第二十一話 「ジェシカとレミリアの危機」
はぁ、はぁ、はぁ、息がはずむ。
私はリリスちゃんを肩にかつぎ本陣に向かい逃走中である。最初は何とかティレアさんを言いくるめて敵を倒してもらおうと思っていた。だが、リリスちゃんが敵に大ダメージを食らい倒れると状況は一変した。リリスちゃんの怪我は一刻を争う。私は敵の隙をつき、正確にいうとティレアさんをおとりにして、慌ててリリスちゃんを連れて逃げ出したのだ。
逃走中、敵が追ってくる気配がしたので「ティレアさん、後は頼みます」と言ってティレアさんに注意をひいてもらった。ティレアさんの唖然とした顔はまさに置き去りにされたといった感じで、思惑通り、敵はこちらよりティレアさんのほうに注意が向いたのである。
「聞いた! ジェシカちゃん、カムバ――ック! 何か逃げても意味ないみたいだよ、一緒に戦おう。このままじゃ各個撃破されちゃうよ」
はい、ちゃんと聞こえてますよ。
逃走中にティレアさんの助けを呼ぶ声が聞こえてきた。ティレアさん、ごめんなさい、リリスちゃんを少しでも早く治療しなければいけないんです。敵は一人で何とかしてください。ティレアさんなら楽勝ですから。私は聞こえないふりをしながら、本陣に急ぐ。
「はぁ、はぁ、ジ、ジェシカ、わ、私の事はいい……お、お友達を助けにいけ!」
「何言ってるの! リリスちゃんの怪我、早く治療しないと命に係わるよ! それにティレアさんの事なら大丈夫だから」
「はぁ? な、何いってやがる! はぁ、はぁ、マルフェランド相手にただの素人が……ど、どうにかできるとでも……はぁはぁ、あ、あの女死ぬぞ」
「いいからいいから、そんな事よりリリスちゃんは自分の体の事だけ心配して」
「そ、そんなことって……ジェシカ、お前そんな性格だったか?」
「はは……とにかく大丈夫だから」
「ま、まったく……何がなんやら」
まずい、リリスちゃんの声に力がない。だいぶ衰弱しているみたいだ、脈はとぎれとぎれだし、下手すれば……
くっ、早く本陣に行かないと! 私は加速の呪文を唱えて走り抜けていく。もうすぐだ、もうすぐ本陣に着く。
「レーミーリーヤさぁ――っん! たっけ――て!」
ティレアさんの助けを呼ぶ声が聞こえてきた。なんて大声、だいぶ離れているのにここまで声が聞こえてくるなんて……
多分、地声なんだろうけどティレアさん、もう何でもありだね。敵の鼓膜が破れちゃったりしてないかな?
というか、ティレアさん、まだ戦闘していなかったのか、いい加減にクカノミでも十字架でも使ってくれれば一発なのに……
ティレアさんが本領発揮していないという事は敵もまだ実力行使に出ていないという事である。
「はぁ、はぁ……ま、まずい、さっきの女が助けを呼んでいるぞ、は、早く」
「いいから、いいから」
「お、おい、はぁ、はぁ、ま、魔法を使って大声だしたんだろうが、あ、あれでは敵を呼び寄せるだけだ、危険だ」
それは望むところね。ティレアさんに全員倒してもらおう。私は無視をして先を急ぐ。そして、本陣間近にせまった区画で足を止める。周囲に立ち込める魔力を感知したのだ。
「はぁ、はぁ、く、くそ、ぜ、前方に……」
「うん、リリスちゃん分かってる、敵を警戒するね」
リリスちゃんをそっと地面に座らせると、建物の影から注意深く観察する。剣戟の金属音に魔法弾が飛び交っている。
戦闘中みたいだ。一方は治安部隊のようである、指揮をしているのはレミリア様だ。自ら剣を振るい敵陣に斬り込んでいる。そして、敵はどうやら魔族らしい。敵はレミリア様の攻撃をいなし確実に治安部隊を削っていく。
すごい、一人ひとりがアルキューネ達より確実に格が上の連中だ。治安部隊もがんばっているが、ひとり、またひとりと倒されていく。魔族側は多少の手傷をレミリア様につけられているようだが、一人も倒されていない。
そして、とうとうレミリア様を除き全ての隊員が倒されてしまった。
「くっはっはっははは! とうとうお前だけだ、レミリア・ハッセン!」
「くっ、おのれぇえ! 部下の敵は討たせてもらうぞ!」
「ふん、お前達にはずいぶん煮え湯をのまされたからな、お前で最後だ、きっちり報復をしてやる!」
「それはこちらのセリフだ! 我々を王都外へおびき寄せる為におとりになっていた貴様達が何を言うか!」
「おとりだぁ? お前はもしかしてこの騒ぎを我らと結び付けておるのか?」
「白々しい、貴様らが我らをおびき寄せ、本体が王都を襲う作戦だろうが!」
「……あんなエセ眷属と我らエリート部隊を一緒にしたのかぁあ!」
「黙れ、魔族など全て一緒だ、王家に弓引く貴様らは絶対に許さぬ!」
「まったく……ここまでいらつかせるとは……お前のおかげで私達は主の前で大恥をかいたのだぞ」
「オルティッシオ隊長、この屈辱この国全ての人間に死で償ってもらいましょう」
「くだらん、そんなくだらぬ理由で国民を殺すなど絶対に許さん!」
「くだらんだとぉ! レ~ミ~リ~ヤ、貴様は絶対に八つ裂きにしてやる!」
両者の凄まじい殺気、そして、レミリア様とオルティッシオと呼ばれた魔族達の争いが始まった。だが、多勢に無勢、徐々にレミリア様の旗色が悪くなる。起死回生を狙いレミリア様が奥義を繰り出すも打ち取る事が出来ず……
とうとうオルティッシオ達にレミリア様が捕まってしまった。
「きひゃはっはは! はぁ、はぁ、手こずらせやがって。レミリア、お前はただじゃ殺さねぇ、きっちりと地獄をみせてやるからな」
オルティッシオの狂気にみちた声が響く。まずい、このままではレミリア様の身が危ない。
「リリスちゃん、ここに隠れていてね」
「はぁ、はぁ、お、おい、無茶は……よ、止せ」
私はレミリア様奪還に向けて動き出す。
■ ◇ ■ ◇
その頃のティレアとティム
「うぇえ、ティム、ちょっと奴の汁が口に入った。ねぇ魔族って口に入れても大丈夫かな? お腹壊したりしないかな? ぺっ、ぺっ、気持ち悪いよぉ」
「あぁ、なんとおいたわしいお姉様! どうぞ水です、我の作った水でお口をおすすぎください」
「おぉ、やっぱり魔法は便利ね、あんがと! がらがら、ぺっ、ぺっ」
「お姉様、ご気分はどうですか?」
「ふぃい、な、なんとか……」
「申し訳ございません。まったくあのくされ眷属、我が作った中でも最低でした」
「ん? あぁ、たしかに最低な奴だった。見てよ、ティム、この周囲の惨劇、皆あいつがやったんだよ」
「この食い散らかしよう下品にもほどがある。お姉様が制裁されたのも頷けます」
「でしょ、まったくひどすぎる。老若男女ところかまわず殺しているんだよ、あぁ、胸糞悪い」
「お姉様のものに勝手に手を出すなど言語道断。本来であれば我が制裁するべきところでした」
「……そ、そうね」
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