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ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

2章 王都襲撃編

第十三話 「我はベベを成敗するのである」

 魔滅五芒星(デガラビア)の騎士レペスとエセ眷属(しっぱいさく)の長との戦いが始まった。両者、因縁があるようで闘志むき出しである。特に、レペスのほうは鬼気迫る表情だ。大方、魔族に仲間を殺されたといったところだろう。エセ眷属(しっぱいさく)はそれをあざ笑うかのように対峙している。

 エセ眷属(しっぱいさく)……たしかベベと名づけてたはずだ。まったく大物ぶりおって。その程度の魔力しかないから人間なんぞになめられるのだ。

 レペスが咆哮し、剣でベベを切りつける。ベベはそれを魔弾で牽制、さらにベベの指先から黒い炎が立て続けに噴出された。その黒炎に触れた木々が瞬時に消滅してしまう。だが、レペスは剣を盾に人間とは思えぬ俊敏な動きでそれを避ける。

「まったくちょこまかと! こざかしいのぉ」
「だまれぇ! 必ず貴様の息の根を止めてやるからな!」

 レペスとベベは互いに罵り合いながら一騎打ちを続けていく。だが、経験の差が出てきたのか徐々にレペスが押され始める。そして、ベベの闇魔法がレペスをとらえた。

「ぐふっ!」

 レペスは闇魔法をくらい、バランスを崩す。ベベはレペスのその隙を見逃さず、高位魔法を唱える。
 
「ふぉふぉ、くらうがよい! 業火の雄叫び(ファイヤーシャウト)!」
 
 周囲一帯を火炎が包み込む。これにはさすがのレペスも防御一択となり、その強烈な火炎から身を防ぐ。

「な、なんと、こ、これが魔族の力なのか……お、俺達とは桁が違う!」
「し、信じられぬ……あ、あの男の力、レミリア様以上だ」

 その戦いを見ながら治安部隊の面々が口々にそう囃し立てる。
 はぁ~まったくあの程度を魔族の力と誤解されるのはなんとも歯がゆいものだ。だが、あえて事実を述べて人間共から油断を誘えなくなるのはお姉様の本意に逆らう事である。
 さてさて、どうするべきか……人間共にはまだおおっぴらには正体をあかせられない。だが、エセ眷属(しっぱいさく)には相応のお仕置きをしないと示しがつかぬ。こやつらだけこの場から引き離すか。そういえば、あのレペスとかいう人間が転移魔法を構築していた。ふむ、術式はまだ途中だが、ここまで構築されておれば後は簡単だ。どれ、使わせてもらうか。我は術式をのっとり、発動する。

転移(トランスポート)!」

 我が転移魔法を発動すると、その場から魔方陣が浮き上がってきた。

「な!? 誰が術式を発動しやがったぁ!」
「ふぉふぉ、どうやら第三者が介入してきおったようじゃの」
「な、なんだ、なんだ、急に魔方陣が……くっ、そ、総員退避――――ぃ!」

 転移魔法が発動……そして、転移先はベベの軍団駐屯地である。
 ふん、ビンゴだ。術式をちょいといじり、転移先を避難場所からベベの魔力に近い存在の塊の場所に変更しておいたのだ。
 ふむふむ、いるいる、失敗作の集まりが! 我の眼下にはざっと数百といったところか、雑魚がむらがっておる。こやつら皆、ベベの眷属か、なんともまぁ、貧弱この上ない。まったくべべの奴め、よくもまぁこんなにゴミを増やしおって! 

「ちっ、誰だか知らねぇが、術式をいじりやがったな」
「な、なんと、敵地のど真ん中に転移とは……」

 治安部隊(よけいなもの)までついてきたようだが、これくらいは許容範囲だろう。

「そ、総帥、こ、これはいったい?」
「ふぉふぉふぉ、渡りに船、お前達はこやつらが逃げぬように包囲するのじゃ」
「わ、分かりました」

 ぺぺの軍団員は、包囲するように陣形を敷いていく。

「はぁ~囲まれちまったか、こりゃ絶体絶命のピンチってやつか~」
「レペス殿、微力ながらお力添えします」
「あぁ、あんたらはいいよ。それより強制転移だったが、避難民は巻き添えになっていないか?」
「はっ、巻き込まれたのは我ら治安部隊だけかと」
「ふ、副隊長! それが一人女の子がいます!」
「な、なんだと!」
「そうか、避難民がいるのなら、そいつを守ってろ! 突破口は俺が開く!」
「はっ」

