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ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

3章 群雄割拠編

第二十一話 「悪鬼抹殺指令、殺す覚悟を決めちゃった」

「「ティレア様、お召しにより参上しました」」
「よくきてくれたわね」

 エディムとオルが扉の前で佇んでいる。これから人を殺して来いなんて言われるとは夢にも思っていないでしょうね。殺す相手が極悪人とはいえ、こんな事を言ったら軽蔑されるかもしれない。二度と友達には戻れないかもしれない。でも、それでもティムを守るためにはこうするしかない。国家が悪鬼を放置しているのなら身にかかる火の粉は自分ではらわなければならないのだ。

 悪鬼は暗殺するしかない。でも、本当に暗殺なんて成功するのだろうか? 相手はあの伝説の悪鬼だ。その悪行もさることながら戦闘の実力も天下一品なのだ。悪鬼の強さを表すエピソードは枚挙にいとわない。

 例えば、ある高名な魔法学者が悪鬼をこう評した。

 もっとも効果的な、かつ破壊に満ちた魔法を作りあげた人間は誰か?

 一騎で千人を駆逐したヴェン・ヴェートだろうか……

 常勝将軍を掲げたシューメントか……

 それとも、生涯無敗を貫いたミヤムー・サッシか……

 もちろん、古今東西全ての人物を知るわけでないが、知っている範囲で良いというなら答えは決まっている。

 それは、サム・ゴードンだ。

 ほかにも「サム・ゴードンの強さは言葉で言い表す事が出来ない」とか「サム・ゴードンの呪文には一字一句無駄がない」とか聞いているだけでその強さが規格外だという事が分かる。

 ふむ、考えてみると俺はエディム達に無謀な挑戦をさせようとしていないか?

 ……いや、だ、大丈夫、大丈夫。

 オルの実家は大貴族、この地下帝国を作り上げるぐらいの有力貴族だ。そしてエディムは吸血鬼、その力は普通の冒険者を凌駕する力を持っている。二人が協力すれば闇に紛れて悪鬼を暗殺するぐらい出来るよ。

「ティレア様……?」

 いかん、俺がずっと無言でいるから二人が不審がっている。

「あ、あのね……実は……」
「はい」
「うぅ、だめだ、やっぱり言えないよ」

 だってエディムとオルが一点の曇りのない目を俺に向けてくるんだもの。全幅の信頼ってやつだ。こんなに信頼してくれている仲間に血なまぐさい犯罪行為を頼めないよ。

「ティレア様、どうされたのですか?」
「い、いやね……頼みたい事があるんだけど、あなた達に申し訳なくて……」
「ティレア様、そんなお気遣いなど無用です。どうぞ遠慮なくご命令ください」
「エディムの言うとおりです。非才な身なれどティレア様の御為に粉骨砕身で仕える所存です」

 エディムやオルがそう言ってくれるが……

 甘えてもいいのだろうか? おそらく俺が現状を説明し「助けてくれ!」と頼んだら二人はきっと首を縦に振ってくれる。こんな良い奴らを巻き込みたくない。オルもそうだが、エディムは特にこういう血なまぐさい事から遠ざけておきたい。なんたってエディムは今までさんざん国家から追い立てられて苦しい思いをしてきたのだから。やっとやっと人間らしい生活をしているところに、こんな暴力行為を持ち込むなんて……

 やっぱり二人には隠しておくべきか……

 いや、だ、だがそうなると俺やティムの身が危険なのだ。ティムの危険を取り除くにはこの二人の協力が必須不可欠なのである。

 うぅ、どうしよう? 俺がジレンマに苦悩していると、

「エディム、どうやら覚悟を決める時がきたようだ」
「えっ? それはどういう事ですか?」
「緊急の呼び出し、しかもここに来る事を誰にも知らせぬなとのティレア様の厳命であった」
「はい、そうでしたね、特にカミーラ様には気づかれないようにとの事でした」
「そう、それらを加味し、ティレア様がここまで言い淀む命令など一つしかない」

 オルが神妙な顔をして思わせぶりなセリフを吐いている。おぉ、オル、あなた超能力者にでも覚醒したのか? 

