魔邪三人衆、襲来！

　変態(ニールゼン)の友達のベルナンデスが急を告げてきた。何気にこいつも変態(ニールゼン)臭がする。類は友を呼ぶってやつだね。

「ベル、報告ご苦労様！　それで、ドキュン共の到着はいつ？」
「はっ、あと数刻ほどでベルガ平原に到達すると思われます」
「分かったわ。ティムはここで待っててね。私とニールでドキュンを迎え撃つ」
「お姉様、お待ちください！　微力な身なれど我も出陣します」
「ティム、だめよ！　ドキュンに近づくのは危険すぎる！」
「危険は承知してます。ですが我は少しでもお姉様のお役に立ちたいのです」

　ティム、なんて可愛いこと言ってくれるの！　胸キュンしちゃうじゃない！

　でも、本当に危ないのよ。いくらティムが魔法を使えると言ってもまだ十四歳の子供なんだから。ティムみたいな美少女を見たらドキュンは絶対にちょっかいをかけてくる、それは間違いない。
　まぁ、それを言ったら俺も美少女だから俺も狙われるだろう。だが、俺は覚悟の上だ。逆に返り討ちにしてやる。作戦は練ってあるのだ。ティムは危ないからお店に避難させておかないとね。

「ティム、気持ちは嬉しいわ。あなたが強い事も知っている。でもね、厳しいようだけどドキュン相手には荷が重すぎる」
「ティレア様のご心配も分かります。奴らの危険さも重々承知のつもりです。ですが、だからこそカミーラ様のお力が必要だと私は考えます」

　俺がティムを諭していると、変態(ニールゼン)が横から口を挟んできた。

　う〜ん確かに変態(ニールゼン)の言う事も一理ある。俺と変態(ニールゼン)は近接系、後方支援があるとずいぶん助かる。やっぱりティムには魔法で遠距離サポートしてもらおうかな……

　俺と変態(ニールゼン)がやられたら結局ティムがドキュン共と対峙するはめになるしね。

　……うん、そうしよう、決めた！

　ドキュンと戦うにしても逃げるにしても後方支援が有るのと無いのとでは戦術にかなり差が出てしまう。ティムは足が速いし、いざとなったら逃げるように言えばいい。それに万が一ティムが狙われたら、その時は俺が命がけで止めればいいだけの話だ。後はティムの初期魔法がドキュン共に通用するかだけど……

　どうだろう？

　俺はティムの魔法弾を一度くらったことがある、けっこう痛かった。ドキュン共にもそれなりに効果はあると思うのだが……

　変態(ニールゼン)は確かドキュン共を知っていたから聞いてみるか。

「ニール、ティムの魔法ってドキュン共に通用すると思う？」
「カミーラ様は古の最強魔法をお使いになられる、只の強者程度では問題はありません。ですが相手は破壊の申し子、魔邪三人衆。申し訳ありません。私には判断がつきかねます」
「お姉様、ご安心ください。我は以前よりパワーアップしております。決してお姉様の足を引っ張るような愚かな事は致しません！」

　ティムが熱意を押し立ててアピールしてくる。そうね、姉妹力を合わせないとドキュン共にいいようにやられてしまう。ティム、あなたの力を借りるから。

「ティム、ありがとう。気が進まないけどあなたにも手伝ってもらうね。でも、危なくなったら何をおいても逃げるのよ」
「お姉様を置いて敵前逃亡など致しません」
「だめ、命令よ。危険を感じたらすぐに逃げる事、私はあなた以上に大切なものなどないんだから」
「お姉様、な、なんともったいなきお言葉！　我をそんなにまで思ってくださるとは……我は、我は……感激で胸がいっぱいでございます」

　ティムは涙ぐみ感動に打ち震えている。もうティム、当然でしょ、俺はあなたの姉なんだから。

「ニール、もしもの場合はティムを連れて逃げるのよ。いざとなれば私が何とかするから」
「はっ、しかし……」
「ニール、あなたはティムの忠実なる僕なんでしょう！　命令に従いなさい、それとも私が信用出来ない？」
「めっそうもございません」
「それじゃあ宜しくね」
「ははっ、しかと承りました。カミーラ様の事はお任せください。身命を賭して護衛させていただきます。ティレア様はご存分にお力をお振るいください」
「任せなさい、作戦は考えてあるんだから」

　もしもの場合、俺が時間を稼いでいる間に変態(ニールゼン)にティムを連れて逃げてもらう。その時、町の皆を呼んできてもらえばいい。町の皆は普段は温厚だが、いざとなったら喧嘩の強い人がいっぱいいる。それにティムの親衛隊の皆さんもいるしね。かなりの大人数だ。

