてやらないといけない。

「ドリュアス君、私があなたを我が子房といった事には嘘偽りはない。そんな私の言葉を嘘にさせる気?」
「い、いえ、決してそのような事は……」
「迷惑をかけたと思うなら生きてその知略で挽回しなさい、期待しているわよ」
「おぉ、な、なんとお優しきお言葉……ははっ、このドリュアス、このような失態二度と演じません。ティレア様のお眼鏡に適う働きをしてご覧に入れます」

 ドリュアス君が感極まってむせび泣いている。本当に情緒不安定なんだから。今度、精神をリラックスさせる料理でも振舞ってやろう。

「それで、お姉様、この後はどうするおつもりですか?」
「そうね、ここまでの騒ぎになったのもコウアンのせい、魔王軍にちょっと文句の一つでも言ってこようか?」
「それは、魔王軍へ侵略を開始するという事ですか?」
「おぉ、ついに起たれますか!」
「天下布武万歳!」
「また、あなた達は……」

 いかん、こんな中二病のバカ共を行かせたら向こうで喧嘩の火種を作る事になる。ヒドラーさんにもご迷惑をかける事になるね。

 じゃあ、俺が行くか?

 でも俺はお店もあるし、そんな遠出は出来ない。しかし、このままコウアンをほおっておくのも癪に障るよね。一言文句は言いたい。

 う~ん、そうだ!

 こんな中二病患者共を喧嘩腰にならずにおとなしく行かせる方法があった。

「あなた達、これは外交よ。いきなり戦争ばかり考えても国は運営できない。内政、調略、外交があって戦争があるの、分かる? あなた達のように戦争、戦争ばかり言っている戦争バカじゃだめ、少しは冷静になりなさい」
「「ははっ、ティレア様のおっしゃる通りでございます」」
「分かればよろしい」
「それではティレア様、外交の内容としまして、今回我が軍が被った被害に関する賠償金、並びに戦犯コウアンの引渡しの要求、魔王軍と邪神軍の領土境界の決定といったところでしょうか?」
「う、うん、そんなところかな」
「承知しました。詳細は参謀本部で詰めておきます。あと、我が軍の使者は?」
「もちろん、当事者のオルに行ってもらうわよ」
「オルティッシオにそのような大役を任せて大丈夫でしょうか?」

 ふむ、魔王軍って今はザルギー方面に展開しているんだったっけ? 道中は盗賊や魔獣もいるかもしれない。確かにオル一人だと不安だ。はじめてのお使いを見守るスタッフが必要である。ここはエディムに護衛を頼んだほうがいいだろう。

「そうね、オルだけじゃ何かと不安でしょうから、エディム、あなた悪いけどオルのサポートしてくれる?」
「はっ!? わ、私がですか!」
「嫌?」
「い、いえ、そういうわけでは、しかし私如きが魔王軍のど真ん中に――」
「エディム、お姉様の下知を無碍にするとは言わせんぞ! そんな不敬なおもちゃはすぐに捨てる!」
「ひぃ、そ、そんな事はありません。カミーラ様、私は邪神軍の忠実なる下僕でございます」
「そうか、なら返答は分かっておろうな」
「も、もちろんでございます。その大任、身命を賭けて果たしてご覧に入れます」

 うんうん、これで坊ちゃん育ちのオルも見聞を広める事が出来るだろう。道中はエディムが警護すればバッチシだしね。
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