第十一話 「緊急会議、お店を立て直さなきゃね」
緊急会議を開く!
邪神軍総帥たる俺の号令に地下帝国は上を下への大騒ぎとなった。変態がどう皆に言ったか知らないけど、邪神軍の幹部達が慌てて会議室に入ってくる。
君達、そんなに俺と遊びたかったの?
俺は名目上、この集団のトップになっている。だが、王都に来てから一度も奴らと会議をしていない。そう俺は邪神軍という遊びに一度も参加した事がないのである。皆がやきもきしても仕方がないのだ。この前のトレーニングは別だけどね。
ただ、皆には悪いが今回も遊びには参加出来ないんだ。いつもの「出兵だ!」とか「皆殺しじゃ!」とか言っている場合ではない。店の存続、生活がかかっているのだ。真剣に考えて欲しい。
俺もお昼のサービス券を配るだけでなく、何か他にも立て直しの案を考えないといけない――――って早っ!?
何かちょっと考え事している間に幹部達がずらりと整列していた。俺が号令してものの五分も経たずに皆、集まっちゃったよ。お前ら、本当に遊びに関しては行動が素早い。まぁ、でも今回は期待を裏切っちゃうけどね。
会議室に邪神軍幹部達が並び立つ。皆、俺の号令を待っているようだ。ティム達は期待に満ちた眼差しを俺に向けている。これから俺が「天下に号令をかける!」みたいなノリを想像しているのだろう。
当初、ティム達からは「お姉様、軍議が始まります、ご出席してください」としつこく誘われていた。だけど店を立ち上げたばかりでそれどころではなかったから、ティム達に一任しておいた。ティム達のあの顔、やっとお姉様と遊べるんだって顔しているよ。
でも、ごめんね、今、お姉ちゃん、大ピンチなの。下手したら破産の危機に陥ってしまうんだから。また、今度マナマナ国への戦争をやりましょうね。
「まずは座って」
「はっ」
一同が着席する。きびきびとした動きだ。ちょっと軍隊みたいだぞ。
「オホン、今日みんなに集まってもらったのは上のお店の件で話があるからなの」
「それはティレア様がいつも料理をされているお店の事でしょうか?」
「そう、その店がね、今破産の危機でやばいの、つぶれちゃいそうだから、立て直しの為に意見を聞かせて欲しいのよ」
俺の言葉に眼を丸くする面々。予想通り、肩透かしをくらった態度をしている。
「ティレア様、恐れながら上のお店はオルティッシオが定期的に資金提供をしているとお聞きしましたが……」
「その通りなんだけど、不甲斐ないことに利益が出ないんだ……」
自分で言ってて項垂れてしまう。何せあれだけごつい資金援助を受けておきながの赤字だもんね。
「オルティッシオ! ティレア様がお困りになっておられるというのに資金を提供しておらなんだか!」
「め、めっそうもございません。ティレア様に増額も問題ないとお伝えしました」
「オルティッシオ、言い訳は良い。お姉様のお手を煩わせるような事をしておいて覚悟は出来ておろうな」
「ひっ、そ、それは……で、でもティレア様が……」
必死に弁解するオルに轟々と非難するティム達。いやいや、君達、そこでオルを責め立てるのは筋違いだよ。責任の最たる者は俺です。
「あなた達、止めなさい、オルに罪はないから。ここで問題視しているのは出資金の額じゃないのよ。確かにこのまま増額してもらえれば店は存続できるわ。でもね、今の額でも十分すぎるのになぜ利益が出ないのかが問題なんだよ」
「ティレア様のおっしゃりたいことは分かりました。これはティレア様のプライドの問題なのですね」
ドリュアス君が鋭い事を言う。そのとおり、いくらオルが大金持ちでもこのまま甘えられない。というか俺の料理をもってして利益が出ないのはおかしすぎるよ。
「ドリュアス君、さすがね、私の気持ちを理解している」
「恐縮です」
「そう、私の料理ははっきり言って他を抜きん出ている自信がある。それなのに客足がそこそこなんてありえないわ」
「それは確かに解せません。勿体無くもお姉様がお作りになった史上最高の料理が貶められているなどと……」
「うんうんそうそう、他店の料理人より格上なんだから」
俺だって敵情視察はしている。王都のいわゆる繁盛店に行って料理を試食したりしてきたのだ。どの料理人よりも俺のほうが一枚も二枚も上であった。奴らも下手とは言わない、でもせいぜいがB級の料理人だったよ。
「偉大なティレア様が他店の下風にたつのはたかが料理とはいえ許せませんな」
変態が憤懣やるせない顔をしている。俺に同意してくれているようだが……
変態よ、今、何て言った? たかが料理だと!
