第二十六話 「ルクセンブルクの暗躍」
ベルガ平原に六魔将ルクセンブルクが佇む。ルクセンブルクは興味深げに先の戦いを見ていた。
「やつら、ばっかじゃないの? 正面から邪神と戦うなんて、戦いは搦め手から攻めないとね。ワタシって超頭よくない?」
ルクセンブルクは魔邪三人衆と邪神のつぶし合いにより漁夫の利を狙っていたのである。
ふ、ふ、まずはこの傷の礼をしないとね。
ルクセンブルクはその驚異的な視力と嗅覚で魔邪三人衆の場所をサーチする。
「見っけ!」
セイリュウ、ビャッコを乗せた騎獣達が草原を通り過ぎようとしていた。ルクセンブルクは騎獣達が通るであろう道の先回りをすると、横合いの茂みに隠れる。
風は草原から吹いている、位置的に風下であり騎獣共に感づかれる事はない。
そして、数分後、騎獣達はルクセンブルクに気づくことなくその横合いを通り過ぎようとしていく……
「ふ、ふ、どこ行くの♪」
ルクセンブルクはタイミングをはかって飛び出し、騎獣らめがけて強烈なけりをお見舞いする。騎獣らは強烈な衝撃を受け、乗せているセイリュウ、ビャッコとともに吹き飛ばされた。
体重数百キロの騎獣が数十メートルも吹き飛ばされたのだ。その蹴りのすさまじさが窺える。
「がぁああ!」
騎獣らはよろよろと立ち上がり、投げ出された主人を庇うように咆哮した。足が折れ牙も欠けているにも関わらず、ルクセンブルクを威圧するのである。
「ばかね、こんな奴らほっといて逃げちゃえば良かったのに」
ルクセンブルクは咆哮する騎獣に大胆にも近づくと腕をヒュンと振り下ろす。騎獣らの首がボトリと刈り取られていった。
さて、奴らどんな様子かな?
まずは、ビャッコを見る。腹には拳大の大穴が空いており血が吹き出ていた。息も絶え絶えであり強烈な一撃を喰らった事が窺いしれる。ルクセンブルクが近づくとビャッコはうわ言のように助けを懇願してきた。
「お、お……た、たす、助け……て……くれ」
「ふぅ~ん♪ そんなに助けてほしい?」
「は、はやくし……しやがれ、う、うすのろ、も、もう魔力がもた――」
「やだ」
ルクセンブルクはビャッコ目がけて魔弾を放つ。その容赦無しの魔弾はビャッコの腹に強烈にぶつかる。
「ごぉああ!」
「きゃはははは♪ な~に、きったない声」
弱っているところに六魔将の魔弾を喰らったのだ。ビャッコは原型を留める事なく砕け散った。
ルクセンブルクは次にセイリュウを観察する。セイリュウはビャッコよりも重傷であった。体中の骨という骨が粉砕し、意識混濁状態になっている。
「き、ご……が……」
「ふん、こいつはもう虫の息ね。仕方ないか、邪神にぼろくそ殴られてたもんね」
ルクセンブルクはセイリュウの顔を覗き込むようにして尋ねる。その顔は愉悦に満ちていた。
「ねぇ? 助けてほしい?」
「ぐ……ぎ……」
「つまんないの!」
ルクセンブルクは力任せにセイリュウの顔を踏みつける。グシャリとセイリュウの頭蓋骨が砕けちった。
「キャハハ♪ 調子に乗っているからこうなるのよ」
ルクセンブルクは愉快気に呟く。キャハ、なんて間抜けな連中、これで少しは腹の虫は治まった。
「さて、邪神はどこだったかな?」
ルクセンブルクはその瞳孔を大きく開く……
見つけた!
邪神、カミーラが寄り添うように倒れている。そして、その後方にはニールゼンが気絶していた。
ルクセンブルクはその鍛え抜かれた四肢を使い高速で邪神が倒れている場所まで移動する。突然の急襲であるが、邪神はスヤスヤと眠っており気づかない。
そして、邪神の頭をがしっと鷲掴みにする。
「こいつが邪神……ほんとただの人間みたい」
愛らしい顔にかぼそい首、華奢な身体を見るとただの人間にしか見えない。あのすさまじい戦いを見ていなければとても信じられなかった。傍らには裏切り者のカミーラが眠っている。
「あんた達ちょっと無用心すぎ……ばかね」
ルクセンブルクは愉悦の顔をのぞかせている。愉快でたまらない。あれだけ調子にのっていた邪魔者はいない上に邪神は疲労でぼろぼろなのだ。こんな美味しい場面はそうそうないだろう。
「はは、わたしってなんて運が良いの! ゾルグ様、見ててください、こいつらをすぐにでも生贄として捧げます――それじゃあ、死ね!」
振り下ろされる魔力の籠った一撃――
だが、ルクセンブルクの手は何者かによって掴まれる。
「くっ! 邪神、気づいていたの? でも、さすがにふらふらでしょ……いいわ、とどめをさしてあげる♪」
「久しいな、ルクよ」
「えっ!? なんで? ま、まさか――そう、そこにいらしたのですね」
……
…………
………………
「――それでは頼んだぞ」
「はっ、お任せください」
魔将軍ルクセンブルクは人知れず姿を消したのであった。
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