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ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

3章 群雄割拠編

第五十五話 「オルティッシオ、邪神軍やめるってよ」

 オルティッシオ、邪神軍やめるってよ。

 うん、何か部活を辞めるようなのりで言ったが、今、地下帝国では、オルが邪神軍を辞めるという噂がまことしやかに囁かれている。

 真偽は定かではない。だが、俺は本当だと思う。だって、オルはこの邪神軍で肩身の狭い思いをしているのだ。居心地が悪いに決まっている。この前だって、吸血王騒動の時、なぜかその責任がオルのせいになりそうだった。

 エディム一派が吸血鬼を脅して無理やりオルを黒幕に仕立てようと画策したのである、邪神軍の皆もオルならやりそうだと無茶苦茶な理論で責め立てていた。

 あ、あのね、お前ら……

 虚弱体質のオルがどうやって吸血鬼を脅すっていうんだよ!

 と言ってやりたかったが、言うまでもない、それは皆も当然分かっている。要するに、何が何でもオルを責め立てたいのだ。まさにいじめだね。あの時は俺がオルを庇ってやったからなんとか治まったけど、オルの中にはやりきれない気持ちが出来たんだと思う。

 オルも最初は、皆と楽しくやっていたと思うけど、今はただただ辛いだけじゃないのかな?

 オルは弱いくせに調子にのるし、しまいには俺やジェシカちゃんを襲った事もある大馬鹿者だ。そのせいで友人からは見限られて、ぼっち状態になっている。

 俺はそんなオルがあまりに哀れでついつい庇ってあげていた。オルはバカだけど、バカだからこそ可愛いというか、ほっとけなかったんだよね。

 ただ、俺以外、特にティムやドリュアス君はオルを目の敵にしているし、オルは今、四面楚歌状態なのだ。

 俺が皆に強く注意していけば、少しはオルの待遇も改善するかもしれないが……

 そろそろ頃合かな。ずいぶんオルのお母さんをやってあげてたけど、オルもいい歳だし、いつまでも遊んでばかりはいられない。辞めるのはいい機会だと思う。少しさびしいけど、オルの将来を考えたら笑って送ってあげないとね。

 そうと決まればオルの門出を祝って豪勢な食事でも作ってあげよう。

「裏切り者はどこじゃ――っ!」

 ……何を作ろうかな? 肉料理もいいけど、魚料理も捨てがたい。

「逆賊オルティッシオを探せぇ――っ!」

 ……そうだ、今月は良い鶏肉が入っていたんだ、オリーブと合わせて特性の焼蒸鳥添えを仕立てよう。

「殺せ! 殺せ! 謀反人を生きて返すな!」

 ……待てよ、バターもあったから、鳥牛酪煮でもいい。

「「大罪人オルティッシオを八つ裂きにするのだ――っ!」」

 ふぅ、やはりそうか……

 すんなりオルをお見送りするような奴らじゃない。中二病者共を舐めてはいけない。どうせオルが辞めるって聞いて、「謀反」とか「不忠者」とか言って騒いでいるのだろう。部屋の中にいる俺にも聞こえるぐらい叫びやがって!

 何だよ、何だよ、こんな遊びの邪神軍にも鉄の掟でもあるのか!

 抜けるには金かリンチが必要ってか?

 お前ら、暴走族の族抜けかよ――っ!

 仲間意識が強いのはけっこうだが、それが悪い方向にいっている。っていうか、この騒ぎようはまじでやばい、暴動が起こる前に止めないとね。

 俺はオルが居室にしている第二師団の部屋へと向かう。居室に着くと、数十人の群衆が「オルティッシオを出せ!」と喚いていた。それに対して、第二師団の隊員達が必死に抗弁しているが……

 これってほぼ暴動がおきているんじゃないか? 遊びとはいえ、ここまで熱くなると怪我人が出るかもしれん。特に、火炎魔法を出している奴なんて危なくてしょうがない。こいういうところから火事が発生するんだよ。

 早く止めなければ!

