第三十一話 「エディムの秘密がばれちゃった(前編)」
ドリュアス君に助言され安心していたんだけど……
うぅ、やっぱり眠れない。
いくら成功すると分かっていてもエディムが命懸けで戦っている時にノホホンとベッドに入って眠る事なんて出来ないよ。
それに何か周囲が騒がしい。
何事かと思って寝室から出てみると、邪神軍の皆がばたばと動き回っているではないか! しかも「焼け野原にしてやる!」とか「一斉砲撃じゃ!」とか物騒な事を言っている。これは只事ではない。軍団員は普段から騒がしい奴らだけど何か鬼気迫るものを感じるのだ。
俺は真相を確かめるべくドリュアス君のもとへと向かう。
「ドリュアス君、一体何が――はぅ!?」
部屋に入ろうとして目に飛び込んできたものは……
な、な、なんと!
ドリュアス君、白装束に着替えて切腹の準備をしているんだよ!
な、なんでそんな事を……?
はっ!? そして思い立った。
ドリュアス君も俺と同じ気持ちにちがいない。エディムを悪鬼討伐に行かせた事を不安に思っているんだ。おそらくエディムが死んだら責任を取って死ぬつもりだろう。友達を死地に追い込んで止めなかったのだから。
「ドリュアス君……」
「こ、これはティレア様! お、お見苦しいところをお見せしました」
「ううん、あなたの覚悟を見せてもらった。悪鬼討伐が失敗してエディムが死んだらあなたも死ぬつもりなんでしょ」
「はっ、軍師たるもの発言には全責任を負わなければなりません」
「……止めても無駄よね?」
「恐れながらお許しを……失態を演じ無様に生き恥を晒したくはありません」
ドリュアス君はそう言って悲愴な覚悟を見せつける。友達を見殺しにしてまで生きたくはないというドリュアス君の熱い友情をひしひしと感じた。
ドリュアス君が責任を感じる事なんてないのに……
俺なんて殺人の指示までしたんだよ。責任で言ったら俺のほうがずっと重い。エディムが死んだら責任をとって俺が死ぬべ――い、いや、無理! 死ぬ事も怖いけどティムを残して死ぬ事が何より恐ろしい。
あぁ、エディムが命懸けで悪鬼を退治しているというのに自分は命を賭けていなかった。俺はなんて自分勝手な奴なんだ……
くそ、こうなれば俺も現場に行く! 戦闘では邪魔になるかもしれないけど、何か手助けする事があるかもしれない。
「ドリュアス君、くれぐれも早まった真似はしたらダメよ」
「し、しかし……」
「いいから、自分で言ってたでしょ。エディムなら必ず成功する。信じなさい」
ドリュアス君に思いを伝え、そのまま部屋を飛び出す。目指すは悪鬼邸、もしかしたらエディムが悪鬼と相打ち、あるいは負けて倒れているかもしれない。そんな時に俺が近くにいれば抱えて逃げ出す事も出来るしね。自分に出来る事は可能な限りやるべきだ。決意を込めてひた走る。
おっとと、その前に一応、止めておいたけど、俺とエディムが戻ってこれなかったらドリュアス君が後追い自殺するかもしれない。
そんな真似はさせるものか!
責任があるのは止めなかったドリュアス君より指図した俺のほうなのだから。
誰かいないか?
地下帝国を探す。周囲はバタバタと忙しそうだ。そういえばドリュアス君の切腹姿に驚いてこの喧騒について聞くのを忘れていたよ。
うーん、誰か……
あ、変態顔を発見!
「ニール、ちょっといいかな?」
「ティレア様、大変です! ドリュアスが魔弾一斉射撃を発動させました」
「バズーカーコール?」
「ティレア様は軍議にご出席されておらず、作戦はご存知なかったと思います」
「うん、初耳だね、いったいそのバズーカーコールって何なのよ?」
「はっ、魔弾一斉射撃は軍団員総出による魔弾での一斉射撃の事です。発動すれば王都は焼け野原になる事必須であります」
「つまりこの喧騒はその作戦のせいで、指示を出したのはドリュアス君って事?」
「はい、何故こんな禁じ手を使ったのか、ドリュアスを問いただす所存でした」
ふむ、あいかわらずの中二言語。だが、翻訳可能だ。変態は中二病で大げさに言っているが、要約するとバズーカーコールとはエディムの仇討ちの事だね。エディムが死んだ場合、悪鬼のもとへ皆で敵討ちに乗り込むって言ってるのだ。
うん、ドリュアス君の気持ちはすごく分かる。だけどそれは悪手だ、皆を巻き込むなんてダメだよ。
いや、待て!
