永遠のキーヨ! 移籍後の軌跡を追った追悼ベスト!
年端もゆかぬ小さな子どもだったのに、忘れられないテレビの記憶があります。何の番組だったのかは定かではありませんが、とにかく驚いたことだけは鮮烈な印象として今もしっかりと刻まれています。
その時の感覚を無理にでも言葉に置き換えるとしたら、機械から生命の輝きを感じた瞬間とでもいったらいいでしょうか。
あの日曜日の昼下がり、キーヨとシンシアという二人の美しい男女が歌いながら放った生命の粒子は、鱗粉のようにキラキラと輝いて、ブラウン管から飛び出たように見えたのでした。
思えば、うたというものへの愛情とあこがれは、その時に始まったのかもしれません。
それから40年以上が経っても、キーヨのことはずっと生命力の象徴のように思っていましたから、こたびの訃報を耳にした時は自分でも驚くほどの衝撃だったのです。
あの日からキーヨのCDをファーストからのCD選書をはじめ、数種の単発ベストやコンセプチュアルな4枚組ベストまで、順に何度もリピートしたり、旧友でいらっしゃる小栗俊雄さんから以前伺った小さなエピソードを反芻したりていますが、姿形を含めこれほど自然な洋風フィーリングを持ち合わせた日本の歌手はいなかったと思います。まだ、戦後の匂いがかすかに残っていたあの時代、敗戦をトラウマとするような媚びやコンプレックスを一切感じさせず、あれほど堂々とポピュラー・ソングを歌える日本の歌手って、他に誰がいるでしょうか。ワタシはいまだにキーヨ以外に知りません。
さて、そんな折りに届いた追悼盤のリリース。おそらく今後も続くのではないかと思われますが、先陣を切って発表されたのはソニー発、G☆Bシリーズとなる「 GOLDEN☆BEST 尾崎紀世彦 サマー・ラブ
確かにキーヨが一時代を築いたのは70年から74年に在籍したフィリップスレコードですから、ソニーと聞いてピンと来ない人もいるかもしれませんが、75年以降は各社移籍を繰り返し、87年にはCBS・ソニーからアサヒビールのCMソングとしてシングル「サマー・ラブ」をリリースしています。
清涼感たっぷりのキャッチーな曲調もさることながら、ジャンボ尾崎&青木功というプロゴルファー2人の出演や爽快なリゾートの映像、さらにはジャンボによる競作盤もリリースされるなど、大きな話題となりスマッシュヒットを記録。
CMキャラクターが急遽差し替えにならなければもっとヒットしたはずだと囁かれたものですが、このヒットをきっかけにアルバム「Memories of Summer Love」も制作されたのです。
今回のベストはサブタイトルでも分かるように、そのアルバムから先行シングル「サマー・ラブ/愛は奇蹟」を含む9曲、すなわちタイトル曲のインストを除いた楽曲がメイン。「Memories of Summer Love」は最後のオリジナルアルバムであり、実に25年ぶりの再CD化となりますし、アルバムの曲順通りに入るようですから、オリジナル盤をお持ちでない方にはとてもうれしい再発ではないでしょうか。
あのアルバム、LPの方がビジュアルが充実していましたけど、ホント、リゾートファッションもキマッてますよね。
ところで、このアルバムの作家陣は、橋本淳、岩谷時子、なかにし礼、井上大輔、馬飼野康二ら一流の職業作家の先生たち。加えてソニーサイドの担当は、松田聖子の育ての親として知られる若松宗雄さんと、藤岡藤巻の藤岡孝章さんですから、古き良きオールデイズのエッセンスも加味した、大人のポップソングに仕上がっていますが、特筆すべきはキーヨの歌い方。70年代のパワフルでダイナミックなものとは違い、ほどよい抜きの歌唱が実に決まっているのです。
楽曲のリゾートワールドそのままに、ゆったりとしたリラックスムードが心地よいんですよね。ウエストコーストサウンドもバッチリなのは、本場アメリカ・ロサンゼルス録音盤であり、グラミー賞受賞のジミー・ハスケルによるサウンドプロデュースだからでしょう。
しかし今回、目玉となるのは実は追加曲の方。コンピ盤などでCD化されていたものもあるようですが、ほとんどが初CD化というシングル曲、すなわちフィリップスから離れた後のナンバーが数多く収録される予定なのです。
これはホントにソニーさまさま、各社にわたる面倒な許諾をクリアしてくれた上、低価格で提供してくれるのですからね。
予定曲としては、まず75年からのビクター時代は、移籍第1弾にして東京音楽祭への参加曲「忘れかけた愛を」を筆頭に、同名映画の日本語版主題歌「星の王子さま」や「哀しみの追跡」「責めないで」。
続いて79年~80年のコロムビア時代は、ビーバーエアコンのCMソングとしてスマッシュヒットした「My Better Life」と映画「アーバン・カウボーイ」の日本語版主題歌「明日への扉」。
そして今ではソニーの自社扱いとなるアルファ時代は、82年の東京音楽祭参加曲「サングリア-真昼の夢-」とB面の「愛の追跡」のシングル両面。ほかに86年のポリスターから出た「愛だけあれば」(映画「南へ走れ、海の道を!」主題歌)なども予定されています。
さらにこれらに加え、アンクルベンこと佐々木勉さん(我々世代には榊原郁恵作品でおなじみです)作品2曲もボーナストラックとして追加収録。こちらは92年に佐々木さんの追悼盤としてソニーから出た「佐々木勉メモリアル~いつまでも いつまでも」から「あなたのすべてを」「まわり道-めぐり愛-」というカバー作品だそうです。
という、大ヒット曲満載のフィリップス時代とは異なるアナザーベスト。キーヨがいなくなったという寂しさは、数々の貴重音源とともにキーヨの歌声が癒やしてくれる感じがします。そういう意味でもやっぱりファン必携盤ですね。
なお「また逢う日まで」や「さよならをもう一度」などの全盛期をというビギナーさんには、G☆Bシリーズ第1弾の「 ゴールデン☆ベスト
ホントは、まず買うべきはフィリップス時代シングルA面完全収録の93年版「NEW BEST」なんですけど、とっくに廃盤ですので、今後のコンプリート・シングルコレクションやアルバムBOX(オンデマンドでもいいから「風のグラフィティー」のCD化を望んでます)などさらなる追悼企画に期待したいところです。悲しいけれど、キーヨの歌声は永遠! 絶対に聴き継いでいかなきゃならないシンガーなのですから…。
(2012.6.27)