　ふ、ふ、皆で袋だだきにしてやる！　ドキュンめ、卑怯とはいわせないぞ！

　まぁ、これは作戦の最終手段だ。さすがに皆でリンチするとこちらが悪者になってしまうからね。まずはドキュン共に力を誇示しつつ話し合いが先だ。
　一応、話し合いだから大勢いるとドキュン共を刺激してしまうのでまずい。親衛隊の皆さんはお店付近に待機してもらおう。

「ニール、親衛隊の人達にはお店付近に待機するように言っといて」
「御意。中途半端な戦力ではいたずらに兵を損じるだけで得策ではありません。少数精鋭のティレア様の案、賛同致します」
「宜しくね。私はちょっと寄るところがあるから。二人ともベルガ平原で集合よ」
「分かりました、お姉様！」
「ははっ」

　よし、次は作戦その二を発動させるか……

　俺はヘタレ(ビセフ)を呼びに詰所に向かった。ヘタレ(ビセフ)は今日は非番ではないから詰所にいるはず……

　詰所に到着し、ヘタレ(ビセフ)を探す。

「すいませ〜ん、ビセフさんいますか？」
「やぁ、ティレアちゃん、今日はどうしたんだい？」
「ビセフさん、この前の話ですよ。不良が来ました、助けて下さい」
「了解、任せといてよ、そいつらのところに案内して？」
「待った、待った、ビセフさん、その前に防具を取りに行きましょう！」
「あ、そ、そうだったね。でも防具なんて必要ないと思うよ。もう無くてもいいんじゃないかい？」
「ビセフさん、防具を貸してくれる約束でしたよね？」
「わ、分かった、分かったよ。しょうがないなぁ、それじゃあ、ついてきて」

　ヘタレ(ビセフ)はしぶしぶの様子で防具を貸すのに乗り気ではない。案内している最中もブツクサと不満をたれてくる。

　多分、不良ごときに防具をつけれるかというプライド、そして何より俺に使われてレア武器が汚れるのが嫌なんだろう。

　何せヘタレ(ビセフ)のコレクターズルームの品々はピカピカに飾ってあったからな。まったくこれだからコレクターは嫌なんだ！　それなら「保存用」「使う用」「貸す用」の三つ揃えとけ！　

　まったく、まったく！

　あ〜でもレア武器を同じもの三つ揃えるのはさすがに厳しいか。

　ヘタレ(ビセフ)の家に着くと早速、鎖帷子と籠手を借りそれを装備する。

　お〜なんか冒険者になった気分がする。俺は飛んだり、腕をぶんぶん振り回してみたりした。

　はっは、邪神ダークマター登場！

　昔に戻った気持ちでバタバタと動き回る。

「ティレアちゃん、ティレアちゃん、そんなに動かないで、傷がついちゃうよ。あ〜籠手が壁にこすっちゃう、ストップ！　ストップ！」　

　ヘタレ(ビセフ)が血相を変えて俺を止めてくる。

　いやいやいや、何となく気持ちは分かるが、お前、これレア武器でしょうが！　

　こんな動きぐらいで傷がついたらこれ偽物だぞ！　だいたい俺に動くなって言いたいわけ？　無理だから。遠慮なしに走っちゃうよ、暴れちゃうから。

「ビセフさん、防具を気にしていたら動けないです」
「そうだよね、それじゃあ防具はもう脱ごうか？　ほら、ほら俺も脱ぐのを手伝ってあげるから」

　ヘタレ(ビセフ)はそう言って俺の服を脱がそうとしてくる。ヘタレ(ビセフ)の手が俺の胸元に近づく。おいおい俺の胸にボディタッチする気か？

「……いい加減にしないと怒りますよ」
「は、は、じ、冗談だよ、ティレアちゃん。それじゃあ、出発しようか！」

　まったくヘタレ(ビセフ)の奴、武器の事となると目の色変えやがって。あやうくセクハラされるところだったよ。

　気を取り直し俺とヘタレ(ビセフ)はベルガ平原へと向かった。

　変態(ニールゼン)とティムはもう来ているかな？

　ベルガ平原に着き、辺りを見渡す。

　おっ！　変態(ニールゼン)がいた。

　変態(ニールゼン)は無駄に格好良く平原に佇んでいる。醸し出すダンディズム、そうして黙ってたら絵になる男なのに……

「ニール、着いていたのね、ティムは？」
「これはティレア様、カミーラ様は既に後方茂みに待機されております」
「手筈通りというわけね」
「はっ、あとは奴らが来るのを待ち受けるだけでございます」

