最初は失敗だったテレビCM–グノシーのCOOが語るマーケ戦略とは

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いまや500万ダウンロードを超えている「Gunosy」。何度もリニューアルを繰り返し、迷走しながらもユーザー数を順調に拡大してきたわけだが、ユーザー数の拡大にともない各フェイズでどのようなマーケティング戦略を執っていたのだろうか。マーケティング部門を担当する同社取締役COOの竹谷祐哉氏が「ヒットアプリはこうして生まれる!」というイベントの中で振り返った。

お金をかけずに“キテる感”を醸成する方法

まず最初のバージョンのアプリをリリースした瞬間から20万ダウンロードまでは、「日々なにもせず過ごしてきた」(竹谷氏)という。そもそも資本金が3000万円ほどだったため、派手にプロモーションすると、すぐに破産してしまう。この段階ではお金は使わず、知り合いに「ちょっと記事にしてくださいよ」と頼んでいただけだった。「書いてもらって、“キテる感”みたいなものを醸成していった」と振り返る。

例えば、この時期のGunosyが知名度を上げるうえで最も効果があったのは堀江貴文氏に「イケてるアプリ」として紹介されたことだろう。しかし、さらに初期にGunosyをピックアップしたのはブロガーのイケダハヤト氏だった。アプリが出た瞬間から「これはライフハックツールだ」という視点で、何度も記事を書いていたそうだ。それが巡り巡って堀江氏まで届いた可能性もあるという。

同時に資金調達もあり、徐々にGunosyや、周辺の「スマホ×ニュース」の領域が盛り上がり始めているという“空気感”のようなものが生まれた。20万ダウンロードまでは、竹谷氏はそういった雰囲気を醸成するための草の根活動的なことをやってきた。

Facebook広告は「年代×性別」で細かく訴求

20万から50万ダウンロードまでの間は資金調達の1回目を終えたため、月間500万円くらいで「Facebook Ads」を中心に出稿した。当時はまだ広告主の数が少なかったため、とても効率良く出稿できたそうだ。

「CPA(顧客獲得単価)で安い時50円とかだった。いまだと普通に出して400円とかになる。適当に作ったバナーで数字が取れたので非常にいい時期でした。もっとやっておけばよかったと率直に思いますね」(竹谷氏)。

当時の心がけていたのは、月間500万円くらいの予算でもプロモーションの訴求方法を細かく設定すること。Facebookは年代×性別で分類できるため、どの層にはどういった訴求が刺さるかを、表を作って整理したという。

例えば「パーソナルニュースをあなたにお届けします」といったメッセージは40代女性にはまったく刺さらなかったそうだ。ミスマッチを起こさないために、各セグメントでどういう訴求をすると効果的か規模が小さいうちに地道にやっていくのが大事だと竹谷氏は語った。

月に5億円投入、テレビCMに必要なのは「勇気」

50万から180万ダウンロードまでの間に2回目の資金調達を終え、モバイルの広告出稿を最大限実行したという。金額感でいうと月5000万円から6000万円。多い月は8000万円にのぼった。「月間6000万円から8000万円くらいが限界値で、これ以上になると、もう出稿量を減らして、ちゃんとCPAを合わせていった方が結果同じ獲得数になる」と竹谷氏。そういった意味でモバイル出稿の限界に挑戦したフェイズだったという。

そして現在の500万ダウンロードまではテレビCMだ。2014年の3月からテレビCMの放送を開始し、だいたい月に1億円から多い月で5億円を投じた。CPAは平均して1000円を下まわるくらい。しかし当初は5000円まで上がってしまい、「泣きたくなった」と振り返った。

「50万ダウンロードの時は細かく細かくチューニングしていくんですけれども、やっぱりテレビとかになってくると勇気がある程度は必要。ドーンとやるとバーンて返ってくる世界感だなという印象を受けています」(竹谷氏)

常に広告出稿し続けるとイイコトがある

アプリのリリースから500万ダウンロードまでの各フェイズを短期間に経験した竹谷氏が強調したのは「常にどこかにちゃんと出稿し続けるのが大切」ということ。そして毎日獲得ユーザー数といったKPIを追い続けると、「劇的にCPC(クリック単価)が下がる瞬間」がわかるのだという。例えば1月1日は広告代理店も営業しておらず、広告主側もまめに入札しないため、枠に空きがあるそうだ。

「そのタイミングでいつもの3倍とか4倍ぐらい消化させてCPA保っておいて、月末ぐらいに緩めていき、月次で予算達成することができる。大きい広告媒体には少額でいいから必ず出稿し続け、変化を機敏に感じて踏み込める瞬間には踏み込んでいくことが重要」と竹谷氏は話した。

「すごくつらい日々…」最初は失敗だったテレビCM

失敗についても語ってくれた。GunosyのテレビCMは初っ端は失敗だったという。「二度と立ち直れなくなるぐらいダメージが大きいのがマス広告。そもそも額が大きく、1回走り出すと2週間ほどは何も変えられない。すごくつらい日々が2週間続く。テレビは走り出すともう止まらないので、非常に慎重にやるべき」(竹谷氏)。

一方で、失敗しても大丈夫なのがウェブ広告だ。なるべくウェブ広告で失敗しておいて、テレビCMでその知見を活かすのが一番いい方法だと語ってくれた。これは「半年前の自分に言い聞かせたい言葉だと思っています」と竹谷氏は打ち明けた。

Gunosyがこの半年の間に作ったテレビCMのクリエイティブ数は30本から40本にものぼるという。最初はウルトラマンから始まり、「オカマ」を起用したクリエイティブも作ったそうだが、「ほんとに引くくらい獲得が悪くて、3日間で打ち止めになったという伝説がある」とのこと。レピュテーションリスクを検討した結果、YouTubeでも公開されなかった。

ときには失敗しながら着実に成長を続けるGunosy。最初のアプリを公開したときから、180万ダウンロードまでのフェイズの話は多くのアプリベンダーに当てはまりそうだ。だからこそ、竹谷氏が「半年前の自分に言い聞かせたい」と語った言葉はとても重い。