「こ、この、ひゃなせ!」
「エディムと言ったな、まったく不遜な態度を取りおる。お姉様からの賜りものでなければ即刻廃棄したところだぞ! いや、そのような考えではだめだ。お姉様からの贈り物なのだ、例え石ころであっても大切にせねばならぬ」
な、何だ、何なんだ、お前達! 私は魔族なんだぞ!
人間を超越した魔族になったはずなのに……
どうして貴様達は私を拘束し、あまつさえ自由に振る舞う事が出来るのだ?
「ほのれ! わひゃしは、まじょくなんだぞ!」
「ふぅ、まずはその醜く欠けた牙を治してやる。エディム、お主は光栄にもお姉様から下された品なのだ。その品にふさわしい姿形にしておく必要がある」
「な、なひを……」
「いいから、黙っておれ!」
ティムと呼ばれた
敵の妹が私の顔を容赦なく掴む。
くっ、離せ!
力任せに引き剥がそうとするが、その掴んだ手はびくともしない。今の私の力は大の大人十人分を軽く凌駕するはずなのに……
どうして? なぜ? 意味が分からない。
そして、ティムは何かしらの呪文を唱えると、私の中に濁流のように魔力が注ぎ込まれていく。
うぁああ! な、なんという暗黒に満ちた力なんだろう。力が溢れてくる。
「はぁ、はぁ、一体何をし……あ、あれ? 歯が治っている!?」
「ふん、真祖たる我の魔力を与えたのだ。欠けた歯を戻すなど造作もない事よ」
「えっ!? うそ? 本当に真祖……様なの?」
「まだ分からぬのか! 自己の魔力の源流を感じとってみよ!」
「で、でも、私の主はアルキューネ様で……」
「このたわけぇがぁ! アル何某といったか、奴など我の失敗作である
眷属が作った眷属であろう。本来であればそのまた眷属であるお前のようなクズは即刻処分しておったところだぞ!」
「そ、そんな……」
確かにティム、ううん真祖様の力は本物だ。冷静に自分の中の魔力を探ると、目の前にいる御方の魔力がその源流であり、アルキューネ様とは比較にならないほど格上の魔族だという事が分かる。
あぁ、何て事なの! そんな御方にあんな無礼な言動をしていたなんて……
噛んだり罵ったり不敬極まる行為を思い出し、後悔で沈んだ面持ちとなる。
「だが、エディム、お主はそんな出来損ないの
眷属から光栄にもお姉様の品に格上げされたのだ。誇るがよい。我の直属眷属にしてやろう」
そう言って真祖様は周囲に暗黒の魔力を漂わせる。
あぁ、すごい……
あっという間に私を取り巻く環境が真祖様の魔力で包まれていく。私はすかさず真祖様の足元に土下座し、今までの無礼を謝罪する。
「あぁ、偉大なる真祖様……愚かな振る舞いお許し下さい」
「ふん、ようやく理解したか、そう我を、そしてお姉様を崇め讃えるが良い」
「ははっ、肝に銘じます」
「それとだ、エディム、近くに寄れ!」
「はい」
真祖様の仰せのままに傍らに移動する。
あぁ、何で気づかなかったのだろう。目の前にいる御方が偉大なる真祖様だと認識すると、その魔力もさることながら、そのひときわ輝く美しいお姿に魅了されてしまう自分がいる。
私が恍惚としていると真祖様はそのどこまでも美しい手を私の頭にのせてきた。
「お前は我の眷属に連なるくせに脆弱すぎる。元人間という事を差し引いても力不足な事この上ない」
「ま、まことに不甲斐なくお許しください」
「まぁ、見てくれは悪くない。後は我が潜在能力を引き上げてやれば少しはものの役には立つはずだ」
真祖様の手からすさまじい魔力の波動が伝ってくる。
「っふぁぁああん!」
思わず喘ぎ声が漏れてしまう。
はぁ、はぁ、なんという甘美で痺れる魔力なの!
どこまでも甘く甘く……
あぁ魔力がなじむ、なじみすぎるよぉ――っ!
まさに源流、私の中の眷属としての血が真祖様の魔力をどこまでも求める。
はぁ、はぁ、これが真祖様のお力……
真の主様……
はぁ、はぁ、すごすぎるよ。今までに感じた事がない快感、なぜここまでの快感が、これほどまでの魔力が……
はぁ、はぁ、だめ、そんなことを考える前に脳味噌が沸騰しそう。あまりになじむ魔力、快感にもう何も考える事が出来ない。
なんてものを……
なんて素晴らしい魔力を与えて頂けるのぉ!
このお力の前ではアルキューネなどカスにすぎない。
「はぁ、はぁ……はぁうぅん、す、すごすぎますぅ、し、真祖様」
私はだらしなく唾液を垂らしながら、真祖様にすがりつく。
あぁ、すばらしき真祖様、そのりんとしたお姿にどこまでも美しいお顔。もっともっと真祖様と強い繋がりを求めたい。
はぁ、はぁ、もう我慢出来ないよ。私は恐れ多くも大胆に真祖様に口づけをしようとするが……
「む!? このたわけぇ!」
「がはっ!」
真祖様に躱され、そのまま足蹴にされてしまう。
「我と接吻など……身の程をわきまえるがよい!」
「はぁ、はぁ……ま、まことに……も、申し訳ございません、で、ですが、真祖様が、あ、あまりにお美しいので……わ、私は、あぁ、もう我慢が――」
「ふん、快感におぼれたか! 仕方が無い。ほれ、我の足になら許そう!」
真祖様からの許可が出る。
あぁ、何という僥倖! その類まれなく美しいおみ足にキスをする。
はぁ、はぁ、私はなんて果報者なの!
私はうっとりと真祖様の足元に寄り添う。
未来永劫、お仕え致します。真祖カミーラ様!