ルクセンブルクの強烈な一撃はリリスの生命力を根こそぎ奪っていった。

　あぁ、ち、力が抜けていく。どうやらここまでらしい。

　リリスとして生まれ数十年、過酷なまでの修行の日々だった。辛いなんていう言葉はとうに言い尽くした。人間の限界を超える修行の果て、リリスは万を超える魔力を得る事が出来たのである。
　外法である「十身の拳」によってリリス、正確に言うとリリスのオリジナル(アリア)は十人に分身して憑依する事に成功した。その分、それぞれの記憶や力が十分の一まで減少する事になった。
　その中の一人であるリリスは万を超える魔力を得る事が出来たのである。他の九人もきっと同じくらいの成長をしている事だろう。このまま分身達が死んでオリジナル(アリア)に戻ればどれだけの戦闘力になっていることか！　オリジナル(アリア)もきっと満足してくれるにちがいない。

　心残りは多々ある。魔族の脅威、邪神の正体を本部に伝えられなかった、後輩を育成出来なかった、民を最期まで救えなかった、まぁ、それらの事はオリジナル(アリア)に任せよう。そして一番の心残りはジェシカを救えなかった事だ。
　あぁ、もう一度ジェシカに会いたい。「十身の拳」によって魂を数十に引き裂かれ記憶の大部分を欠損しても……

　ジェシカ、お前と過ごした幾年の記憶は色あせなかった。拷問とまでいわれるほどの永遠の中で、お前と過ごした記憶は心の支えだったよ。

　あぁ、もう眠い、疲れた。ジェシカ……

　リリスは走馬灯の中で眠りにつこうとするが、誰かの足音が近づいて来た。

「そ、そんなリリスちゃん！」

　ジェシカなのか！　なぜだか知らんが助かったのか、良かった。心残りであったジェシカの無事な姿にリリスは安堵を浮かべる。

「待ってて、今すぐに救援を呼ぶから」
「い……い、はぁ、はぁ、も、もうて、手遅れだ」
「で、でも！」
「い、いんだ……ジェシカ、お前が無事でよ……良かっ……た」
「どうして？　どうしてそんなに私の事を気にかけてくれるの？　いつもいつも私を助けてくれた。ひっく、私、何もしてあげられなかったのに」

　ジェシカがむせび泣きながら訴える。違う、違うんだ。ジェシカ、あぁ、もう声が……せめて最期に……

「はぁ、はぁ、い、今までありがと……う。困っ……た事が……あればアリアを……た、頼れ」
「リリスちゃん、アリアって？」
「……」
「う、うそでしょ！　リリスちゃん！　死んじゃ嫌だ！」


　■　◇　■　◇


　五、四、三、二、一……零――――ピッピッ、Riris is Dead.

　 「リリス(ぶんしん)、死んだか」

　魔滅五芒星(デガラビア)本部にて一人の魔術師が映し出された水面を凝視している。その魔術師の名前はアリア、容姿は少女のそれと変わらぬがその佇まいは老成の域を超えていた。

「アリア様、大変です！　アルクダス王国方面を担当していたアレク隊が全滅したとの事です」

　一人の男が足早に報告してくる。

「うむ、まずは戦死した同志に黙祷を捧げよ」
「はっ、皆に伝達致します」
「それとアルクダス王国方面はジャスマー隊を派遣するように」
「御意」

　男はアリアの言を聞くやそのまま部屋を出ていった。

　リリスが死んだ、これで、シューヴァーン、クラニッヒ、カルファに続いて四人目の分身が死んだ事になる。死んだ魂はオリジナルとなるアリアのもとへと戻っていく。

「よくやった。よくぞここまで力をつけて死んだ」

　分身となった魂はその成長とかけ合わせて全て自身の血肉となる。その時、力だけでなく記憶もある程度引き継ぐ事ができるのだが、完全ではない。リリスの記憶では魔王の復活まで記憶していたが、その素性までは引き継げなかった。
　まぁ、いい。ある程度は絞り込める。魔王がアルクダス王国に潜んでいる事は確実。先遣隊としてジャスマー隊を送っている。彼らにまずは情報を入手させよう。

　ふふ、魔王復活か、ちょうど良い。ようやく奴らに復讐するだけの力と地盤を作る事が出来たのだ。
　殺す。絶対に殺す。魔族はこの世から全て消しさってやる！！

作中のアリアについての詳細は「アリアの逆行スパイラル」をご参照下さい。
http://ncode.syosetu.com/n0843bv/