挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

3章 群雄割拠編

第十三話 「家族会議再び!? 母さんがやってくる」

 今日、王都に母さんが来る。なぜ、こんな急に母さんがやってくるのかといえば近況を知らせた手紙のせいなのだ。俺は定期的に母さん達に手紙を送っている。父さんも母さんも子供達だけで王都で暮らす事にすごく心配していたから、小まめに手紙を送って安心させていたのだ。その手紙のやり取りの中でつい店の経営について愚痴を書いてしまった。

 すると、母さんが「店の帳簿を送ってくれ」と手紙に書いてきたから帳簿を送ったんだけど……

 なんかそれがまずかったらしい。

 急遽、母さんから王都に来ると連絡があって、今、ヘタレ(ビセフ)が母さんを迎えにいっているのだ。なんか母さん、手紙では切羽詰まったような感じだったけど、杞憂なんだよね。もう、店の経営については問題ない。ドリュアス君のアイデアのおかげで店も持ち直すはずだ。母さんが心配するような事はないのに……

 まぁ、いいや、久しぶりに母さんに会えるのだ。楽しみな事には違いない。で、そろそろ着くと思うんだけど……

 すると、遠くから馬車の音が聞こえてきた。

 もしかして……

 店の外へと飛び出す。そこには馬車から顔を出す懐かしき母さんの姿があった。

「母さん!」

 思わず母さんのもとへと駆け寄り抱擁する。

「ティレア、久しぶりね。元気にしてた?」
「うん、私もティムも元気だよ」

 ふぁあ、母さんだ、久しぶりに甘えちゃうぞ。母さんのお胸にすりすりする。わぁい、柔くてあったかい。それに懐かしい母さんの匂いだ。くんくん。

「や、やぁ、ティレアちゃん、久しぶり!」

 母娘のスキンシップ中にヘタレ(ビセフ)が割り込んできた。まったく、空気読めっての! 俺と母さんの憩いの時間だよ、タイミングを見てよね。つい恨めしげにヘタレ(ビセフ)を見る。ヘタレ(ビセフ)は睨まれると思っていなかったのか、困惑顔で狼狽えていた。

 ふむ、少し可哀想か、よくよく考えたらヘタレ(ビセフ)は身銭を切って母さんの送り迎えをしてくれたのだ。そこに下心があるかどうかは別にしてお礼ぐらいは言わないといけないね。

「ビセフさん、母さんを迎えに来てくれてありがとうございます」
「いやいや、大した事してないよ」
「そんな事ないです。助かりました」
「いいって、いいって。どうせ、俺は王都に来る用事があったしね」
「用事?」
「あぁ、実はね、俺も王都に住む事になったんだ」
「えぇ、そうなんですか!」
「ふふ、驚いたかい。これから何か不安な事があればいつでも俺を頼ってくれていいんだからね」
「はは……そうですか」

 ヘタレ(ビセフ)よ。てめーの正体はばっちり分かっているんだ。なにが悲しゅうてあんたを頼らなくてはならぬ。もうね、あんたに頼るぐらいなら自分で解決したほうが全然ましなのよ。

 俺が冷めた眼でヘタレ(ビセフ)を見ていると、

「ビセフさん、本当にありがとうございます。娘の事、宜しくお願いします」

 母さんがヘタレ(ビセフ)にお礼を言っている。なんかそのセリフ、ヘタレ(ビセフ)のところに俺を嫁に出すみたいだから勘弁してよ。

「お義母さ――ゴホン、セーラさん、任せてください。ティレアちゃんとティムちゃんは俺が守ります」

 おい、今、なんて言おうとした? もう俺の夫気取りか! 

 ――――って母さんも未来の息子みたいな眼をヘタレ(ビセフ)に向けるのはやめてくれ。ヘタレ(ビセフ)が勘違いしちゃうでしょうが!

 それからヘタレ(ビセフ)は俺と親公認の仲になったと思ったのか上機嫌で出て行った。ヘタレ(ビセフ)よ、今後もし勘違いした行動を取ろうものなら容赦なく鉄拳を振るうから。

  そして、しばしの母娘の抱擁後、母さんが本題を切り出してきた。

「ティレア、帳簿は見せてもらったわ」

 母さんがすごいため息をついている。きっと「借金はどうするの?」って感じなのだろう。だが、店の事は策があるのだ。安心させてやらないとね。

「ま、まぁ、ちょっと足が出ちゃったけど、大丈夫。ちゃんと挽回策も考えてあるし、何より私の料理の腕は天下一なんだから」
「あ、あなた、あの赤字がちょっとですって! ふざけるんじゃありません! なんでもっと早く相談してこなかったの!」
「ご、ごめんなさい、でもね価格設定とか立地条件とか色々考えて――」
「ティレア、もうそんな段階じゃないの、手遅れよ」
「そ、そんな事ないよ。確かに数千万ゴールドの赤字を返すのは大変だけど」
「数千万ゴールドですって! あなた、もう一度帳簿を見直してごらんなさい」
「え!? どういう事……? 確か三千万ゴールドの借金だったはず……」
「はぁ~ティレア、桁を一つ間違えているわ。現在の借金は三億ゴールドです」

