第一話 「邪神軍秘密基地、いったいどこの地下帝国だよ」
あぁ、自分のお店がほしい!
そんな不満をこの前、ぽろっと漏らしたんだよ。そしたらオルの奴が「お任せ下さい」と言ってどこかに消えていった。その時はまたいつもの中二病かと思って気にもとめなかったんだけど……
そしたら今日、オルの奴が飛んでも無い事を口走りやがった。なんと俺の店を用意してくれたんだと! なんかその辺のネギでも買ってくるぐらいの軽い感じだったけど、それがお店を用意って……
オル、もしかしてあなたの家って資産家なの?
俺が愕然としていると、オルが「ここが邪神軍の拠点です」と言って中に案内してくる。俺とティム達邪神軍の面々はオルに促されるまま用意されたお店に入る事にした。
中に入ると、
おぉ、すごいぞ!
まずは店内。清潔でいて華美にもならず品がある。机、椅子も一見、地味ながら自然のままな趣がある、というか落ち着く、これぞ日本美だ。
そして調理具一式すべて揃っている、そのどれもがすばらしい! 一流の料理師としての俺の目が全て一級品であると言っている。
すごいよ、すごすぎるよ、包丁、鍋といい国宝と言ってもいいんじゃないか? 特にこの包丁、俺が持ってきた愛刀が霞む、霞む。これだけでひと財産いくぞ。
はは、見る人が見れば店内にある家具全てが一級品である事が分かるだろう。他の高級老舗に負けてない。というか下手すると王都で一番なんじゃないか?
「オル、こ、これって……」
「オルティッシオ! なんだこの粗末な部屋は! 犬小屋にも劣るぞ!」
「カミーラ様の仰るとおり、ここが邪神軍の拠点? ふざけるのも大概にしろ! やはり処刑を――」
「い、いえいえ、カミーラ様、ニールゼン総司令、誤解でございます。ここはあくまでも敵の目を誤魔化すためのカモフラージュ、あえてみすぼらしくしてあるのです。実際の拠点はこちらです」
オルは慌てて店内奥を指差す。奥には地下に続く階段みたいなのがあった。な、何それ? まだ奥に何かあるの? ここだけでもすごいのに、まだ隠し玉を持っているなんて……
これはオルの家はただの資産家じゃないね。王都有数の大貴族の三男坊ってところかな? あ、ありうる。今までの奴の言動、振る舞い、俺のプロファイリングによると奴は金持ちのボンボンがぴったりと当てはまる。
はぁ~なんてこった。そうだよね、こんな無職でいい加減な奴らが生活していけるのは金持ちの親がいるからに決まっている。とりあえず、あのボンボンがどれだけのものを用意してくれたのか、ちょっとひいてきているが見てみる事にしよう。 俺達はオルに促されるまま、地下へと降りていく。
そして……
うぉおおお、ひ、広いよぉおお!
地下に入ると迷宮そのもの、ここどこのダンション? 広い、そして無数に部屋がある。ま、まさかここってオル家の隠し別荘みたいなところなんじゃないか? ありうる話だ。王都に危機があった時に一族で隠れ住む部屋。王都有数の大貴族であるオル家ならありうる話だよ。
あぁ、あの馬鹿! こんなところを遊び場所にしてお父さんに叱らるぞ!
「オル、こ、これって……」
「ふん、広さは及第点ってところか……だが、調度品は下も下だな」
「カミーラ様の仰るとおり。オルティッシオ、貴様の忠誠心を疑うぞ。魔都ベンズでの宮殿の足元にも届かぬ」
「も、申し訳ございません。何ぶん覚醒して間もなく資金の調達が間に合っておりません」
「言い訳は良い。やはり処刑を――」
「あ~あんたら中二病ストップ! ちょっと黙ってなさい」
「「は、はっ」」
もうティムも変態も分かっていない。ここの価値を全然分かっていないぞ。まったくあなた達中二病はこれだから始末が悪い。
とにかく頭を整理しよう。
オルがまたとんでもないものをプレゼントしてきた。これははたして受け取ってもいいのか? 俺は自分がオル達に襲われた事もあって慰謝料がわりにお店の運転資金は出してもらおうと思っていた。もちろん、店が軌道に乗ればお金は返すし、オル達も牢屋にぶち込まれなかったんだからこれくらいはしてくれてもいいよねって思ってたけど……
こ、これはもらいすぎよね? 返しきれないというか皿一つ割っただけで元は取れない。う~ん、どうしようか?
