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ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

3章 群雄割拠編

第二十九話 「参謀ドリュアスの苦悩(後編)」

「テ、ティレア様、お休みになられたのでは……」
「ううん、とても眠れる状況でなくてさ」

 ティレア様が落ち込まれておられる!?

 くっ、お悩みはやはり密命の事だろう。主が悩み苦しんでいる、このような時に助力出来なくてどうして邪神軍軍師といえようか!

「ティレア様、私に出来る事があれば何でもお言いつけくだされ、非才の身なれどティレア様のお悩みを軽くしてさしあげましょう」
「ふぅ、何でもないのよ」

 な、なんという事だ……

 明らかに私に隠し事をされている。軍師として信頼されていない。

「このドリュアスめでは頼りになりませんか?」
「ち、ちょっとドリュアス君!?」
「非礼をお許し下さい、ですが言わせて頂きます。ティレア様、私ではあなた様のお役に立てないのでしょうか?」

 主に詰め寄り、お気持ちを問う、無礼な振る舞いと分かりつつも抑えられない。敬愛してやまない我が主に見限られたのではないか……?

 不安で胸が押しつぶされそうになる。私はティレア様御為だけに存在するのだ。もし、ティレア様が私を不要とご判断されたのならそれは致し方ない事だ。ご信頼を勝ち取れなかった私の不徳の致すところ、即座に自害しよう。

「ドリュアス君、ごめん、確かに今悩んでいる。でも言えない、言うとあなたに迷惑をかけるから」
「なっ!? ティレア様、それはあまりにもご無体なお言葉です。私を信用出来ずに秘匿しているのなら分かります、ですが私を気にかけて秘匿しているだけならお止めください」
「そうは言っても……」

 なんという事だ、私が気を使われていたとは……

 私はカミーラ様から完璧無比な軍師として生み出された。一度でも采配ミスをしようものなら私の存在意義は失われる。その時はきっと自害しているだろう。

 そうか! だからティレア様はあまり私にご命令を出されなかったのだ。私が存在意義を失って死ぬのを防ぐために……

 部下思いのティレア様らしい振る舞いだ。だが、それはティレア様が私の能力を不安に思われているからこその言動ともいえる。
 くっ、まだまだ私の努力が足りなかったのだ。もっともっと力をアピールしてティレア様をご安心させなければならない。

「ティレア様、私はあなた様の為、邪神軍に全てを捧げておりまする。どうか私の事は気になさらずお心のままに」
「……そうだよね、あなたは邪神軍、仲間の事をとても大切にしているんだった。そんな人に隠し事なんて水臭かったよね」
「いえ、ティレア様は何も間違っておりません。全ては信頼されない私の未熟さがいけないのです」
「ううん、こんな大事な事、頭のいいドリュアス君に相談しないでどうするって言うんだ。私の判断ミスで取り返しがつかない事になるかもしれないのに……」
「おぉ、勿体無きお言葉! 不肖、このドリュアス全知全能を持ってティレア様のお悩みを解決してご覧に入れまする」

 そしてティレア様は密命の内容を話された。

 「悪鬼討伐」

 なるほど任務自体はさほど難しいレベルではない。むしろ簡単な部類である。
 だが、ティレア様が先程から懸念されておられるのはエディムの命の事だ。部下であればあんな半魔族ですら心配するティレア様のなんと懐の深い事か……