お前、店の従業員のくせにとんでもない事ほざきやがった!
仕事上、変態は俺の部下だ。邪神軍といっている遊び上での上司部下じゃないぞ。れっきとした雇用関係を結んだ部下なのだ。それなのにこいつは料理屋に働く身でとんでもない暴言を吐きやがった。従業員にあるまじき行為である。
「ニール!」
「はっ」
「減点十!」
「へぶしぃ!」
俺はそばにあった鉛筆もどきの文房具を変態にぶつけた。まるで出来の悪い生徒にチョークを投げつける教師の如くだ。
変態はよろよろと頭を抑えて倒れ込んだ。なかなかにクリティカルなダメージを与えたようである。変態は倒れ込んだまま起き上がろうとしない。
ふむ、物を投げるのはさすがにやり過ぎたか? いかんいかん、いくらお店の経営がうまくいってないからって自分のいらいらを他人にぶつけたらだめだね。
「ニール、ごめん、大丈夫だった?」
「うぐぐ、はぁ、はぁ、い、いえ、だ、だいじょ……」
変態は気丈に振る舞うが、足がふらついている。いかん、虚弱体質の変態に暴力はやはりまずかった。しばらく回復するのを待とう。
数分後……
変態はようやくゆっくりと自分の席に座る事が出来た。
「ニール、もう平気?」
「はっ、問題ありません。で、私は何がいけなかったのでしょうか?」
何がいけないかって、分かんないのかよ! はぁ~やはり変態は料理屋ベルムの従業員としての自覚が足りない。
「ニール、あなたは私の部下、どぅ・ゆー・あんだすたん?」
「もちろんでございます。私はティレア様の忠実なる下僕でございます」
「なら、いい加減に部下としての自覚を持ちなさい。私が料理屋をやっているの。それなのにたかが料理なんてどの口が言うのよ。部下が本気で仕事に取り組まないで、お店を立て直す事が出来ると思っているの!」
「こ、これは申し訳ございませんでした。確かに私の発言はティレア様の本意に背く態度でした」
「ふぅ~次はちゃんと考えてよね」
「御意」
やれやれとため息をつく。他に意見は無いの? 周囲を見渡す。
ん!? エディムが何やらそわそわしている。
そして……
「あ、あの、ティレア様」
「あら、エディム、なにか意見があるの?」
「はい、私が巷に溢れる人間共を眷属にし、お店に行く命令を出しましょうか?」
エディム、さらりと怖い発言するのはまじ、止めてくれ。これが冗談だったらいいんだがエディムの場合はリアルに実行出来るから恐ろしい。
それに強制させて店にこさせるなんて俺のプライドけっこう傷ついちゃったよ。
「エディム、あなた私を舐めているの?」
「いえ、そんなまさか」
「あのね、人間を眷属化させて強制させるなんて案は、私の料理では客を呼べないって言っているも同然なんだよ! 分かっている?」
「も、申し訳ありません。そんなつもりでは……浅慮な考えでした」
「まったくもう、エディムまでニールみたいな事言って……次は容赦なくクカノミぶつけちゃうからね」
「は、はい……」
それから、ティムやオルを始め、暴力的な意見が続く。しまいには俺の料理の価値が分からぬ市民共は皆殺しにしてしまおうなんて意見が出ちゃたりするんだよ!