俺は考え事をしながら、このどでかい地下帝国をうろつく。そして、ある部屋からまばゆい光が出ているのを発見した。
なんだろ、この部屋? なにげなしにその部屋に入ってみる。
すると……
うぉおおお、ま、眩しい、眩しすぎる!!
な、なんだよ、この財宝の数々、金塊にエメラルド、ルビー、その他もろもろ。カリブに浮かぶ大海賊ですらこんなに持っていないんじゃないか?
はは、ここにありましたか、ひとつなぎの秘宝……
「あ、ティレア様、ここは邪神軍の宝物庫です。申し訳ございません。いまだその程度の財宝しか集める事ができませんでした」
「まったくだ、オルティッシオ、ここが宝物庫とは嘆かわしすぎる! 我が魔都で所有していた財貨に質も量もとても及ばぬ!」
「オルティッシオ、これでは邪神軍の威信が低下する。こんなガラクタは捨てて質の良いものを揃えるのだ!」
「も、申し訳ございません。この度の王都襲撃もあり質の良い財宝が世に出回っておりません。何卒、何卒ご猶予を頂きたい」
「くどい。これ以上、このようなあばら家に住まわせ、お姉様に恥をかかせるのなら……オルティッシオ、分かっておろうな?」
「ひ、ひぃ、わ、分かりました。何が何でもお揃え致しまする」
オルが必死に頭を下げ謝罪している。ティム達の無茶な金銭要求……
これなんてイジメ? まぁ、ティム達がオルをいじめたい気持ちは分かる。オルは何たって性犯罪者だ。特にティムは姉である俺が襲われそうになったからひとしきり憎いんだろう。だけどね、オルってこんな奴だけど親がすごいんだよ。このままオルを追い詰めてしまったら、きっと……
(ふぇーん、みんなが僕を虐めるよぉ! パパ、一生のお願いだよ、何とかして)
(なに? 可愛い息子を虐めるとはなんと非道な輩だ! そっこく全員縛り首にしてやるからな)
(くすん、ありがとパパ、傷心な僕に他の別荘も買ってくれる?)
(よっしゃ、よっしゃ、なんでも好きなものを言ってみなさい)
こんな事になるのは明白だ。オルの奥義「パパ、一生のお願いだよ」を発動させるわけにはいかない。
「あ~君達、それ以上は止めなさい」
「し、しかし、オルティシオがあまりにも拙い仕事をするものですから」
「いいからいいから、オル、なかなかの秘密基地じゃない。気に入ったわ」
「テ、ティレア様。不甲斐ない私如きに、な、なんとありがたいお言葉を……」
オルが涙している。うん、なんとかオルの逆ギレを防ぐ事が出来た。
はぁ~なんか胃が痛い事が増えたよ。でも、オルに促されるままこの別荘を使ってもいいのかな? オルの親はこの事を知らないのかも……
「オル、この秘密基地使っても大丈夫でしょうね? ご両親に承諾もらってる?」
「はぁ……ティレア様のおっしゃりたい事がよく分かりませんが、この拠点作成については秘密裏に進めておりました。上のカモフラージュのお店はともかくこの地下については関係者以外誰もその存在を知りません。ご使用されても問題ないかと思います。あと、私の親とはどういう……私はカミーラ様の眷属ですので親はおりません。強いてあげればカミーラ様の母上にあたるマミラ様の事を――」
「お、お前もそれを言うかぁ――っ!」
「ぐはっ!」
思わずオルの後頭部にツッコミを入れる。まったくオルも変態と同じことをほざきやがる。お前らの中では俺と兄弟になる事が必須なのかよ!
はぁ、どっと疲れた。まぁ、関係者以外うんたらとか言ってたから許可をもらっているんだろうね。きっと……
(パパ、うちにあるあの広い別荘で遊んでもいい?)
(しょうがないな息子よ。あまり汚すんじゃないぞ)
(わぁい、やったぁ! 友達全員呼ぶぞぉ! 五千人は入れようかな)
(コラコラ、他にも別荘はあるんだ、三千人ぐらいにしときなさい)
みたいな会話がオル家でなされていたのだろう。なんていうダメ親子なんだ。
とりあえず結果、オーライかな。色々、厄介事がありそうな予感がするけど、一応、自分の店を持つ事が出来た。オルが出資者でオーナーなのは微妙だけどね。
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