「ティレア様、お話は分かりました。悪鬼、確かに人間のレベルでは最強を欲しいままにしているかもしれません。だが、所詮は貧弱な人間、魔族の敵ではありません。エディムの力の前に一蹴される事でしょう」
「本当に? エディムは吸血鬼だけど、もともとは普通の人間だったんだよ。経験とか足らないだろうし敵の悪辣な罠にかかったりしたら……」
「ティレア様、魔族はそこまでやわな存在ではありません。半魔族とはいえそれはエディムも同じです。人間が仕掛けた小ざかしい罠など食い破ってみせるでしょう。それにオルティッシオめもサポートするのであればエディムの経験不足は十分に補えるかと……」
「うん、でも頼んだ自分が言うのも何だけどオルのサポートで大丈夫かな?」
「ティレア様が不安に思われるのは十分に分かります。なにせ奴は軽薄で馬鹿で猪突猛進な所が多々ありますから」
「やっぱり」
「ただ、奴は腐っても邪神軍幹部です。今回のケースでは問題ありません」
「そうなんだ」
「御意、他に気になる事はございますか?」

 それからティレア様は不安に思われている事を次々とご質問された。私は現在の情勢、戦力を冷静に分析し、そのどれもに丁寧に回答していったのだ。

「うんうん、さすがドリュアス君、なんか大丈夫のような気がしてきたよ」
「これからもティレア様のお悩み、このドリュアスが解決してしんぜます。どうかご安心ください」

 ティレア様は私の言葉に頷き、随分と明るくなられた。これはお悩みを解消されたに違いない。私の言葉を信頼してくださった証である。思わず感涙しそうになった。これで私はティレア様の子房になれたであろうか……

 そして、ティレア様はいつものご調子が戻られたようで私に向けて決めポーズをとられた。

「ではわが子房ドリュアスよ。こたびの悪鬼討伐成功間違いなしか?」
「然り、夜明けまでには悪鬼の首を討ち取ってくる事でしょう」

 ティレア様は私の言を聞き、ご満足の様子で寝室に戻られた。

 ふふ、私の言葉がティレア様の安心材料になったのである。バカティッシオには嫉妬で怒り狂いそうだったが、思いがけずいい方向に転がった。今回の悪鬼騒動で私の力をアピールする良い機会になったのだ。


 数時間後、地下帝国に降り立つ足音が響く。

 オルティッシオか……

 少し早い気もするが悪鬼の首を討ち取ったのだな。忌々しい奴だが、今回だけは労いの言葉をかけてやろう。

 私は参謀室を出るとオルティッシオがいるところへと向かう。

「オルティッシオ、よくや――」
「あ、あの~参謀殿、実は……」

 なんだ!? ドヤ顔で勝ち誇った顔を予想していたのに……

 オルティッシオは悲愴な表情を浮かべている。それにこの恐れの入った声色、こ、こいつ、まさか……

「オルティッシオ、どうしたのだ? 早く悪鬼討伐の成果を報告しろ!」
「はて? 参謀殿はティレア様の密命の内容を知っておられるのですか?」
「知っておる。先ほどティレア様からお聞きした。ティレア様は勿体無くもお前達の事をすごくご心配されておられた。だから私は『万事問題無し』と伝えてある。さぁ、勿体ぶらずに報告しろ!」
「そ、それがですね……」
「オルティッシオ、もしや討ち漏らしたとかぬかすのではないだろうな?」
「め、めっそうもございません。私が人間如きに遅れをとるなどありえません。しくじったのはエディム――」
「貴様ぁ――ッ!」

 思わず激昂し、オルティッシオの胸倉をつかみ投げ飛ばす。そして、地面に転がりのたうち回るオルティッシオの顔を踏みつける。

「オ~ルティッシ~オ、貴様はサポート役だろうが! 不測の事態に備えるのが貴様の役目だ。あんな半魔族に事の大事を任せたきりだったのか!」
「で、ですが役割はティレア様がお決めに――」
「貴様! 事もあろうに己の失敗をティレア様のせいにするつもりか!」

 オルティッシオの無礼千万な言い訳に踏みつける足に力が入る。

「ぐあぁ――ッ! ち、違います、はぁ、はぁ、そういう意味では――」
「オルティッシオ、心して聞け。この密命、失敗したら私は自害せねばならぬ!」
「えっ!? な、何故ですか?」
「お前達が失敗したら私は我が君に虚言を吐いた事になるのだ」
「そ、そんな軍師の采配ミスなどいくらで―――ぐはっ!」

