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'15年10月からの消費増税はかろうじて衆院解散で吹き飛んだが、そんな最中、財務省が省をあげて国会議員、地方議員、首長、マスコミ、学者、エコノミストに「ご説明」していたことを覚えているだろうか。その「ご説明」の手口は、予算関係者には増税に賛成なら予算をつけるがそうでなければ予算カット、というわかりやすいもの。増税しないと財政信認が失われて、金利が上昇するという脅しもあった。

財政危機説がいまだかまびすしいが、それを主導しているのは財務省である。消費増税は財務省の悲願なので、財務省一家総動員で、「ご説明」キャンペーンを実施。現役の役人は重要人物に対する「ご説明」を行い、OBは表に立って、「増税しないと金利が上昇する」と語っている。

典型的なのが、日本銀行の黒田東彦総裁だ。黒田総裁は金融政策をやっているときはまっとうだが、増税の話になると財務省のDNAが出てきて財務省役人そのものとなる。日銀総裁として越権行為であると言えるほどに、増税しないと日本に危機があると脅しをかけている。国際協力銀行(JBIC)の渡辺博史総裁なども、「増税しないと国債の不安は消えない」と古巣の財務省へ援護射撃をした。

しかし、本当にそんなことが起きるのかといえば、現実はまったく違っている。

消費増税先送りが決定的になった総選挙後、原油安を背景とする為替市場の動揺の中、日本の国債は買われて、国債金利は0・3%台にまで低下。あれほど増税先送りにすると金利が上昇するといっていた財務省OBだが、その見通しは完全に外れている。まったくのデタラメだったのだ。

実は、日本の財政は、消費増税を先送りしても悪くなっておらず、むしろ好転すると見込まれている。

なにしろ、財務省のいうとおりに'14年4月から消費増税をしたら、景気が落ち込み、GDPを15兆円ほど失ってしまった。これで失った税収は国と地方合わせて3兆円ほど。'15年10月から消費増税したら、さらに2兆円ほどの税収を失うところだった。

また、いまは円安によって企業収益が増えている。輸出はまだ伸びていないが、海外投資収益は急増しており、これが増収効果を生む。

それに、財務省はひた隠しにしているが、政府の持つ外貨債券は円安で大きな含み益が出ている。外為特会の資産は120兆円。これは為券という国債を発行して外貨債券などに投資しているもので、うち外貨債券は100兆円にのぼる。円安になると円貨換算資産額は膨らみ、円高になると減少する。この損益分岐点はかつて1ドル=100円と言われていた。

そうであるなら、今は含み益20兆円程度になっているはずだ。外為特会の外貨債券を取り崩して、国債償還にあてれば、同時に含み益が顕在化する。まさに円安メリットを生かして、国債残高の減少と財源捻出ができる。

これを使わない手はない。外為資金の運用は金融機関にとっておいしい商売で、財務省の利権にもなっている。財務省はこれをエサにして金融機関のエコノミストに「ご説明」して、増税の応援部隊にもしている。外為資金の取り崩しは、こうした利権の解消にもなる。

つまり、財政再建、財源捻出、財務省利権の解消という一石三鳥にもなる。消費増税しないと財政が厳しくなるという「御用人」がいたら、この外為資金の話をすればいい。実は円安で政府は潤っているのではないですか、違いますかと。

『週刊現代』2015年1月3・10日号より

 

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