 うっそ! 慌てて帳簿を見直す。

 えーと、これが繰り上がってこうなるから……

 えーと……

 俺が帳簿の計算に四苦八苦していると、

「ティレア、ここの計算が間違っている。それと、ここも、そしてそこの魚の代金を合計に入れていないわ。それから……」

 母さんが的確にポイントを示してくれる。さすが伊達に経理をしていない。

 そして、結果……

 三億ゴールドの赤字です。なんでこうなった。これじゃあ、ドリュアス君がせっかく挽回策を考えてくれたのに焼け石に水だよ。借金が「億」って……

 もうこれ、徳政令を出してくれないと無理な話だ。

「か、母さん、どうしよう……?」

 俺は涙目になりながら母さんに訴える。

「ティレア、私はあなたが料理店を任せられると聞いて、てっきり料理人として雇われたと思ってたの。それがまさか経営から全てあなたが仕切ってたなんて……」
「ど、どうしよう? 出資者のオルには数千万の赤字って言ってたんだ、あわわ、それが億だったなんて……」
「オルさんがこの店のオーナーなの?」
「うん、正確にはオル……オルティッシオの親がそうなんだけどね。オルが窓口になって資金を調達していたんだ」
「そのオルティッシオさんは毎月資金を出していたのよね? こんなに赤字で何も言わなかったの?」
「そうだよ。それに毎月どころか、月によっては毎週お金を借りていた事もあるけど、オルは何も言わなかった」
「毎週って……そういえば先々月、べらぼうにお金を使っていたけど」
「先々月……? あぁ、そうそうちょうど漁を終えた船がついたばかりで、ハマチのいいところが市場に出てね。ついつい毎週――――」
「このおバカ! あなたも父さんもだけど料理バカになるのも大概にしなさい。お客のニーズに合わせた買い方をしないと」
「だ、だって……本当に良い素材だったんだ。あれを見逃すなんて出来ないよ。オルも『はい、どうぞ』とか言って気軽にお金を渡してくれたし」
「……もういいわ。とにかく出資者のオルティッシオさんに会わせてくれる?」
「え!? オルに会うの? 大丈夫かな?」
「もう私が話をするしかないでしょ、それともあなたは億の借金について話をつける事ができるの?」
「で、出来ないかも。でも、私とオルの仲で……」
「ティレア、出資者のオルティッシオさんにそんな無礼な態度はだめよ。オルティッシオさんは王都の貴族様なんでしょ」
「うん、そうだよ。でも、私とオルの仲はそんな身分にとらわれないんだから」
「はぁ~あなたはベルガの気の良い人達しか知らないでしょうけど、王都の貴族様はお金についてはシビアな考え方をされるわ」
「そ、そうかな? オルはその辺、無頓着な感じがするけど」
「ティレア、貴族様が無為にお金を消費したりする事は考えられないのよ。何か裏がある。私がオルティッシオさんに会って真意を問い質します」
「そんな、母さん、オルに裏なんてないよ」
「ティレア、あなたは不思議に思わなかったの? これほど出資してもらうなんて不自然よ。それも経営に関してはズブの素人であるあなたに一任だなんて……」
「それは私の料理の腕を見込まれて――」
「確かにあなたは父さんからみっちり仕込まれただけあって料理の腕は一流と言っても良い。でも、だからといって経営まで一任するなんておかしすぎます。さっきから話を聞いていると、この数ヶ月、お店に関してあなたに丸投げ状態じゃない、これじゃあ、意図的に赤字にさせていると思っても不思議ではないわ、大体、いきなり店を用意してくれるなんてありえない」
「だから、それは私とオルの仲が――」
「ティレア、その仲ってどういう事? もしかして、あなたオルティッシオさんの愛人にでもなったの?」

 がぼっ! あまりな物言いにむせてしまう。俺がオルの愛人? 冗談じゃない。

「か、母さん、いくらなんでもあんまりでしょ。私はそんなに安くないよ」
「分かっているわ。あなたがそんな事はしないって。だけどね、そうでもしないとこの現状を説明出来ないのよ」

 母さんが興奮している。うん、確かに見ず知らずの人がこんな小娘に店を与えてくれるなんて何か裏がありそうだ。いくら料理の腕がピカイチな俺だからといって不自然すぎる話なのは確かである。

 要するに母さんはオルの事を疑っているんだ。こんなにお金を出資してくれるなんて俺を狙っているんじゃないかって……

 だが、言えない。本当のところはオルが以前俺を襲った慰謝料のつもりでお店を用意してくれたのだ。でも正直に本当の事言ってもオルがますます信用を失くすだけだし……

「ティレア、だからねオルティッシオさんに会わせて。その辺も含めてきっちり真意を問い質します」

 これはオルに会わせないって選択肢は選べないみたいだ。母さん、オルに会うまでテコでも動かない感じである。

 オル、母さんとトラブルだけは起こすなよ。

 俺は万感の思いで地下帝国にいるオルを呼びにいった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