第八話 「妹が犬を拾ってきちゃった」
ふ〜どうしてこうなったのか? どうやらティムは反省してくれたみたいだ。だが、中二病は治るどころか、むしろ悪化しているように感じる。
「邪神様、どうかされましたか?」
ティムがつぶらな瞳で上目づかいに聞いてくる。
くぅ〜可愛い、俺の妹は可愛いぞ!
だが、なぜ、さきほどから邪神様、邪神様と言ってくるのだ?
それに突然、敬語で話をしてくるのはなぜ? 余所余所しくなっている?
いや、依然のような反抗的な態度ではない。
なぜ? なぜ? なぜいつもみたいにお姉ちゃんって言ってくれないの?
う~ん……
――そうか!
これは先ほどのお仕置きをやりすぎたせいだ。確かにお仕置きは必要だった。ティムの非行化の始まり、夜遊びしたあげく、姉に暴力をふるったのだ、何かしらのペナルティを与えなければいけなかった。
だが、ティムは泣いていたじゃないか!
「虐待」という言葉が思い浮かんでくる。虐待を受けた子は家族に敬語を使うとか聞いたことがある。だから、先ほどから敬語だったのだ。
「お姉ちゃん」なんて馴れ馴れしい言葉を使っていいか分からないんだよね、可哀そうなティム。
でもね、ティム「邪神様」ってのもどうかと思うよ。
まぁ、仕方が無い、ティムはまだ中二病治ってないしね。
あ~それにしても失敗した、加減が分からなかったよ。ただのおしりペンペンしたつもりだったのだが、ティムにとっては初めての暴力、衝撃的だったのだろう。
仕方が無い、これは徐々に信頼してもらうしかない。無理に敬語を止めるように言っても逆効果、ティム自身が俺を信頼し変えてもらうのを待つしかない。
ただ、せめて「邪神様」はやめてもらおう。「邪神様」って言われるたびに俺のライフが削られていくからね。
「ティム、お姉ちゃんって言っていいんだよ」
「そんな、恐れ多い事です」
やはり、萎縮しているようだ。だが、名前だけは本当に勘弁してほしい。まじで黒歴史を思い出すから。
「お願い! お姉ちゃんのお願いだから!」
俺は必死に懇願してみる。こればかりはどうにか言うことを聞いて欲しい。
「そうですか、あなた様のお願いでは聞かないわけにはいきません……それではお姉様でよろしいですか?」
バキューン! え!? 何!? 何!?
「お姉様」ってちょっとティム!
「うん、今はそれでいいかな……」
一応、そう言ったが――
何かに目覚めそうな自分が怖い。
「それでニールゼンですが宜しければ奴もお姉様の下で働かせて頂けたらと」
「ニールゼン?」
「はい、なかなか優秀な奴なのです。必ずお姉様の役に立つでしょう」
誰だっけ?
俺は記憶を探る……
あ〜俺がボコした変態がその名前だった。そういえば、もともとティムの中二病の原因はこいつだったよな。変態で無職の中二病だ、救いようがない。
「だめ! だめ! こんな奴、何の役にも立たないよ」
「確かにお姉様に比べるとそうでしょうが……」
はぁ、やっぱりティムはこいつに洗脳されている。
まったく、変態め! 俺がいない間に何を吹き込んだ! 変態より優れた人間はいっぱいいるのに!
「ティム、私だけでなくこんな奴より優れた人間はいっぱいいるのよ」
「まさか! ニールゼンより優れた人材はそうそういないはずですが――」
ふ〜ティムの変態からの洗脳はそうとうなものね。
「父さん母さんはもちろん、あのトーマスおじさんだってそうだよ」
「そんな!」
ふ、ふ、ティムも驚いているようね、あのうだつのあがらないトーマスおじさんよりもとか思っているはず……
でもね、実際そうなのだ、無職で変態、さらに中二病まで患っている初老のじいさんよりはましである。トーマスおじさんはまだちゃんと手に職を持って働いているのだから。
「本当の事よ! さぁ、こんな奴、放っておいて帰りましょう!」
「はぁ――やはりだめでしょうか?」
ティムは哀願の眼差しで訴えてくる。
こ、これは――
まるでそうあれだ!
捨てられた子犬を拾ってきた子供が親に「可哀そうだよ、飼ってあげてよ」と哀願する場面に似ている。
ティムは先程から「飼ってよ〜このおじさん可哀そうだよ~」とうるうるな眼差しで訴えてくる。
くぅ〜やめて〜そんな眼で見ないでぇ〜
俺とティムが見つめあうこと数十秒……
はぁ〜しようがないか……
この変態を見ていると自分の前世を見ているようで悲しくなってしまう。だが、一応、動機はどうであれ変態はティムが寂しい時期に遊んでくれていた事は確かなのだ。まぁ、借りがあるといえばあるのかな。
「わかったわ、ティム、そいつも一緒に面倒を見てあげるわよ」
「お姉様、ありがとうございます!」
俺が了承すると、ティムは嬉しそうに微笑んだ。
後で父さんには話を通しておくか、でも変態の奴、あんな非力で大丈夫かな? 家は料理屋だからけっこうな力仕事だけど……
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