第二十五話 「何て事、レミリアさんと二人っきりだ」
あ、ありのまま起こった事をは…話せるか! ぼけ!
頭がおかしくなりそうだ。オル達のお馬鹿な行為のおかげで俺達は目下国家反逆罪に問われると言っても良い。王都の至宝であるレミリアさんをふんじばるなんて公務執行妨害どころの話ではない。こんなことばれたら関係者は全員死刑台に送られてしまう。
いや、その前に王都の皆さんに袋叩きにあっちゃうのが先かな? テヘッ♪
オル達が勝手にやった事で俺達は関係ないって主張しても無駄だろうね。きっと俺もティムも仲間と思われるだろう。というか主犯って邪神としておさまっている俺になるんじゃねぇ? とんだとばっちりだ。
だが、こんな緊迫した状況だというのにオルはまったくかけらも状況を理解していない。むしろオルは「すごいでしょ、ほめてほめて!」といった顔をしている。
ふぅ、こいつ馬鹿なの? あほなの? すぐさまオルのアホをぶん殴ってやりたいがそれどころではない。なんとかこの状況を打開しないと! 俺はまじまじとレミリアさんを見つめる。
あの勇ましく気高いレミリアさんが縄で縛られぐったりと横たわっている。 あぁ、なんて痛ましい姿なのだ。こんなおバカな奴らの虜になるなんて思いもしなかっただろう。こいつらに捕まるなんてよっぽど魔族との戦闘がはげしかったんだろうね。きっと体力値はゼロに近かったと思う。ところどころ出血がおびただしいし、重傷だ、どれだけの激戦だったかが窺える……
ん!? というか、そんな事考えるより早く手当てしないとまずくないかこれ? 今もどくどくと血が流れている、や、やばいレミリアさんが死んじゃう! あわわわ、未来の恋人の危機を前に俺は何を悠長にしていたのか!
「ティム、急いで治療魔法をお願い!」
「このエルフを治療するのですか?」
「そうよ、早く!」
「ふむ、分かりました」
「そ、そんな……せっかく捕らえた獲物を……」
「バカ者が! お姉様はこのエルフを使ってなにやら思惑があるのだ! オルティッシオ、貴様の出る幕ではない!」
「こ、これは思慮が足りず申し訳ございません」
ティムがおバカな発言をしたオルを窘める。うん、たしかにティムの言う通り、オルの奴、この期に及んで何をほざいてやがる。ティムが怒るのは当然よ。でもね、ティム、叱るよりも早くレミリアさんを治療して! レミリアさんが死んじゃったら絶対に俺達のせいになっちゃうよ。
「ティム! オルを叱るのは後回しよ。先に治療を始めて!」
「はっ!」
ティムはレミリアさんに手をかざす。おぉ! レミリアさんの傷が見る見る塞がっていく。やっぱりティムの特性は神聖魔法だ。将来は僧侶系のお仕事が天職なんじゃないかな。
「お姉様、終わりました! じきに眼が覚めることでしょう」
「ティム、ありがとう! 助かったわ」
ふぅ~まずは一安心、王都の至宝であるレミリアさんを死なせずに済んだ。なんとか縛り首は免れたかな? 後はこの後のフォローだけど、どうしようか? レミリアさんが起きた時に助けてあげたといったら万事解決かな……
いや、待て、確認しておかなければいけない事があった。オル達がレミリアさんを縛り上げた時、レミリアさんに意識があったかだ。もしかして魔族との戦いで負傷し意識朦朧としながらも、レミリアさんがオル達の顔を見ていたら一大事だ。
「オル、と~っても大事な質問があるんだけど……」
「はっ、なんなりと」
「それじゃあ、ずばり聞くけど縛り上げる時、顔を見られた?」
どうなの? まじでそこ重要なんだけど……下手したら指名手配ものだよ。
「もちろん顔は見られたに決まっています。何しろレミリアを倒したのは我々なのですから」
くっ、そうだった、そう言うよね、こいつはそういう奴だった。これだから中二病が過ぎるとろくな事にはならない。でも、実際にどうなんだろう? オルのセリフから判断するにレミリアさんが気絶している時に縛り上げたと言うよりレミリアさんがふらふらで今にも倒れそうな時に襲撃したと言った感じよね。
だとすると、やばくないかこれ?
