「じゅうさん……じゅうし……じゅうご、と」
掛け声を終え、逆立ちの体勢から元の姿勢に戻る。
結局、俺はティム達にのせられるがまま、逆立ち片手指立て伏せまでやってのけたのだ。まったく俺もお調子者すぎる。いくらのせられたからといって料理人が指を大事にしなくてどうするのか!
うん、もう止めよう。今回はうまくいったが次は突き指するかもしれないしね。将来、
神の料理を作る予定なのにこんな馬鹿げた事で怪我でもしたら愚かにもほどがある。料理人失格だよ。まぁ、過ぎたことは悔やんでも仕方がないか。せっかくここまでパフォーマンスをしてやったんだ、観客達の反応を見てみよう。
「で、どうだった?」
「す、素晴らしいです! お姉様」
「まさに……力強さの中に流れるような躍動感、何より毛ほども揺るがぬバランス感覚、このニールゼン、ティレア様にさらなる崇拝の念を抱きましてございます」
「このドリュアスも感動で身が震えてございます! 世界のどこを探したとしてもティレア様の美に到達するものなどありません」
大絶賛の嵐。ったく、あんた達がこういう事を言ってくるから俺もついつい調子にのっちゃうんだよ。
「それじゃあ、次は腹筋やるから」
「「はっ!」」
ティム達の気合の入った声が響く。お前ら本当に返事だけはいいね。
……そうして、腹筋に続いて、反復横跳び、垂直跳び、五十メートル走、握力とそれぞれ測っていく。途中、オルがまた骨折するハプニングがあったがどうにかこうにかテストは終了した。
結果……
ティムは及第点、どれも俺の目標どおりの成績を打ち出してくれた。ティムは中高生よりすこし上ぐらいの体力はある。えらいぞ。
次にドリュアス君、
変態はもう少しがんばろう。ドリュアス君も
変態もせいぜい小中学生ぐらいの体力しかない。根本的に俺が肉体改造してやるしかないね。
最後にオル、ムラムに関しては論外だ。こいつらは食生活からみっちり俺がしごいてやる。好き嫌いはさせないぞ。
「ティム、疲れたでしょ」
「は、はい、我もここまで過酷なトレーニングとは思いもしませんでした」
「まぁ、そうだよね。でも、ティムは見込みあるよ。今度は私が護身術を教えてあげるから」
「お姉様、ありがとうございます! 楽しみにしてます!」
「ニール達は体力作りが先だからね」
「はっ、承知しております。この過酷な空間、重力を制してみせまする」
「そ、そう。とりあえず、腹筋と腕立て伏せは無理なくやること、あと鉄アレイとかあったらいいんだけどね」
「お姉様『てつあれい』とはいかなる物なのでしょうか?」
「それはね、筋トレする時に便利なものよ。それを持って腕を上下させるの。筋肉に効くんだから」
「お姉様、宜しければその『てつあれい』とやらを作りましょうか?」
「えっ!? ティムってそんな事出来るの?」
「はい、我の生成魔法を使えばおそらく可能です」
おぉ、さすがは魔法学園の優秀な生徒。俺は鉄アレイの形状を詳しくティムに聞かせる。ティムは俺の言を聞き、何やら魔法を唱えていく。
数分後……
「お姉様『てつあれい』を生成してみました。どうですか?」
ティムが生成した物体を見ると、両側に重りの金属のかたまりがついていて真ん中に持ち手になる部分が作られていた。
うん、俺のイメージどおり見事な鉄アレイだ。さすがティムだね。
ただ、やるとは思ったよ。ティムが作った鉄アレイにはその重さが書いてあるのだが、五キロとなるところを五トンとしてあるのだ。そう中二病ならやるよね。「キロ」を「トン」って書いてしまう。俺は苦笑しながらティムが作った鉄アレイを持ってみる。
「ん!? これ軽くない?」
「さすがはお姉様、五トンの鉄アレイを軽々と」
「五トンって――――まぁ、良いんだけどね、ティム、どうせなら重いやつから軽いやつをひととおり作ってみてよ」
「分かりました」
ティムは続けざまに生成魔法を唱えていく。
そして……
二十トン、十トン、五トン、三トン、一トンの鉄アレイが生成された。まぁ、キロなんですけどね。
俺は二十トンの鉄アレイを持ってみる。ふむ、これは重いかな。ある程度の負荷が腕にかかったのが分かる。まぁ普通に二十キロの鉄アレイだからね。でも俺なら普通に動かせる。
邪神軍幹部は無理だろう。
「皆、怪我をするからこの二十キロ――じゃなかった二十トンの鉄アレイは触っちゃダメよ!」
「「はっ、もちろんでございます。我々では持ち上げる事すらできません!」」
大の男どもが清々しいくらいにヘタレっぷりを宣言する。分かっているから良いんだけど……
「君たちはまず一トンの鉄アレイから始める事」
「「はっ」」
「ティムは五トンぐらいでいってみようか?」
「そうですね、我もそれぐらいが妥当だと考えておりました」
「うん、それじゃあ、今日は終わり。ティム、けっこう汗をかいているね。どこかで水浴びしようか?」
「あ、ティレア様、それでしたらこの通路奥の部屋に大浴場を設置しております。そこをご利用ください」
「ま、マジですか! ここってお風呂も常備してあるの!」
「はい、手狭で恐縮ですが汗をお流しください」
おいおいおい、さすがオル家、別荘にお風呂まであるのか! この時代、個人でお風呂を持つなんて貴族様でないと無理なのだ。庶民は川で水浴びするしかなかったんだよ。
「それじゃあ、ティム、せっかくだからオルの好意に甘えちゃおうか」
「はい、オルティッシオめが用意した浴場で不安ですが、参りましょう」
「はは……そうね」
俺とティムはオルが教えてくれた浴室へと向かう。
「ティム、一緒に入ろうね♪」
「お姉様!」
うんうん、久しぶりに姉妹でスキンシップを楽しもう――――って
変態が何故、
脱衣所まで付いくる!
「ニール、何してんの?」
「はっ、ティレア様、カミーラ様のお世話を――」
「あ、アホか、てめぇ――っ!」
思わず
変態の後頭部にツッコミをいれる。油断も隙もあったもんじゃない。まったく、バスタオルも持参しているところがあざとすぎるぞ。
「お姉様、以前申し上げましたがニールゼンは我の執事もしていた事があります。湯浴みの世話も任せて問題ないかと」
「はっ!? はっ!? はっ!? ティム、頭がどうかしちゃった? 問題大アリよ。ニールに乙女の柔肌を見せる気? ニールがティムに欲情して良からぬ事を考えたらどうするの!」
「テ、ティレア様、私は下心などありませぬ。真摯にカミ――――へぶらっ!」
変態にとどめの一撃を入れる。そうだった、忘れていたがもともとこいつは変態なのだ。どさくさにまぎれて一緒に風呂に入ろうとするど変態なのだ。初心忘れるべからずだったね。
「お、お姉様……」
「さぁ、馬鹿はほっといて入りましょ」
■ ◇ ■ ◇
邪神軍幹部トレーニング風景