 レペスは剣をかざし、一点突破を計る様子だ。

「お嬢ちゃん、心配ないからな。俺達が必ず助けてやる!」

 そう言って、治安部隊の面々は我を守るように配置につく。ふむ、頃合だな。

「うっとおしい、どくのだ!」
「な、なにを――――ぐはっ!」
「お、おい、前に出たら危――――へぶっ!」

 我の前に突っ立ている人間共を突き飛ばし、ベベの前に対峙する。

「ふぉふぉふぁ何用かな、人間のお嬢ちゃん? 焦らずともこやつを殺したあとじっくり遊んでやるからのぉ」
「ひひひ、総督! 我らにもおこぼれをあずかりたいものです!」
「その通りでさ! こいつなかなかの上玉だ、殺し食いつくしてやりますぜ!」
「はぁ、はぁ、そ、総督、お、おらぁ、もう我慢ができない、この娘っ子を」

 我が登場すると、べべの軍団員が騒ぎ出す。なんとも下劣な奴らだ。こやつらが小なりとはいえ我の眷属に関係すると思うとげんなりしてくる。不出来な失敗作はすぐにでも処分しないと気が済まぬわ。

「ベベ、数千年の間にえらそうになったの、敵前ですぐに震えて腰を抜かしていたあの頃がなつかしいぞ」
「ふぉふぉふぉ、藪から棒に何をぬかすかと思えば……人間、そのような口を利いてただですむと思わぬことだ、楽に死ねぬぞ!」
「魔力を抑えていては分からぬか、自分の主を忘れるとは不届きにも程がある!」
「主じゃと?」
「ふ、我の顔を見忘れたか!」
「ま、ま、まさか! その立ち振る舞い、お姿……カミーラ様であらせますか!」
「ほ、本当ですか?」
「あ、あれが俺達の真祖……様?」

 ベベの軍団員達は狐につままれたような顔をしている。まぁ、実際に我に会ったことがないのだからそれも当然であるか。ベベの奴に話ぐらい聞いていると思うが

「お、お前たちぃ――っ! ず、頭が高い! ひ、控えろ! 真祖様だ! 我らの主様だぞ!」

 ベベの血相を変えた叫びに軍団員が一斉にひれふす。

「ふん、ようやく身の程を知ったか! まったく我が封印されている間によくもまぁ増長しおって!」
「そ、そんな……わ、我らはカミーラ様の眷属としてこの世に君臨すべきと……」
「それが増長といっておるのだ! お前達如きが世に君臨する? 冗談にも程があるわ!」
「し、しかし、我らはカミーラ様の為、そう真祖様の名を永遠にする為、大魔族(マルフェランド)の名を世に轟かせる為に――――」
「そう、それだ、我がいつお前如きに家名を与えるといったか! 身の程を知れ! 死んで詫びるが良い!」
「……」
「なんだ? その反抗的な目つきは? 我の家名を勝手に使う。そして、あまつさえ我らの領土であった王都を土足で足を踏み入れる行為。ベベ、その罪状は許しがたし。このまま、全員自害せよ!」
「ぬぅうう! ワシはこの数千年、ちゃくちゃくと力をつけてきた。あ、あなたのようにただ封印されていただけとはち、違う!」
「暫く見ぬ間にずいぶんと生意気な口を聞くようになったものだ」

 我はべべを断罪しようと近づいていくと、急にベベが立ち上がり叫ぶ。

「ええぃ! このようなところにカミーラ様がおられるはずがない! こ、こやつは真祖様の名を騙る偽者だぁ! 無礼千万な輩じゃ、殺せぇ! 殺すのじゃ!」
「ほぉ~我を偽物というか、ベベ、それが答えか?」
「こ、殺せぇ! 皆でかかるのじゃ!」
「し、しかし総督、真祖様に歯向かうなど……」
「ば、馬鹿者! あやつの魔力を測ってみよ! 脆弱そのものではないか、こ、こやつは偽者だ!」
「た、確かに……よし皆、真祖様を騙る不届きなこの女を血祭りにあげるぞ!」
「「おぉ!」」

 ベベの軍団員が我にじりじりと近づき、包囲網を縮ませていく。左から魔力七千、四千、五千、ふっ、数えるだけ無駄か。どいつもこいつも雑魚そのもの。十把一絡げである。この戦闘力で我を倒す? 寝ぼけておるのか、狂うておるのか。

「くっくっ、なんだ、怒りを通り越して笑いがこみあげてくるぞ!」

 我は、抑えていたその巨大な魔力をフルに放つ。堰を切られ、解き放たれた魔力の奔流は瞬く間に周囲を荒れ狂うように侵食していった。
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