 オルティッシオのいい加減な物言いに踏みつける足にさらに力を入れる。

「オルティッシオ、私は年中チョンボを繰り返す貴様と違い、完璧な家臣であらねばならぬ。カミーラ様もそう願い私をお作りになった。ゆえに一度の失敗も許されぬのだ」
「ひぃいい、わ、分かりました。悪鬼の首は必ず持ってきます」
「本当だろうな? もう王都の外へと逃げられたとか言わせんぞ」
「そ、それは大丈夫です。王都の外へと通じる門にはもともとエディムの眷属が滞在しておりました。エディムがその眷属と連絡を取り、そこから出た者はいない事を確認しております。悪鬼はまだ王都の中にいるという事です」
「ふむ、それでは悪鬼を逃がさないようにしているのはエディムの手柄ではないか、お前は何をやっている?」
「そ、そんな私は大々的に包囲網を敷いております。私のおかげで悪鬼の居場所が分かるはずです! 何故エディムが――」
「もういい、貴様が何を言い訳しても構わんが夜明けまでに必ず悪鬼の首を持って来い。さもなくば貴様を最大級の不忠、無能者としてさらし首にしてやる!」
「わ、分かりました、ただ、ベルナンデスを――」
「なんだ? まさか諜報部隊の助力が欲しいのか? 私が『二人で問題ない』と言ったは私の助言ミスだとでも――」
「い、いえいいえいえ、そんなことはありません、やれます。エディムと私で奴の首を討ち取ってきます」
「ならさっさと行け! 次の報告は悪鬼の首も持参する事だ。このような中間報告は二度とするな!」
「は、ははっ」

 オルティッシオは血相を変えて外へと飛び出していった。

 はぁ、なんという失態だ、私の頭脳もまだまだだ。バカティッシオの暴走癖を考えればこういうリスクもあると考えるべきであった。

 私もまだまだ経験が足らないという事か……

 とりあえずオルティッシオの尻は叩いた。これで成果をあげないようであれば即刻処刑してやる。最大級に貶めて殺してやるから覚悟しておけ!

 私も最悪の事態を考えておくか……

 ティレア様が以前、お話されていた侍の「切腹」という儀式、「にほん」で武人が過ちを犯した時の責任の取り方だという。
 私もそれに倣うとしよう。このような失態をした時に備えて、用意していた白装束に着替える。夜明けまでにオルティッシオが悪鬼の首を持ってこなければ腹をかっさばいて自害するつもりだ。

 死は怖くない。だが「我が子房」とまで信頼してくださった私の失態、ティレア様は落胆されるに違いない、それだけが心苦しい。

 切腹用の小刀を手に取り腹に添える。

 あと、思い残す事は……

 そうだ! オルティッシオが失態した際は私が最後の尻拭いをせねばならない。悪鬼の首は私が取る。ついでに人間如きに失敗した不出来な部下共も処刑しよう。

 私はベルナンデスを呼び出す。

「ドリュアス様、ただいま参上しました」
「ベルナンデス、緊急指令を発する」
「はっ」
「まず、私亡き後はこの書類の指示に従って行動するのだ」
「えっ!? それはどういう――」
「いいから明日以降、私がいなければその指示に従うのだ」
「ぎ、御意」

 私はベルナンデスに作戦総本部の作戦命令、後任人事、オルティッシオの処刑方法等、私亡き後の指示について記載した書類を渡す。

「次に、魔弾一斉射撃(バズーカーコール)の発動を命ずる」
「なっ!? ほ、本気ですか? 本当に王都を焼け野原にしても宜しいのですか!」
「無論、これは邪神軍総参謀としての指令である。夜明けをもって開始しろ。私の中止命令が来ない限り必ず実行するのだ」
「は、ははっ」
「蟻の子一匹逃すではないぞ」
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