 俺の言いにくい事を察する事が出来るなんて……

「それでオルティッシオ様、ティレア様が言い淀む命令とはなんなのですか?」
「決まっておろう。カミーラ様の排除だ」
「「はぁ?」」

 俺とエディムのすっとんきょうな声が重なる。

 な、何言っているんだ、こいつ? とうとう頭がおかしくなったのか?

「そ、そんな……どうしてティレア様がカミーラ様を排除するのですか!」
「エディム、邪神軍の覇道の為には命令の一本化は必然だ。現在、カミーラ様の権限が大きく逸脱しティレア様の領域を侵しておられるのだぞ」
「そ、そんな嫌です。私はカミーラ様を裏切るような真似は出来ません」
「エディム、それ以上言うな! うぅ、わ、私だって辛いのだ」
「でしたら……」
「だまれ、邪神軍の為に耐えぬか! ティレア様とて苦渋の決断を――」
「オル! いい加減にしなさい! それ以上、愚かな事を言うようならその口を引っこ抜くわよ」
「ひ、ひぃ、も、申し訳ございません」
「あなたねぇ~私がティムを害するような事をするわけないでしょ! まったく、あまりの言葉に呆然としちゃったよ」
「ティレア様、それではカミーラ様抹殺の指令ではないのですね?」
「当たり前でしょうが! 冗談にしてもタチが悪い」
「そ、それではティレア様が言い淀むご命令とは何なのでしょうか? 人払いをするほどであったので、てっきり……」
「はぁ、ティムは関係ない。人払いしたのはあんた達二人だけに頼みたい事があったからよ」
「そうですか、安心しました」
「安心って……今から頼む事であなた達は犯罪者――」

 いや、犯罪者になって牢屋に入るぐらいでは、こいつらのことだ、事の重大性を理解しないに決まっている。もっと、踏み込んで言わなきゃいけない。

「コホン、今から頼む事であなた達は死ぬかもしれないのよ」

 俺の物言いにキョトンとする二人。どうやら俺の頼みごとの内容が予想外だったらしい。そうよね、普通は命懸けの頼みごとなんて聞いたら引いちゃうよね。

「あ、あのティレア様、それはたんに危険な任務を遂行しろという事ですか?」
「そうよ。『たんに』という言い方が軽く聞こえるけど、生存率五パーセント、生きるか死ぬかよ」
「ふっふっふ」
「ど、どうしたのオル、急に笑い出しちゃって」

 危険な任務って聞いて恐怖で狂ったか、オル。

「ティレア様、このときを待っておりました。不肖オルティッシオ、ティレア様のために命を惜しみませぬ。ぜひともその任、お受けしとうございます」

 あ~なるほど危険な任務と聞いて中二病がくすぐられたか。でもね、これは遊びじゃない。本当に危険なんだから。この馬鹿にリアルを教えてやらないとね。

「オル、まだ事の重大性が分かっていないようだから教えてあげる」
「御意」
「悪鬼ことサム・ゴードンって知っている?」
「い、いえ、知りませぬ」
「そっか、まずはそこから説明がいるか」
「あ、あのティレア様、サム・ゴードンについては次の軍議で議題にしようと思ってました」
「エディムは悪鬼を知っているのね」
「はい、もともと私は人間ですので有名なサム・ゴードンについて知ってました」
「それじゃあその悪鬼が今、王都で悪さをしているのも知っている?」
「はい、愚かにも邪神軍の陣営を侵食していっている事を苦々しく思っておりました。排除しようと思いましたが、先走りせず一応、軍議で議題にしてからと思ってましたので」

 そっか、エディムは眷属達のネットワークがあるから情報を知っていたんだね。悪鬼達の所業を見てエディムも苦々しく思った。そして、悪鬼を何とかしようと思って軍議、つまりドリュアス君に相談しようとしていたのね。

 うん、心優しいエディムらしい。でもね、軍議をするということはドリュアス君だけでなくティムも巻き込む事になるんだよ。悪鬼への対処法が殺人しかない以上、巻き込む人は少ないほうがいい。

 つまり、軍議は出来ないという事だ。エディム、オル、ごめんなさい。これからあなた達だけを巻き込んでしまう。もちろん、エディム達に危険な行為をさせておいて、俺だけ知らん顔は出来ない。戦闘では足でまといになるから悪鬼の屋敷にはついていけないけど、せめて殺人教唆という共犯にはなる。

 俺は覚悟を決めて、二人を見据える。

「エディム、オル、危険な任務というのはあなた達にその悪鬼を殺してほしいの」

 またもやキョトンとする二人。今度こそ、本当に困惑しているみたいだ。当然だ。いくら極悪人とはいえ、人を殺してこいと言ったのだから……

 軽蔑したかな?