ふぅ、まったくブレないやつら……
やはり中二病者達と話し合いは無理なんじゃないか? 今更ながらに疑問が湧いてきた。
「ねぇ、だれかまともで建設的な意見はないの?」
「ティレア様、よろしいですか?」
今までの沈黙を破りドリュアス君が手をあげる。真打登場だね。
「どうぞどうぞ、持論をぶっちゃけてみて」
「はっ、私が考えまするにティレア様のご料理は完璧そのもの、店の赤字は他の要因によるものです。店の立地と宣伝不足、そして価格設定に問題があるようです」
さすがドリュアス君、まともな意見を出してくる。同じ中二病者とはいえ他との違いを見せてくるよ。
「うんうん、続けて」
「はっ、この店は西通りの一番奥、人目につかない位置にあります。さらに宣伝不足であり多くの者が店の存在すら知らないでしょう」
「そっか、ここってかなり奥のほうに陣取っているからね」
「さらに言えば西門からの人通りはここまで流れず、中央市場に集中しています」
これはもしかしてお店の移動の流れなのかな? だが、そうは言っても引越しは出来ない。資金の問題もあるけど、オルとエディムがまだ指名手配の身なのだ。隠家としてここは必要であり、ほとぼりがさめるまで人目は避けなければならない。
「ドリュアス君、引越しは無理だよ」
「もちろんです。拠点の秘密漏洩を防ぐ為にもここはベストの位置です。店の移動は好ましくありません」
「私もそう思う。じゃあ宣伝で頑張るか、後は価格設定に問題があるんだっけ?」
「はい、全ての料理に言えることですが、価格が安すぎます。これでは利益どころか材料費すら賄う事ができません」
「料理の価格が安い事は私も最初は思ったよ。でも、材料費が高すぎて価格がとんでもなく高くなっちゃうんだから。お客さん、払えないよ。だからやむなく薄利多売方式にしちゃおうかと思ったりなんだりして安くしてたんだけど……」
「ティレア様、この際、ターゲットを富裕層に変えてはいかがでしょうか? この設定した価格ですと日に数千人の集客が見込めないと利益が出ません」
「そ、そんなに!? う~ん、でもお客を富裕層に絞るのはちょっと……私は大勢の人に自分の料理を食べて欲しいんだ」
「承知しました。全てはティレア様のお心のままにです。まずは価格を調整し、そしてエディムの眷属共に命令させてお店の宣伝をさせましょう」
「なるほど、それはグッドアイデアだね!」
ドリュアス君、さすがだよ。もう次からはドリュアス君と二人で話し合おう、時間の無駄にならずにすむ。
「後は少しでも材料費を削るため、軍団員に命じて食材を調達させます」
「確かに、今は市場で食材を買っているけど、絶対に中で抜かれているからね」
ドリュアス君の意見、もう「いいね」ってボタンをポンポン押しまくりだ。
「それでは食材調達は遠征に出ている第二師団に命じます」
「ち、ちょっとお待ちください。わが第二師団は資金調達に近隣の集落の討伐とひっきりなしに働いています。その上さらに食材調達まで請け負うのは無理です」
ドリュアス君の一言にオルが身を乗り出して反対する。オルは必死に忙しいアピールをしているが、ドリュアス君は受け付けない。
「弱音を吐くのもいい加減にしろ! オルティッシオ、これは別に頼んでいるわけではない。邪神軍参謀として命令をしているのだ」
「し、しかし……」
「オルティッシオ、ここらへんで忠義を皆に示そうとは思わんのか!」
「オルティッシオ、これ以上言い訳をほざくなら我がその口を引き裂く、よいな」
ドリュアス君の非情なる言葉に変態とティムが追従する。あんた達、ちょっと鬼だぞ。
「は、はっ、ひ、ひっく、わ、わかりまし……た、それではその任、受けさせて、ひっく、頂きま……す」
オルがたまらず泣き出してしまう。あぁ、またこのパターンか。いい加減にオルをいじめるのはやめろって言っているのに……
「みんなその辺にしておきなさい」
「し、しかし、オルティッシオめがあまりに――」
「いいから黙りなさい!」
俺の剣幕に沈黙する面々、そして泣きはらした顔でオルが見上げてくる。
「ひ、ひっく、て、ティレア様」
「オル、あなたが王都の外にちょくちょく出かけているのは知っている。その時、ついでに良さそうな食材を見つけたらでいい、もって帰ってきて欲しい」
「ひっく、し、食材ですか……」
「うん、あなたが無理というなら私も無理強いはしない、この件は終わりにする、皆にも文句は言わせないわ」
「あぁティレア様、なんとお優しく、どこまでも偉大なお方なのか……」
「ふふ、それは褒めすぎだって」
「そんな事はございません。言い足りないぐらいでございます」
そう言って、いつもの調子を取り戻したオル。うん、どうやら泣き止んでくれたみたいだね。
「それでオル、食材調達は出来そう?」
「はっ、不肖オルティッシオ、この程度の兼務で泣き言を吐き、大変申し訳ございません。お任せ下さい、必ずやこの任、まっとうしてごらんに入れまする」
「そう、期待しているわ。あ、でも集落の討伐うんぬんのついででいいからね、あなたにそこまでプレッシャーをかけないから」
「ご安心ください。食材調達を最優先で実行します。集落の討伐如きに時間を取りません。もたつくようであれば住人全員を根絶やしてやります」
「そ、そう、遊びにはあまり熱を入れないように」
「ふふ、確かに我らにとっては遊びのようなもの、承知しております。冷静に処理していきます」
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