俺は皆の気持ちを分かっているのか? 友達のエディムが殺されたら誰もが悲しみを癒そうと行動するに決まっている。それにエディムが悪鬼討伐に失敗したなら俺が悪鬼の手篭めにされてしまう。それを皆が防ごうとしてくれているのだ。
吸血鬼ですら敵わない巨大な相手に立ち向かう、そんな無謀な作戦に付き合ってくれるなんて……
なんだかんだ言ってエディムはもちろん俺やティムがいかに邪神軍の皆から愛されているかが分かる。
「ティレア様、いかが致しましょうか? このままでは王都は焼け野原、邪神軍の野望も一歩後退します」
「ニール、もちろん中止よ。こんな馬鹿な真似はさせられない」
「御意、すぐに中止命令を出します」
「あ、それと詳しい事は話す時間がないから簡単に言うね。ドリュアス君が夜明けまでに自害するかもしれない」
「な、なんですと!? やはり魔弾一斉射撃と何か関係が……?」
「うん、大有り。ニール、私からの命令は二つ」
「はっ」
「さっきも言ったけどバズーカーコールの中止とドリュアス君を見張ってて。もし、最悪の事態となってドリュアス君が死のうとしたら絶対に止めるのよ」
「承知しました」
「頼んだからね」
後事を変態に託し悪鬼邸へと向かう。夜中で人目につかないのが救いだ。俺は素人である。戦闘でも諜報でも足を引っ張る事は確かだ。だから、悪鬼邸に向かうにしてもどこまで近くに待機していればいいか分からない。
あまり近くだと悪鬼の部下に見つかるだろうし、遠くだとエディムの変事に気づかない。
うーん、どうしようか……?
悩みながら悪鬼邸への順路を彷徨っていると、人影を発見した。
「だ、誰!?」
思わず声を上げてしまう。
や、やば! 声を出すなど悪鬼の手の者だったら迂闊すぎる失態だ。すぐさま、捕らえられてしまう。
「その声はティレアちゃん?」
「え!? もしかしてビセフさんですか?」
「そうだよ。こんな夜中に何をしているの?」
「い、いや、ちょっと用事が……」
まさかのヘタレとの遭遇。お前こそ、こんな夜中に何をやっているんだ? ヘタレの癖に不良に絡まれても知らないぞ。
「ふぅ、誰かと思えばあなたですの」
「げげっ、お嬢までいるの? あなた達こそ何をしているのよ」
ヘタレだけでなくお嬢とまで遭遇するとは……
金髪ぐるぐる髪がトレードマークのお嬢――
名をロゼッタ・プラトリーヌ、金髪ロールのお嬢様であり大貴族ロゼッタ・ストルを父に持つ大富豪の娘である。美食冒険者として活躍していて俺も一目置いている人物だ。お嬢とはちょくちょく料理の事で論争している。いわゆるライバル的存在だ。
「ティレアさん、こんな夜中に感心しませんわね。ここは物騒だから帰りなさい」
「いや、帰れと言われても私にも用事があるんだって」
「ティレアちゃん、その用事って何だい? この近くには危険な奴がいてね、本当に危ないんだよ」
「悪鬼でしょ。知っています」
「ならどうして近づいたりするの! 噂は本当だよ。あいつは女と見れば見境なく襲う危険人物だ」
「うん、その悪鬼がねぇ……」
「ま、まさか、悪鬼に呼び出されたの! そんな素直に従ったら相手の思う壺だ。怖いのは分かるけど言いなりになってはだめだよ。俺が守ってやるから」
ヘタレが真剣な顔つきで俺の肩を掴み揺さぶってくる。うん、気持ちは嬉しいが悪鬼と対峙してもまた気絶するのがオチなんじゃないか……?