このままレミリアさんが目覚めると非常にまずい誤解が生じる。まぁ、襲ったのは誤解じゃないんだけど……
とにかくレミリアさんがその時の状況を覚えていたら俺達は逮捕されるのは間違いない。それどころかこれって魔族に協力したみたいな形だし、下手したら魔族の関係者だと勘違いされる可能性だってある。
あぁあぁ、どうしよう? ティムもオルも変態もこの状況を全然理解していない。というか嬉々としていないか、こいつら?
「まずいですぜ、こちらに治安部隊が向かっているようでやす。おそらくレミリアの救援に来ているのでしょう」
おぉ、ミュー、そうよ、その通り! あなたは心のオアシスよ。あなたはこの事態を分かってくれる唯一の存在。
「ミュッヘン、情報漏えいを心配しているならこのエルフを始末してしまえばよい、後は吸血鬼共の仕業という事になるだろう」
「そうだな、人間側に我々の情報を漏らしたくなければ、それが一番だ」
「いや、それよりその救援部隊ごと始末しませんか?」
親衛隊の皆が恐ろしいことをほざいている。確かに、確かにそれが一番証拠隠滅にもってこいだけど、止めなさい、ティムが本気にしたらどうするの? それよりみんなえらそうな事を言っているけど、レミリアさんが起きたらミューはともかく俺達は瞬殺だからね。
というか俺の未来の恋人になんて事言いやがる! 変態とオルは後でしめとくとしよう。
「みんなこの状況が見つかったらまずい事は分かったみたいね」
「はっ、それでは我々はどう動きましょうか? 迎撃ですか? それともレミリアを始末することによる隠ぺいですか?」
「あのね~そんな出来ない事を言うのは止めなさいというかティムが本気にするでしょうが!」
「そうでした、ティレア様はそのエルフを使って何やら思惑があるのでした」
「そ、そうよ。とりあえずこの場は私が預かるわ、君達は速やかに解散、今日はゆっくり休んで英気を養ってね」
「「はっ」」
俺はそう言って皆と別れると、レミリアさんを背中に背負い独りで本陣に向かう事にした。だってね、これが一番いい方法だよ。皆がいると治安部隊の方々に何をしゃべるか分かったものじゃない。それにオル達の顔をレミリアさんが覚えていようものなら今度は俺達が捕縛されちゃうしね。
俺は本陣にレミリアさんを連れて行き、事のあらましを多少でっちあげるつもりだ。まず、オル達が縄で乱暴した事をレミリアさんが覚えていなければ御の字。そのまま倒れているレミリアさんを助けたと報告する。
覚えていた場合は犯人をでっちあげる。レミリアさん自身も意識が朦朧としていたと思うし、俺が強く言えばきっと信じるはずだ。偽証なんて本当はいけない事だと思うけど、ティムの一応、仲間であるオルが縛り首にでもなったらさすがに寝覚めが悪いしね。適当に魔族がレミリアさんを襲っていたところを目撃したとでも言っておくか。
俺は本陣に着いたときに聞かれるであろう会話をシミュレートしながら歩く。
ひたすら歩く、歩く、ある……だ、だめだ集中出来ない。
だって、レミリアさんってすごく柔らかいんだもの。俺の背中ごしに伝わる豊かな刺激。おぉおぉ、歩くたびに背中に当たって、へ、変な気持ちになっちゃう。 そ、それになんていい匂いなんだ。あぁ、かぐわしい、こ、これがエルフ臭という奴か。なんという芳醇な香り! やみつきになりそう。前に何度か抱きついた事があったが、今度はもっと長く密着しているからより香りを堪能出来ている。
あぁ、だめだ、いけないと思いつつもクンカ、クンカしてしまう。クンカ~クンカ~なんていい匂いだ。
な、なんか前世を思い出してくる。井上、確かにエルフ臭というのは存在したよ。そして、どうやらお前の勝ちだ。昔、部活でエルフ臭について討議した事があった。エルフの匂いとはどんなものか、俺と井上はあらゆる想像をはたらかせた。バラの匂いではないか、いやローズヒップだのホップだの言って、結局いろんな香水を使って俺達はエルフの匂いを作ってみた。その中で井上、お前が作った匂いが一番近かったよ。さすがだ、さすがエルフをこよなく愛する会の会長なだけあった。本当にすごい、想像だけでよく分かったな。あの時は俺も引かずに言い争っていたよな。俺もエルフに対する愛があったから譲れなかった。