 だが、どうする?

 地下帝国の通路は決して狭くはないが、数十人がたむろできるほど広くもない。現在、第二師団の居室前は詰めかけている群衆達でぎゅうぎゅうになっている。

 う~ん、考えても仕方がないか、力技でいこう。

「君達、やめなさい!」

 俺は無理やりタックルしながら群衆の中に入る。これだけ人数が多いと、強引に割って入るしかない。

「痛ぇ! いきなり何す――こ、これはティレア様!」
「はいはいティレア様よ。君達、騒ぐのは止めなさい!」
「「はっ!」」

 うん、止まった。

 普通はここまで熱くなったら「うるせぇ!」だの「引っ込んでろ!」だの野次が飛び交うものなのだが、水を打ったように静かになった。

 最悪、熱くなった群衆から暴力を振るわれる事も覚悟していたんだけど……

 本当に君達は、素直だね。そういうところは評価できる。

「で、オルはいないの?」

 居室の前で群衆と対峙している第二師団の面々に聞いてみた。

「はっ、居室に師団長はおりません」
「嘘をつけ! 隠すとためにならんぞ!」
「謀反人を隠す貴様らも大罪だ!」

 第二師団の言葉に反応してまた群衆が騒ぎだそうとする。

「君達、騒ぐなと言ったでしょ!」
「「は、はっ、大変申し訳ございません」」

 また、水を打ったように静かになった。

 おい、いい加減に学習しろよ! 素直なくせに短気でもある。中二病者共は本当に扱いづらい。

「ティレア様に伏してお願い申し上げます。どうかオルティッシオ師団長を信じてください。オルティッシオ師団長は裏切っておりません。邪神軍を寝返るなど根も葉もないデタラメにございます」
「何を言うか! 火のないところに煙は立たんぞ!」
「はい、ストップ! それ以上、騒ぐと実力行使するからね」

 俺が拳を握り威嚇すると、みるみる縮こまる中二病患者共、

 はぁ~料理をして鍛えているとはいえ、俺如きの威嚇でびびるなんて……

 まったく、気の小さいくせに言う事は強気なんだから。

 それから、借りてきた猫のようにおとなしくなった邪神軍の皆を撤収させる。

 よし、とりあえず暴動は治まった。あとは、オルの捜索だけど……

 さてさて、オルの奴、どこいったんだ? まぁ、こんな騒ぎになったのだ、出るに出れなくなっちゃったんだな。

「オルやーい、どこいった?」

 地下帝国にある部屋の一つ一つをくまなく探す。

「迷子の迷子のオルやーい?」

 俺がオルを探して歩いていると、前方からティムが歩いてきた。ティムはなにやら大きな荷物を持っている。

「これはお姉様!」

 ティムが声をかけてきたが、思わず硬直してしまった。

 テ、ティム、どこで揃えた、そんなもん……

 俺の目に飛び込んできたもの……

 ティムはトンカチやら釘やらトゲつき棍棒やら、まぁ、お約束な道具を持っていたのだ。拷問道具一式だね。

「ティム、今から分かりきった質問をするね」
「はい、何でしょうか?」
「その手に持っているもんは何に使うのかな、かな?」
「もちろん、裏切り者のオルティッシオに地獄を見せるためです、お姉様」

 満面の笑みを浮かべてそう答えるティム、

 そこには、一片のくもりもない。

 あぁ――あぁ――あぁ――もぉ――っ、本当に中二病患者って奴はもう!

「お姉様、どうされました? もしや、お気に召しませんか? ご安心ください、お姉様から以前、お聞きした鉄の処女やファラリスの雄牛も用意しております」

 くっ、ティム、よく覚えてたね。そんな雑談でちょろっと話した事なんて忘れてよ。というか、まじで作ったの? あんな恐ろしい道具!