　よし、これで前衛、後衛の陣形が出来上がった。ドキュンと戦闘に発展すれば後ろに待機しているティムから魔法弾を撃ってもらう。

「この人はたしか……ティレアちゃんのお店に新しく雇われた人だったよね？　はじめまして、俺はビセフ、この町の警護をしている」

　そう言ってヘタレ(ビセフ)が俺と変態(ニールゼン)の話の輪に入ってきた。

　あぁ、そういえばこの二人初対面だったよな。紹介してやるか。

「ビセ――」
「人間、気安く私に話しかけるではない。しかもティレア様に向かってそのような言動、無礼にもほどがある！　手始めに貴様を軍神に祭ってやるか！」
「な、何だって！　い、いきなり無礼なのはお前のほうだろ！」

　おいおいおい、いきなりケンカしてんじゃねぇよ！　変態(ニールゼン)とヘタレ(ビセフ)が一触即発のようすだ。いきなり仲間割れしてどうすんだよ！　ただでさえこちらは戦力が心許ないというのに……

　まったく変態(ニールゼン)はどうしてあんなことを――ってそういえばそうだった、変態(ニールゼン)はところ構わず噛みつく中二病であった。最近おとなしくなって忘れていたが、変態(ニールゼン)は初対面だろうがいきなり殴りかかってくる筋金入りの中二病だったのだ。とりあえず中二病な件は置いといてケンカを止めないとね。

「ちょっと二人ともケンカは止めなさい！」
「ティレア様、何故このようなゴミを庇われるのですか？」

　いや、確かにこいつはヘタレだけどゴミまで言わなくてもいいんじゃない。

「ゴミだと！　これでも俺は町の警護長をしている。冒険者の時は騎士候の叙勲も受けたことがあるのだぞ。不敬罪で投獄されたいか！」

　あ〜ヘタレ(ビセフ)もヒートアップしてきているよ。

「ビセフさん、うちの従業員を投獄されると困ります。私からも謝りますので、許してやってくれませんか？」
「ちっ、俺も少し大人げなかったかな。お前、ティレアちゃんに免じて一度だけ許してやる、次は口の聞き方には気を付けろ！」
「ふ、ふ、ゴミにここまでコケにされてはカミーラ隊近衛隊長の沽券にかかわる、ティレア様、ゴミ掃除の許可をいただけませんか？」
「まだ言うか貴様！」

　ヘタレ(ビセフ)が激昂し変態(ニールゼン)に掴みかかろうとする。

「だぁああ！　ニールいい加減にして！　ビセフさん、ちょっと待ってて下さい」

　俺はすんでのところでケンカを止め、変態(ニールゼン)をヘタレ(ビセフ)から離し呼びつける。

「ニールこっちに来なさい」
「はっ」
「何であんな事を言ったのとは聞かない。あなたの性分なんて分かっているから。でもね、私の作戦の邪魔は困るのよ！」

　作戦その二、ヘタレ(ビセフ)による警察の威を借る作戦がオジャンになるところだったでしょうが！

「そ、そんな私がティレア様の作戦の妨げに……も、申し訳ございません！　まさかあのゴミがティレア様の作戦に関わっていようとは思いもしませんでした」
「分かればいいのよ。次からは気を付けてね」
「ははっ、二度と過ちは犯しません。それで差し支えなければ作戦内容についてお伺いしても宜しいでしょうか？」
「まぁ、ちょっとした実験よ。ドキュンに警護長の力が通じるかどうかのね」
「なるほど、人間の戦力を図るという事ですね？　さすがはティレア様、もうすでに人間共との戦いも視野に入れておられる」

　ふ〜あいかわらずの中二的セリフ、もう訳するのもめんどうになってきた。とりあえず、作戦の邪魔さえしなければいい、適当に相槌を打つ。

「まぁ、そんなところ」
「しかし、あのゴミが役に立ちますかな。私の見るところ魔邪三人衆に対峙すら出来ないかと思われます」

　む!?　変態(ニールゼン)にしては痛いところを突いてくる。そうなんだよね、ヘタレ(ビセフ)の場合、ドキュンにびびる可能性は十分にありうるのだ。

「ニール、私もその予測は立てているのよ。一応、この作戦は成功したらもうけものみたいに考えているわ」
「そうでしたか、私はティレア様の思し召しに従うまででございます」
「ティレアちゃん、話は終わった？」
「おいゴミ！　ゴミはゴミなりにティレア様のお役に立って死ぬんだぞ！」
「な、何だと！」

