「大義」の陰で:2014衆院選/7 国会、身を切らぬ改革 弱者に負担「約束違反」
毎日新聞 2014年11月27日 東京朝刊
部屋の中を冷たい風が通り抜けていく。
埼玉県の30代の女性が住む木造アパートは築30年以上で、朝晩は息が白くなる。備え付けのエアコンは電気代が高く、何年も使っていない。頼みの綱は灯油ファンヒーター。10分ほどつけ、部屋が暖まると止め、またつけて……を繰り返す。
中学時代にいじめに遭い、うつ病を患った。高校を中退し、職に就けず、2012年夏から生活保護を受けている。今年10月の支給額は11万7880円。家賃4万4000円を払い、残り7万3880円で食費、光熱水費をやりくりする。
4月、消費税が8%にアップして食費がかさみ、安い食材を求めてスーパーを何軒も回る。暖房に不可欠な灯油は、アベノミクスの誘導する円安もあり、4年前に比べ3割も値上がりして、買うのがためらわれる。
通院しながら、生活費をひたすら切り詰めるだけの日々。そこへ追い打ちを掛けるように、厚生労働省が昨年8月、生活保護で生活費に当たる「生活扶助」を減額した。3年間で総額約670億円削減する計画で、家賃の実費を支給する「住宅扶助」なども見直す方針を示している。
今回の総選挙は3年間の生活扶助削減額を超える約700億円を投じて実施される。女性は言う。「私たちから削り取った金額以上のお金をかけて、今なぜ選挙をするのか。その意味が何度考えても分かりません」
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1票の格差が最大4・77倍の昨年参院選について、最高裁が26日、違憲状態だと断じた。12年衆院選(格差2・43倍)についても最高裁は昨年、違憲状態だと判断している。選挙区の小手先の微修正で、本格的な自己改革を先送りし続ける国会に有権者が厳しい目を向け始め、立法府としての正当性が大きく揺らいでいる。
「そもそも2年前の約束は、どこにいったのか」。さいたま市で生活保護受給者を支援するNPO法人「ほっとプラス」の代表理事、藤田孝典さん(32)は憤る。「約束」とは12年11月、当時民主党代表の野田佳彦首相が衆議院を解散する際、自民党の安倍晋三総裁と党首討論で合意したとされる「身を切る改革」のことだ。
この時、民主と自公3党は「抜本的な定数削減」を13年の通常国会で行うとし、野田首相は衆院の1票の格差を微修正する小選挙区の「0増5減」の法改正を行った上で、解散に踏み切った。