 もうね、反省したよ。中二病患者の前ではうかつに冗談も言えない。

 こういう時、ティムに冷静な友達がいたら止めてくれるのだが、あいにく周囲はティムと同じ思考の奴らばかりである。

 どうしたものか、頭を抱えていると、

「カミ~ラ様!」

 エディムが通路奥からこちらに向かってきた。

 お、エディムがきたよ。エディムも中二病患者だが、ティムよりは常識人である。ティムの暴走に友達として一言、注意をしてもらいたい――って、あれ何だ?

 エディムも何か手に持っているぞ。

「カミーラ様、良いものを見つけました、鈍刀です! これなら一気に殺さずにじわじわと首をぶち切れます!」
「うむ!」
「うむじゃないでしょ!」

 思わず、ティムの後頭部をはたく。

 なんとエディムは錆び付いた切れ味の悪そうな刀を持ってきたのだ。拷問ではけっこうマイナーな道具だと思うが、エディムの奴、よく見つけてきたな。

 って違う!

 錆びている刀って危険なんだよ。誤って手でも切ろうものなら破傷風になるかもしれないのだ。

「お、お姉様?」

 頭をこすりながら怪訝そうに俺を見るティム。エディムも困惑した顔をしている。二人共俺の気持ちなんて全然分からないんだろうな。

「ティム、その物騒な道具、全部こっちに寄越しなさい。没収よ」
「は、はっ、それではオルティッシオの処刑はどうしますか? 二度も裏切ったオルティッシオに拷問は必須と――」
「ティム、オルの事は私に任せて。あなたは部屋に戻って宿題でもやってなさい」
「お、お姉様、宿題とは、学園から出された低レベルの問題ですか? いや、低レベルというのもおかしい、我にとっては問にすらなってない、あのような――」
「ティム、つべこべ言わずやりなさい」
「し、承知しましたお姉様」
「あと、エディム!」
「は、はい、何でしょうか? オルティッシオの処刑なら私が率先して――」
「そういう事は止めなさい。ティムが真似しちゃうでしょ!」
「あ、あのそういう事とは……?」
「いいから本当にもうやめてよね。あなたが持ってきた刀なんて本当に危ないのよ。破傷風って言っても分かんないだろうけど……」

 エディムのほっぺをつねりながら厳しく注意をする。

「ふぉふぉあい、て、てひぃれあひゃさま、もうひゃいわけひゃりません」

 エディムの頬を十分につねった後、二人を部屋に返す。もちろん、拷問道具は近くにいた軍団員のオウホンに捨てさせた。

 さてさて、オルの捜索に戻りますかね。

 それから数十分、地下帝国を探していると、

 次は変態(ニールゼン)に遭遇した。嫌な予感はすごくする。特に変態(ニールゼン)が持っている縄だ。

 あれ、どうするんだろう? 八割がたは想像できてしまうけど……

 俺が近づくと、にっこり笑顔で変態(ニールゼン)が声をかけてきた。

「これはティレア様!」
「ニール、その手に持っている縄は何かな、かな?」
「はっ、これは逆賊オルティッシオを縛るためのものです」
「そう、縛るんだ~それからどうするの?」
「はっ、縛った後は、オルティッシオに忠義のなんたるかを拳で教えます」

 そう言ってシュッシュッと拳をふるう変態(ニールゼン)、ジャブにワンツーと華麗にステップを踏むところが、キザったらしくてムカつく。

「そっか、それじゃあ、ちょっとその縄を貸してもらえる?」
「御意」

 俺は変態(ニールゼン)から縄を受け取ると、縄を両手で引っ張ってみる。

「へぇ~けっこう丈夫なんだね」
「はっ、これは神具、天の縄(エルキドォ)でございます。天界の神ヘラクレスすら拘束したという伝説の縄でございます」
「そう神具なんだ~、すご~い」