「ビセフさんの言う通りですわ。悪鬼の事なら問題ありません。私達で何とかします。ティレアさんは一応、田舎に避難しておきなさい」
「もしかしてお嬢達、悪鬼討伐をしようとしている?」
「本当は秘密なんだけどティレアちゃんは魔族撲滅忠信会のメンバーみたいだし、説明しておくね。魔族撲滅忠信会は今、レミリア様の奪還部隊と悪鬼討伐部隊に分かれて行動している」
「え!? そんな事しているの? 聞いていないよ」
「ティレアさんは諜報員でしかも一般人だから内緒にしてましたの」
「そう、ティレアちゃんを巻き込みたくなかったからね。でも悪鬼に呼び出されたのなら少なからず当事者だ。作戦を知っておいて欲しい。俺達は悪鬼の暗殺ないし邸内に潜入して情報収集を目的に動いているんだ」
なるほど、レミリアさんが捕まったからおしまいだと思ったけど、魔族撲滅忠信会もなかなかやるね。これなら俺の出番はないかな。下手に素人がしゃしゃり出るよりプロに任せたほうが良い。ヘタレは不安だがお嬢は美食冒険者として名高い実績を持っている。ぜひ、エディムのサポートをして欲しい。
「ビセフさん達の目的は分かりました。うん、実は私、悪鬼に狙われています」
「やっぱり! 俺が守ってやるよ」
「ありがとうございます。ですがこの件に関しては私の友達が動いてますから」
「それは危ないから止めさせなさい」
「それが……実はもう事態は深刻で現在、その友達が悪鬼邸に殴り込みしてます」
「え!? なんて無茶な事を!」
「いや、だから私も心配になって見に来たという次第で……」
「あ~もうあなたって人は……どこまでお馬鹿ですの! 素人のあなたが来ても何も出来はしませんわ」
「うん、だからお嬢達にその子のサポートをお願いしたいんだけど……」
「もう……作戦が台無しですわ。その友達はどういう人なんですの?」
「あ~魔法学園の生徒で……」
「はぁ? あなた学生を悪鬼にぶつけたんですの! 確実に死にますわよ」
「い、いや、学生といってもただの学生じゃないよ。すごく強いんだから」
「強いといっても学生レベルでは悪鬼の足元にも及びませんわ」
「い、いや、本当に……」
「ティレアちゃん、もういいよ。その子が本当に強いなら身を守る術を知っている。下手に強敵と対峙しないはずさ。俺達で何とか合流して救ってみせるから」
ヘタレが男前なセリフを言い放つ。お嬢も文句は言うものの、俺の友達を心配している様子だ。救出するためのプランを練り始めた。まったく素直じゃないんだから、このツンデレが!
「それじゃあ俺は右から攻めよう」
「わたくしは悪鬼に召し出された女に扮して中に入りますわ」
うんうん、冒険者が本気になれば怖いものはない。ヘタレはともかくお嬢がきっと何とかしてくれる。
しばらく二人が作戦タイムに興じていると……
「ん!? だれか来ますわ」
お嬢が気配を察知したらしい。作戦タイムを中断し、後方に注意するように呼びかける。
振り向くと確かに走り寄ってくる影があった。
「も、もしかして悪鬼の手の者?」
「ティレアちゃん、早くこっちに隠れるんだ!」
俺はヘタレに誘導されて近くの茂みに隠れる。うぅ、こんなところまで斥候を放っているとは悪鬼の警戒の高さが窺える。
しばらく茂みに隠れていると、目が暗闇に慣れてきたみたいで、走り抜ける人が視認出来るようになった。
「誰だろう――ってエディム!?」
「これはティレア様」
おいおい、グッドタイミングじゃないか! 彼女の安否を心配していたら向こうから現れてくれたよ。俺はエディムにかけよりそっと抱きしめた。
「無事で良かった。エディム、苦労をかけたね」
「ティレア様、そのお言葉を頂くだけで私は……私は……」
おぉ、なんかエディムが感涙している。よっぽど酷い目にあったのね。まるで誰からもフォローされず孤軍奮闘したみたいな感じだ。
おいおい、エディムのこの態度……オルはちゃんとサポートしたのか?
あれ!? そういえばオルがいない、別行動かな?
「その子がティレアさんの友達ですの?」
俺とエディムの様子に悪鬼の手の者でないと分かったのだろう、お嬢達が茂みから姿を現した。
「うん、そうよ、彼女が私の為に悪鬼邸に乗り込んでくれたの」
「そっか、無事で何より。でも、引き返してきてくれて良かったよ。本当はもうダメなんじゃないかと思ってたんだ」
「ティレア様、この者たちは?」
「彼らは――ってエディム、今、気づいたけどその手に持っているのは何かな?」
「はっ、お確かめください」
そう言ってエディムがぱらりと布で覆っていたものを開ける。
ひょええええ!
