第三話 「我は魔将軍カミーラである」
我の名はカミーラ・ボ・マルフェランド、ゾルグ魔王直属配下にして六魔将の一角を担っている。
ゾルグ様率いる我ら魔王軍は先の大戦で多くの生ある者を滅ぼし、人々を恐怖のどん底に落としてきた。王都の軍隊、S級クラスの冒険者、いわゆる勇者、覇者と称えられた者は一人残らず殺したのである。人々は絶望に嘆き、我ら魔王軍の栄華は永遠に続くと思ったのだが――――
くっ、それがあの憎き神々どもに封印されることになろうとは!
そうあの日、神々が総力を挙げて我らに刃を向け、ゾルグ様だけでなく魔王軍の力ある者たちは全て神々によってその魂を封印されてしまった。
しかも、魔族の体は消滅させられ、人族、獣族等、格段に魔族に劣る種族の体に魂を封印されたのである。
何たる屈辱だ!
そして封印されなかった者は魂ごと消され、文字どおり魔王軍の存在は全て消し去られてしまったのだ。
ふっふっ、あれから数千年、封印されし魂もその束縛から脱してきている。先の大戦で多くの者が憎き神の犠牲になったが、ようやく復活する事が出来た。
思えば脆弱な人間として暮らしていた時から頭の片隅に違和感があった。思い出そうとして思い出せなかった魔人としての記憶!
そして、ようやく思い出したのだ。我は人間のような矮小の存在ではない! 我は魔人、絶対的強者、選ばれし存在なのだ! ひとたび力を出せばありとあらゆる者を壊し滅ぼす存在なのだ!
数日前に我は魔将軍カミーラとして覚醒している。なにぶん覚醒したばかりだ、身体の調子や外界の情報を整理する為、大人しくティムとしてかりそめの家族を演じていた。
だが、もう限界だ!
あのティレアという人間は矮小な分際で弁えを知らない。気安く我に触れてくる。殺してやろうかとも思ったが神々の情勢が気になり、今は目立つべきではないと怒りを抑えた。
この数日、夜陰に身を隠して外出し、先に復活した眷属とも連絡を取った。情報によればあの大戦の折、神々も無事では済まなく大きく力を落とし、現在では神の力はほとんどないに等しいという事だ。
頃合いだな、我の眷属も全て覚醒した。
ゾルグ様の右腕であり、六魔将を束ねているヒドラー総督が今日、ピネデリア洞窟で皆に下知を与える事になっている。ゾルグ様旗印のもと魔王軍の復活である。
心躍る、興奮やるせない気持ちでいると、またあの人間が接触してきた。
「ティ〜ム、こんなとこにいたの? お店の手伝いの時間だよ」
馴れ馴れしい声だ、もう正体を隠す必要はない。
「人間! 口を慎め! 我はゾルグ魔王配下六魔将が一人、カミーラである!」
恐れ、戦慄するが良い!
我は殺気を隠さず威圧した。
「ティム……」
ふ、どうやら我の威圧で硬直しているようだ。ただの人間が我の殺気を受けて平常でいられるはずがない。その場でショック死しないのは驚きだが、我も復活したばかりで本調子ではないのだろう。
「ふん、まぁいい。今日は全ての眷属が覚醒した記念すべき日だ! 情けで命は助けてやる!」
そう、もはや人間一人の命などどうでもいい事である。魔王軍による世界への蹂躙が始まるのだ。今日死ぬか明日死ぬかの違いである。我は矮小な存在など歯牙にもかけずピネデリア洞窟へと向かった。
ふっふっふっ、たまには走るのもまた良い。先の大戦では眷属の魔獣であるガルガンに乗り縦横無尽に暴れまわった。我の魔獣ガルガンも復活し騎乗することは出来るが待機させている。これからガルガンには否が応でも働いてもらうのだ。今日ぐらいは休ませてやろう。
――――しばらく走っていると妙に視線を感じた。
つけられている?
後ろを振り向くが誰もいない。
Sランクの冒険者にでも狙われたか?
いや、我の速度についてこられる者は同じ魔人それも六魔将クラスでないと無理な話だ。
気のせいか……
ふむ、覚醒したばかりだ、さっきの威圧も不十分であったし、やはり本調子でないのだろう。
そう結論付け、仲間達の待つ洞窟へ向かった。
洞窟へ入るとそこには懐かしい面々が姿を現していた。魔鳥人のバードに魔竜人のドラグもいる。魔王軍の幹部であったそうそうたる面々が集まっているのだ。
「カミーラ! 待っておったぞ!」
総督の覇気溢れる声が周囲に響く。あいかわらず威厳のある声だ。それに総督の鎧から溢れんばかりの魔力が放出されている。総督は覚醒したばかりだというのに先の大戦以上の魔力をつけていた。魔力探査しないと何とも言えんが、おそらく大戦より五割増しぐらいの力をつけていると推測する。
「総督はあいかわらずの魔力よの」
「我らの悲願もあと少しだからな、鍛練にも気合が入る」
「ふむ、ではゾルグ様の復活が近いというのはまことか?」
「うむ、ちょうど全員集まった。これから詳しいことを話そう」
総督が広間に皆を集める。我も急いで並ぶ。総督はゾルグ様復活が近い事、復活に対し多くの人間共の生贄がいる事を話した。
最後に総督の下知があり、そこにいた多くの魔人が人間側の重要な拠点を攻めるために出発したのである。
そして、我らカミーラ隊は最重要地点である王都殲滅の下知を受けたのだ。我も部下達も数千年ぶりに暴れられる。ひそかに胸を躍らせていると、一人の人間がいきなり我らの前に降り立ってきた。
「あ〜どうもティムの姉のティレアです。なんか近頃、ティムとよく遊んで頂いているみたいで」
「……」
突然の出来事にさすがの総督も我も言葉を失っていた。そして、その人間は我に振り向くと、
「ティム! お店のお手伝いはどうしたの! 何も遊ぶなとは言ってないのよ。でもやるべきことはやらないと!」
あろうことか我に説教をしたのだ。
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