さぁ、今日も張り切って料理を作りますか！

　今日は異世界版「肉じゃが」を作る予定である。材料はオークの肉にじゃがばたいも数個、味醂、塩、お砂糖等の調味料だ。
　まずは、オークのバラ肉を数センチ刻みに切り刻んでいく。そして、鍋に油を入れ、刻んだ肉と一口サイズに切ったじゃがばたいもを入れる。調味料を加え、中火でコトコト、中の肉色が変われば完成だ。

　ふん♪　ふん♪　そろそろかな？

　鍋の蓋を開け中を確認しているとティムと変態(ニールゼン)の声が聞こえてきた。

「ティレア様！」
「お姉様！」
「二人ともな～に？　新種のドラゴンでも見つけたの？」
「いえ、そのような報告はございません」
「じゃあ何？」
「はっ、近衛隊の再編も完了し邪神軍のこれからの戦略をお聞きしたいのですが」
「我とニールゼンを含め近衛隊総員がお姉様の下知を待ち望んでおります」

　ティムと変態(ニールゼン)が藪から棒にそう言ってくる。以前から「近衛隊の再編中です」とか「視察に来てほしい」とか言ってたし、どうやらティム達は魔王軍ごっこに俺を誘いたいらしい。この前のお茶会で俺が中二病だと話したからきっと仲間だと思ったのだろう。確かに前世、俺は中二病だったけど「元」だからね。今は治っているんだから。

　ただ、あまり趣味に否定的な事を言っても反発するだけだ。俺がそうだったから分かる。とりあえず一緒に遊びながらそれとなく注意していくしかないだろうね。

　よし、そうと決まれば俺も邪神軍総帥として久しぶりに遊んでみるか！

「戦略ねぇ～それじゃあティム、あなたを邪神軍総督に命ずるわ、あなたがまず好きなように方針を決めてみなさい」
「ははっ、大役を仰せつかり感無量にございます！」

　ティムが興奮して目を輝かせている。そんな事を言われたら中二病患者がエキサイトするのも当然だった。総督は言い過ぎだったかもしれない。でも、まぁ、あんなに喜んでいるのだ、良しとしよう。

「ニールは前みたいに近衛隊長ね。あとどうせなら邪神軍も魔王軍みたいに六魔将をつくってみる？　ティムの親衛隊の中で将軍になってくれそうな人いるかな？」
「お姉様、我でなくお姉様の近衛隊でございます」
「あぁ、そう、それで一緒に遊んでくれる人材は誰がいたっけ？　え～とベルは知っているんだけど……」
「お姉様、遊ぶなどと軍議は真面目にしませんと」
「はは、そうだね、ごめん、ごめん」

　いかん、いかん、こういう言い方をしちゃうと中二病患者はへそを曲げる。なにせ当人は真剣に魔族になりきっているのだから。

「ベルナンデスは諜報員として優秀ですが将軍の器ではございません」

　俺の問に変態(ニールゼン)がそう解説してくる。

　ふぅん、そうなんだ……

　でも、変態(ニールゼン)ばかり隊長していたら仲間内で不満が溜まっちゃうぞ。そういうのは順番でやらせてあげなきゃ。

　そう言えば今まで職位はどうやって決めていたんだろう？

　ジャンケン？

　それともティムの指名……？

　まぁ、じゃんけんでもアミダでもどっちでもいいや。「郷に入っては郷に従え」だ。ティム達のルールに従おう。

「そう、それじゃあティムが総督と将軍を兼任してやって。そのうちどっかから人材をひっぱってくるから」
「ははっ、お任せください。お姉様の敵は全て打ち砕いてみせます！」

　ティム達よっぽど楽しいみたいね。

　特に、ティムは「総督」と言われてはしゃぎまくりだ。変態(ニールゼン)と「王都の戦力はどうだ？」とか「魔王軍への備えは？」とか話をして盛り上がっている。さらには「村ごと根絶やしだ！」なんてぶっそうな言葉まで聞こえてくる始末だ。

　ティム、ちょっとヒートアップしすぎよ。そのうち「王都にはいつ攻めにいきましょうか？」とか言い出しそうで困る。

　ただね、悪いけど俺は料理の修行があるからいつもいつもティム達と遊んでられないんだよ。そうなるとお姉ちゃんとしては他に遊んでくれる人を探さないとね。

　う～ん、誰か他に遊んでくれそうな人……

　父さん、母さんはお店があるし無理はいえない。やっぱりヘタレ(ビセフ)かな。まぁ、ヘタレ(ビセフ)も仕事はあるが警護なんて出来る能力はない。町の警護が出来ない以上ヘタレ(ビセフ)の場合は遊んでいるようなものだろう。せめて住民とのふれあいを大切にしてもらいたい。

　ヘタレ(ビセフ)を参加させるか……

　俺がそう思っていると、

「ティレアちゃん」

　おっ！　噂をすれば何とやらヘタレ(ビセフ)が何やら荷物を持って訪ねてきた。両脇に箱を抱え、その箱はご丁寧にリボンが巻かれてある。よくある贈り物って感じだ。

　これはプレゼントか……

　はっ、もしや！

「ビセフさん、もしかして出来たんですか？」
「うん、例のもの今朝出来たから届けにきたんだ。いや～ティレアちゃんには散財させられたよ。今回も特注なんだからね」

　とうとうキタァー！　メイド服に続く第二弾！

　そ・れ・は……

　黒を基調としたレース、フリルに飾られた洋服、そう通称「ゴスロリ服」というやつだ。
　今度は丈もそれなりにあるしダディも文句はあるまい。俺はダディにメイド服を没収されたので第二弾の服をヘタレ(ビセフ)に頼んでいたのだ。さすがにレア防具の修理にオーダーメイドの服三着目とあってヘタレ(ビセフ)の顔は引きつっていた。