 でもね、でもね、やむにやまれぬ事情があるんだ。今から事情を――――

「あ、あのティレア様」
「な、なに?」
「任務は要するにサム・ゴードンの抹殺ですよね?」
「えぇ、そう。エディムに暗殺、オルにそのサポートをしてもらおうと思っている。もちろん、無理強いはしない。これは危険な頼みだからね」
「あ、あのお待ちください。別に危険というほどではないと思いますが、むしろ簡単な部類かと……」

 エディム、どうやら殺人に対する嫌悪感はないみたいだ。まぁ、相手は極悪人だしね。エディムは眷属を通して俺以上に悪鬼のむごい所業を知っているのかもしれない。もしかしたら軍議でも殺害を主張するつもりだったのかな?

 とにかく、倫理観についてはひとまず置いておく。問題にしたいのはエディムが本当に悪鬼を暗殺する事が出来るかという話だ。なんで、エディムはそんなに自信があるんだろう? いくら吸血鬼の力があるとはいえ相手は伝説の悪鬼なんだぞ。

「エディム、あなたが吸血鬼の力を以て(スーパー)エディムになっているのは知っているわ。でも、相手は伝説の悪鬼よ」
「はい、でも相手はたかが人間です」
「ま、まぁ、そうだけど、相手は一流の魔導士、それに悪鬼は自分が各方面から恨みを買っている事を自覚していて屋敷を要塞化しているらしいのよ。城壁値百はあるにちがいない。きっとかたいわ。それに、取り巻きとして大勢の傭兵を雇っているから多勢に無勢よ」
「ティレア様、傭兵を雇っているといっても屋敷を警護しているのはせいぜい数百といったところでしょう。恐れるに足りません」

 まだ、エディムの自信が揺らがないぞ。

 な、なんでそこまで……

 はっ!? まさか眷属全員で戦闘をしかけようと思っている?

 だ、だめよ。そんな皆を巻き込んだやり方は犠牲が大きすぎる。あぁ、でも、エディムの命が危ないんならしょうがない事なのか……

「エディム、もしかして眷属達も一緒に悪鬼と戦争しようと思っている?」
「いえ、眷属全員を出撃させていたら騒ぎが大きくなりますし、少なからず手駒を失う事になります。問題ありません。私がひそかに潜入して寝首をとってきます」
「本当に出来るの?」
「はい、自信はあります。それにオルティッシオ様がサポートに回るのであればもはや過剰戦力といってもいいぐらいです」
「ティレア様、エディムの言うとおりでございます。わが第二師団もサポートに回るのであればよもや敵を討ちもらす事はないでしょう」

 眷属無しでも可能というエディム、なんて自信だ、でもエディムに頼るしか方法がないのも確かだ。信頼するしかない。
 あと、オルも自信満々だね。まぁ、オルは中二病特有のただの強気な発言なんだろうけどね。あぁ、なんかオルに頼むのは不安になってきたぞ。でも、オルの家の力は借りておきたい。政治的な力も必要になってくる時があるはずだ。

「エディム、オル、分かったわ。あなた達を信頼する。こんな事を頼んで申し訳ないけど、無事に帰ってきて!」
「「ははっ、勿体無きお言葉、必ずやゴードンの首を討ってご覧に入れます!」」
「あと、オル、くれぐれもご両親には宜しく伝えておいてね」
「はぁ、親といいますとマミ――」
「あぁん?」
「ひぃ、な、なんでもありません、はい、宜しく伝えておきます」

 ふぅ、またオルがマミラと言ってふざけようとしていた。こんな大変な時でも中二病はスタイルが崩れないね。こんな調子で悪鬼討伐は大丈夫なんだろうか?
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