それは、な、なんと!
かくも恐ろしい悪鬼の生首であった……
その生首は、ぎょろりと睨み、断末魔をあげているようで、まさに悪党の末路に相応しい形相である。
「た、確かに悪鬼の首ですわ。あの鬼畜の顔は忘れません」
「し、信じられぬ。伝説の悪鬼を学生が討ち取ってくるなんて……」
ヘタレとお嬢が愕然としている。俺もちょっとびびっているよ。自分で言っておいて何だけどエディムってやっぱりすごいんだね。
「あ、あなた本当に悪鬼を討伐してきたんですの!」
「そ、そうだね。俺もにわかに信じがたい。だれか他の人が討ち取って倒れた悪鬼の首を取ってきたとかじゃないだろうね?」
「な、何を言っているんですか! 私の友達はそんな泥棒みたいな事はしません。ビセフさん、それが命懸けで頑張ってくれた者に対する態度ですか!」
「でも、実際彼女の魔力は微々だよ。魔法学園の生徒というのも怪しいぐらいだ」
「そうですわ、ティレアさんのお友達を悪く言いたくはありませんが、功名心にかられて嘘をついているようにしか思えません」
く――っ、なんて腹立つ物言いだ! 俺の友達を馬鹿にするな! エディムは俺の為に命をかけて頑張ってくれたんだぞ!
エディムの行為は、賞賛すべき事であり非難される覚えは無い。
「エディム、あなたの気が微弱と言われているよ。まったく讒言もいいとこよね」
「はぁ、魔力は普段抑えてますゆえ」
「そう、それならエディム、あなたの名誉がかかっているわ。ほら、気を解放するのよ。目にものを見せてやりなさい」
「あ、あの私には何が何やら……」
「いいから、全力であなたの力をこの石頭達に見せつけてやりなさい」
「よろしいのですか?」
「いいに決まっている」
「わ、分かりました。それでは魔力を解放します……はぁあああああ」
おぉ、俺にはよく分からんがエディムの戦闘力が上がったみたいだ。大地が少し震えていないか? 魔力のオーラーが周囲に圧力を与える。
たしか前に聞いた時、エディムは魔力万を超えていると言っていた。この調子だと一万五千ぐらい行ったかな?
「どう? これでもエディムを嘘つき呼ばわりする気?」
「な、なんて魔力ですの……」
お嬢が驚愕している。やはり吸血鬼の力は伊達じゃないらしい。これでエディムの力を信じてもらえるだろう。
「あなた達、悪鬼討伐はエディムがやったって分かってくれた? 手柄の横取りとか本当に心外だよ」
「……」
「ん!? どったの?」
おい、何とか言えよ! 「わたくしが悪かった」とか「エディムさん、素敵!」とか「エディムちゃんに稽古をつけてもらおう」とか色々あるでしょうが……
「き、危険ねぇ」
「あぁ、これほどの力、レミリア様級でないと誰も止めることが出来ない」
さっきからこの二人何を言ってんの? 「止める」だの「危険」だの、脅威は去ったんだよ。悪鬼を倒し平和が訪れた。もっと明るく行こうよ。
「君達、さっきから暗いぞ! ほら帰ろう。そうだ、二人ともお店に寄ってきなよ。心配かけたお詫びにご飯をおごるから」
「ふぅ、あなたのその能天気さは美徳なのかしらね」
「何言っているんだ。ティレアちゃんはあれだからいいんじゃないか!」
む! ひょっとして俺を馬鹿にしている? カチンときたよ。
「二人とも失礼なんじゃない。とにかく戦いは終わったんだよ。さぁ、帰ろう!」
「待ちなさい。まだ終わってませんわ」
「あぁ、確かめたいことがある」
「もうね、いい加減に――」
「エディムといいましたね。あなた本当に人間ですの?」
え!? も、もしかしてやり過ぎちゃった?
せっかく吸血鬼騒動はうやむやになっていたのに……
あぁ、俺の間抜け!
あばばばば、ど、どうしよう?
悪鬼騒動ですっかり油断していたよ。エディムは指名手配の身だったのだ。
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