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ティレアの悩み事 作者:里奈使徒

1章

第八話 「妹が犬を拾ってきちゃった」

 ふ〜どうしてこうなったのか? どうやらティムは反省してくれたみたいだ。だが、中二病は治るどころか、むしろ悪化しているように感じる。

「邪神様、どうかされましたか?」

 ティムがつぶらな瞳で上目づかいに聞いてくる。

 くぅ〜可愛い、俺の妹は可愛いぞ!

 だが、なぜ、さきほどから邪神様、邪神様と言ってくるのだ?

 それに突然、敬語で話をしてくるのはなぜ? 余所余所しくなっている? 

 いや、依然のような反抗的な態度ではない。

 なぜ? なぜ? なぜいつもみたいにお姉ちゃんって言ってくれないの? 

 う~ん……

 ――そうか!

 これは先ほどのお仕置きをやりすぎたせいだ。確かにお仕置きは必要だった。ティムの非行化の始まり、夜遊びしたあげく、姉に暴力をふるったのだ、何かしらのペナルティを与えなければいけなかった。

 だが、ティムは泣いていたじゃないか!

 「虐待」という言葉が思い浮かんでくる。虐待を受けた子は家族に敬語を使うとか聞いたことがある。だから、先ほどから敬語だったのだ。

 「お姉ちゃん」なんて馴れ馴れしい言葉を使っていいか分からないんだよね、可哀そうなティム。

 でもね、ティム「邪神様」ってのもどうかと思うよ。

 まぁ、仕方が無い、ティムはまだ中二病治ってないしね。

 あ~それにしても失敗した、加減が分からなかったよ。ただのおしりペンペンしたつもりだったのだが、ティムにとっては初めての暴力、衝撃的だったのだろう。

 仕方が無い、これは徐々に信頼してもらうしかない。無理に敬語を止めるように言っても逆効果、ティム自身が俺を信頼し変えてもらうのを待つしかない。

 ただ、せめて「邪神様」はやめてもらおう。「邪神様」って言われるたびに俺のライフが削られていくからね。

「ティム、お姉ちゃんって言っていいんだよ」
「そんな、恐れ多い事です」

 やはり、萎縮しているようだ。だが、名前だけは本当に勘弁してほしい。まじで黒歴史を思い出すから。

「お願い! お姉ちゃんのお願いだから!」

 俺は必死に懇願してみる。こればかりはどうにか言うことを聞いて欲しい。

「そうですか、あなた様のお願いでは聞かないわけにはいきません……それではお姉様でよろしいですか?」

 バキューン! え!? 何!? 何!?

「お姉様」ってちょっとティム!

「うん、今はそれでいいかな……」

 一応、そう言ったが――

何かに目覚めそうな自分が怖い。

「それでニールゼンですが宜しければ奴もお姉様の下で働かせて頂けたらと」
「ニールゼン?」
「はい、なかなか優秀な奴なのです。必ずお姉様の役に立つでしょう」 

 誰だっけ?

 俺は記憶を探る……

 あ〜俺がボコした変態(ニールゼン)がその名前だった。そういえば、もともとティムの中二病の原因はこいつだったよな。変態で無職の中二病だ、救いようがない。

「だめ! だめ! こんな奴、何の役にも立たないよ」
「確かにお姉様に比べるとそうでしょうが……」

 はぁ、やっぱりティムはこいつに洗脳されている。

 まったく、変態(ニールゼン)め! 俺がいない間に何を吹き込んだ! 変態(ニールゼン)より優れた人間はいっぱいいるのに!

「ティム、私だけでなくこんな奴より優れた人間はいっぱいいるのよ」
「まさか! ニールゼンより優れた人材はそうそういないはずですが――」

 ふ〜ティムの変態(ニールゼン)からの洗脳はそうとうなものね。

「父さん母さんはもちろん、あのトーマスおじさんだってそうだよ」
「そんな!」

 ふ、ふ、ティムも驚いているようね、あのうだつのあがらないトーマスおじさんよりもとか思っているはず……

 でもね、実際そうなのだ、無職で変態、さらに中二病まで患っている初老のじいさんよりはましである。トーマスおじさんはまだちゃんと手に職を持って働いているのだから。

「本当の事よ! さぁ、こんな奴、放っておいて帰りましょう!」
「はぁ――やはりだめでしょうか?」

 ティムは哀願の眼差しで訴えてくる。

 こ、これは――

 まるでそうあれだ!

 捨てられた子犬を拾ってきた子供が親に「可哀そうだよ、飼ってあげてよ」と哀願する場面に似ている。

 ティムは先程から「飼ってよ〜このおじさん可哀そうだよ~」とうるうるな眼差しで訴えてくる。

 くぅ〜やめて〜そんな眼で見ないでぇ〜

 俺とティムが見つめあうこと数十秒……

 はぁ〜しようがないか……

 この変態(ニールゼン)を見ていると自分の前世を見ているようで悲しくなってしまう。だが、一応、動機はどうであれ変態(ニールゼン)はティムが寂しい時期に遊んでくれていた事は確かなのだ。まぁ、借りがあるといえばあるのかな。

「わかったわ、ティム、そいつも一緒に面倒を見てあげるわよ」
「お姉様、ありがとうございます!」

 俺が了承すると、ティムは嬉しそうに微笑んだ。

 後で父さんには話を通しておくか、でも変態(ニールゼン)の奴、あんな非力で大丈夫かな? 家は料理屋だからけっこうな力仕事だけど……
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