編集委員・伊藤智章
2015年1月11日05時10分
完成から20年を経ても、環境への影響が問われ続ける長良川河口堰(かこうぜき)。15日告示の愛知県知事選で再選をめざす現職の大村秀章氏(54)は、開門調査を前回に続き公約した。だが、問題なしとする国などとの調整はほとんど進んでいない。どう実現するのか、期待した県民は言動を注視する。
6日発表された大村氏の300の公約集には1行、「長良川河口堰の開門調査等」とある。先月の出馬表明会見では自身から言及せず、質問に「調査をという投げかけはしていくべきでは」と語るにとどめた。
■前回の愛知県知事選は公約の柱
前回は違った。国連生物多様性会議が名古屋市で開かれた直後で、市長選とのダブル選を控えた2010年末に河村たかし市長と河口堰を視察。「まず開門調査をすべきだ。公約の柱にします」と表明した。
国を巻き込もうと、地元との協議会設置を当時与党の民主党幹部に打診、前向きな反応を得た。だが、河口堰建設を進めた自民党政権が12年末に復活。国土交通省中部地方整備局は「問題を感じない」と協議会にすぐ応じる構えはない。
長良川が境の隣県とも開門調査へ調整が進まない。海水がさかのぼり塩害が起きる可能性がネックで、三重県の鈴木英敬知事は取水に影響するとして「困る」。アユなどの生態系回復が望めるはずの岐阜県も、自民が最大会派の県議会が事実上反対の「適正運用」を決議。知事同士で国に脱ダムを迫った大阪、京都、滋賀のような連携はない。
愛知県では大村氏当選後の11年に専門家チームが発足。河口堰完成後の環境への悪影響や「水余り」があるとし、5年以上の開門調査を提言した。その後もある委員が河床を独自に調べ、国交省が言う塩害が起きない可能性を指摘した。
だが13年度末、県は開門期間として春と秋の各40日程度を一案とする報告を出した。専門家チームから求められての報告だが、「5年以上」との差は大きい。検討したのは、河口堰の目的でもある水資源開発に携わってきた職員らだった。
■「難しいことはわかっている」
大村氏の発言は弱含む。昨年10月には県主催の講演会で「いったんできた河口堰を開放し、調査することは外国でもなかなか例がない」と説明。「難しいことはわかっているが、引き続き提案したい」と述べた。
ネット上では大村氏に開門調査の公約実現を求める署名運動もある。大村氏の講演会に来ていた元小中学校長、伊奈紘さん(69)も署名した。自民党政権が愛知県設楽町で進める設楽ダム建設にも反対で、前回知事選の際、大村氏は会って意見を聞いてくれた。
態度を保留した大村氏だが、県議会最大会派の自民や地元首長らが建設を求める中、専門家の意見も聞き13年末に容認。今回は自民県連の推薦も受ける。開門調査はどうなるのか――。伊奈さんは大村氏に環境政策への意欲を認めつつ、「政治家なら成果を出してくれなきゃ」と話す。
知事選には県社会保障推進協議会の事務局長、小松民子氏(64)も共産党推薦で立候補する。7日に発表した公約では長良川河口堰に触れず、質問に「建設に反対したし、開門(調査)は進めたい」と答えた。(編集委員・伊藤智章)
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〈長良川河口堰〉 三重県桑名市にあり、旧水資源開発公団が利水と治水を目的に95年、事業費1500億円で完成。建設の閣議決定は高度経済成長期の68年だが岐阜県の漁民らの反対で着工が遅れ、本流にダムのない長良川に人工構造物を造ることへの反対が88年の着工前後に全国に広がった。水利用は増えず、開発した毎秒22・5トンのうち愛知、三重両県で約3・6トンにとどまる。
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