　でもねドキュン騒動の時に受けた心の傷は深い。慰謝料の代わりにヘタレ(ビセフ)には散財してもらわないとね。

　　俺はヘタレ(ビセフ)から箱を受け取ると中を開けゴスロリ服を取り出す。

　おぉ、なんという事でしょう！　巧みの技が光ってるね。

　ふっ、二度言ってしまったよ。素晴らしい出来だ。早速ティムに着てもらおう。

　今回のオーダーメイドのゴスロリ服は一着、ティムの分しかない。俺は出るとこ出ているナイスバディだからゴスロリ服は似合わない。着ても良いんだけどね。


　ふふ、満足の一品、ヘタレ(ビセフ)には色々言いたい事はあるが、素晴らしい出来の服を貰ったんだ。一応、お礼は言っておく。

「ビセフさん、ありがとうございます！」
「本当大事にしてよね。俺も女の子に色々プレゼントはしてきたけどティレアちゃんほどお金を使った事はないんだからね」
「あぁ、そうですか」
「今までに三百万ゴールドかかった。少しヤバいとこから金借りているし……」

　そ、そうなの？　ちょっとやりすぎちゃったかな？

　一応、あんたの評価をゴミムシからヘタレに格上げしてやっているからね。さすがに借金までさせてしまったと分かると心が痛い。

　俺の中で罪悪感が膨れ上がっていると変態(ニールゼン)がヘタレ（ビセフ)との話の輪に入ってきた。

「ゴミではないか！　そうかティレア様に貢物を持ってきたのか。ゴミとはいえ殊勝な心がけである。ティレア様にかわり褒めてやる」
「また貴様か！　頭のおかしい可哀想な奴だから許してやろうと思ったがお前とは一度決着をつける必要があるな」
「ゴミの癖にでかい口を叩きおる。その決着とやらは今でも構わんぞ。怖気――」
「ニールゼン、やめないか！　お姉様の教えを忘れたか！　言ったはずだぞ、お姉様の作戦を妨げることは許さんと」
「はっ、も、申し訳ございません」

　ティムの鋭い言葉に変態(ニールゼン)は地べたに土下座する。地に頭を擦りつけ謝罪を繰り返す変態(ニールゼン)特有の技、もはやお家芸だ。

「ははっ、何それ？　まったく大の大人が面白い遊びをしているよ」

　まったくその通りです。「主従ごっこ」って言うんですよ。大の大人が子供に土下座する光景シュールだよね。俺はもうこの光景には慣れたけど……

「それにしてもティムちゃんって以前と雰囲気変わったよね？」
「あぁ気にしないでください、ティムは今、反抗期なんですよ」
「そうなの？　ふ～んティムちゃん、お姉さんをあまり困らせちゃだめだよ」
「き、貴様に言われるまでもないわぁ――っ！　我がお姉様を困らせるだと！　おのれぇ、人間如きになんという屈辱――」
「どうどうティム、落ち着きなさい。私が言った事をもう忘れたの？」
「お姉様、申し訳ありません。わ、我はまたお姉様を失望させてしまいました」
「よしよし、良いのよ。ティムは良い子、失望なんてしないわ」

　よしよしとティムの頭を撫でてやる。

「ビセフさん、すいません。ティムは今こんな感じで今日のところは……」
「わ、分かったよ。ティムちゃん、ごめんね。それじゃあこれは置いていくから」

　ヘタレ(ビセフ)はそう言ってそそくさと出て行った。それじゃあ、ゴスロリ服のお披露目と行きましょうかね。抱きしめているティムに語りかける。

「ティム、早速なんだけどこれ着てみてくれない？」
「はい、わかりました」

　ティムがヘタレ(ビセフ)が置いていったゴスロリ服を手に取る。まじましとゴスロリ服を見つめるティム。やはり珍しいから興味津々なのだろう。

「おぉ、懐かしい服です！」
「え!?　ティム着たことあったけ？」

　俺の記憶するかぎりこんな服、うちになかったはずだが……

「我が幼少時代によく着ていた服に似ております」
「へ？　へ？　へ？」
「さすがに、千年を超えたあたりからは着なくなりましたが……今の我の体格からするとこれは確かにぴったりですね」

　あぁ、なるほど魔族カミーラだったらの話をしているのね。うん、確かにこの服、魔族や吸血鬼がよく着てそうなイメージだ。ティム、想像力豊かじゃない。

「そっか、それじゃあ久しぶりに着てみようか！」
「はい、それがお姉様のお望みとあれば……」

　ティムがゴスロリ服を手に取りお着替えをする。

　しばし、待つこと数分……

　ティムがゴスロリ服を着て俺の前に現れた。

「ふぉぁあああ、似合っているよ、似合いすぎだよ、ティム」

　予想通り！　いや、予想以上の破壊力だ！

　やはりティムにはゴスロリ服が似合う。

「そうですか、お姉様がそう仰るのであればこの服は我の家宝と致しまする」
「えぇ、えぇ、ぜひそうして！　ついでに髪型も少し変えようか？」

　俺はティムの髪型をツインテールにする。

　するとどうだ！　ゴスロリの格好にティムの銀髪ツインテールが映える映える！　どこかのお姫様みたいだ。ツインテール属性を刺激するよ。

　うおぉおぉ、俺グッジョーブゥ！　すっばらしぃ――っ！

「えへへ、かわいすぎだよ、ティム」
「お、お姉様、また目が怖い事になってます」