だが、結論は出た。実証されたんだよ。井上、お前がナンバーワンだ。
昔の遠い思い出を懐かしみながら俺はレミリアさんをクンカクンカする。
……
…………
………………
っておい! 何やってんだ俺! こんな変態行為、これじゃオルの事、何も言えないぞ! いかん、本当に何やっている。こんな事ばれたらティムにだってあきれられてしまう。
ふぅ、なんでだ? ことエルフ、レミリアさんの事になるとどうも自我が保てなくなる。レミリアさんを思う恋心のせいか? それとも前世、エルフをこよなく愛する会の副会長としての業がそれを成しているのか? 冷静にならなければ、そう冷静に……
そうだよ、前世部活でもよくこういう時どうすればいいか話してたじゃないか! そう俺は前世部活でエルフと二人きりの状況になったらどうするかしつこいくらい討議していたんだ。いつ異世界に飛ばされエルフと出会うか分からない。その時に冷静に対応できなくてどうしてエルフを恋人にする事が出来るのかと……
部長である井上はよく言っていた……
エルフに会った時はそう……
「エルフは脱がぁ―――――す!」
俺は一瞬の早業でレミリアさんの衣服を剥ぎ取った。
……って違うだろ! 井上! しばし茫然としてしまう。
な、なんて事だ……
俺はただ前世での経験を活かし、冷静になろうと思っただけなのだ。だが、想像以上に俺はパニクっていたらしい。そこにはすっぽんぽんのレミリアさんがいた。 な、なんというあられもない姿。い、いかん、何を考えている!
なぜ、落ち着こうと思うのならレミリアさんの衣服を脱がす事になるのだ。俺は何かに乗り移られているんじゃないか? まぁ、衣服を破かず綺麗にたたんであるあたりはまだ理性は残っているようだ。
とりあえず、は、早く着せないと! 俺はレミリアさんに服を着せようとする。だが、その手はつい止まってしまう。な、なんというプロポーション……
ま、眩しい、こ、これはまさに美のビィーナス。レミリアさんの完璧なプロポーション、染み一つない綺麗な体……
あぁレミリアさん、あなたはなんでこう俺を魅了してやまないのか!
ご、ごくりと唾を飲む。そ、そうだ、ティムが治療したけど、もしかしたら傷が残っているところがあるかも? そ、そうだよ。一応、服を着せる前に確認しないとね。傷が残っていたら大変だし。俺はレミリアさんを隅々まで調べる。
おぉ、なんと美しい! レミリアさんの完璧なプロポーションを上から下へと見る! 触る! 嗅ぐ! そして、舐める!! あらゆる五感で堪能する。
そして、幾許の時をそうしていただろうか……すみずみまで見ていた俺の目がぱっちりと開いたレミリアさんの目と合う。レミリアさんは不思議そうに俺を見ると、そのまま素早く立ち上がる。何やら不審げな目つきで俺を睨むレミリアさん。
やばい、やばい! これってオル以上の危機なんじゃないの? 俺のバカ、バカ、なんて事したんだ! 今更ながらに後悔する。だらだらと冷や汗が出てきた。
「ティレアだったな。つかぬ事を聞く」
「は、はい」
「なぜ、私は裸なのだ?」
「さ、さぁ全裸待機しておられたのでは?」
「ティレア、私は冗談が嫌いなのだ」
「は、はい、す、すいません、私が脱がしました」
「なぜだ?」
「なぜってねぇ~なんででしょう? 私が聞きたいくらいです」
「理由はない……と?」
「い、いやいやそんな……し、しょうがないな~それでは私めも裸になる事でおあいことしましょう」
俺は着ている服を脱ごうとするが、レミリアさんは無言でそっと剣の柄を握る。あわわわわ、なんて事だ。今回、最大の危機だよ。誰か助けてくれ!
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