　あ〜また変態(ニールゼン)の奴、つっかかりやがって！　まったく分かってないじゃないか！　しょうがない、ヘタレ(ビセフ)のほうを説得する。

「ビセフさん、ビセフさん、ちょっとこっちに来てください」

　今度はヘタレ(ビセフ)を呼びつけ、話をする。

「あの男！　ティレアちゃんの手前我慢していたけどもう許さん！」
「ビセフさん、何度も言うけど許してやってください」
「しかしね、ティレアちゃん」
「ビセフさん、聞いてください！　彼は残念な男なんです。本当に残念で残念で……ビセフさんにはひとりの大人として広い心で接して欲しいんです」

　俺は変態(ニールゼン)がいかにニートで中二的な残念な奴かを語ってやった。そう実力もないくせにだれかれ構わず噛み付く狂犬ぶりを話してやったのだ。

「そ、そんな男がいまどきいるの？」
「います。そして、そんな男が六十歳近くになってはじめて働いているんです、その苦労、痛さ、分かりますよね？」

　ヘタレ(ビセフ)はとても呆れているようだ。当然だろう。だが、俺にとってはあんたもいい勝負しているよ。

「わ、分かったよ、そんな男じゃ社会常識なんて無いだろうし、ティレアちゃんも大変だね」

　どうやら分かってくれたようだ。まったくドキュンとの戦いの前に疲れたよ。これだから中二病は始末に負えないのだ。

「ティレア様、お話は終わりましたか？」
「えぇ、話はついたわ」
「ところで、ティレア様、お伺いしたい事があります」
「な～に？」
「はっ、何故そのようなみすぼらしい防具を装備されておられるのでしょうか？　それも作戦の内なのですか？」
「何？　お前は聞き捨てならないことを言ったな！」

　やばい、ヘタレ(ビセフ)の琴線に触れる話題だった。自分のコレクションがいちゃもんをつけられまた怒りが再燃したようである。

「ゴミ、私とティレア様のお話に入ってくるではない」
「ふ、まったく知らないというのは恐ろしいものだね。俺は元冒険者だよ、しかも歴代十位の若さで騎士侯の叙勲を受けたほどだ。分かる？　分かっていないか、ティレアちゃんに聞いたけど君はどうしようもないくらいバカみたいだからね。でも、あまり調子に乗っていると教育してやってもいいんだよ」
「ゴミ、もうしゃべるな。ティレア様の作戦の詳細を教えて頂けませんか？」
「君ね、ものの価値が分かんないみたいだから教えてやるけど、今、ティレアちゃんが着けている防具はレアもの。金貨百枚だしても買えない価値があるんだよ」

　ヘタレ(ビセフ)の奴、よっぽど自分のコレクションが貶され、キレているな。執拗以上に変態(ニールゼン)にからんでくる。変態(ニールゼン)は変態(ニールゼン)で無視を決め込んでいるようだ。このままだとこいつらまたケンカしだすぞ。

「ニール、無視しないで答えてあげなさい」
「ははっ」

　変態(ニールゼン)がヘタレ(ビセフ)に向き直る。

　どうやら俺の言うことは聞いてくれるみたいだ。その素直さをヘタレ(ビセフ)にも見せて欲しい。

「ゴミ、なにがレアものだ。このような三流品の屑鉄を装備する者など隊の下級兵士ですらおらぬわ」
「い、言ってくれるねぇ、それじゃあレアものとはどういうものを指すんだい？」
「『ロゴ・ロギの槍』『魔剣エクスザイバー』『ライギアスの盾』どれも素晴らしい武器であった、魔都の宝物庫で一度だけ見たことがある」
「ぷっ、はっはっは、何いっているんだ！　神話級の伝説の武器を言っているだけじゃないか！　実際ありもしないものを並べ立てやがって！　お前、頭いかれているだろう！」

　いやいやヘタレ(ビセフ)、そのとおりだけど直球すぎるだろう。もう少しオブラードに包んでくれ。それに言い過ぎだぞ、これでも変態(ニールゼン)はけなげで一途な一面も持っているのだ。ティムとはずいぶん遊んでもらっているしね。

「ビセフさん、言い過ぎです！　私の従業員をあまり馬鹿にしないでください」
「は、は、ごめん、ごめん。ついつい武器の事となると熱くなっちゃって……」

　ヘタレ(ビセフ)も変態(ニールゼン)のあまりな言動に毒気を抜かれたってところか？　さきほどのような食ってかかる怒りは鎮静したようだ。はぁ～とりあえず仲直りできたかな。