 俺は、変態(ニールゼン)をそのままぐるぐる巻きにする。

「テ、ティレア様?」

 よし、こんなもんだろう。あとは……

 俺はぐるぐる巻きにした変態(ニールゼン)をドアノブにくくりつけておく。

「ティレア様、一体これは? ティレア様――っ!」

 うん、そのうち誰か見つけて解放するだろう。

 気を取り直し、オル捜索を再開する。

 すると、今度はドリュアス君に遭遇した。まさかね、うん、信じているよ。知的なドリュアス君だけはバカやらないことを期待したい。

「これは、ティレア様」
「え~っと、ドリュアス君も何か道具を持っているのかな?」
「道具とは?」
「オルに対する拷問道具だよ」
「もちろん、持っております」

 ドリュアス君はそう言って懐から小瓶を取り出してきた。青白い液体が入った得体のしれない小瓶である。

 ここにもバカがいたようだ。

「これは何かな?」
「毒薬でございます。すぐに死には至らしめません。じわじわと苦しめながら殺すにはうってつけのものでございます」

 にこやかに解説するドリュアス君、

 おい、毒薬って……

 ドリュアス君はなまじ頭が良いだけにタチが悪い。 

 ふ~、まったくまったく、こいつらは俺をどれだけ悩ませたら気が済むんだ。

「貸しなさい!」
「はっ」

 俺は苛立ちを隠さずドリュアス君から小瓶を取り上げる。

 森林部族エルフが作った毒薬……

 いったいどんな毒薬を作ったんだよ。

 小瓶の蓋を開け、匂いを嗅いでみる。ぷ~んとアーモンド臭、それに、わずかだがリオニコトキシンの香りがした。

「材料はトリクワガタ、ヤドクガル?」
「さすがはティレア様です。はい、その二つは毒薬の成分の一つです。」
「そう、博識のあなただから分かっていると思うけど、ヤドクガルは猛毒よね?」
「はい、ですのでコロラドハを入れてすぐには死なぬようにしてあります」

 うん、なんかすごい勘違いをしている上に、超危険な事を言ってやがる。

「ドリュアス、これは没収よ」
「は、はっ」

 ふ~我が子房とか言って調子にのせすぎちゃったかな。

 まったく少しは想像しろ、まじで誰か誤って飲んだりしたらどうするんだよ!

 ドリュアスめ、毒薬を作るなんて案外な戯けだったね。

 それから、しばらく地下帝国をくまなく探したのだがオルが見当たらない。

 う~ん、本当にオルの奴、どこいったんだ?

 あとは、階段を降りて地下二階に行ってみるか……

「……様」
「ん、誰か呼んだ?」

 小声で誰かが呼んだ気がしたので、周囲を見渡す。

「ティレア様」

 おぉ、誰かと思えばムッツリスケベのギル君じゃないか! 

「どうしたの? そんなこそこそと手招きなんかしちゃって」
「ティレア様、こちらにオルティッシオ師団長がおります」
「え!? オルがそこにいるの?」
「はっ」

 そして、ギル君に案内されて目の前の居室に入る。

「それで、オルは今、どこに?」
「はっ、こちらに」

 ギルが指し示す先は大きな戸棚であった。まぁ、大きいといっても所詮は戸棚である。大の大人がやっと入るぐらいの空間しかないはずだが……

 俺はその戸棚を開いてみた。

「オ、オル!?」
「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した私は失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗、今や、私は邪神軍の裏切り者だ。バカだ、バカだ、何がティレア様股肱の臣だ、エディム率いる吸血鬼部隊を組下にしたあの日、私はエディムのせいでとばっちりを受けた、失敗した失敗した失敗した私は失敗した失敗、何が原因だ? 使えない部下(エディム)のせい、クソ参謀の横槍、それとも私がうまく御せなかったから、でも私は悪くないクソ参謀が悪いのだ」

 そこには、今にも死にそうな顔で呪詛を吐いているオルの姿があった。
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